論語読書会　その５　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

メンバー

鄭墡謨（京都大学博士卒成均館大学東ｱｼﾞｱ学術院）
成田健太郎（京都大学院2009.09より北京留学）
稲垣裕史(京都大学院:立命館大学講師）
高津友明（劉鵬）（朋友書店）
上田啓之（国際会議場/定年退職）
安澤英治（行政書士）
川那辺恵津子（主婦、韓国文化研究会より）
中村典子（作曲家:京都市立芸術大学専任講師）
角☆掛奈奈子（精神科医）
大西保（国際会議場）
稲富雄亮（京都大学院中文）
津布良春輝（京都大学聴講生）
岸本史子（立命館大学院日文）
張崑将（台湾師範大学教授）
林子博（京都大学院留学生）
李芝映（京都大学院留学生）
川津康弘（フリー）
姚嘉音（京都大学院留学生）
林月恵（台湾大学中央研究所）

田世民（京都大学院卒）
高井龍（立命館大学/中国留学/帰国/広島大学院）
童嶺（南京大学文学部、京都大学留学/南京大学講師）
張伯承（仏教大学留学）
沈相�ｺ（京都大学卒/ﾄｸｿｰ理研）
寺澤一美（病院言語聴覚士）

2009年3月19日 　≫　　　　　2009年3月28日 　≫
2009年4月4日 　≫　　　　　　2009年4月11日 　≫
2009年4月16日 　≫　　　　　2009年4月23日 　≫
2009年5月2日 　≫　　　　　　2009年5月9日 　≫
2009年5月14日 　≫　　　　　2009年5月23日 　≫
2009年5月28日 　≫　　　　　2009年6月6日 　≫
2009年6月11日 　≫　　　　　2009年6月20日 　≫
2009年6月27日 　≫　　　　　2009年７月４日 　≫
2009年７月9日 　≫　　　　　　2009年７月16日 　≫
2009年７月23日 　≫　　　　　2009年8月2日 　≫
2009年8月8日 　≫　　　　　　2009年8月22日 　≫　2009年8月29日 　≫　　　　　2009年9月5日 　≫
2009年9月10日 　≫ 　　　　2009年9月1７日 　≫
2009年9月24日 　≫　　　　　2009年10月3日 　≫　2009年10月10日 　≫　　　　2009年10月15日 　≫2009年10月24日 　≫　　　　2009年10月29日 　≫2009年11月7日 　≫　　　　　2009年11月14日 　≫2009年11月19日 　≫　　　　2009年11月26日 　≫2009年12月5日 　≫　　　　　2009年12月17日 　≫

2010年1月9日 　≫　　　　　　2010年1月16日 　≫
2010年1月23日 　≫　　　　　2010年1月30日 　≫
2010年2月6日 　≫　　　　　　2010年2月13日 　≫

2009年3月19日(木）　衛霊公21〜22
川那辺さん久々の登場。よって本日は子音の復習

無気	有気				これに注意して一人づつ学而篇の音読。それから全員で衛霊公篇音読。乎hū　乎は単純、ニュートラルな疑問符〜ですか。夫fúは気持ちがこもった疑問符。fūでは夫のこと。矣＞也で也より意味が強い。已矣で強調。與yúも疑問符、yes no のみではなく理由を求める。後に専用の字、歟がつくられた。yùは預かる、　yŭでは与える。論語では出てこないが、邪（耶）yéも與yúと同じ、と成田君。 本日の塾頭は安澤さん。
b	p	m	f
d	t	n	l
j	q	x		舌下歯茎
z	c	s		舌上歯茎
zh	ch	sh	r	巻き舌

21) 子の曰はく、君子は諸を己に求め、小人は諸を人に求む。
先生がいわれた。君子は自己に求めるが、小人は他人にこれを求む。分からないことはない。失敗の原因を君子は自分の方に向かうが、小人は原因を自分以外に求める、人のせいにする。いかがですか、と安澤さん。何かをやった後に反省する。反省する材料を君子は自分に、小人は他人にであれ、思うに、失敗した時に反省することばかりでなく、伝統的解釈はそうするが、成功したときでもいいし、やり始める前に、自分の力を頼むか、他力本願かでもいい、と成田君。貝塚先生は諸、求めるものは色々とする。穂積先生は失敗のときとしている。諸のなかみ、これによりかわってくるのではないか、と安澤さん。前回にも言ったが、中国語で古典のなかでは「之」とよく出てくるが、具体的内容がないときもある。動詞に対して目的語がないと据わりが悪いということがある、と成田君。君子は何事もということでいいにですね、と安澤さん。求之於己が求諸己、之於がつまって諸となる、諸々の意味ではない、と成田君。字数の加減ですか、と安澤さん。字数じゃなくて語呂です、と成田君。人は他人でいいですね、と安澤さん。己と人は、己と他人になる、と成田君。君子と小人について中村（典）さんがgentlemanとordinary peopleとされたのが印象的だった。君子と小人となると、君子は善く、小人は悪い対比になる。小人は一般人、普通の人という考え方で目が開けた、と高津君。君子は人の上に立って政治を行う。それは一部の人、君子にならんとするならば、人に責任をなすりつけてはいけない。君子は如何に責任を負うかが条件。実際はそうでない人が上に立っていると孔子はみている、と成田君。この篇の18)に「君子は義以て質と為し、禮以てこれを行う」とあった、君子は質に義がないといけない、文だけで上に立った人が多かった、と高津君。

22) 子の曰はく、君子は矜（きょう）にして爭はず、群して黨せず。
先生がいわれた。君子は厳然とした態度をとるが争わない。大勢の人と交わるが徒党を組まない。自分の考えをもって、人と争わない、付和雷同しない。矜持を正す、襟をただすはここからくる、と安澤さん。矜なるは誇りを持つですが、君子と云うものは誇りを持つが人と争わない。驕りがあるというなら分かるが、君子は誇りを持ち争わないは当たり前じゃないの、と川那辺さん。小人は争って矜がない、党して群しない、逆からみれば分かり易い。矜持のために争うのではなく、争いのために争う、と成田君。自分の意見を持っていて争わない。これも対比。決して孤独じゃない。今の小学生みたいに・・・徒党を組み・・・「はみらす」と声がする。「はみご」もあるでしょうと声もする。はらみされる子が「はみご」と川那辺さん。ハブにするは村八分、と成田君。君子は風格もあり、付和雷同しない、と安澤さん。八佾篇7)に、「君子爭ふ所なし。必ずや射か。揖讓して升り下りし而して飮す。其の爭は君子なり。」とあり、君子がどうしても争う場合には、郷射で争う。礼儀作法どおり射して、負けた方が酒を飲ませる、そういう争いならいい。闘争心むきだし、むきだしの殴り合いはいけない。明治に競争の概念が入ってくる。Competition、競争の訳語を考えたが受け入れられない。競争という西欧の概念は、当時の日本ではタブー視されていた、と成田君。君子同士の争いはあるのか＜と安澤さん。争いだしたら、孔子からすれば、君子ではない、と成田君。争う、競うは人間の本能。小人とはわけが違う。君子の場合に禁じられるのはどうしてですか？互いにせりあい高める。妙な競争心はダメですが、冷静に、やればやるほど、高い競争心をあおることは、孔子は決して否定的ではないでしょう、と川那辺さん。競争心はいい意味でのCompetition、孔子がいかんというのは、行動に移して他人を排除するようなこと。上に立ったときにそういうことをしたら滅茶苦茶になる。弟子には切磋琢磨が必要とした、と成田君。君子というのははじめから、君子なのか。普通の人が君子になるということはないのか？学問に入り、上がってゆくことはないのか、学びて君子になる、と安澤さん。それは可能。上知と下愚は別。その間の上がり下がりならある、と成田君。矜持して争わないとあるが、実際はどういうことなのか？人は自分が失敗したと分かっておればそうでもないが、自分のせいでもないのに、どうしてくれると、責められたりすれば、争わず矜持して対応するとはどうするのかな。孔子が荒野で窮した時、子路が君子も窮するかと、いわば怒鳴り込んだみたいなものだろう。そのとき、君子固より窮す。小人が窮せば、乱れる、これが矜持してという対応のことなのか、群して黨せずというが、その分かれ目がどうなのかも実際のところむつかしい。民主党の鳩山さんは小沢さんと群しているのか？黨しているのか？と上田さん。やせ我慢ではない。譲れないところは譲らない。石にかじりついてでも党すというものではない。群する以上争いを避けねばならない。矜が無いと狎れ合いになる、その加減が難しい、と成田君。昔すごい人がいた。何を言われても微動だにしない。笑っていた。この人一体なんなんだろうって。よほど馬鹿か賢いのか、回りが争っていても、彼は争いの中には入ってこない。今となれば彼は自信があったのかな。ちょっとした障害を持っておられ、それをからかわれたのですが、こっちの方が恥ずかしくなったくらい、自分に誇りを持っていた。何か野望があったのかもしれない。ゆるぎない自分に対する誇りがあった。孔子の場合、ぼろぼろの状態でも、自分が起こさないことで、周りに起こらない状況を作る、争わない状況を作り出す力を放っている、と川那辺さん。経験をしてゆくなかで、そこから何かを学び取る態度があって、君子に近づく。孔子は学びていとわず、常に経験から学ぶ、極限状態でも学ぶ。子路と争わない返しが出来た、と成田君。この篇で言っていることは簡単だが、どれも行うとなると難しい。この後に過ちをして改めないのが過ちというのがある。君子は党せずだが、孔子が党したと批判され（述而篇30)、自分に告げてくれる者があり幸せとあったが、陳司敗（ちんしはい）だったかな、と上田さん。陳司敗（ちんしはい）は昭公をかばった。孔子は身内びいきして嘘を言った。孔子の考えでは、自分の君主のことは、悪いことは隠さないといけない。堂々と言うのは、仕えている人のこと、君主のことを暴くようなことはならないのであって、同じレベルの場合。孔子に告げたのは、陳司敗ではなく、弟子の巫馬期（ふばき）でしょう。弟子であるが、陳司敗の言ったことを率直に孔子に伝えたことを褒めている、と成田君。ああ、そういうことですか、陳司敗じゃなく巫馬期ですか、と上田さん。群す黨すについては、義でなく利で結びついた場合に良くない、と成田君。葉公が自分のところに正直者が居て、父が盗みをすれば、子がその証人になると言うと、孔子は自分のところの正直者はそんなことはせず、かばう（子路篇18）、と言っていた。これも正直者をどうみるか、と上田さん。お父さんは羊を盗むのだが、孔子は正直者とは父を訴えることではなく、子はかばって隠し、父ならば子をかばって隠す、君臣、父子という間の情を考慮している、と成田君。前の時（2008.05.10）、正しくないことを隠すというのは違和感があったが、川那辺さんは、父子の間の信頼関係が大事で、そういうものを他人にも及ぼす方向のことを話しておられた。父子で罪をあばくようなことではなく、羊を返すように説得するとか円満な解決法を求めるようなことでした、と高津君。
さて、時間となりました。4月の予定ですが、4/18（土）、4/25（土）は都合が悪いとのことですので、4月4日(土)、4月11日(土)、4月16日（木）、4月23（木）、5月2日(土)となりました。来週の塾頭は川那辺さん、お願いいたします。
安澤さんが事務局長をしておられる「京都北京放送を聞く会」の看桜会、4月19日（日）午前10時京都府立植物園南側入り口集合（留学生以外は、各自入園、弁当・飲み物持参）に合流させていただき、お花見とさせていただきます。お手すきの方は是非参加ください。
一揆は久方ぶりに同志社大生のアルバイト君あり。安澤さん祭りの準備で滋賀へ。


2009年3月28日（土）　衛霊公23〜25
津布良さん、稲垣君久々の登場。本日から母音。a 　e　 i 　u 　 ü　口の形、舌の位置をきちんと作って練習してください。a 　は日本語のアより喉側で、i 　は口の両端を締めて、u 　は唇をとんがらせ、舌をまるめて引き気味で、ü　はそのままでo と言ってください。eは難しい、口は台形で喉を震わせて、成田君どういえばいいかな？エの口でu　でうがいをするように、と成田君。学而篇の練習。全員で衛霊公音読。津布良さんは定時制から今度は彦根東高校に人事移動、おめでとうございます。本日の塾頭は、川那辺さん。

23) 子の曰はく、君子は言を以て人を舉（あ）げず、人を以て言を廢（す）てず。
孔子がおっしゃった。君子は人の言葉だけで、人を判断して抜擢したりしない。人によって言葉を捨てることはしない、あんな人の言うことだからということで実は良いことをいっているのに、まっとうな判断をしないという感じですか。人の言葉だけで判断しないということは経験した後の学習から比較的に身につきやすいのはないかと。しかし、普通、人を以て言を廢てず、はそう簡単に受け容れられないとなる。ここだけ見ていると、どうしても後者に重きがあるように見える。でも孔子はそんな簡単なことを言ってはいないのではないかと思って、25をみると、こことつながり、そのときには少し解釈が変わり、君子は言を以て人を舉げずに、実際にはむつかしさがあると思う、と川那辺さん。人を以て言を廢てずに難しさがあるはどうですか、と稲垣君。ここだけでみていると、そう思えるが、25番に進むと、前段こそに難しさがあるように思えてと川那辺さん。じゃあ25番にゆきましょう。

25）子の曰はく、吾が人に於けるや、誰をか（そし）毀り、誰をか譽（ほ）めん。如し譽むる所の者有らば其れ試みる所有らむ。斯の民や、三代の直道にして行なふ所以なり。
孔子がおっしゃった。私が人に対して、理由なく非難したりはしない。理由があってのことという感じですか・・。誉めるに値する人間は、あらゆる状況からみて誉める。善が身についている人を見抜くことこそむつかしい。おそらく、本当の善を備えている人は、こんなに私は素晴しい人間ですよみたいな自己アピールではなくて、何もないような、そっと隠すように、もっているもの。だから、それを見分けることは難しい。一方、人に対する非難の仕方、余裕を残して非難する。最低のマナーが必要。余裕を残すというのは、非難する側の人間も非難される側の人間ものことで、そうすれば、悪いと思われている人間の良い部分を引き出すことができるんじゃないかと。だから、ここでは孔子は、理由なく簡単に人をそしらない、褒めないと言っているような。人の良さを見出すというのは、ものすごく難しいもの。三代以降は良く分からないので後にすることとして、理由があるから誉める、理由がなくしては人は誉めない。非難には理由があるが、追い詰めずに余裕というか、動けるような余地を残してそしるということが大事、と川那辺さん。誉めるところがあれば使ってみる、ある程度とりえがあれば、少しくらい悪い所があっても使ってみるということ、と稲垣君。相手に対して余裕を持ってしないと、良いところは出てこない、だから人の言を廃せずにつながる、と川那辺さん。人を以て言を廢てず、これは、言を以って人を廢てずと言い換えることは可能か、と稲垣君。人の評価というものは、良い所が良い、悪い所がダメでなく、身に入っている善を見つける、悪は追い詰めるのではなく、その中からいいものを引き出してあげること、と川那辺さん。どうしても強い固定観念をもつ現代人は後段の方が難しいことになる。古い時代には、ありうることだし、それは古代人にも同じ、と稲垣君。だけど、誰にもではなく、ここは「君子は」としており、君子はそうでないとしているのでは、と川那辺さん。稲垣さんがおっしゃったことの入れ替えは可能と思う。自身と言葉を分ける。巧言令色の線でみると、口先で取り入ることへの批判、色に置き換えても読める。顔色がいいからといって取り立てない、悪い人だからといって、顔色を否定することもない、と成田君。これは宰予に対する評価、言葉ではなく行いをみて判断する。孔子にも人間的成長がある。宰予を買いかぶったところがあって、言葉と内容には慎重になった。言葉だけ聞いて判断しない、と稲垣君。高津君どうですか？宰予のときそうだったが、孔子は「其の以す所を視、其の由る所を觀、其の安んずる所を察せば（爲政篇10）」そうして最終判断をする、「有�ｺ者必ず言有り、有言者必ずしも�ｺ有らず（憲問5）」て、うまく言ったからといって人を挙げたりはしない。前に上田さんが言っておられたが、雍也篇12）で澹臺滅明がパッと見が悪くてとりたてなくて、孔子が後になって後悔したというのがあったでしょう、と高津君。孔子はソクラテスと同じく美男子が好きだった。ソクラテスはアルキビアデスという有能な美青年を愛した。ぼろを着てさまになるのは子路くらいで、孔子は見てくれの悪い人間や、変な格好をした人間を好まなかった。澹臺滅明の容貌が悪く相手にしなかったが、後に多くの弟子を持つ逸材であったことを反省することになった、自分の失敗そのものです、と上田さん。宰予を以って、言を以て人を舉げず、澹臺滅明を以て、人を以て言を廢てず、と成田君。昔の科挙試験では字が美しくないとダメ。昔の役者は美男子以外はない。何晏（かあん）の何（か）は名門、何晏は美男子でうどんを食すと湯気で顔が上気し、それに女達がときめいた、左思（さし）は不細工の代表、何晏とみると女の子はおひねりを投げ、左思とみると石が飛んだ。それはそれとして、前者も後者も人を用いることに関連している、実際にやることは難しいが、と稲垣君。三代のところは、23、24、25でまとまりがつくのでは、と川那辺さん。では24番へ。

24）子貢、問ひて曰く、一言にして以て身を終るまで行ふべき者有りや。子の曰はく、其れ恕か、己が欲さざる所を人に施すこと勿かれ。
子貢が問いて、一言にして一生終わるまでに行うべきことがありますか？一言で孔子が言われたことが、恕の心。自分にされたくないことを人にするなということ。今までにも出てきた。自分がされたくないことを人にするな、わたしの場合、いじめられている子が居たときに、子供に簡単にどう説明するかに良く使った言葉なのですが、孔子には強い意味があった。恕は分り易く言えば、思いやり、仁に相当すると思うが、自分が自分を思うくらいに相手を思いやる、他人のことを自分を思うようにどこまで思えるか？となると到達点がない、追いかけても追いかけても届かない。社会の中心、要になるものが恕。私にとっても、ここで出来た、ここで終わったというものではない。やればやるほど難しい。解釈文では公冶長篇12)において、同じことを言っていた。そこでは汝の及ぶところではないと一刀両断しておきながら、ここで答えているのは何故か？時間的経過によって得るものがあったのか？内容的なものなのか？どうなっているのかわからない、と川那辺さん。恕は思いやりということですが、どういう種類の思いやりですか、と稲垣君。情けをかけるとかいうのではなく、自分が思いやっているというような勝手な判断でなく、相手の欲するところにきちんと届く、本当に心温まるものができればいいが、とにかく正解というものがでないと川那辺さん。忠恕、一を以て貫くとあり、忠恕で出てくる。お爺さんやお婆さんを思いやる、ではなくて自分にとって腹が立つことも相手をゆるすという風なもの、ゆるく考えてあげる。自分の理念に達しない人であっても、一ランク下げてゆるしてやれみたいなもの、と稲垣君。一ランク下げるという考え方は子貢にとって重要。公冶長篇12)において、子貢が言ったことに、孔子が汝の及ぶところに非ず言った。それは子貢の性格として向上心があって、なんでも簡単にできる。今回も理想的な一生のこと、高い目的意識をもって言った。出来ないことがあることを理解しなければならない。恕は自分の要求を絶対的に相手に実現せしめるのではなく、一ランク下げる、そこに余裕があり、自分がやったら出来るから、人でも出来るという風に考えてはいけない。向上しようとする意識はいいけれども、一生かけてやることは、そうでないといけない、と成田君。自分の修身にかかわる、自分の生活において、人材登用においても、ある程度レベルを落としてとってゆく。そういうことでこの三つがつながる。公冶長篇26)で、それぞれが志を言うのですが、子路は今で言えば、スポーツカーでいいスーツを着て乗り回す、顔回が「願はくば善を伐（誇）ること無く、勞を施すこと無からむ。」と答えているのは、子貢が欲したことと似ている。自分の善を誇ることは、相手に押し付ける、功を誇るにつながる。孔子はもっと自分だけの問題だけでなく、老者、若者にも広げてゆく。顔回はいいレベルにある。子貢には抜けており、いい所が危うく際立っている、と稲垣君。顔回は、善を伐（誇）ること無く、勞を施すこと無からむ、これは子貢、子路タイプの裏返し、自分の志を控え目に言っている。孔子の「老者、これを安んじ、朋友、これを信じ、少者、これを懷（なつ）く。」は見守る、それが恕。そこで満足するが恕、と成田君。孔子は、自分のことが他人のことになっている、相手が居るかのような思いやり、と稲垣君。津布良さんどうですか？この三つは関係するという前提での話しをしておられるのですか、と津布良さん。今はそれでやっていますが、別々でもいいが、こうした方が自分の中でまとまるかなと思ったと川那辺さん。私は前後つながりがあると思っているので、同じような読み方かなと思った。どうつながっているかは分らない。23）と24）が何故関係するかは、子貢が重要なポイント。その例としてうってつけ。孔子は孔門のなかでは、言で秀でている子貢はどうかと考えると、それは恕である。それは、人の中に恕というのがあれば、言とつなげて挙げてよい。恕の意味ですが恕は、川那辺さんの方向、思いやり、人の身でやる、自分の心を相手の人の上までもってゆく、口が先に走る人間は心が追いついていないと言うとした。本当に言うことが追いつく。三代の直道は方丈記の、「ほのかに傳へ聞くに、いにしへのかしこき御代には、あはれみをもて國ををさめ給ふ。」とあり、それが想起され、そこらあたりにつながってゆく、と津布良さん。思いやりは上からみないと、守るという気持ちをあらわす、と稲垣君。上からの目線で無く同じ高さでみないと、同情になってしまう、と川那辺さん。一線となると忠、まごころになる、と稲垣君。自分のことにするように相手にする、一体化する、相手が何処まで欲しているか分らない。自分の思うことは分るが、相手を自分と一体化させるとなると非常に難しい。孔子自身も恕はつかみとれなかったのではないか、と川那辺さん。中国語の「憐れ」は、可憐な少女の憐、見ていると心がキュンとする愛したくなるような気持ち、本当に親身になった。願諒、諒は心を理解してゆるして下さい、と稲垣君。この篇の最後の方に、「君子貞而不諒」とあり、君子は諒だけでは恕とはならない、と成田君。三代の直道というのはどういうことですか、と上田さん。朱子の解釈では自分が誰かをけなしたり、誉めたりしないのは、三代（夏、殷、周）の時には正しいものはよいとして、悪いものを悪いとして、善悪が決まっていたので、自分の私利私欲で曲解するものはなかった。だから、自分も善悪で曲解することはしない。正しければ用い、正しくなければ用いない、としている、と稲垣君。評価したり、貶したりは思っていてもしない。誉めたいときにはやらしたらいい、それが三代のやり方だった、と成田君。実行によって示すのが正しいやり方、直道については鄭玄（じょうげん）は直は縁なり、道により行うとしている、と稲垣君。最初に戻るが、川那辺さんは、「言を以て人を舉げず。」も「人を以て言を廢てず。」も実際の場で人を採用する、政治の場で人材を登用するときには難しい、その心は、どういう心ならそれができるかを問われた。そのヒントは理由も無く人を非難したり、人を誉めたりするのでなく、いいところを見出す余裕、それを引き出す、そういう心持が大事とされた。三代においては、人を誉めたり、貶したりして人材を選ぶようなやり方をせず、出来るなと思う人に即やらした。普段からよく見て、やれる人間にやらすことという単純な登用をしたということでいいにかな、と上田さん。それでいいでしょう、と成田君。人に於いての人とは、朝廷で仕事する人ではなく普通の民のことお上田さん。そうじゃなくて、人は仕事をする人で、斯の民やの民が普通の民でしょう、と成田君。中村さんどうですか？恕ですが、自分の欲することをするは、必ずしも相手がそのようにしてるとは思われない。相手のことまで考えてやるは、頭で考えてというより、自然に善の気持ちとしてできるが理想、と中村（佳）さん。川那辺さんが問題とされた、子貢の問いへの答えと公冶長篇での孔子の対応の差については時間がなくなってしまいました。来週は4月4日（土）中村（佳）さん来られるようでしたら塾頭をお願いします。津布良さんが来られるときにも塾頭を是非お願いしたいと高津君。
今日の一揆は津布良さん参加で、稲垣君、大西さん、上田さん、国語教育問題、日中問題で終電まであっという間でした。


2009年4月4日（土）　衛霊公26〜27
母音oですが、単独のものは哦oがありますが非常に少なく、欧oūとなりますがこれも少なく、辞書のなかでもわずかな部分しかありません。日本語のオではなく、口はもう少し広げて奥の方で発音してください。a 　e　 o i 　u 　 ü。有気音と無気音ですが、有気音p t q c chは無音で破裂する部分を長い目にとってください、無気音は即声帯をふるわせてください。無音で破裂する部分はありません。学而篇を練習、衛霊公篇を全員で音読。本日の塾頭は、中村（佳）さん。

26) 子の曰はく、吾、猶ほ史の文を闕（か）き、馬有る者は人に借りてこれに乘らしむるに及べり。今は亡いかな。
孔子先生がおっしゃった。私が若い頃には、文章を闕いていてはっきりしないところは空けておき、馬をもっている人は人に貸してのせてあげるたが、今はしなくなった。史とはどんなものですか、と中村（佳）さん。この時代、国は各々歴史を記録していた。国にとっては大切な仕事。司馬遷は太史公とされ、太史の職は専門職、昔のことばかりでなく、天文も司り、天官書があり、それが書けるにはそういう知識も備えていた。昔の文献として書かれているものに闕文があった、と稲垣君。この史は、書記官の意味、書記官の文に闕けている部分をみかけることがある。史は後には記録、記録官、史官のこと。我々が考える歴史とは違って、広い範囲のことを記録する。権力者におもねって事実を曲げて書くことがない、と成田君。仕事は公正、厳密で、馬ある人は、人に貸しては、自分の欲することを他人に及ぼす、他人に対する思いやりみたいなものですか？困っている人がいたら手を貸すみたいな？と中村（佳）さん。馬に乗る必要があるが、馬がなつかない。馬の躾に慣れている人に馴らしてもらって乗る、というのが伝統的解釈です、と成田君。朱熹は、此の章の義疑わし。強いて解す可からず、迎合して解釈しないと茶をにごしている、と稲垣君。孔子の時代に、今は亡いかな。いわんや、朱子の時代においてをや、と成田君。前半は、はっきりしないところとか、知らないところは空けておくですが、と中村（佳）さん。今の人はどうしていますか、と成田君。いいかげんに書いているのでしょう、と中村（佳）さん。馬はどうですか、と成田君。なつかない馬を持っていても仕方ない、と中村（佳）さん。自分で無理やり乗りこなす、手荒く躾けるでしょうかね。二つの具体例からして、今の世に欠けているとはどういうことでしょう、と成田君。きっちり調べて、自分に出来ないことは人に任す、ですかと中村（佳）さん。前半は無いものはそのままにしておく。馬のところは分からないが、逆にあるもの。あるものは自分でできなくても有効に使う。当時は魯公でなく季氏が実権をもっていた。それはダメで、魯公をたてて、きちんと補佐をして、政治を行うべきである、みたいなことを言うのかなあ・・・と上田さん。古注だと、疑わしいことは空けておく、制度のことで分からないことは書かない、あるいは陳恒とか崔杼が斉の主君を弑した、下克上でそういうことをしたことをある程度空けておいた、と稲垣君。多聞闕疑、多見闕殆（爲政篇18）多くを聞いて疑わしきを排除し、多くを見て殆（あや）うきを排除する、あるいは、君子於其所不知蓋闕如也（子路篇3）、君子はしらないところを空けておく、これが孔子の知識の作り方、史官が記録を作るとき、出来うる限り情報を集めるが、裏付けのないもの、矛盾するところは、憶測して書かず、分からない所を分からないする、魯の昔の記録をみたときそれがあって、これに孔子はならった、と成田君。ところで何故馬がでてくるのですか、と中村（佳）さん。後藤点は間違っていない？吾、猶ほ史の文を闕（か）くに及ぶなり。馬有る者は人に借りてこれに乘らしむる。今は亡いかな。前半のことは今でも見かける、耳にすることがある。後半は今はもうない、と成田君。也で切るのが普通の中国読みで賛成。八佾篇9）に殷禮吾能言之宋不足徴也とあり、殷の禮について言えるが、宋に行ってみたが、文として、証拠とするものがないが、見聞して知っている、歴史的な現実は知っている、馬を馴らすのを人に預けるのも知っている、今はその習慣は無くなった、と稲垣君。馬のことだが、前に成田君が言っていたように、当時は直接馬に乗るではなく、馬は輿につけて乗る、戦車につけて戦うだから、馬を持つ者が輿を持つもの足らざるを補うということを言うのかな。また、子張に孔子が馬車の運転にかこつけて集中することを教えたこともあり、御者の技や射などが六芸に入っており、馬に関することで比喩的に教えることがあったのかな、そういうマニュアルが残っておればいいが、残っていないのが残念、と上田さん。弓のことは残っているが、漢代のもの、と成田君。実践のものはマニュアル化されにくい、琴なんかでも楽譜が残されているのは六朝、唐代、それまでは口伝、と稲垣君。馬を馴らすというのは出典はなにですか、と上田さん。昔の注釈にそうあるだけで、それを検証すべきすべはない、と成田君。ところで、馬に乗って戦うというのはレッドクリフの映画をみればそうなっているが何時頃からそうなるの？秦の時代以前は戦車、武器も矛で剣も青銅で切るより撲殺、矛で戦車ごとひっくり返すとか。ベンハーに出てくるような戦車に乗る。二頭だて、四頭だてがある。秦とか趙あたりは北方騎馬民族から騎馬戦を導入し、馬に乗り槍や刀で戦う。馬といってもモンゴル風の小さな馬で、汗馬は西域を通じて輸入されたもの。千乗となれば、四頭だての戦車、馬四千頭は富のバロメーター。十乗の戦車を持つ大夫ならリッチ・・・と脱線。

27) 子の曰はく、巧言は�ｺを亂るす。小を忍ばざれば則ち大謀を亂る。
巧言、口先が上手いのは徳を乱す。小さなことを我慢しないと大きなこと、大きな計画を乱す、成すことが出来ない。巧言は今までにも出てきている。ここでは徳が出てくる、今までは仁の下に徳。後半の方が興味がある。そのとおりなのですが、小さなことには目をつぶらないといけない、本当にそこまでして成すべき大事か？大小を比べるのは、絶えず持っていないといけないことですが、建てたときと国の状況が変わってくると、ダムや新幹線みたいに状況により変わってくる。金を出せというが、今の時代にそぐわなくなっていたりする。ところが日本人は一旦決めると突っ走るところがあると思うのですが、どうですか、と中村（佳）さん。政府の建設計画とか、目先を考え大局を見ず、途中の計画で突っ走るとなると、巧言とかかわる。大謀は大きな政策的計画、徳を乱すは倫理的なものとかかわる、と稲垣君。言葉をつくろう、分からないことは適当にするはダメでしょう、と中村（佳）さん。この条は現代に置き換えて理解が出来る、と稲垣君。巧言は悪い意味があるものではない、と成田君。中村（佳）さんのおしゃるよう徳がでてくることを考え合わすと、人を動かすには巧言は必要。その気にさせるには相手のいいところをついて、やってもらわねばならない。問題は乗せられる方、その気になって実力以上に出来るような気になり、気がつくと足元をすくわれ、失敗する。徳を乱すことになる。小さいを忍ぶというのは、責任が絡む問題。特に女性に顕著だが、自分の失敗で責任をとるというのは我慢ができるが、自分の責任でもないことで自分に及ぶとなると、頭のいい女性ほど我慢がならない。へまな男性のためにそれが回ってくるとなると、結果がどっちにむくより、私の責任じゃないことをはっきりさせないと気がすまない。それが先にきて、そんなことを、貴方に責任があるとかないとかでなく、それはおいておいて、どうするかが・・・と言っても、おいとけない、と上田さん。それは家庭でもあるのでしょう、と声がする。家では酒ですね、いい年をしていくつになったの、私は知りませんからね、悪いのは一方的にそちら、そうでしょう！としてからはじまる・・・それは予想がつきますね、と声がかかる、男だって一緒と女の人から叱られますよ、と声がかかる、いやまそんなもので、職場でもようあったな、と上田さん。それはですね、朱子がそれを「婦人の仁、匹夫の勇」と言っている。婦人の仁は相手に情けをかけるが我慢ができない、匹夫の勇は大目に見るが相手にきつく当たる、暴力の暴、強制したり押し付けたり、我慢が出来ない。いけない例です、と成田君。（憲問篇18）に、「匹夫匹婦の諒を為すや、自ら溝瀆に經れて之を知ること莫きが若くならんや。」とあり管仲は、公子糾、召忽の後を追い死ぬようなことをせず、敵であった桓公に仕えた。彼の大謀は匹夫匹婦の諒（まこと）、上っ面だけで考え、義理立てして心中するのではなかった。大謀は政治的文脈にあり、徳は個人の内面的なもの、と稲垣君。中村（佳）さんがいわれたことだが、小さなことを忍ぶの何が小さいのか、これも問題。小さいと思っていたことが、実は大きいという場合がある。また、小さいことを大目にみてゆくことで、おかしくなることもある。今の時代は、小さいことをきちきちと正すこと、あるいは小さいことでも我慢せず、嫌なことは相手に告げて変更してゆく方向ですよね、中村（佳）さん、と上田さん。そうですね、と中村（佳）さん。女性が小さいことについてということですが、男性から小さく見えることが女性からは大きいことがあります。何が小さいか大きいかは人の判断にもよります。政治には大きな政治の流れがあり、小さい事件はがまん・・・小さいことが我慢できねば大きいことを乱すはわからない。琴や弓矢のマニュアルが残っていないとかいうことでしたが、実践のものは残さないのが普通。口伝、秘伝にする。空けるとは秘伝にすることではないですか。秘伝の内容を孔子が知っていたのかもしれない。それがくずれて、日本では、お金でやりとりし、内容が無くなってしまうなどということはないですか、と岸本さん。秘伝書が文字化されないのは、そうだろうな。風姿花伝なんかも文字化されたのは明治になってから、専門の研究者でも見られなかった、と稲垣君。史記の淮陰侯伝に韓信の股くぐりの話があるが、喧嘩するより我慢して、その場のこととして、後に名君になった。「婦人の仁、匹夫の勇」は韓信が項羽について使った言葉。韓信は項羽は情もあり勇猛だけれども部下の心をつかめていない、とみており、劉邦はそういう韓信に任せた。項羽は人心をつかむことができなかった。巧言とか佞人いうのは現在は悪い意味になっているが、佞というのは当時は一般的には評価されていた。公冶長篇5)で「雍は仁にして佞ならざるや」、仲弓は仁だけれど佞じゃないというのがあったが、佞は評価されていた、と高津君。項羽は優しさもあり、勇気もあるとみられていたが、韓信は「婦人の仁、匹夫の勇」と見抜いていた、と成田君。佞は祝?の佞（雍也篇14）といわれたくらいで、祝?は外交交渉でその弁で窮地を救っている。現代でも自分の意見をちゃんと言うとか、相手に伝えるとか、そっちの方向で教育がされており、孔子がいうようにせよと言っても嫌がられる、と上田さん。当然、当時も孔子は人気がなかった。高津さんが言われるように、巧言には悪い意味はない。小忍ばずも悪いことではない。孔子以外はそう思っていた。当時の人達は、巧言を成功の秘訣と思っていたが、孔子がそれをひっくり返した、と成田君。どういうところでそうするかが問題、と稲垣君。忍は必要、巧言は悪いのでは、と大西さん。孔子は悪いことでなく、仁が少ないとした、と成田君。さて、巧言や佞は元来は悪い、ネガティブなものだったのか、それ自体は、ニュートラルあるいは当時は評価されていたのが、孔子によって否定されたものか、現在では巧言令色や佞人はいい意味では用いられません。論語の影響でしょうか。
来週の塾頭は、岸本さんお願いします。一揆は4月4日は統計的に、客の少ない日らしく大将一人。大将と大西さん、上田さんのよもや話し。ゆっくりした時間が流れておりました。


2009年4月11日（土）　衛霊公28〜29
子音、母音、学而篇の復習、衛霊公篇を全員で音読。本日の塾頭は、岸本さん。

28) 子の曰はく、衆（しゅう）これを惡（にく）むをも必ず察す。衆これを好（よみ）するをも必ず察す。
先生が言われた。大勢がこれを惡む、嫌としても必ず観察し、大勢がこれを好んでも必ず観察する。察知する、自分で勝手に判断しないということですか、どうです、と岸本さん。もう少し何か、と稲垣君。これは人のことを言っている、皆に嫌われた人でも、人気ある人でも、観察していい人か、悪い人かを視て判断しなさいということ、人に影響されないようにとのことですか、と岸本さん。岸本さん自身はどうですか、と成田君。人の意見を聞いて、最終判断は自分でしなさい。前の条に分からないときには人に聞きなさい、人に耳をかすでなく・・・と岸本さん。前というのは、と稲垣君。16条の「これを如何んせむ、これを如何んせむと曰はざる者、吾、これを如何ともする末きのみ。」と関連しているのではないかと思いました。ところで、之れを惡むの之は何を指しますか、と岸本さん。中国語の動詞は目的語がないと据わりが悪い。知之為知之　不知為不知　之がないと知為知となり、名詞か動詞か分からない。知之為知之とすれば知が動詞と分かる。否定詞の不がある場合、不知為不知は知が動詞と分かる。必ずしも之をこれと訳す必要はない、と成田君。ここもそうですか、と岸本さん。ぼくはそう思います、と成田君。そうでないかも、と稲垣君。皆が嫌っているもの、人物か物か区別する必要がありますか、と岸本さん。文章上では、人でも物でもいいのですが、これまでの孔子の言い方からすれば、人のことかと思う、と成田君。衆が惡む、衆が好む、皆がそうするのは普通のことじゃないので、必ずその理由を察する。衆の好悪は、時勢、季氏が八佾の舞を行ふも、泰山で祭るのも時流、子罕篇3)で孔子は、麻の冕を絹とするのは倹約であり、衆に從う。堂の下に拜するのが禮であり、今の人々が上に拜するは、礼に反するので、衆に違うが、私は下で拜するとした。下克上に流れる風潮には反対をした、と上田さん。時勢というより習俗、禮ですか・・・その時代に行われている風習、制度ですが、具体的な人とは少し違う、と稲垣君。いや、人であっても祝?の佞とか宋朝の美とかあり、どっちでもいい、と上田さん。皆という、人皆が良いと言う、悪いと言う。巧言令色を連想させ、何か分からない状態で騙される。そうじゃなくて自分の目で本質を見抜くとか、人それぞれに良い所がありそれを見抜く、人を視る時、物の視方の原点をいう。ポイントは皆。皆が言うことが正しく、"皆"で悪がある、ではなく・・・皆がポイント、と川那辺さん。皆がポイントには賛成。世論、周りの大勢を占める意見。自分の意見を、表層だけでは判断できない、周りが下したものは必ずしも正しくはない。子路24）に「郷人皆これを好むを何如。子の曰はく、未だ可ならず。郷人、皆これを惡むを何如。子の曰はく、未だ可ならず。郷人の善者これを好み、その不善者これを惡むに如ず。」に共通点がある。察は観察と察知では異なるが、と稲垣君。最初に見た訳では、察に調べる意味があるということでしたが、よく視て判断すると思ったものですから、と岸本さん。察は調べるではない。調べて十分に察知するまで含めている、と稲垣君。人の方に重点を置いて理解していたが、上田さんのようにも理解できる。衆が好む、好んでやっていることでも自分なりに見抜く。悪（にく）んでいても良い所を視なければいけない。衆これを悪むの例、あまり思いつかないが、孔子と陽虎の関係、反乱をして孔子を呼ぶが、反乱者は皆が嫌っている。子路は嫌っており孔子を止める。孔子は評判だけで評価を決めない。いい所もあるのではとやる気を出している。それは失敗だったが・・・そこを含めて言っている。この条には"君子は"がつかない。孔子自身の経験、自分の経験を弟子に伝える。君子は、がつかないところがおもしろい、と成田君。管仲に対する孔子の評価、孔子のなかでも最大級の評価を与えていたが、批判すべきところは批判している。憲問篇17）では、（桓公諸侯を九合して、兵車を以てせざるは）管仲の力であると誉め、子貢が憲問篇18）で管仲が主君に殉じず桓公に仕えたことを批判したが、それはそういう当時の世論、衆が悪む場合だが、孔子は自分なりに評価を下している、「管仲微（な）かりせば吾其れ髮を被り衽を左にせん（夷狄の俗に染まらず今日中華の俗にあるのは管仲のおかげ）。」管仲への評価も衆とは違う、と稲垣君。?惡之必察焉、?好之必察焉　これだけを言ったのか、どういう状況でこれを言ったのだろう、と上田さん。何らかの文脈のなかで言っている、目先のことだけでは誤りがあるかな、と稲垣君。短い文章ですが対比がある。語呂合わせとかもあるが。何かがあってと限定されず、想像を広げ易い、対比が分り易い。どんな状況、どんな人であれ通用する。以前のところのように歴史的事象にとらわれない、と川那辺さん。全体を通してみると政治の場面でどういう行動をするかが流れとしてある、と成田君。政治に対する大きな方針、と稲垣君。こういう段落があると読者は引き込まれ易い。読み易く、うまく読者を取り込んでいる、と川那辺さん。孔子にその意図があったかは分からない、と成田君。断章取義、自分にいい所を取って解釈する、文脈を無視した読み方と、清朝考証学は批判している、と稲垣君。察の字は珍しいんでは、と上田さん。爲政篇10）に「視其所以觀其所由察其所安人焉廋哉人焉廋哉」とある、と成田君。朱子の注は、比べて視る。視は比べてみること。観はパッとみて判断する。察はそれの上をゆく、と稲垣君。

29）子の曰はく、人能く道を弘む、道の人を弘むに非ず。
先生が言われた。人間が道を弘めることが出来る。道が人を弘めるのではない。人が道を弘めるのは分かるが、道が人を弘めるはとは何ですか、と岸本さん。道路そのものが道を広げるのではないということだが、道ということはどう思いますか、と成田君。孔子先生の教えを広める、徳を学ぶことですか、と岸本さん。孔子の教えと徳は違う、と稲垣君。道は道義とか、そういうこと、人としての礼儀とかそういうものでないのですか、と岸本さん。道義とか人が守るべきものです、と稲垣君。人を弘めるは分からない、礼儀が人をどうするのですか、と岸本さん。岸本さんの意味では「伝」になる。弘はだだっぴろい、広げる、大きくすること、と稲垣君。これは対比じゃない。非道は否定、これは簡単そうだが、出来ない。自分の言葉でまとめるのは難しい、と高津君。非は出来る、出来ないじゃなくて、見方そのものを否定、そもそもその発想自体が成り立たない、と成田君。道が人を弘めるのであれば誰でもそうなるという解釈がある（銭穆氏の説）、と高津君。道は孔子の場合、人として守るべき正しい道。孔子は実際の道路にひっかけて言う。道義の道より、本来の道、人は道路を広げることが出来るが、道路が人を広げることはない。あたりまえのこと。それにひっかけ道義もそうである。両方つなげてみる人は成程、確かにそのとおりと納得する、と成田君。それはありそうなことです、と高津君。「誰か能く出づるに戸に由らざる。何ぞ斯の道に由ること莫からむ。雍也篇15）」というのがあった、と大西さん。老子に「道の道（い）う可きは、常の道に非ず」とあり、道は見つけ難いものであるが道があり、道に従って生きるみたいな考え方をする。当時は仏教はないが、そういった老荘的な道を重視する考え方に対して、そうじゃないみたいなことを言っているのでは、と上田さん。老子や荘子的でないほうがいい。道教的な考え方が孔子の以前からあったのか、無かったのかよく分からず、ここではそれを考えない方がいい。道は路からはじまって道に、天は空だが天命、人事を越えた摂理、と稲垣君。孔子の場合、人間が動物みたいに生ものを食べる生活から料理をするとか、皮や布を身につけ、家をつくるとか聖人のさまざまな工夫、人間の営みによって道が拓かれて来たという考え、と上田さん。昔から今につながる道。三代の直道というのがあった。ギリシアでもそうだが、黄金の時代から銅、鉄の時代とおちてゆく。夏、殷、周、それ以降はだんだん悪くなる、崩れてゆく。積み重ねが意識されなくなる、と稲垣君。三代以降がダメになっている。そこを歩かないと草ぼうぼう。道のおかげじゃなく、我々がそこを歩かねば、と成田君。昔からの太い道を絶えず確認していかないと、道が鎮座しているのではなく、自分がそうしてゆかないとダメになる。成田さんがいわれたように道、道路工事をするのも一緒、と川那辺さん。道が万能と思ってしまってはいけない。道があたかも人を大きくするようにみえる。ぼくは朱子の時代の考えに引き寄せすぎるが、人間は学んで聖人に至れる、と考える。孔子は別格だが、一般平民でも学べば士大夫になれる。道が人間の器をおおきくするものではない、と稲垣君。孔子は放浪の旅で仕える諸侯はない、隠者たちから今の世を帰るのは無理でやめておけと忠告され、決して上手くいっていなかった。それでもなんとかしようとする。今も大恐慌の時代とされるが、孔子にこれから脱却する道がありますかと聞けば、そんな道があるもんか、自分たちでやりきることをしなくちゃどうにもならん、と返ってくるのではないか、と上田さん。人知で切り拓くところ、人間の力で開け、高津さんどう、と稲垣君。最初から作られた道に乗っているのでは成長をしない。孔子は「夏之時、乘殷之輅、服周之冕」といい所を取り入れ、そのままそれに乗るのではなく、常に道を切り拓くことが必要とする。夏、殷、周のものもそうしなければいけないとするのは、孔子が保守派ではなく改革者。「攻乎異端斯害也已（正統でない学問をするのは害がある）。以為篇16）」、魯迅は皆が歩いて道を拓く、それが大事とした。皆の意思を聞いている。昔のことをいいというが、改革、革新することを大事にしている、と高津君。夏、殷、周の既存の政治システムによるだけではなく、何がいいのか、悪いのかを見つめて、道を弘めてゆく、と稲垣君。遠慮がないと近憂、常に先を見て、この道の先を創造してゆく必要がある。ある道は尽きることがある。何とかしようという気持ち、方法がないと行き詰まる、と高津君。後ろからつながるし、先にもつなげるところに意味がある、と稲垣君。孔子は保守のみではなくてという言い方は必要。保守は悪い意味で使うが、本来の保守は常に使ってきたものを改良して使う。孔子はその考え方。周のいいところも夏のいいところもとり、いいところは引き続きあたらしくてゆくような考え方。ここは保守政党の皆さんに読んでもらいたい、と成田君。春秋の世にあっても、目先ではなく本質を見抜く、万物の霊長、人間に出来ること、と稲垣君。
来週は16日木曜日です、塾頭は大西さんにお願いします。5月2日は高津君にお願いします。一揆は久方ぶりに川那辺さん登場、稲垣君、大西さん、上田さん、韓国文学や古代三国志と北朝鮮など、ホットな話題でした。


2009年4月16日（木）　衛霊公30〜31
大西さん、国際会議場の受付におられる杉浦さんと同道。お母さんと中国を旅したく中国語の練習をはじめ、昔学校で習った論語がなつかしいとのこと。本日も、子音、母音、学而篇の復習、衛霊公篇を全員で音読。本日の塾頭は、大西さん。

30) 子の曰はく、過（あやま）ちてこれを改めざる。これを過ちと謂ふ。
先生が云われた。過ちをしても改めない、これを本当の過ちと謂う。簡単なことを書いているが、難しいこと。里仁篇7）の「人の過つは、各、其の黨に於ける。過を觀れば、斯に仁を知る。」に関係があるが、どういう意味だったのか？人間の種類により犯す過を觀ればその人が分かる？仁の程度が分かる？また、公冶長篇27）に、「未だ能く其の過を見て内に自ら訟（せ）める者を見ざるなり。」過ったと思えば改めればいい。しかし、過をみて自分の内に責めるものをみたことはない、と実際は難しい。過ちそのものを改める、気がついていても難しい。自分で過ちと気付いていない場合は分からないから、自分を責めることは無い。こういう所で勉強をして、人から指摘されたりして知ることが必要、と大西さん。里仁篇の場合は、その人が仁かを判断することが出来る、もう一つの読み方は、人の過ちをその過ちをもたらす特有の原因をじっくりと観察すれば、仁が何かが分かってくる、と成田君。朱子は黨は類なり、程子を引いて、「人の過は、各々其の類に於てす。君子は常に厚きに失し、小人は常に薄きに失す。君子は愛に過ぎ、小人は忍に過ぐ、と」する。過ちの質が違う。君子は人に親切にしがちすぎる。小人は相手に薄いだから、けちな方向に動く、君子も失敗するが愛に過ぎる、小人が失敗すると忍に過ぎる、我慢しすぎるのかな？人の仁、不仁がわかる？と稲垣君。仁が出てくると全くわからなくなる、と成田君。学而篇8)に、「君子重からざれば則ち威なく、學びて則ち固からず。忠信を主とし、己に如ざる者を友とすべからず。過てば則ち改るに憚ること勿かれ。」とあり、表裏の関係にある、と稲垣君。里仁篇は過ちをしてしまった時、公冶長篇は、過ちを犯した後の反省の仕方で人が分かる。過ちを犯した後にどう反省するか、里仁は過ちを犯した瞬間、その他は時間があいている、と稲富君。孔子は、人は過ちを起こす、過ちするものであるとし、その原因、対応の仕方が問題とした、と成田君。顔回は過ちを再びせず、ですが普通は同じ過ちをする、どうですか、と大西さん。そうなる、とくにお酒においては、と稲垣君。安心しました、と大西さん。人は過ちを犯すもの、改めないのは過ち、過ちを改めることが大切、は余裕のある言葉。何回しても、何回も反省することが成長につながる。それは子供を育てていれば日常のことで、それは子供も大人も一緒、繰り返しが必要。改まっていれば、すっぱり水に流して認めてあげる。その人を視る姿勢が重要。厳しくしすぎると、その殻から出られなくなる、と川那辺さん。何度失敗しても改めればいい、は懐が深い言葉。受験で失敗すれば、それでそこでダメでは、人は成長できないですから、と稲富君。何度失敗しても改めればいいというものが趣旨ではない。大西さんが言われたが、分かっていても改めるのは難しい。しかし、自分で気付かない場合はどうするのか？子路は「南山に真っ直ぐ伸びた竹があり、これを切って（槍に）もちいれば、犀の皮すら貫ける。素直な性格のまま、真っ直ぐ生きることのどこが悪い」と孔子に言うと、孔子は、「竹の矢を削って羽根をつけ、鏃（やじり）を付け磨けば、もっと深く入る。」、学べばその性格がもっと磨かれ鋭くなるという言葉で孔子に入門した。気付かぬことを諌めてくれる友、人、師を持ち、それが聞き取れるには学ぶことが必要ということ、と上田さん。稲富君はリベンジがゆるされるとした、と安澤さん。過ちと失敗はイコールではない。ここの過ちは小さなミス。大きなもの、犯罪となるようなことを含めて、過ちを誰かに犯すを払拭するには、何か過ちを挽回する方法、それには学が必要、と成田君。人それぞれ皆、自分が正しいと思っている。しかし、自分の行動や人の意見をみて、あるいは言ってくれる人がいて、自分で勉強して、思ったりして、改めることができる、と大西さん。他人から指摘されるより自分で気付くことが必要。「衆これを惡む、必ず察す。衆これを好む、必ず察す。」など、人間観察により、皆が過ちをしても、それを自分でみてとる、人を観察して自分で判断する、と稲垣君。それが学ぶこと、と大西さん。まさに、道が弘めるのではなく、人間がそれを高めてゆくもの。人がそれを気付くようにする、と稲垣君。公冶長篇で云っているがそれはむつかしいこと、と大西さん。里仁篇の「人の過つは、各、其の黨に於ける。過を觀れば、斯に仁を知る。」が個人的には好きで、この句の過と黨、過と仁、黨と仁がつながる。どういう人と一緒にいるか、どういう行動を起こすかで、その人が仁か分かる、と高津君。黨によって過っているかどうか分かる、がすごい。面子、立場上のこともあるが、と安澤さん。それは、公冶長篇にかかわる。佞と仁の要素がある。表面、面子を気にしているが、内面的な良心に付き合わせると過ちと分かるのに、それが出来る人がいない、と成田君。毒を食らわば皿まで、それを改めるのはむつかしい、と安澤さん。うっかり過ちを認めるというのは、実際生活では、自分だけですまなくて類が縁者にまで及び困ることがある、外交でもそこを認めるととんでもなくやっかいなことになる、と上田さん。対不起と謝ってはいけない、と安澤さん。中国では対不起は云わない、面子を失うようなこと、損害を受けることがないように立ち回る。自分の間違いは棚に上げ、相手のミスは指摘する。30個残っているだろう、いや5個しか残っていない。中を開けてみると33個あった。お前は間違っていた33個じゃないか。と脱線モード。宰予が昼寝をしていて（公冶長篇10）孔子は、人の見方を改めた、言を聽いて行を信じていたが、言を聽いて行を観て信じることにした、と高津君。宰予人生の最大の失敗は、孔子の前で寝たこと、と成田君。自分の黨では、父が羊をぬすんだと子が証言するほど正直だと葉公がいうと、孔子は自分の黨では、子は父をかばい、父は子をかばい隠すとした。この話もどうみたものか、と上田さん。ぬすむは攘（ぬす）むで、羊の方から来たのをそのまま取り込んだで、盗みに行ったものではない、と高津君。葉公は改めたのだろうか、と大西さん。孔子も間違っているとあからさまに否定はしていない。相手の黨の価値観を尊重している、と成田君。その言い回しは勉強になる、相手を怒らせずに説得するのは私の商売、と安澤さん。孔子はそこまで関知しない。孔子はこまかいところまではせず、自ら考えなさい。私流にいえば、人の姿をみて、自分の姿を省みる。相手が分かるに越したことは無いが、自分はそうならない、反面教師的にみているところがある。自ら気付くことを望みつつ、自分を振り返る、と川那辺さん。三人行えば必ず師あり（述而篇21）、と大西さん。

31）子の曰はく、吾嘗て終日、食さざる。終夜（よもすがら）寢ねず以て思ふ、益無し。學ぶに如ざるなり。
先生が云われた。君子は道を得ようと謀って食を謀らず・・・それ一つ先です、と声。あ、間違いました。早速、過ちてこれを改める、と声がかかる。
先生が云われた。私は一日中食事もせず、一晩中寝ず考えたが無駄であった。学ぶことに及ばない。これは集中して考えたが成果を得なかった。爲政篇15）に「學びて思はざれば則ち罔（くら）し。思ひて學ばざれば則ち殆（あやう）し。」とあった。これとは対称的なもの。学而篇6）の「弟子入りては則ち孝、出でては則ち弟、謹しみて信、汎（あまね）く衆を愛して仁に親しむ。行ひて餘力有らば則ち以て文を學ぶ。」学ぶ考えるも必要だが実行が大事ということ。学ぶことも大事、思うことも大事、実行も大事。年代による。年をとると若い人に比べて学ぶ力は落ちてむつかしい、と大西さん。嘗て、すでにかなり前で、若い頃を思い出している。若い人は夢中になりぼっとすることが多い。年をとると体力的に続かない。若いときに経験してこそ分かること。京都大学人間総合学部、全学共通教育棟に「不如學」の看板がある。この文字だけ、ぼんとあると感じが違うものになる、と成田君。自転車置き場の看板を、「よく遊びよく学べ」と書き換えてあったが、これはなかなかのもの、と稲垣君。飯を食わずに善い事、悪い事、取り越し苦労をしていた。世間に認められず鬱々していた、と稲富君。成田君がいわれるように、若い頃のこと。陽貨とか公山弗擾、佛肸に誘われ、参加しようか、しまいか？子路が嫌な顔をしている、どう説得するか、考えあぐねて学ぶ、これは周公など先王の道を学ぶ、そうすれば彼等とは目指すところが違うことが分かってすっきりした。学園紛争の頃を思い出す、と上田さん。私の場合は、たとえばダイエットに励もうかと思案しながら、いややっぱり論語読書会に来る。中国語なんてさっぱりわからないしとうじうじ考えながら、いや、ちょっとでも、何か覚えて帰ろうか。本を読むだけが勉強ではない。最後は自分との戦い。どういう意識をもって持続させるかが問題。でも、わたしにすればダラダラ考える、これ一見何の身にもなっていないような意味のないものが過程となって引き出すものもあると思うと川那辺さん。安澤さんどうですと声がかかる。寝ない、食べない。食べずに寝ずに・・・思索するになるのかな？と安澤さん。以思とあり、思うとなる、と稲垣君。我思は我想とは違う、思考する、考えること、と成田君。孔子が考えていることは、人々と考える、一人で答えを出そうとせず、人の意見を聞いてそのなかでやること。そのことには及ばない、ということではないんですか、と杉浦さん。なるほど、それもいいですね。政治を本で読むのではなく、古の聖人の行動を真似る。同じ流れにある。思うは自分にしか出来ないこと、学ぶは相手あってというのは可能、と稲垣君。無益とあるが、考えたことは残るのではないか、と大西さん。無益に気付いた、と安澤さん。益はあふれる、ふくらんでゆくイメージ。論語では評価がたかいこと、憲問篇の最後に闕黨の童子があり、「益者」であるかと問われ「益を求むる者に非ざるなり」と孔子は答えている。更に教えて育てるべきみどころのある者かと聞かれ、早く大人に扱われたいだけで「益者」ではないとしている、と成田君。
さて、来週は4月23（木）、塾頭は稲富君にお願いします。5月2日（土）の塾頭は高津君。5月は9日（土）、14日（木）、23日（土）、28日（木）となります。本日の一揆は、おっととと、いつも客で会うグループの男性が臨時店員。杉浦さん、稲富君の若手＋熟年トリオ（安澤、大西、上田）。安澤さん奈奈さんに電話、久方ぶりに声が聞けました。


2009年4月23日（木）　番外篇
本日は定時には稲垣君、成田君、上田さんのトリオ。時間が来たから始めましょう。「學而時習之不亦説乎有朋自遠方來不亦樂乎人不知而不慍不亦君子乎」。上田さん、自と不亦の声調に気をつけてください。今回は「詩三百一言以蔽之曰思無邪」、思sīをもう少しはっきりと、無邪は二声、二声。テキストに声調を鉛筆でつけておくのがいいでしょう。日本人にむつかしいのがan とangの違い。anはnがあるために舌が上歯に来るため口がせばまりますが、angはngですので口はaのままで喉の奥での鼻音です。探湯tàn tāng、君子坦蕩蕩jūn zǐ tǎn dàng dàng　なんかの発音がきちんとできれば、中国語らしく聞こえます。on とongの違い。on もnがあるためにuのように聞こえます。ongも口の形はuですぼめてやってください、と稲垣君。
さて、一向に他の人が現れる様子がない。成田君とは飲む機会がないので一杯やりもってゆきますか、では買出しに行ってきます、と稲垣君。ビールとおつまみで、乾杯。「読書会の最初のころの記録を読んでみると鄭さんの下宿で始まってますね。」「成田、高津、上田、韓国の金さん、台湾の田さん、中国の沈さん、韓国の李さん・・・」と懐かしいメンバーの名前があがる。下宿で一杯飲みながらや修学院滝下でのバーベキュー、宝ヶ池での花見の会・・・色々なことがありました。後藤点のテキストのPDFファイルをダウンロードしたが相当大きな容量となるのでメールでは送れません、CDに焼きますが皆さんにはどうしますかね。欲しい人に回しますか？「司馬遷は冷徹な史家というが、劇作家みたいな感じがする。」「歴史というものに対する考え方が違うでしょう。事実を記すというより、人間の考え方とか、どういう行動をしたかを描く。」「武田泰淳は『司馬遷は生き恥さらした男である。』とした。史記について、本紀、世家、列伝にわたって詳しく述べている。個人が主体。出だしは印象的だが後の方はあまり面白くない。」「孔子世家は歴史というよりは、司馬遷の論語解釈で、ドラマチックにできている。」「司馬遷は天官書を著しているが、中国では暦の管理を王朝の重要な機能としている。」「そうでないと農耕の時を知らせることができない。」「太陽年と恒星年ではズレがあり千年もたてば相当狂い二千年で一月狂う。これを天文観測して修正できる精緻さがあった。日本でこんなことが出来るのは江戸時代とか？」「そうです、江戸時代になってからのことです。」などと話していると、安澤さんが、風邪気味でと登場。"おかき"を持参しておられ、丁度よいと、おつまみに。「忘れ物をして家に戻ると、論語を勉強しているわりにやることが・・・なかなか説得するのはむつかしい。」「読書会だか飲酒会だか。」草薙剛が酔っ払って素っ裸でわめき、猥褻罪で逮捕されて大騒動・・・など露ほどにも知らず。「後藤点というのは誰の系統になりますか？」「林大学です。幕府の朱子学の祖です。」「荻生徂徠は？」「朱子学に反撥してます。中国語で読めとしますが、あまり中国語は上手くなかった。仁斎にも批判を加えている。」「伊藤仁斎は？」「仁斎も朱子学に批判的、活動の場は京都。若い女性と結婚した。愛の人。」「徳川綱吉も論語を教えていた。」安澤さんの口癖だが、こんなに懇切丁寧に発音を教えてくれ、どんな質問にも嫌な顔せずに応えてもらって1回百円ってない。高い金を払って語学学校に通って、中国にゆけば通じない発音に絶句するのが普通。申し訳ないくらい、多々感謝。そうこうしていると、高津君もドアを開けてびっくり、彼はバイクですからお茶。大西さんが、両替できるかなと、飛び込み。タクシーでかけつけみると、このありさま。「儒教というのは宗教ですか？」「孔子の頃には儒教という言葉はない。儒者。宗教には神を信じるという要素が必要。仏教と対抗せざるを得なくなって、教理を整えて儒教とするようになったのかな。」「墨子の兼愛とか、道教の神様というのが宗教に近いものがある。」いよいよ飲み物が無くなりまして、これじゃ、一揆に行った方がいいかと、後片付け。
「ところで京都大学で論語の研究者というと？大家は吉川先生ですか？」「中国文学をする人は一応論語を読むのが当たり前で、論語を専門にというのはない。吉川先生も、小川先生も、貝塚先生もそれぞれに書いておられますが、専門は別です。論語に関してのみなら、すでに研究されたものが山ほどありますから。江戸時代じゃ、武士はもとより町人も"子曰く"であたりまえのことでしたから。」「加地伸行先生が新聞に出てましたが京都大学出身じゃないですか？」「そうですね、加地先生はその方面です。」それぞれ、杯を傾けての熱弁は酔いの彼方、居眠りして起きてくる人もあり、終電までで草薙風ではありませんでした。
当読書会も論語を読んでおります、中国語で読もうということですから、荻生徂徠、近くは吉川幸次郎先生の流れの上にあり、後藤点のテキストという意味では朱子学解釈を辿っているともいえます。元来は鄭さんが、学問をする者が社会に還元する、留学生が一般日本人と一緒に読むの方向、一般人の側は自らの社会経験に照らして読む、留学生を含めた学生から学ぶの方向。共通の言葉としての論語を介して話し合う場を営み、互いに善く生きる糧とすることを目指すもの。しかし、いづれかの日にか、鄭さん、田さん、成田君、張さん、高井君、童君、稲垣君、稲富君、岸本さんなど学ぶ人が、学問の枠を超えて、それぞれの論語を著わされることを楽しみとしないわけではありません。


2009年5月2日（土）　衛靈公　32
母音、子音の復習、学而篇１の練習、全員で衛靈公篇の音読。本日の塾頭は高津君。

32）子の曰はく、君子は道を謀りて食を謀らず。耕やして、餒、其の中に在り。學べば、祿、其の中に在り。君子は道を憂へ貧しきを憂へず。
先生がいわれた。君子は道を得ようとつとめるが、食を得ようとはつとめない。（食を得ようとして）耕やしていても飢えることはあるが、（道を得ようとして）學んでいれば、俸禄はそこに自然に得られる。君子は道のことを心配するが、貧乏なことは心配しない、と金谷先生はしておられる。色々解釈があるが、人に学を薦める句と理解されている。耕すより学問が大事と思う人がいるかと思うが、基本的には、僕は、この句は学問は農業より上とは言っていないと思う。人に学問を薦めるにとらわれすぎている。君子がついており、すべての人に薦めるものではない。耕して飢えその中にあり、学べば禄その中にありは、自然、必然の摂理と言っている人もある。戴氏の説、冨谷先生の本（冨谷至京都大学人文科学研究所教授：漢字の中国文化、昭和堂）の中などでは、昔の中国の書物には句読点がなく、誰にでも読める、読まそうとするものではなく、学問は本当に政治を目指す人、文字を読める人は限られており、限られた人に向かって君子を目指すことを求めている。道を謀るは食の否定ではなく、自分の食事のために謀るではなく、政治、国民に対して、政治手腕を発揮することのレールを引く、その道を作る、人を導く・・・君子のために謀るであって給料をもらうため、土地や石高を多くする、つまり、子華が斉に行くときに冉有が孔子に粟を請う（雍也篇3）、食糧をもらうのが対価、給料。粟五秉をもらって、これはもらいすぎで、孔子は「君子、急を周うも富を繼がず」と怒るのですが、要は、君子になる人は、食のためでなく道を敷く、人を導くことを謀るものと、孔子は言っている。また禄は必ずしも君主からもらうばかりでなく、門人から束脩（授業料）をもらうということもある。君子は道を憂えて貧しきを憂えず、そこを強調しているように思う。今は教育が普及しているが昔はそうでなく、対象は農民ではなく、極一部の人をさして言っていると思う。子貢が政治を問い、食・兵・信のうちやむを得ず一つ去（す）てなければならない、一つ削るには何をするかというとき、先ず兵、二番目が食、兵よりは食を大事にした。しかし、「古より皆死有り、民信無くば立たず。」（顔淵篇7）。道を謀るは君子という限られた人を指していることが大事。自分の利益、自分のふところを増すことをする人が多い。自分の為でなく、本当にすべきことがあると戒めていると思う、と高津君。学問をやっている君子が給料泥棒！と稲垣君。給料泥棒みたいなことはダメです、と高津君。道のためにはかる、食のためにはかる、その関係、必ずしも理想的な形ではない。給料泥棒みたいな人もいるし、懸命に働いても沢山もらえない人もある。身に覚えがあるでしょう、と稲垣君。いやあー、と高津君。ぼくは学生ですから給料はないのですが、将来的な不安はある。そういう不安や不満に対する慰め、訓戒であり、飢えはこの中、禄はこの中とかありますが、大事なことは貧乏に負けてはいけない。小を忍ばないと大はなせない、目先の為にあちこち手を出していると、将来やりたいことが出来なくなる。親は浪人してでも行きたい大学へ行けと言ってくれたが、ぼくはそうせず、京大に来たときには落差に大変な苦労をした、と稲垣君。回り道をしたということだが、ぼくも借金をして大学に行ったが何も学んでいなかった。しかし、自分にしか気付かないものがあった。稲垣さんは回り道をしただけで、他の人よりそのぶん努力しておられる、と高津君。慰めていただきありがとう、と稲垣君。それは他の人に無い強みになります、と高津君。フリーターみたいなことをしていると、ある程度は稼げるが、将来的にはどうにもならなくなる。月給が安くても、こつこつ積み重ねてゆく方がいい。論語からは離れてゆくが。食と道との関係に重きがある、と稲垣君。
衣食住の貧しさだけでなく、心の貧しさもある。耕し、食べることを考えても、不作の時もある。学べば光が有り、必ずついてくるものがある。自ずと自分の中にプラスがあり、光を与えるようなところがあり、孔子が憂うべきは食べることではなく道、心のあり方である。今の世の中はそのようではなく、目先ばかりを追うような上の人に苦言を呈している。衣食住は最低限あればよい。生きる道を究めてゆくことの方が確かなものである。ここでは、勿論一般人でなく君子に向かっているが、現代人にはそうとれる、と川那辺さん。道を政治だけでなく、そういうものとみるなら顔回でないか。狭い路地裏であっても、「一箪食一瓢飮（雍也篇9）」ご飯と酒があれば良いとしている。飲は酒ですか？酒じゃないのか！と声。君子は貧、経済的なもの、窮、肉体的、精神的なもの、であっても乱れない。窮しても貧しても、心は貧しくならない、と稲垣君。この文章は7文字できれいに並んでおり、耳で聞いても美しい。一行目と四行目の対応、謀道・謀食と憂道・憂貧の対応が素晴らしい。詩のように歌って、表現力のあったものを書き留めた。韻律のあるものでないと残らない。何と何が対応するかがですが、道と道、食と貧とがきれいに対応している。二つの言葉が普通以上に強力な印象をかもす。謀るは自然でなく意図してやること。自然道徳でなく人間が物を考え理想とする方向へ行くという感じがする。貧を憂うの"憂う"にはマイナスイメージはなく、そこに心を砕きたいとしている。謀るにはピュアでなくもう一歩上に行っている。女子ども的なものではなく、ガッとくる。耕して餒の餒は飢とはどう意味が違うのですか、と中村（典）さん。凍餒という言葉があり、凍してこごえ、飢えてつらいこと。基本的欲求が充たされていない。客観的事実では、飢寒、寒くてやっていられない、と成田君。食が一定水準充たされていないのが飢、腹が減って力がでないのが餒、と稲垣君。餒は腹がすいてぐったりする、魚がどろんとして腐りかけていること。謀は、元来は神意をはかって事をなすこと、ある目的を達成するために心を用いること。耕しても餒というのは、不作とか変になって上手く育たないような状態になることがある。ここは高津君のいうように政治、国を運営することを想定している。食には農耕が大切であるように、国を運営するにはその方法を学ぶことが必要。孔子は農耕を習いたければ農家で教われとし、自らは、国を生かす学を教えた。謀るはそれを考えて達成すること、と上田さん。基本的なことを謀るのですか、と中村(典)さん。冉有は季氏の宰であったが、泰山での祭りを止めなかった。冉有は食（仕官）のために道を捨てた。そうではなくて止めることに本来の姿がある。そうなれるはずなのに、自分の利を優先することのなかでの孔子の発言であった、と高津君。この時代の自然環境はエジプトやイランのような所とは違う自然域がある。イランのように自然が厳しいところでは、目には目、歯には歯というようなことになる。中国ではがんばればなんとかなる自然環境。政治の中で限度ギリギリで戦っているようには見えない。余裕があり人間愛が感じられる、と中村(典)さん。農業収入悪化によって中国がつぶれるという感じはない、と稲垣君。その年悪くても、一年がんばれば何とかなるみたいな言葉の感じがある、と中村(典)さん。中国人は飢饉になってもたくましく生きる、と稲垣君。日本はもっと恵まれていて、農業を阻害する要素があるが、何とかなるのは日本。アメリカみたいなやり方をしていると、小麦、トウモロコシなどいずれしっぺ返しをうけて大変なことになる、自然におんぶにだっこされており、一旦おかしくなれば取り返しがつかなくなる、と中村(典)さん。京都大学の農学博士の上野教授は、イランなど小麦栽培は灌漑をして水が供給できる間はいいが、塩害を起こしはじめ塩を洗い流す水の量がなくなると一気に砂漠化して文明が滅びるが、水田は未だに持続性があり、今後も大丈夫とおっしゃっていた、と上田さん。そうなんです、このごろ自然農法にはまっています。耕すと休耕しないとダメですが自然農法は大丈夫です。どれだけ出来るか（大量収穫）に重きを置くと、すべてがダメになります。耕すことで沢山採れるのですが、限界点までゆくとダメになります。自然の力によれば、いつまでも出来ます。欲望を下げなければできないことですが。聖書の世界、エジプトやイランをみていると限界ギリギリのところまで行っている。日本とか中国には余裕がある。人間観においても余裕がある。自然のパラメーターをみて読まないといけない。それを抜いて読むと合わなくなる。学でなくて食をよく考えないと、つまり、ここでの反対のこと考えないとうまくゆかなくなる。小人的立場、食を謀ってゆくことが大事。それには欲望を下げてゆかないと出来ない。欲望を小さくしないで、天下国家を増す方向でやってゆくと限界に行き着きます。コペルニクス的転回をしないといけません。小人、家族の方が天下国家を考えている。食がダメになれば人間世界がダメになります。食が大事、命が大事、を考えなかったツケが来ている、と中村（典）さん。孔子の時代、春秋から戦国ですが、だんだんひどくなり老子、荘子の時、小国寡民、小さな共同体で他の共同体と関係を持たないという考え方が出てきた。実際そういうことを行ったかは別として、主張した人がいた、と成田君。無為自然、文明否定でしょう、と上田さん。小さな共同体内では、文明を否定しているのではない。他の共同体とは連携を図らない、足るを知るという考え方、と成田君。中村（典）さんの食のことですが、農を捨てるでなく、足るを知ること。食をはかるは、食べる物があるのに、もっと沢山自分のものにしたいと思うようになることがいけない。限界に来たときに、それを謀る人がいないことが問題。それは食を謀るではなく、道を謀ることが必要とぼくは思っている、と高津君。
本日は中村(典)さんの久方振りのブレイク。幼いときから飢餓について考えておられたようで、近年は経済成長、拡大再生産というものを放置すると限界に達し、一挙に崩れ去る危険を感じ、マイナス成長を軌道に乗せるというか、欲望を下げ、自然力に依拠し、持続可能なあり方に転換しなければいけないと強く思うようになられた。また、君子謀道不謀食と君子憂道不憂貧、耕也餒在其中矣と學也祿在其中矣、の対比の仕方は聖書のレベルと感じいっておられる。語のイメージとリフレインの響きが曲となって眼前に見え、耳の奥に聞こえておられるのでしょう。中国語は、謀道といった二字は据わりがよくそれに不をつけた三字の組み合わせ。中国語らしい言い方、と稲垣君。農は農、政治は政治、自分の懐を多くすることではない、と高津君。土を耕すには限度はある。しかし、学にはなんぼやっても限度はない、と中村(典)さん。閉塞感から逆転させると、何かが見えてくるみたいなことは危険。ここ十年ほど前から知識人にはそういう認識、例えばスローライフとか。確かにそうだけれども、孔子のような一貫したものがない。注目されると多くの人がﾀﾞﾀﾞﾀﾞｧとやってきて、そうでなくなると、また、スコンとやめる。農家は昔から、いい時にも悪いときにも一貫して土地を守ってこられた、ところがそこに押しかけたかと思うとパタッと来なくなる。閉塞したから逆転する、ではなく、筋を通して一貫してやっておればよいということを孔子は言っているのではない？と川那辺さん。この文章には永遠が感じられる。論語は宗教じゃないのに何故永遠が入るのでしょう。表現が反対になっている、貧より豊かがいいのですが、貧であっても、イメージとしてはそれで良い。神がないのに、永遠に入ってゆく。何かを通過したときに、はじめてなること。こういう風に言葉が集まってきて、はじめてそうなります。それも、こうしかならない、という並び方になる。そして、どっちからみても成り立つ。道からみても、貧からみても、それでも立っている。永遠に立っている感じがする。インドだったら仏教、中国にあってこの言葉、聖書はあの厳しい自然環境から出たもの、と中村（典）さん。論語は宗教ではないが永遠っぽい。孔子が信じたのは人間が作ったもの。永遠は想定されてはいない。なるべき永遠に向かって努力をしてゆく、と成田君。中庸じゃないか。中庸は集中。時間がたっても変わらない。人間が道を踏み外すと文明も滅びる、と稲垣君。こりゃもう、この文章で、中村(典)さんに一曲、作曲いただきたいもの、と上田さん。僕は中村(典)さんの小人に対するイメージが好きです。小人を君子と対比して悪いものとみるのではなく、小人には小人の生き方があり君子の行き方は違う。先先をみるような政治家が君子に求められる。一を貫くのが君子、前にも言ったのですがベートーベンは君子だと思います。当時の音楽にあわせて作曲をしていた有名な作曲家がおられたのでしょうが、彼は自らを貫いてゆかれ、それであるからこそ今でも人々が聞く、君子です、と高津君。シューベルトは千曲にも及ぶ歌を作曲され、未完成の交響曲もあるが、当時は、ソングライターくらいにしか見られず誰も彼をまともな作曲家とは見なしていなかった、いわば小人と言われた人です。逆にベートーベンは当時の作曲家なら100曲ぐらいの交響曲を作曲していたが9曲という凝縮したものにしてしまった。特に、耳が聞こえないで作曲するというのは大変なことで、聞こえる音を楽譜にするものですが、聞こえないところでやるとなると、コントラストに頼ることになります。二つを比較し、想定し、確かなものがあるかを確かめる、そういう独自の音楽づくりを余儀なくされました。シューマンは若い音楽家ブラームスを育てるのですが、精神障害があり自殺を図り、妻のクララをブラームスにとられます。これらの音楽家に共通するキーワードは・・・・「欠落」です。シューベルトには・・名誉・・、ベートーベンには・・愛・・、と中村(典)さん。時間が大幅に超過しました。
この余韻を受け来週は特別篇。陽貨篇、６）子張問仁於孔子孔子曰能行五者於天下為仁矣請問之曰恭�ｪ信敏惠恭則不侮�ｪ則得?信則人任焉敏則有功惠則足以使人です。これはまさに聖書の構成とおっしゃる中村（典）さんに塾頭をお願いします。さて、明日は藤井有鄰館見学です。

2009年5月3日藤井有鄰館。成田君のガイド。里仁篇の「�ｺ不孤必有鄰」からとられたもの。中国人の隣人の日本人となるか、日本人の隣人としての中国人か、徳があれば隣人。早速、第１室に「�ｺ不孤」の額あり。少々遅れて稲垣君が合流。二人のガイドという豪華キャスト。解説がなくば、なんのことやら分からないことも、へえーそんな風になっているとは、えっ、そんなことができるのですか。 これが稲垣君解説の拓本ですか、確かに石が劣化する前にこうしておけばくっきり残りますね・・・これが石経、古文、小篆、隷書の三文字で書かれているものです。司馬遷が史記を書いたのはどの書体ですかね？隷書じゃないですか。 これが成田君解説の薬研彫りですか、U字彫りとの違いなどは現物をみなければ分かりますまい。 この碑は墓の中に入れたものです。履歴みたいなものです。この頃もよく出土しています。石の上に朱で文字を記して、それを職人が彫る、薬研彫です。罫線が入ってますがこれも彫っています。

これは料理人ですね。え？棺と一緒に埋めた？あの世でも美味い物が食べられるように。にこにこしてこれは楽しそうだ。豚小屋なんかもありますよ、え、結構なことで・・・
鼎（てい）は何故足が三本なのですか？あ、四本もありますね。上が四角の鼎は四本、上が○の鼎は三本で十分安定します。
これが鼎、これが豆（高杯）、これが觚（酒杯）、これが爵（酒注ぎ）、酒器とありますがこれで飲んだのですか？酒を入れてお祭りするものです、当時の酒は薄いですからあまり酔うことはなかったでしょう。
これは、王義之の書をもとに、その文字を切り集め、皇帝の文書に用いる、今のコンピュータでいうところのフォント扱い、無い文字はというと、辺と旁を組み合わせて作る、サイズは拡大・縮小をしているそうだが、どうしたものか、気の遠くなる作業です。宋朝体はやわらかな感じだが明朝体は角っぽい。明代になると出版物が増え、版木作りには角っぽい書体が手っ取り早い。宋代は石経、美しく書かれたものを各自が写し取る、余裕があるから美しい書体が用いられる。
金印ではないですが、これは将軍の印、この印は彫りが簡便ですが、任命が頻繁に行われたために速成できるようにしていたんでしょう。まだ紙がない頃ですから、ローマ人が蝋で封印したみたいに押印したのでしょう。
これは乾隆帝の金印、これって一人で持てますか？押印するだけに職人がいりますね。傾けて押印しないようにするだけで技術がいりますね。
銭の真ん中に四角の穴が開いているのは、鋳型からはずした銭の縁の尖りをなくすため、銭を串刺しにして転がせ丸くするそうです。
カンニング下着、これじゃ微小で見えない。何で書いたのでしょう？筆？こんなにきっちり書けるのですか？試験の最中は独房みたいな狭い空間、入る時に持ち物検査はありますが、下着で着込めば分からない。辞書をもって大学受験をすれば受かるというものでもない。見つかると二度とは試験は受けられないですから・・・・
これが磬（けい）、これは乾隆帝の玉磬で上ものですが、孔子は石磬を叩いて、堅い音だねとからかわれた。
銅鏡は、磨きたては、本当に鏡の如く映るそうです。
この書は誰某が何某をして・・・・記憶の彼方ですが今度みればまた思い出すでしょう。1時過ぎから３時過ぎまで、足が棒になりました。

どこか坐れるところをと、以前に鄭さんの送別会をした近くの神宮道の「明日香」に入り、ビールで乾杯。ガイド二人からの耳寄りな話。レッドクリフの周瑜：梁朝偉（トニー・レオン）は香港俳優で普通語に難があり、孔明役を降りたそうで、金城武が孔明役に抜擢されたそうです。孔明の年代と重なり合って初々しいキャストとなったそうです。小喬：林志玲（リン・チーリン）は台湾のモデル出身で、やはり普通語に難があるそうです。孔明（諸葛亮）：金城武もお母さんが台湾人で台湾育ち。中国古典の英雄達、発音がしっかりしていないと迫力に欠けるため、いづれも声は吹き替えとの噂があるようです。関羽：巴森扎布（バーサンジャブ）はモンゴル族、実に国際的配役になっているようです。
今度は泉屋博古館、童君が一緒ならば、青銅器について説明いただけるのですが、ここをターゲットにして計画をいたしましょう。


2009年5月9日（土）　衛靈公　33〜34

a 　e　 o　 i 　u 　 ü i　 u 　 ü a 　e/o 主母音 i 　u/o

二重母音 iā(ya) uā(wa) āi āo iē(ye) uō(wo) üē (yue) ēi ōu 也　　　我　　　　曰 　　　ei　賊　欧

学而篇１の発音練習、個人別の好きな句の発音練習。本日は稲垣君お休みで成田君指導。二重母音の練習。主母音のe/oは本来eだが来る音によりoとなる。u/oも同様。東dong亜iaはまぎらわしいのでdong yaとなります。二重母音の組み合わせia は日本語のイヤではなく、唇の両端をしっかりせばめてyaとなる。ua は日本語のウワではなく、唇をしっかりとがらせてwaとなる。ai のiは唇の両端をしっかりせばめ発音する。主母音の方を長めに発音する。ie もイエじゃなくye、uoもウオじゃなくwo、i、uの唇の形に充分注意してください。そうすれば中国語らしくなります。それを意識して、全員で衛靈公篇の音読。
本日中村（典）さんも体調不良、塾頭も代打の切り札、成田君にお願い。

32）子の曰はく、知これに及べども、仁これを守ること能はざれば、これを得ると雖も必ずこれを失ふ。知これに及び、仁能くこれを守れども、莊以てこれに�@（のぞ）まざれば、則ち民敬せず。知これに及び、仁能くこれを守り、莊以てこれに�@めども、これを動かすに禮を以てせざるは未だ善ならず。
先生がいわれた。知、ここでは知力とかそういうこと、知が及んでいる、自分の知力の及ぶ範囲にあっても、それを仁が守る、持ち続けることが出来ねば、得たとしても失ってしまう。知が及び、仁で守ることができても、莊、ちょっと難しいが、荘厳の荘、ある種の厳しさ、威圧感、これはすごいと思わす畏敬の念を抱く。荘によって�@まなければ、敬、人に対する尊敬でなく仕事を大事にする、物事を一生懸命やる、ここでは人を尊敬するでいいが、知力及び、しかも仁で守り、荘によって�@まねば民は敬（うやま）わない。知力及び、しかも仁で守り、荘によって�@んだとしても、禮をもって動かさないと、またそれは善ではない。動かすには二説ある。古注は、その人の行動、行動するのに禮による。新注では、動かすのは民を動かす、仕事をさせる、公共工事とか軍に従わせるには禮がないと完全ではない。朱子は為政者が民をどう動かすか、使役させる心構え、古注は、君子の行動のあり方を言っている。皆さんどうですか、と成田君。これを読んで思い当たる人が一人二人、組織で命令していても禮も荘がなく、滅茶苦茶でダメ。そういう人が居たなあ、と安澤さん。どの段階までダメでした、と成田君。位だけ高かった。大ボスの権威で人を動かしており、そのボスの自慢話をして人を動かす、と安澤さん。知とは知識の多い少ないではなく、有能な部下を使えれば知といえますがね、と成田君。禮もなかった、威張ってばかりいたなあ・・・反対に備わっている人もいたが・・・と安澤さん。守とは、と大西さん。守るは、知がでて、仁がでている。知と仁の違い、知者は水、仁者は山を樂しむ。知者は動き、仁者は靜か。知者は樂、仁者は壽、雍也篇21）。知は自分が積極的に動き働く、仁は動かないが永続性があり、長持ちさせる。それがないと得れど失う、獲得したものを長く守る。ずっと失わずにいること、と成田君。之の守るの之を、地位とみているものがあるが、と大西さん。地位も一つ、何も書いていないので限定はできない、と成田君。仁を持たねばという意味にはならないのですね、と大西さん。仁は守る対象ではない、と成田君。荘とは、と安澤さん。日本語で言う厳（おごそ）かさ、と成田君。だらしない格好で外にでると嫁に・・・と安澤さん。どこに行って、何をするかによります、と成田君。知之に及ぶの之は、と大西さん。之は分からない。代名詞というのは前に出たものがあれば分かるが、ここでは形式的なもので、憲法で、「その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。」の之みたいなもので、無理に何かをあてはめることはない、と成田君。之を失うと言っているが之は何ですか、と大西さん。想定しているが、なにかとまでは言えない、と成田君。貝塚先生は位としている、と安澤さん。zhi(4声) ji(2声) zhi(1声) と聞けば知及之が浮かびますか、と安澤さん。論語のこの句を知っていれば浮かびますが、多くの中国人はピンとは来ないと思う、と高津君。前の条で、「學也祿在其中矣」とあり、その流れでは、弟子が學んで仕官をするというつながりがある。仕官をしたとすれば、その後は次にこうと禮に至るまでの道筋を示したもの、と上田さん。朱子は動かす対象を民としている。上の者が下の者を動かす、君主が家臣を動かす。「君臣を使ふに禮を以てし、臣君に事（つこうまつ）るに忠を以てす、八佾19)」、忠を禮としてもOK。こういうことは今日の民主主義の時代でも通用するのであろうか？孔子の時代は上下関係が想定されていますからね・・・麻生首相はどうですか？今の首相は権限が大きいですが、戦前の首相は同輩中の首席で、陸軍大臣などが統帥権を持ち出すと制御できなかったですからね・・・今の時代でも長い目でみれば成り立つのでは・・・之が限定されていないのですが、地位なら今の時代失うことはないのでは。人格とかそういうものを失うことはあるでしょうが。禮を以てしなくても、何かを失っているかどうかは、周りの人の信頼は失っているかもしれないが、現代ではそういうことはないのでは・・・偉い人に追従している人は、その人が居る間は、地位を失わないし、その人が居なくなれば引き継ぐ。他の色々なことはうしなっていｒのかもしれないが・・・と言葉が行き交う。金谷先生は、「智は（人民を治めるのに）十分であっても、仁徳で守れなければ、たとい（人民を）獲得してもきっと手放すようになる。」としておられる、と大西さん。それは朱子の説による。智が人民を治めるに及ぶは何のことかよく分からない。之を何かに置き換えることはむつかしい、と成田君。朱子は為政者の立場、古注は自らの行動とみているが、政治の世界におけるあり方を想定していることにはかわりない、と上田さん。孔子学園の中での弟子教育の理念、幅広く考えていたのでは、と安澤さん。之は同じものをあてはめることは難しい、ということですね、と高津君。位でも人民でも、どちらともとれる、と大西さん。最後に禮、禮でないと完全にならない。しかし、禮がなくともいいところまでいっている。「繪事後素曰禮後乎、八佾8)」と、子夏が絵の最後に素（白)で整える、禮で仕上げをするのですねと言って褒められた。禮で形がよくなる、と成田君。

34）子の曰はく、君子は小知す可からずして大受す可し。小人、大受す可からずして小知す可し。
先生がいわれた。君子は小知、小さい範囲で知覚することが出来ないが大きく受けることができる。小人は大きく受けることは出来ないが小さく知覚することができる。古注は、君子は、周りの人が小さい範囲で知ることは、出来ない。周りの人がちょっとしたことでは理解できないようなことを、君子が大きなものを治めることができる。小人は大きく受けることはできないが、小さい範囲で理解することはできる。新注は、小知は同じ。君子自身が大きく受けること、君子が仕事、大きな仕事を受ける事が出来る。小人は大きく受ける事ができないが、周りの人を小さな範囲では理解できる。文法的には両方が可能だが、皆さんはどうですか、と成田君。朱子は、小人は器量が狭くとも、取るに足らないものではないとしている。中村（典）さんがおっしゃっているが、小人という考え方も大切で、朱子も小人にも長けたものがあるとしている、と高津君。小知すべし、と言っている。小人にも少しは知るべきところがある、となる、と成田君。小人と女性は養いがたいともあるが、現代の考え方では、男は森を見、女は木を見る、という特徴があるとされる。一本一本も大事、全体も大事。君子、小人を対比するのではなく、小人を否定的存在とするのでなく、近い所に視点を置くことは必ずしもダメではない。君子は遠慮し、先先を見てゆく、顔回が一を聞いて十を知るみたいに、理解されにくいところがある。小人が圧倒的に多く、君子は少ない。両方ともバランスがあり必要、と高津君。孔子が教えるというのは君子を目指すことで、世界に小人が居てはいけないというものではない。前回にも言ったのですが、冨谷先生の「漢字の中国文化」では、句読点のない漢文を読める、理解できる人には、その役割があった。孔子は弟子に君子を目指して欲しかった。朱子は小知をどうみているのですか、と大西さん。小知は小さい範囲で理解することであるが、君子のことを小さく知ることでは理解は出来ない、君子の言動の一部をとらえて君子がどうのこうのといっても、君子をしりことができない。「君子細事に於ては未だ必ずしも觀られる可からずして、材�ｺ以て重きを任ぜらるるに足る。」としており、才能と徳が重い責任を負うことができる。朱子の理屈ははっきりしているのだが、文面からは意味がとりがたい。古注の方がすっきりする、と成田君。そんなことをいう意味があるのかな、と大西さん。小人はこまかい情報をおしえてくれるが、付き合っては物足らない。君子と付き合うと、具体的情報を教えてくれることはないが、得をした気分になる、と成田君。君子の方が善い事を言ってくれる、と大西さん。劉備は龐統（ほうとう）のことを信じなかった。県令に就いてから、酒ばかり飲んで何も仕事をしなかった。劉備は怒って張飛を派遣すると、龐統は百日分の事務を半日も経たないうちに片付け、こんなところに置いてゆく人物ではないとした、と高津君。君子に小知せよとは、論語の使い方からしてない。こまごまとした、どうでもよい事を知ることは出来ない。小人はどうでもいいことばかり得る、と成田君。知と受のとり方が難しい。こまごまからは分からないが大きなことは受けるとは、小知と大知なら分かりよいが、と大西さん。小知に対する大知ではなく受になる、孔子のこの考え方に共感できるは問題、と成田君。大受は大きく任す、と高津君。これは、堯とか舜の理想の治世、何もしない、舜は南面するだけだが、世の中はよく治まり民は喜んでいる。菅仲が桓公を補佐して覇者としたようなものとは異なる。実は、仕事の出来る人に適材適所で仕事を任せている。民は意識しないがその恩恵を受けている。受けるは天命を受ける、民の安寧をはかる命を受けること、大受は応用力とも理解できる。ところで君子と小人という対比は孔子以前からあったの？書経「無逸」に、「小人をみると、その父母が農事の勤労をすれど、その艱難を知らず、気ままでぶしつけで、わがままにも父母を侮り、『昔の人に教えてもらうことはない。』というがごときである。」とあり、君子の反とされ周初からある言葉。孔子の前の頃には子産や晏子など優れた大夫が国を運営するという時代を迎え、孔子の時には、家宰をつとめるような人間、陽貨とか公山弗擾、佛肸といった士階級の人間が政治を牛耳るという事態になっており、従来は小人とされた人間が政治舞台に現れている。そういう世の中にあって、孔子が君子、小人像を改めて描いているとも思われる。このあたりになると戦国時代的雰囲気が感じられるが？そうではなく、１〜１０篇は主流派により編纂されたもの、このあたりは、それから漏れていたもので地方や少数派から収録されたものでしょう。す可しは、するべきではなく、出来るという意味です。などと時間になりました。
来週は中村（典）さんが来られるようであれば塾頭をお願いします。陽貨篇６）子張問仁於孔子孔子曰能行五者於天下為仁矣請問之曰恭�ｪ信敏惠恭則不侮�ｪ則得?信則人任焉敏則有功惠則足以使人です。一揆は久方振りに安澤、大西、上田さんトリオ。本日最初のお客さんでした。


二重母音に注意して、学而篇１の発音練習。稲垣君がこれを抑揚をつけて朗じると、今気がつきましたが、それは東洋じゃなくて、西欧の音律です、と中村（典）さん、本日は体調不良のなか塾頭。早速、本日の特別篇に。

6）子張仁を孔子に問ふ。孔子の曰はく、能く五つの者を天下に行ふを仁と為す。之を請ひ問ふ。曰はく、恭、�ｪ、信、敏、惠、恭なれば則ち侮られず。�ｪなれば則ち?を得る。信なれば則ち人任す。敏なれば則ち功有り。惠なれば則ち以て人を使ふに足れり。
子張が仁のことを孔子に尋ねた。孔子が言われた。能く五つのことを世界に対して行うことが出来たら、仁となるでしょう。このことを更に問うと、言われるのは、恭、うやうやしいこと。�ｪ、おおらか、ひろいこと。信、まことのあること。敏、さといこと。惠、めぐむことですか？恭がよく分からないのですが、うやうやしくすれば侮られることはない。�ｪ、おおらかな心なら衆を得られ、信があれば、人が任せる。焉は何ですか？（於之と同じく、人ここに任すとなるが、強いて訳す必要はない、と稲垣君）。敏（さと）ければ、功が有る。惠があれば、英語ならbenefitですがそれがあれば、人を使うに足る・・・どういうことでしょう。これは科学的な態度と思うが、仁は最高のものでしょう。そう読んできた私の感じでは、それはそうなんだけれど、そういう風にゆくのか？どれか一つが欠ければうまくゆかない、五つのバランスが必要。恭が過ぎると卑屈、�ｪも愚か、たががはずれる。信も道義のために死ぬことになる。敏、俊敏はこまかく役に立つが小人的になる。信は多いと西郷さんみたいになる。惠はなんとなく沢山あればいいが、結果そうなればいいが、同時に同じくらいできないとダメ、「心の貧しきもの幸いである」を思い出す。その感じで行くとなんとなく何か憂いている方が高いものにつながる・・・高いものは低く降りる、逆にすると愛という表現になる。恭しいことはよいが、更に越えると、ここで恭しいを越えて、フランク、率直・・・心の貧しきの感じ、憂うるくらいのマイナスがあっていいのかも。人に信じられるくらいくらいだといいが、信のない人に近づかないないのがいい、憐れみがある。不信なところに熱意をもって入ってゆく・・・。はやいことは見えないこと。恵み深いも、そのまま正しく社会が巡っていればいいのですが、どのレベルならうまくゆくのか？同じレベルにあることを逆からみたことに対応する。反対からみればダメになるが全部充たしていれば・・・というか一度に全部出来たらいいのですが・・・愛という概念、欠けているものを充たす。丁度光と影のようなもの。どれもが素晴らしいこと、恭しい、寛（ゆた）か、信じる、機敏で人に対して恵深い、どれも幸いなこと、逆の方向から見れば、五つを充たしたとしても、最大限となるのか？仁が最大限。墨子を読んだら、非常によく分かるかな、と思うと、二代目、三代目のところでは義の行動原理が立ってしまってダメになる、と中村（典）さん。敏は機敏でさといこと。機を見るに敏、前もって察知して動くから、素早い、さとい、だから機敏。天下にが有ると無いとでは意味が異なる。無ければ自分の道徳、天下とあるからそれでは終わらない、と稲垣君。Effectiveで全体が動くこと。仁は二者、一対一。五者は天下で封建制が発生する、一対全で起こる。なので宗教ではない、逆方向にブレイクして倒すようであるが、グルグル回って絶対軸を形成しない、と中村（典）さん。中国の場合は、現実世界がすべて、先祖を祭っても現実的。亡くなった人があの世で使うのみでなく、先祖が生きている我々を守る、と稲垣君。中国へ行って初めてみたのですが、四方への禮、跪くのを見ると全然違う。中国は大きくて大変。封建制を生み出している。全体を司る仁をたてており、XXXX。墨子は逆の方向からみている。義のために死ぬので二代目、三代目が死んでいる、と中村（典）さん。義の為に死ぬ。忠君は日本では主君のために死ぬということになるが、中国的ではない、と稲垣君。管子XXXXX義和団などでは義で死んでいるのでは。陽明学は理念と行動が合致した時に生じるのが、国とか全体が動くとそれ以外の方法がなくなるのか、なしくずしになる、と中村(典)さん。義のために死ぬ、忠臣蔵みたいな倫理感とは異なる。儒教、孔子の世界では死んではいけない、と稲垣君。例外として墨子みたいな形で出てくる、と中村(典)さん。墨子が例外か、孔子が例外か、と稲垣君。中村(典)さんの封建制のイメージが分からない。普通は周が行った政治制度を封建制というのですが、そうじゃなくて、皇帝が中心の帝国みたいなものをイメージしておられるのですか？と上田さん。というより、奴隷制から封建制、近代へという社会変革のことを言っておられるのでしょう、そこからどこへゆくかは別として、と成田君。兵馬俑のように色々有名な皇帝の墓を見ると、15歳くらで場所を決め、ただそればかりを一生懸命している。何か別のところにエネルギーを使わないといけない。これはNASAです。NASAのScienceは必要だけれどもXXXXがすごく長く、実際見てみると分からないすごい高いレベルだと思ったのですがXXXであると止められない、と中村(典)さん。天の下は現実社会。全能の紙が治める天の下ではない。何故、子張なのか？何故、仁を問うのか？孔子があげる仁、孔子が言う場合現実的な対人道徳である。自己完結でなく、人が居て成り立つ。恭しくすれば人に侮られな、�ｪ容だと衆を得る。約束を守ると人が信頼して仕事を任す。はしこければ誰かの為に人に評価される。暖かみがあれば、そのことで、その恵により、人を使うことが出来る。仁の現実的効能。子張に足りないことを言っている、と稲垣君。モラルがexterior外に溢れている倫理、と中村(典)さん。仁とは何かでなく、どうすればよいかを示す、子張の行動に足りないことを言っているとはそうだろう。子張は孔子より48歳若い。孔子が衛霊公6)で成田君が発想したことだが、子張に車の運転に例えて行いに集中することを教えたことがあった。天下において、仁をなすという孔子の返答は顔淵に比され、高い評価を与えるようである、と上田さん。子張は若くて御者をしていたのだろう。子夏と比べて、「過ぎたるは及ばざる如し」と評された。過ぎるも及ばすと同じくダメ。そんなに高い評価すべきとは思われない。ここで子曰でなく孔子曰となるのは、この句は時代が下り、子張も子夏や有子や曾子などと子と称される時代に編纂されたものであり、子をはっきりするため孔子としたと考えられる、と成田君。恭、�ｪ、信、敏、惠は順序を逆にすると意味がなくなる。人を使うことからすれば、まず恭しくすることから�ｪ、信、敏となり、それらがあって、惠にきてはじめて出来る。ここで惠が必要。惠から始めても恵み深いだけでは意味が無い。並び方がすごく上手くできている。それが全部出来るかといえば、とても難しい。順番がすごくいい。天下に行うことは人を使うこと、そのためにはまず、恭しくして人が侮らず、寛大な心で人が集まり、信じることで人を任す。天下を行うはそれがあって出来る。前もって察知するも必要。それがないと天下を動かすことは出来ない。恵むは最高レベル、すべて備わって初めて他人へ恩恵を与えることができる。これは今の世でも通じる、と川那辺さん。この言葉を使って言いたいのは人を従わせること、と稲垣君。天下を行うと言うのは、人を使うということだと思って、と川那辺さん。この言葉を使って言いたいのは人を従わせること、と稲垣君。天下とあるから、人を使うと言いたかった、と川那辺さん。くだけて言えば、課長島耕作。平社員に侮られたり、色々あるが、課長を任せられ、功あって部長、だんだん上がり社長になるが、人を使うにはだんだん上のレベルが必要となる、自己完結でなく会社を運営するにはレベルが上がるみたいなこと、と稲垣君。キリスト教では逆で、恵から入り、最後に恭しいに至る。入り口は恵で、出口が違っている、と中村（典）さん。キリスト教の恵は、宗教的で教会で行われるが、ここでは個人のこと、と高津君。キリスト教徒ではないのですが、個人が神と対話する認識においては、一対一、一対自分ということはあるんじゃないですか、と中村(典)さん。キリスト教では徳のある人が社会を感化する、堯や舜がそういうことなんですが、そういうことはありますか、と稲垣君。キリスト教の聖者みたいなものがそういう役割を果たしたのかもしれないが、基本的には人を罪深いものとし、それを自覚し、それを救ってくれるキリストを信じる方向じゃないですか、だから孔子とは違うでしょう、と上田さん。日本の仏教では親鸞、人の罪をすべて背負って十字架に架けられたのがキリストですね、と中村(典)さん。中村(典)さんの場合、宇宙の音律が調和している、ギリシアのピュタゴラスのようなイメージ、仁というのが中心にあって、恭、�ｪ、信、敏、惠が各々の軌道で回転し、それぞれが音符で和音を作ったり、不協和音だったりみたいなイメージがあるのですか、中国人も天体運行と音律とを一体のものとみたりしてますね、と上田さん。道教とか韓国旗で陰陽が回転しているものがありますね、と中村(典)さん。仁が北極星みたいに中心にあり、恭星、�ｪ星、信星、敏星、惠星が運行しているような、仁からそれぞれ恭、�ｪ、信、敏、惠に連結があり、その往来があるような、皆さんの頭にそれぞれのイメージが描かれていたようです。能行五者於天下為仁、は天下を治めるですか、と高津君。当時の社会で、この五つが実践できれば、仁者である。ここに天下を持って来る必要はない、と成田君。自分を治めて天下に出る、子張は天下に出る手前までいっていた、と高津君。子張の年齢からすれば、そこまでは厳しいのじゃないですか。天下はその行動範囲を指定している、一家、一国よりは広い、と成田君。侮られず、衆を得、人に任され、功有りて、人を使ふに足るというのが仁を為すというのは、つながりが悪く、しっくりしない。やっぱり、子張に欠けるものを言うのだろう。十篇までとは落ちるかな、と上田さん。前回も言いましたが、主流派ではないところで、こんないいものがありますと取り上げられたのでしょう、と成田君。衛霊公33)で仁であっても禮を以てせざるは未だ善からず、こっちの方が高いのか、と大西さん。そういうことより、これは禮で整える、仕上げること、と成田君。恭、�ｪ、信、敏、惠であり、禮が入っていない、と大西さん。恭、�ｪ、信、敏、惠は形容詞的で禮に対応していない、禮は行うことに対するもの、行いを仕上げる、と成田君。


2009年5月23日（土）　衛霊公　35〜36
二重母音の復習、それに留意して、学而篇１の発音練習。全員で衛霊公篇を音読。中国語をしゃべると自然口の動きも大きくなるし、声も大きくなる、そういう風でないと中国語にならない、と高津君。豚インフルエンザで学校が休校、静かになりました、と中村(典)さん。本日の塾頭は高津君。

35) 子の曰はく、民の仁に於けるや水火より甚し。水火は吾蹈みて死する者を見る。未だ仁を蹈みて死する者を見ず。
先生がいわれた。人民にとって仁徳が必要なことは、水や火よりも甚だしい。それなのに水や火には、わたしたちは踏み込んで死ぬ人を見るが、仁に踏み込んで死んだ人はまだ見たことが無い、と金谷先生は書いておられる。朱子は水にしても、火にしても生きるのに必要。仁もそう。水と火は、自分が居て、外にある、仁は心の中、身体のうちにある。水や火がないと身体を害することに・・・（水や火が無くて、生活が成り立たなくても身体をこわす程度ですむ、ということです、と成田君）・・仁がないと心を失う、仁は水や火より甚だしい・・・・（これは何のことか分からない、と中村(典)さん。仁は、水や火よりももっと、つまり一日も欠かすことが出来ないもの、と成田君）・・・要は、仁の方が上・・・（水や火に踏み込んで死ぬ者、仁に踏み込んで死なないとはどういう意味、と中村(典)さん。）・・・水や火は、あるときには人は誤まったりすることはあるが、仁に踏み込んでも誤まることはない。普通に考えると、水の中では深い所で溺れたり、火の中ではやけどをしたりして亡くなることはある。仁に踏み込むは、一般生活の中で死ぬことはない。いつもは君子を問うが、ここでは民ときている、と高津君。金谷先生の訳をみていても分からない。先週出ていて分かったことは、死ぬことはダメ、死なないようにするのが中国、日本の古い時代の義は、自分を滅する方向、これは生きる方向。盧武鉉（ノ・ムヒョン）前大統領が自殺された。死ぬは負けるとならないのが日本・・・と中村(典)さん。死なないという訳ではない。士というのは知識人、為政者側にあるのが士。民は治められる側。士が死ぬのはOK、民は普通に生きており死ぬのはいや、と成田君。仁に踏み込んで死なないとは、仁をもらってそれを踏みにじる、好意でもらったものを仇にうるとしても、その人が仁である以上それをもって恨まれることはない、踏み込まれた人が踏み込んで殺すということはないということでは、と高津君。仁を踏むは、踏みにじるではなく、行為に及ぶこと、水の中、川で死ぬ、火事で死ぬ、仁に飛び込んで死んだものはない。朱子は前後のつながりに断絶がある。仁は一日も欠かせないが水や火は一日なくてもよい。仁･水･火の三者は民が必要とするが仁が最も大事、butでつながる、と稲垣君。朱子の注だけ読めば分かるが、原文と比較するとわからない。民にとっての仁は、民にとっての水火より程度が上、と成田君。仁をそこまで真剣に考えたものはいない、と稲垣君。水火に飛び込んで死んだ人はいるが、仁に飛び込んで死んだ人はいない、これは、韶と武の対比。韶は美を盡し又善を盡すなり。武は美を盡すも未だ善を盡さざるなり（八佾25）。水や火は生活に役立つが時として人を死に至らしめる、仁は大変役に立ち、人を害する所が全く無い、民に対する利益、施すところが多い、と成田君。人間が動物と大差のないころ、水と火は人の統御できるものでなく、洪水や火災の被害に苦しんできた。試行錯誤、苦心に苦心を重ねて、聖人が現れ、治水を行ひ、発火具や竈を工夫し、生活に生かす方法を見出した。しかし、油断すれば何時命を落としても不思議は無い。人間も獣と大差なく、縄張りを侵すものとは殺しあった。しかし、聖人が現れ、殺したものには死を、傷つけたものには傷を、盗んだものには弁済をなど掟を定め、社会生活を営むことをはじめ、お互いが安寧に暮らすことをはかった。これが仁のはじまりである、これなくして無秩序、弱肉強食の世界に戻れば、人は一瞬たりとて安らかに暮らすことはできない。そこに踏み込んで命を落とすことはないものであるが、小知では仁をなすと、馬鹿にされたり、利を失ったり、命を落としかねないと恐れるが、そんなものではない、と上田さん。伯夷、叔斉は仁を求めて仁を得た、蹈仁ではない、と大西さん。民が仁を受ける、顔淵篇7)に、去兵、去食、民無信不立とある。上に立つ人は、民に信頼されないといけないし、自分が模範とならないと民はついてこない。顔淵篇17)で季康子は、政を孔子に問うが、孔子は、「政は正なり。子帥（ひき）いるに正を以てすれば、孰か敢へて正しからざる。」民が為政者を信じるかどうか一番重要としている。蹈は為政者となる人は仁政をもって行えば、死ぬことはない。上から与えてくれる、仁をもらっているという感覚がぼくにはある、と高津君。民にとって仁は大切は皆共通するところ。水と火で死ぬも一緒。仁を蹈んで死んだものはない。民の中でそういう人はいない。仁をそこまで民に与えた為政者はいない。死ぬことはあるかもしれないが、そこまでなっていない。仁を蹈んで死ぬことはない、と稲垣君。義に死ぬというのは日本では義士（赤穂義士：忠臣蔵）という言葉があるくらいで一般的であるが、「仁に死す」というのは聞かない。仁というもの当然義が含まれているのではないか？ここではどうして義が出てこないのか？仁は義を越えているのか？民は義を理解することはできない、民は論語の対象にはいらない。それは士の分野のものか？義は正義ではなく、あれこれ考える以前に正しいと分かっているのが義ではなかったのか？人に義なくしてどうして生きてゆくのか？民における義とは、民に貴族を殺させるような特別な役割を負わせる場合には義が成立するが、通常は民の間、親兄弟の間では「信」となる。士は己を知る者のために死ぬ、婦人は好いてくれる人に化粧をする。自分の価値を知ってくれる者に命を捧げる。化粧も命がけ。仁と義と信。仁は最高徳目か？次元が違う。義は君臣関係の中で大きな役割を持った・・・収拾がつかなくなりました。

36)子の曰はく、仁に當りては師に讓らず。
先生がいわれた。仁徳を行うに当たっては、先生にも遠慮はいらない、と金谷先生はしておられる、と高津君。仁徳はどうかな、と稲垣君。公冶長篇3)で、子賤を君子とし、魯に君子なしとすれば、子賤が君子だとしている。師は見本となる者がいる、その見本となる者に対して、弟子たちもそれを越える、同じより越える意気込みをいうが、ここはやっぱり中村先生に言っていただくのがいい、と高津君。私の亡くなった先生がしょっちゅう言っておられた。師を必ず上回らねばいけない。そうすると熱が生まれ、より良くなり、更に良くなる。上のパート、下のパート、上のパートをがしっともって上がる。沢山もってゆきなさい・・・そういうところが好き、譲らなくてよい、仁は更に素晴らしい概念。もらったものよりもっとよいもの、中村（典）さん。音楽の世界でもらった概念とは、と成田君。オーケストラにはトップ、コンサートマスターがいるが、年齢に関係なく一番出来る人がつとめる。物事を変えることができる。若い人が一番に座っていることがあるが、それが音楽の世界。オーケストラでさえ、一流のプレーヤーは舞台にたち、出会った人によって、世の中の色が変わる。チームプレーヤーよりも一人で上回ることがあり、そういう人も、分け隔てなく入ってゆく、一人でやる人は一人で、一緒にやる人はオーケストラに入ってやる。人に共有してもらうだけのエネルギーがあれば、それが生かされてゆく、と中村(典)さん。そういう人が居ると、実際どういうことになりますか、と高津君。ソリストが一人居ると、全体の動きより上回っておらねばならないし、オーケストラの方も、その人に、もっとその人らしいことをやらせてあげることになる。孔子の場合、出来れば政治家に、出来なければシナリオを書くことに。この孔子の一言にはわくわくさせるものがある、と中村(典)さん。ぼくは、恐れ慄く方、と成田君。どういうことですか、と中村（典）さん。どのタイミングに譲らないと判断するか。仁に当たってとあり、その時だけ譲らない、普通は師に対しては譲る、仁の場合に限って譲らない、その選択を今求められているとは仁に対する理解が出来ていることが前提であり、その時が分かってその時にできるかは緊張、目に見えて分かるだろうか、と成田君。それは自分で判断しないと、と大西さん。師となっているところがポイント、と稲垣君。仁に関して、師を凌駕することがあってもやってよい、ですから、と成田君。朱子は、譲る譲らぬがポイントでなく、仁を行うのを己の任務とみている。荻生徂徠は任務じゃなくて民を安んじる政治を行うべしとしている。師は孔子とすれば、自分に遠慮せずに仁を行いなさいとなるが、稲垣君が言うように師がポイント。孔子には特定の師はなかったとされ、師として誰に譲らなかったのか、と上田さん。周公、と稲垣君。仁を行うべきときには、自分が率先してやるべきことを言っている。周公は疑われたときも成王をたてた。孔子も補佐する役割、そういう意味で師にしていいのではないか、と高津君。孔子には常の師はない。それがこの条にあらわれている。だから、色々なことを師とすることが出来た。音楽の師も何人かでてくる。禮樂に詳しい人は師。その人の話を聞くが、仁に照らして、とる、とらない所を選ぶ、そういう態度。常の師はないが、時々の師があった。孔子が子路や子貢の先生というような関係ではなかった、と成田君。師は孔子とか周公とか限定されたものではないと私も思う、と大西さん。仁は心の中、音楽は文質の文、師から受け取ることができる。孔子は、之が仁、とは言わない。自分の心の中での仁。学問は受けとることができるが、学問以外のことで、行いとしてあり、後に誰かが評価するかも分からない。先生も教えられないし、弟子もつかみどころがない、むつかしいもの、と高津君。先生が仁を与えるより、弟子の中の仁を発見し、引き出し、教える。音楽でいえば、心の中の感情を音にする。それを教えてくれるのは先生。技術的なことはどうですか？と成田君。技術は後から来る人の方が上手い。オリンピックでもそうでしょう、テクニックの方は若い人の方が上。技量は上がるが、音楽は技量だけではゆかず、音楽にも社会があり、チームとなってやるときに、メランジュされ、また次につながる。年齢の低い人を育ててゆく、その人には、人を納得させる何かが必要ですが、と中村さん。時間となりました、来週の塾頭は大西さんにお願いします。6月13日(土)は中村先生のコンサートと重なりますので、6月11日(木)と変更致します。
一揆はインフルエンザの影響か閑散としておりました。幕末官軍が上野を攻めたとき、福沢諭吉は講義を止めなかった。京大はインフルエンザで軒並み休校するなか、講義を続けている。読書会も止めず、飲も止めず。大概ポイントは後ろにあります。


2009年5月28日（木）　衛霊公　37〜40
学而篇を稲垣、成田両君について上田さん音読。堯曰篇を稲垣、成田両君音読、本日の塾頭大西さん到着。

37) 子の曰はく、君子は貞（てい）にして諒（りょう）ならず。
後藤点の｜は音読みをするという指示。先生がいわれた。君子は正しいけれど馬鹿正直ではない、とあるが、貞とは何か、諒とは何か？その言葉の意味が分からない。諒はいい意味なのか、そうでないのか？と大西さん。憲問篇18)に管仲が「豈に匹夫匹婦の諒を為すや」とあり、朱子は諒を小信とし、ここでは、「是非を擇ばずして信を必とす」、良いものを考えず、なんでもかんでも信じる、馬鹿正直より無知蒙昧、と稲垣君。無知蒙昧では無茶、善悪を考えずどこまでも押し通す、と書いてある、と大西さん。やみくもにする、と稲垣君。インターネットでは、まこと、道理の正しいこと、もっともだとする、是非にこだわらないとあるが、と大西さん。話がでてくるのは、管仲が前に仕えていた殿様が政争に敗れ、新しい殿様に鞍替えして、桓公を盛り立てて善い政治をした。前の殿様と殉死しなかったことを弟子が咎めたとき、孔子は、例えとして、その辺りの夫婦が契りをたてていたので、溝?、どぶ川で經（くび）れる、首をくくって死ぬ、そのような諒をやみくもにやることとは異なる、としたと成田君。管仲が微（な）かりせば、吾其れ髮（はつ）を被（こうむ）り衽（じん）を左にせむ。夷狄の俗に染まらず今日中華の俗にあるのは管仲のおかげ、と孔子はした、と稲垣君。前段は大きな話だが、何故後段で匹夫匹婦がでてくるのか、と大西さん。善、信のために死ぬ。死に時はどこなのかに関連してくる。管仲は子貢が言うような一般的倫理感に従わなかった。それをいいかを聞くと、それはよい。彼のおかげで中国は救われた、と稲垣君。男女が溝で首をくくるとはどういう意味かを聞いているのだが、と大西さん。諒は何からくるかだが・・・と稲垣君。諒解の諒、と成田君。辞書に偽りのない真実とあるがどういうこと、と中村(典)さん。それは親切に説明しているつもりですが、偽りのある真実はないですから、それはない。文脈によって諒の意味が変わる。一段低く孔子はみている。もともと諒は悪い意味ではない。荻生徂徠は諒は人から信じられようとする、世間の人にそういう人と認められるように行動すること、貞は自分の「内にある変わらないもの」、世間がどう言おうと自分が善いと思うことをやる、世間では季氏が泰山で祭りをするのをよしとしても、これに反対するみたいなこと、と上田さん。誰かが居て、その人との関係からみる。貞は自分の信じているよりは、正しい状態にあること。易の言葉、易の乾の卦、元亨利貞。元（おお）いに亨（とお）りて貞（ただ）しきに利（よ）ろし。易の貞は理想的な状態、と稲垣君。貞は正しい、君子は最高権力者。君子が決める正しさは、その中にある。そこにはずれる・・・諒はそこに合わせる、と中村（典）さん。易は甲骨文字から見直す動きがある。貞は、元々占う意味、占うに利あり、占いをすれば善くなる、では易の根幹がひっくり返る。貞は貞操、貞潔、日本人の名前では貞子（さだこ）。定めて、固定されていて、動きにくい。不変性がある。変わらない操、変わらない潔さ、諒より次元が上で、動かない。諒は多分、気持ち、約束したからそのとおりにする。それを敢て殺して上の見地から大局を見る。管仲は、本来は仕えていた殿様と心中したい気持ちがあったが、新しい秩序ある社会を作るために、気持ちを殺して仕えた、と成田君。諒は同情、シンパシー、相手の気持ちに従うと思っていた。中国語で請原諒は、ごめんなさい、勘弁してください、と稲垣君。原はもともと源でもあり、さかのぼるみたいな、と高津君。相互の理解を言う、気持ちを含んでいる、と稲垣君。人間相互の共感を含む、と成田君。これはいい条と思う。現実では、貞と諒を間違うことがある。貞ではなく、諒に行ってしまうことがある。人間はこの間で揺らいでいる。思っていても、その局面では原則を貫けない。それが諒であると気付かないと、えらいことになる。そんなことで死んでしまうなんてみたいなもの、と大西さん。諒がみえないと、貞もみえない。一方だけでは分からない、両方よくみてやらないと、と稲垣君。貞は朱子の注に固いものとあるが、固いものではない、と大西さん。操は、辞書にどうでています、と稲垣君。志を変えない、精神的に立派なこと、女の人の貞操、手先であやつる、たぐりよせて、琴の曲ともあります、と中村(典)さん。節操の節も同じ意味、竹で筋が通っている、と稲垣君。論語には操は出てこない、と成田君。

38) 子の曰はく、君に事（つこうまつ）るに、其の事を敬して、其の食を後にす。
先生がいわれた、主君に仕える、何よりも仕えることを慎重にして、俸禄を後にする、と大西さん。管仲が意識されている、と稲垣君。32)に、「君子は道を謀りて食を謀らず。」とあったがこれと一緒と、大西さん。こういう公務員だとうれしい。昼食の前に、とりあえず食べず、書類を作ってくれればいい、と中村（典）さん。食は給料のことです、と成田君。周公は食事の最中に客人があると、飯を吐き出して応接したという、と稲垣君。北の方は米の飯じゃないから飲み込めないので吐き出した方が速かった。ここは現代風にいえば、面接で仕事の内容を先に聞くか、給料の方を先に聞くかの差、仕事の内容から聞きなさいということ、と成田君。高度経済成長時代の人はそうだったでしょうが、と稲垣君。やりたいことをやるというのは今的な感じ、やりたいことはお金にかかわらず、買って出る、と中村（典）さん。就職難のなかの貧乏学生にはそんなことは言ってられません、と稲垣君。「先難而後獲」　「先事後得」　「先行其言而後从之」と白板に書き込む高津君。君に仕える心得。君は仕事に相応しい人材を登用するのがその役目。期待された仕事をやり遂げることにより、更に責任の重い仕事が回ってくる。その位に応じて俸禄が決まる、と上田さん。ここまでやればこれくらいもらえる。得るために何かをする、でなく何かをすることでついてくる。どれを最終目的に置くかで変わってくる、と高津君。この篇32)に「君子は道を憂え貧を憂えず。」とある、と大西さん。学問をしていて、まだ政治までに時間がかかる弟子が対象、ここでは、そういう能力を持っている人向け、と成田君。

39) 子の曰はく、教有りて類無し。
先生がいわれた、教育による違いはあるが、(生まれつきの)類別はない。誰でも教育によって立派になる。吉川先生は、陽貨篇「性は相近し。習って相遠し。」、性は人間が先天的な性質で、あまり個人差はなく、相互に似通ったもの、習は習慣で、後天的に習うもので種種の差ができ、お互い遠いものとなる、とされ、これと関連する、と大西さん。ここは次と関連がある、一緒にやりましょう、と稲垣君。

40) 子の曰はく、道同じからざれば、相い為に謀らず。
先生がいわれた。志す道が同じでなければ、互いに相談し合わない。これは上と同じですか、違うんでは？と大西さん。この二つは共通の問題を抱えている。教え有って類がない。道が同じじゃない人でも、教えは類がないのか？孔子は類があるとなる。朱子の解釈では、人間の性質は、教化により善導できるとするが、では、道が同じでないときは教化しないのか？と稲垣君。教化しない。宗教じゃないので、宗教みたいな熱い感じじゃない、と中村(典)さん。教とは何を教えるのか。人を教えるを教化、孔子が夷狄の国に行っても教化できるとあるが、教化の力を信じているが、為政者として一つの方向に統一するかというと、長沮（ちょうそ）、桀溺（けつでき）など、進む道が違うときっぱり分けている。陽貨篇「性は相近し。習って相遠し。」同じような本質でも瞬間により差異がでてくる。習慣により埋めがたい差がでてくる。「正しい道なら平和が共有できる」みたいな言い方はしない、と稲垣君。有教無類は、話が通じない郷「互郷」の童子が述而篇28）にでているが、この童子が教えを求めて来たとき、門人が困惑するが、孔子は学ぼうとする者に、どうして教えないことがあろう、「どうして類にこだわるのか、それは教えようとしないからだ。」といふ強い思いがある。道不同不相為謀は季氏の支配を廃すということでは陽貨と一緒の方向で、誘われたのをこの場合は断ったが、公山弗擾（こうざんふじょ：陽貨篇5）に誘われたときは、自らの力を発揮すれば、周公の政治を行うことが出来るのではないかと思い、佛肸（ひつきつ：陽貨篇7）に召されると、じっとしておれない気持ちになったことがあった。子路はこれに反対した、直感的に孔子は魯公の政治の復興、彼らは下克上でその後の政治の方向が合致しないことを見抜いていたが、孔子にはそれが見えていなかったという苦い経験がある、と上田さん。後段は孔子と同じ身分の人、前段は人民が対象、と稲垣君。道というのは為政者、士大夫側の概念、教や類は民の側の概念。民は道を考えなくてよい、命を永らえる方法を教える。士の側はそうではなく、道を追求しないといけない。道は一つではなく、色々な道が有り、道が違えばお互い教え合うことができない。長沮・桀溺のような隠者は士であるが、孔子とは道が違い、交流が出来ない。互いに参考とすることができない。孔子はあいつ等は別とかいうわけではない。禮を尽くして子路を遣わして話をしようとしているが、彼らは会おうとしなかった。信念に違いがある。これも難しいこと。同篇10）に「其の大夫の賢なる者に事（つか）え、其の士の仁なる者を友とす。」とあった。道とか方向性が違うと、自分の心が揺らぐ。考えの違う人と一緒に仕事をすれば、ズレてゆく、と稲垣君。人を区別する、一緒に謀れないとしても、その人から学べないことはない。拒絶するのではないが、子罕篇29）に共に学ぶことが出来ても、共に道を行くことができるとは限らない。共に道を行くことができても、共に立つことができるとは限らない。共に立つことが出来ても、共に權（はか）ることは出来ないとあったが、その人との協力を断つことではない。有教無類は、上下関係にあるが、こちらは横のつながりでみている、と高津君。有教無類は素晴らしい言葉、宗教的じゃないですか、中村(典)さん、どうですか、と大西さん。ガンジーみたい。これを言うと、当時の社会では立つとなる。志や道が今より、ぐさぐさでなく、志す道の感じは･･･相い謀らずはよく分かりませんが・・・と中村(典)さん。今は謀略の謀ですが、そういうことではなく、もっとニュートラルで、おおきな問題を考えるようなこと、と稲垣君。参謀の謀、と高津君。三人行けば必ず師ありというのもある、と声がかかる。道が違えば相談できない、相談したらいいのでは、と中村(典)さん。「相い為に謀らず。」はどうしてそうなるのか分からない、有教無類としているのに、えらい違いがある、と大西さん。埋めがたいものがあることを物語っている、と稲垣君。じゃそれでいいのか？道が違えば、相談できない、で事が足りるのか？ならいいが現実世界ではそうもゆかないでしょう、話し合いをしなくていいのですか？しかし、儒家と道家、仏教とキリスト教などなど、相い為に謀ることができていますか？できるんですか？時間となりました。
今日の一揆は盛況。稲垣、大西、上田トリオ。終電を逃しました。


2009年6月6日（土）　衛霊公　41〜42 季氏篇１
学而篇1の発音練習続行。成田君の珍しいスーツ姿。表姐結婚、ん、何のこと。哥gē（兄xiōng）、弟dì、姐jiě、妹mèiがあるが父方と母方で言い方が異なる。父方は堂táng、母方は表biăoと厳格に分かれる。中国では結婚しても女性が男性の姓に変わるということはない。中国で、日本人夫婦が同姓で申告すると、女性の姓が無い、記入して下さいとなるという。結婚すると男性方の姓になると説明しても、そんなおかしなことはない、と分かってもらえないそうである。おじいさんでも父方は祖父、祖母だが母方は外祖父、外祖母。孫でも父方は孫子、孫女、母方は外孫子、外孫女。内か外かの区別、堂は内、表は外ということ。ただ堂哥táng gēとは言わずに、堂兄táng xiōngとなる、と成田君。本日の塾頭は川那辺さん。

41) 子の曰はく、辭（ことば）は達してやむ。
短かすぎてこれだけでは分からない。辭は話し言葉、書き言葉？達するは、すらすら言葉が出る、幅広く通用する。達するのみ、達してやむはどう読むの？孔子が言うには、言葉というものはすらすら分かりよいのがよい、では味も素っ気も無い。思い出したのは巧言令色、話し言葉、書き言葉でもそうだが、妙に飾りたてる、白々しい言葉を言っても伝わらない、読む方が、そういう言葉に惑わされることはないように・・・今までの孔子と弟子との問答からすると、ウイットに富んだり、ブラックユーモアもあり、弟子の性格に応じて問答が進行する。話し言葉が達するのは飾り立てるテクニックでなく、相手にものの本質を伝えることが大切、と川那辺さん。達而巳矣のところをどう書いています、と成田君。達するのみと書いてある、と川那辺さん。普通は而巳矣は〜のみとなるが、後藤点は朱子に基づいており、朱子は「辭は意を達するを取りて止む。富麗を以て工と爲さず。」を反映している。達してやむ、達するのみ、でもどっちでも意味は一緒。辭は書く文章もあるが、口で言う言葉が普通の理解。書き言葉は普通は、書、文。達することは到達すること、そこまで行き着くこと、達成、達人、達人は奥義まで達している人のこと、と成田君。上田さんどうですか、と川那辺さん。辭は達するのみ、とは辭が達していないことをいう。美辞麗句より率直に言いなさいという風にされるが率直であればいいということを孔子が言っているわけではない。左伝に仲尼（孔子）の言葉として記されているものがあるが、要は、心に思うこと（志）があっても言葉にしないと伝わらない、言葉にしたとしても、相手がそれをちゃんと理解できるよう文でもって整えられていなければ、その人にも伝わらないし、それから先の人、遠くまで伝わることはない、大概曲がって伝わり真意と逆になったりする。相手に分かるように言わねば達しない、ここでは伝える側の配慮、次の条では聞く側のあり方をいう、と上田さん。言ったことがそのとおりにならない、言葉は対面している先を見込んで言うことはない、こういう時には、上に立つべき人、影響力の大きいことを話すから、対面する先まで考える必要がある。尾ひれ葉ひれの付くことのない言葉をしゃべるのは難しい。普通は、言葉足らず、そうでなければ言葉巧みで饒舌になる、大西さんどうですか？と川那辺さん。雍也篇16)「質、文に勝れば則ち野、文、質に勝れば則ち史、文質、彬彬として然る後に君子。」を引いて、吉川先生が言っておられるが、言葉は誠意がこもっていることが必要だが、文質、教養が必要になる。言いたいことがあるのは分かるが、ストレートに言うだけでは伝わらない、と大西さん。安澤さんは口で商売する方でしょう、どうですか、と川那辺さん。口じゃない、誠意で伝えるのが仕事です。伝えるのは難しい。如何に正確に伝えるかを工夫しています。一番は人柄、信頼を得ること。こいつはあかんで、では何をしゃべってもダメ、と安澤さん。達してやむの言い方、達したらそこまでにしなさい、それより先に行過ぎる人が多かった。伝えるは同じだが、工夫するのに詩の文句を引用したり、工夫するあまりに付け加える部分が多すぎて、行過ぎて駄目にする、過ぎたるは及ばざるが如し、と成田君。鳩山さんの言葉は達しているだろうか、と上田さん。政治家の言葉は、裏でできていて、ここまでしゃべるというもの、と安澤さん。社会的にどういう地位の人から、どういう人に伝えるかで決まる、どっちが上かむつかしい。西川さんも財界人、鳩山さんは命令と思っているが、西川さんはそう思っていない。達するは、社会的関係を考えて言わないと、伝わるものも伝わらない。辭は単なる言葉でなく、外交交渉での言葉であるとしている。論語の中では普通は「言」、辭が出てくることは無い。外交交渉というのも魅力的。相手の国の政治家を説得するには、どうしても過剰になりやすい。そういう時に達を求めるのが、孔子の独特なところ。と成田君。外交として、達してやむ、は孔子の言い方としてはピッタリ、外交交渉はシナリオ書きがあり、それが達しているというのは、相手への相当深い戦略がないとむつかしい。達するは分かるが、「やむ」は外交的には弱いのでは、と川那辺さん。弟子が孔子の言葉に・・・・・しゃべり過ぎは誤解が生じる、それで止めるはよく分かる、と安澤さん。量の問題ではない。次の条に師冕のことがでてくるが、師冕には達しているが、他の弟子には達していない、と成田君。達すれば止めるですから、と安澤さん。

42) 師冕見ゆ、階に及べり。子の曰はく、階なり。席に及べり。子の曰はく、席なり。皆坐して、子これに告げて曰はく、某（なにがし）ここに在り、某ここに在り。師冕出ず。子張、問ひて曰く、師と言ふ道か。子の曰はく、然り固より師を相（たす）くるの道なり。
師冕は目の見えない音楽家？冕はその名前ですと成田君。師冕が来たとき、階段があれば、階段ですがと、坐するところに来ると、席です、誰それはそこに、誰それはここに居りと孔子はおっしゃった。師冕がでてゆくと、子張が孔子に言うには、師をもてなす時はそういうことですか、師と話しをする道ですか、と聞くと、そのとおりだよ、師を助ける道ですと答えた。ということですが、分からないのは、子張が何故聞いたのか？あの時代の音楽の師の位は低かったのですか?高かったのですか？と川那辺さん。身分は高くなかったが教養は高かった、と成田君。皆そういう人々にどういう対応をされていたのですか、と川那辺さん。尊敬している、と成田君。何故そこまでするのかという子張の問いですか？と川那辺さん。そうではない。それは師と話をする時のやりかた。これが師と話をするやり方ですかと子張が聞き、そうだよ、そもそも師をお助けするやり方だよと答えている、と成田君。孔子が当然のこととして言っているのか？ハンディキャップのある人を補ってあげるのは当然のこと、道とそこまで何故するのか分からないが、孔子は当たり前のことと思っている、と川那辺さん。子張は、勉強になったなあ、というところ、と成田君。子張が（孔子より48歳若い）幼なすぎる、どうしていいのか分からないので聞いた。素直で馬鹿まるだし、然りは当然のこと。そうするべきではなく、当たり前のことというニュアンス、と川那辺さん。固、もとより、が効いている、と成田君。孔子は師冕が聞きたいと思うことを的確に言う、辭は達するのみ、そのもので成田君がさっき言われたが、師冕には達しているが、弟子には達していない。目が見えているだけに当たり前のことをいちいちそこまでと子張は思う。これは聞く側の対応による。学ぶ人も心の声に聞き耳をたてていれば、当たり前と思われることから学ぶものがある。先生はそれに相応しい辭を述べるが、瞽者に通じるように通じない。それは求める心構えがない、ここでは聴くがわの問題を言っている、と上田さん。孔子の言葉が見えない人に伝わり、見えている人、弟子に伝わっていないというのは、ぼくにとっては新しい考え方、と高津君。子張はこの後に出てくるが、形にこだわるタイプ。子張篇にもあるが、批判する訳ではないが、箇条書きにして整理するのが好き、今風でいえば、孔子が言ったことを整理する、ノートをつけて整理して、ノートにするために先生に確認をしている、と成田君。固よりは、ひねって考えてみると、子張は師冕に対するやり方ですかと聞いて、相師はくせがある、孔子は周公を夢見、人を導く。見えない人のみでなく、固相師を強調するところに孔子の意図がある。政治にしても、その人すべて見えている訳ではなく、自分が声を出してみることが必要。冉有が見えていない所で、泰山での祭りは止めるべきと言っている。皆が見えないようにしているところを孔子は見えるようにしている、と高津君。相は下の者が上の者を助ける時に使う。高津さんのおっしゃるように見えないものを見えるようにしている。可能でなくても、下の人が支えて見えるようにする。子張は、「師と言ふ道か」と対等みたいな言い方で言うのがいけない。師と孔子の対等のコミュニケーションのためではなく、固相師は師冕がやりたいことを助ける、と成田君。子張の言い方には対等の意識がある、と高津君。孔子が共に詩を謂ふべし、というときは、お前となら対等に詩を話し合っていいという言い方、と成田君。子張が分類し、箇条書きをする、マニュアルつくりみたいなという話でよく分かった。そういうのが礼儀の方法ですかと聞いたが、そういう人を助けるのは、マニュアルではなくて、当然そうなるべきことであると言っている、と大西さん。
これで衛霊公篇は終了。時間があるので季氏篇を全員で音読。五条目は樂のオンパレード。樂yue(4声)ガク、樂le(4声)ラク、樂yao(4声)ガウ使い分けが難しいところ。樂y?oガウはねがふ、好むだが追い求める感じ。季氏篇1)は長文。訓読をしておきましょうと成田君。

季氏は魯の三桓子の一つ、顓臾という小さな国を討伐しようとする。
1) 季氏、將（まさ）に顓臾（せんゆ）を伐（う）たんとす。冉有、季路、孔子に見（まみ）へて曰く、季氏、將に顓臾に事有りとす。季路は子路、冉有と子路が一緒に季氏に仕えるというのは、孔子の晩年、子路が衛で死ぬ前でそういう時があったのでしょう。孔子の曰はく、求、無乃（むしろ）爾是れ過てるか。夫れ顓臾は昔者（むかし）は先王以て東蒙（とうもう）の主（あるじ）と為し、且つ邦域（ほういき）の中ちに在り。是れ社稷（しゃしょく）の臣なり。これは魯の国の内にあり、代々殿様の祭りをする施設のあるところ。先王、国の王様から直接領土をもらって君主となっている周直接の臣下。何を以てか伐つことを為（せ）ん。冉有が曰く、夫子これを欲す。吾二臣は皆、欲せず。孔子の曰はく、求、周任（しゅうにん）言へること有りて曰く、力を陳（の）べて列に就（つ）く。能（あた）はざる者は止（や）む。危ふうして持（もた）ず、顛（くつがえ）って扶（たす）けざるは則ち將（は）た焉（いづく）んぞ彼の相（しょう）を用ひん。且つ爾が言（こと）過（あやま）てり。虎兕（こじ）、柙（こう）より出でて龜玉（きぎょく）櫝（ひつ）の中に毀（こわ）れば、是れ誰が過ちぞや。冉有が曰く、今、夫（そ）れ顓臾は、固（かた）ふして費に近し。今、取らずんば後世必ず子孫の憂を為さん。孔子の曰はく、求、君子は夫（か）のこれを欲（ほっ）すと曰ふを舍（お）いて、而も必ず之が辭を為（つく）る者を疾（にく）む。丘や聞く、國を有（たも）ち家を有つ者は寡（すく）なきを患（うれ）へずして均（ひと）しからざるを患ふ。貧きを患へずして安からざることを患ふ。蓋（けだ）し、均しければ貧しきこと無し、和（やは）らげば寡きこと無し、安ければ傾（かたむ）くこと無し。夫れ是の如くなるかな。故に、遠人服せざれば則ち文�ｺを修めて、以てこれを來たす。既にこれを來たせば則ちこれを安んず。今、由と求は、夫子を相けて遠人服せずして來たすこと能はざるなり。邦、分崩（ぶんほう）、離析（りせき）して守ること能はざるなり。而して邦内に干戈（かんか）を動かさんことを謀る。吾、恐るらくは、季孫の憂ひ、顓臾に在らずして蕭牆（せうしよう）の内に在らんことを。
次回は土曜日(13)日の予定を11日（木）に変更していますのでお間違いなく。塾頭は引き続いて成田君にお願いしています。


2009年6月11日（木）　季氏　1〜3
本日は三重母音。

主母音 i 　　　 a　 　 i u 　　e/o　 u/o ü

二重母音はuai(wai) iao(yao) uei(wei)(-ui) 対du(e)ì 鬼gu(e)ĭ 推tu(e)ī 誰shu(e)í shéi iou(you)(-iu) 就ji(o)ù 酒ji(o)ŭ 修xi(o)ū

uaiはu+ ai、 iaoはi+ ao、ueiはu+ eiだがeが抜けてuiとなるがeの音は残っている。3声の場合はそれが感じられるが4声の場合は抜けた感じ。1声、2声はその中間。誰についてはshéiとなった。Iouについても同じことが言える、と成田君。学而篇１と好きな句の発音練習、季氏篇を全員で音読。本日の塾頭は成田君。

1) 季氏が顓臾を伐たんとす。季氏は魯の国の実権を握る御三家の有力家臣。魯の殿様の親戚。顓臾は孔子が説明しているので後でみることにする。冉有、季路（子路）が孔子にお目にかかって言いました。季氏の下で仕事をしており、季氏が顓臾に事を仕掛けようとしている、戦いを仕掛けることです。求は冉有の本名、師の孔子であるから求と呼ぶ。求、無乃（むしろ）お前の方が間違っているのではないか。先王は昔者（むかし）の偉い王様、具体的に言うと周の始めのころ、文王-武王、武王の時周の軍隊が殷の紂王をやっつけて革命をする。武王の息子は成王、武王の弟の周公は武王が亡くなって成王が若かったので、補佐をした。周の政治はこの周公によってたてられた、封建制を行ったのが周公です。東蒙（とうもう）は東蒙山、重要な山にはそれぞれ祭りをする、それをさせるために世襲の殿様を置くのですが、それに封じられたのが?臾、東蒙山の近くに顓臾がある。魯の殿様の場合は泰山を祭る。東蒙山の主（あるじ）として封建され、しかも邦域（ほういき）とは魯の領域中に在る。顓臾は魯の国の一部、事実上保護国、属国のごときもの。魯に服属している形で、先王が決定したこと。社稷（しゃしょく）の臣、社は土地の神を祭る社（やしろ）、稷は穀物の神様。これも重要な仕事。祭祀を任されている臣下。つまり、魯の国の殿様に服属しており、季氏に服属しているのではない。季氏は魯の殿様の分家のようなもので、魯の殿様を助けるのが仕事、だのに何故伐つのか、と孔子が言う。冉有は、夫子がこれを欲す、と答える。夫子は成人男性に対する言葉、ここでは季氏のこと。うちの殿様がやろうとしている。私達はこんなことはしたくないと言うと、求よ、何故求ばかり呼びつけて、子路のことは言わないのか、そこには事情がある。周任（しゅうじん）の言葉、周任は古い注釈に、「古の良史」なりとあり、史は記録の書記官、王朝の為政者の行為を実録する昔の偉い書記官。力を陳（の）べては出来る限り能力を尽くして、列に就（つ）くは臣下としての地位につく。出来なければ辞める。出来うる限り忠告するが、出来なければ辞めてしまう。危ふうして持（もた）ず、危ういは倒れ掛かっているものそれをなんとか持ちこたえようとする。顛（くつがえ）って、ひっくり返っているのに助けおこすことをしない、そんなことでは何で宰相を用いるのか？宰相の値打ちが無い。しかも、お前の言っていることは間違っている。虎兕（こじ）、兕は一角獣、柙こう）は檻、そこから出でて龜玉（きぎょく）は貴重品、それが?（ひつ）とは箱、箱の中で毀（こわ）れていれば、誰の過ちか、と言うと、冉有は、「今、顓臾は、堅い守りで費に近い。今、取らないと後世必ず子孫の憂となる」と答えた。費は季氏の軍事拠点、以前「子路、子羔をして費の宰為らしむ。子の曰はく、夫の人の子を賊なはむ。子路が曰く、民人有り。社稷有り。何ぞ必ずしも書を讀みて然して後に學と為せん。子の曰はく、是の故に夫の佞者を惡む（先進篇24）」とあったが費は重要な町。その近くに堅固な顓臾がある、今取っておかねば子孫の憂いとなる、というと、孔子は、求よ、君子は自分がそこが欲しいということを控えて、それを断われるような言葉を飾り立てる、本心は欲しいのにいらないようなふりをすることを君子は嫌う。丘（私）はこういうことを聞いている。國や家を持つ、治める者は、寡（すく）ないより均等なこと、貧しいより安定していないことを心配する。均等であれば貧しいことはない、調和していれば寡いことはない、安定していれば傾くことはない。そういうことだから、遠くの人が従わないと自分の�ｺでよくして、そういう人達を呼び寄せ、近づいてくると安心して、安定させる。だのに、季氏を助けずして、遠くの人が服せず、呼び寄せることもできない。邦が分裂してバラバラになっているのに、それを防ぐことが出来ていない。それなのに干戈（かんか）を動かす、戦争をしようとしている。私が心配するのは、季氏の心配事は顓臾でなく、垣の内側にある。蕭牆（せうしよう）は垣根。垣根は中を隠すもの、古注では、季氏の家の中に在ったとされる。内紛とは陽貨のことというが冉有が季氏についているのは晩年ですでに陽貨のことは終わっている。季氏レベルのタイプの家では、門を入った時直接中を見渡せないようにしている。それは、魯の殿様には許されること、調子に乗っていると魯の殿様にやられるぞ、という説もある、と成田君。不患寡而患不均不患貧而患不安はよくでてくる、と安澤さん。周辺有事もそう、と成田君。寡いとは何のこと、と大西さん。ここは、つきつめて考えると論理的にはつながらない、と成田君。吉川先生は寡を人口が少ないとみておられる、と上田さん。この寡と和無寡の寡は一緒か、と大西さん。寡は友達がいない、ひとりぼっちという感じ、と高津君。鰥寡（妻を失った男と、夫を失った女）、と上田さん。全体的には分かるが、こまかくつきつめると分からない。季氏は将来的に三桓の中で魯の実権を握るために有利になろうとして、寡きを憂えている。孔子は、均等であり、安定していれば、周りが自分をしたってやってくるとするが、と成田君。魯では哀公のころには力を失っており、顓臾の帰属がゆるがせになっていた可能性があり、放置しておくとどう転ぶかわからないので季氏が支配下に置こうとしたのではないか。季康子に孔子に了解をもらってくれと頼まれて二人でやって来た、と上田さん。事実上、魯の殿様に代わって季氏が帰属させる立場になり、孔子もやり方によってはいけないとは思っていない。戦争をしてもぎとるのはいけない。その形では他国から干渉をうける大義名分となりかねない、と成田君。国を助ける大夫が良ければいいが、悪ければ、その下が助ければなんとかなる。哀公がダメなら季氏、季氏がダメならその下、ところが自分のために働き、哀公のためにはやっていない、そういうことを書いている本があった、と高津君。季氏の欲望のためだけか、魯の安定をもたらすためか、どっちか分からないが、それは魯の国のためにはならない、と成田君。身分を越えてやることは孔子はよしとしない、と高津君。孔子も季氏を全否定ではない。なくてはならない存在、それを監視するためにも冉有、季路（子路）にやらしている、と成田君。でも何故冉有ばかりが叱られるのか、と高津君。冉有はこうでなくてはならない孔子の叱られ役、子路はいているが言葉を発しない、と成田君。この時期は子路は孔子から離れている。衛の後継者として子路は孔子に出公を選び補佐してもらいたいとしたが、孔子は「名を正す」ことが先として動かず、子路は先生を待っていても無理とみて、独断で出公に仕えた、と上田さん。よくわからないところ。孔子が魯に帰る前には衛に居る。魯の国には冉有が先に帰り、孔子の帰国を整えている。子路が孔子に聞くと、「名を正す」などと迂遠なことを言い、孔子と子路が喧嘩別れをし、子路は結果悲惨な最期なら分かりいいが、何故か二人がここで季氏に仕えているというのが分からない。この条の話自体が事実かどうかが問題。左伝には出ていない。春秋の決まりとして自国で起こった戦争は書かない、あるいは、このあと季氏を説得してやめになったという説もあるが、よく分からない。何故孔子がこんなに長々としゃべるのか。論語にはいくつかのテキストがある。魯論、古論、斉論があり、古論は焚書坑儒の際、隠されたもので孔子の家を崩したとき壁から出てきたもの、孔子の旧宅であり、魯論とよく似ている。斉論は少し違っている。古の論語は魯論がベースで古論、斉論がミックスされている。朱子は季氏篇はもともと斉論であったと感じたのであろう。季氏篇では子曰ではなく、孔子曰とされ、吉川先生は、最も魅力に乏しい篇としておられる、と成田君。無乃爾是過與は変わっている言い方と吉川先生は書いておられるが何が違うの、と上田さん。普通なら爾無乃是過與の順、是があるのも変、爾無乃過與でしっくりし、爾是過矣ですっきりする。何かどこかで文字がひっくりかえったのではないか、と成田君。

2) 孔子の曰はく、天下道有れば則ち禮樂征伐は天子より出ず。天下道無ければ則ち禮樂征伐は諸侯より出ず。諸侯より出ずれば蓋（けだ）し十世にして失（しつ）せざること希（すく）なし。大夫より出ずれば五世にして失せざること希なし。陪臣が國命を執れば三世にして失せざるは希なし。天下道れば則ち政は大夫に在らず。天下道有れば則ち庶人議（ぎ）せず。
孔子がいいました。天下に道があれば禮樂征伐、世の決まりごとと戦争は天子から出てくる。天子の命で行われる。天下に道が行われていないと、諸侯から禮樂征伐が出る。諸侯の命令で行われると、諸侯によってそういうことが行われ十世代たつと、失は失うよりダメになることで、ほとんどの場合十世代でダメになる。大夫、諸侯の下に仕える大夫の命令で禮樂征伐が出るようになると五世代でダメになる。陪臣は本来殿様の側に仕える側用人的なもの、そういう人が国の命令をおさえるようになると三世代でダメになる。どんどん時期は短くなる。天下に道があれば、政は大夫のところには存在しない。天下に道があれば、一般人、庶人には大夫は入らないし、民百姓も入らない。無位無官の人、大夫以下の人は政治のことをしゃべらずにすむ、と成田君。禮樂征伐が大夫からでるなどということを孔子が本当に言った言葉かどうもひっかかる。征伐はいいとしても、禮樂が大夫からでるという考えがあったのか？あとは、こういわれれば、なるほどそうですかとしかいいようがない、と上田さん。古注は事実を述べているとしている。周の幽王は犬戎に殺され、平王が洛陽に移って周はダメになる。諸侯が勝手に禮樂をつくる。魯では隠公（14代）から始まる、と高津君。昭公（23代）で十代目（季氏が実権を有す）、季氏は季文子から五代目季桓子（陽貨に実権を奪われる。）これは実際に起こったこと、孔子の時代の出来事、と高津、成田両君。

3) 孔子の曰はく、祿の公室を去ること五世。政の大夫に逮（およ）ぶこと四世。故に夫の三桓の子孫微（び）なり。
孔子がいいました。祿は俸禄、大夫とか士の身分の役の人に給与を与える権限が魯の公室を離れて五世代、政が大夫に移ってしまって四世代。だから、あの三桓の子孫、桓公の三人の孫、微なりは弱くなってきている、と成田君。歴史の記述、感想、と高津君。実際そうだという話。三桓の子孫微（び）なりは、陽貨を意識している。故にとは、五、四、三とだんだん弱くなっている、と成田君。孔子が「祿の公室を去ること」などという言い方を本当にしたのだろうか、前と同じく、なんか後の人が作ったような感じがする、と上田さん。どうもこの篇では話がはずみません。
来週も木曜日（18日）です。


2009年6月20日（土）　季氏篇　4〜5
操は手で自由に使いこなす、から手にしっかり持っていること。自分で把握する、手中で自在に使う。心を自分でコントロールできるようにしておく。こころをぐらつかせない。cāo名詞とcào動詞の違い、と稲垣君。季氏　4〜5季氏篇を全員で音読。本日の塾頭は大西さん。

4）孔子の曰はく、益者（えきしゃ）三友（さんゆう）、損者（そんしゃ）三友。直（なお）きを友とし、諒（りょう）を友とし、多聞（たぶん）を友とするは益なり。便辟（べんぺき）を友とし、善柔（ぜんじゅう）を友とし、便佞（べんねい）を友とするは、損なり。
孔子がいわれた、有益な友達が三種、有害な友達が三種。正直な人を友達とし、誠実な人を友達とし、多聞、博識な人を友達とするのは益。体裁ぶったのを友達とし、うわべだけのへつらいを友達にし、口達者を友達とするのは損、それだけのことですがどうですか、と大西さん。諒が出てくるのが面白い、と稲垣君。諒はここではいいこと、小さいのはダメだけれど、と大西さん。諒は「貞にして諒せず（衛霊公37）」みせかけというか自分にしっかりしたものがなく、見た目の誠実が諒、ケースによっては相手を慮る、そういう心掛けの人を友とする、と稲垣君。直きを友、直きは正直ですか、これな難しい、直の意味は、と大西さん。文字通り、真直ぐ、行動が真直ぐ、と稲垣君。自分の思うことをストレートに言うのが直であれば、直が正しくない場合もある、自分の思うことをストレートだけでは・・・と大西さん。真直ぐ、葉公と孔子は考えが異なる（子路篇18）。葉公は正直に役人に言うのが正直、孔子は隠すが自分の父を思う気持ちに正直、そもそも直で考えが分かれる、と成田君。自分の思いに忠実、両方とも直ということになる、と大西さん。直の基準をどこに置くか、葉公は法とか制度、孔子は父への愛、どっちにすべきとは言っていない、と成田君。思っていることをそのままだす、と大西さん。葉公は孔子に自分のところでは、順法意識の高いことを自慢したかった、と成田君。「直哉史魚。邦有道如矢。邦無道如矢（衛霊公6）」史魚の直、孔子は蘧伯玉に近いが、史魚を悪く言っているものではない。多聞は博識であるが、人の言うことを良く聞くこと。善柔も比較の問題。言葉が巧みなことを否定をしてはいない。便佞も言葉を尽くす、言いたいことをしゃべるのは悪いことではない。便辟も善柔も悪いことではない、スキルとしては必要だが、友人としてためになるかならないか、となると直の方がためになる、と稲垣君。便辟の朱子の注はどういう意味、と大西さん。「威儀を習うて直ならず」、威儀ある人につき従う、おべっか、と稲垣君。辞書に出てこないがどこで調べたらいいのですか、と大西さん。漢和大辞典ですかね、と成田君。無ければ、自分で考えるしかない。文脈で理解するしかない、と稲垣君。朱子は便は習熟、威儀は礼儀作法、と成田君。かっこをつける、と稲垣君。外見のみ飾る、と成田君。直ならず、とは、と大西さん。捻じ曲がっている、朱子はどうも、損者三友をすべて益者の反対として説明する、逆から導き出した説明、と成田君。媚?とは、と大西さん。相手に媚びへつらう、と稲垣君。「口語に習いて」とは、と大西さん。口ばっかり達者なこと。善柔な人にはそういう心がありがち、と稲垣君。損益のイメージは、益は水が器から皿に溢れること、増えること。損は鼎の足が壊れて中の物がこぼれて減ること。益者とはだんだん豊かとなること、損者はジリ貧となること。善悪とかいうこともあろうが、こういうことをすればたまって溢れだす、そういうことをするとこぼれて減ってゆくというのがベース、と上田さん。益損はプラスとマイナス、マイナスは自分の中なの何かが目減りしてゆく、と稲垣君。類は類を呼ぶ、付き合っている人を見るとその人が分かる。友達がそうだから得、友達がそうだから損、ではなく、友達が寄ってくるのは自分にそういう引き付けるものがあるから。直はまっすぐ、自分にとって一番大事な人とは、真正面から遠慮せず戒めてくれる、率直に意見を言ってくれる人、便辟、善柔、便佞、へつらい、こび、そういうことで持ち上げられ、浮かれていてはダメ。ここは上に立つでなく、友達なので、一番信頼のおける人が大事、と川那辺さん。ストレートでない、捻じ曲がったもの、表と本心が違う、と稲垣君。人が群がるのは相手の欲しいものがある、だからこそへつらう、と川那辺さん。ここは、友達を選びなさい、どういう人を選ぶかのヒント、と高津君。相手に及ぼされ、自分が感化されることがあってのこと、と稲垣君。便辟、便は習熟、辟は、と大西さん。偏ること。先進篇17）に「柴（子羔）や愚、參（曾子）や魯、師（子張）や辟、由（子路）や喭。」とある、朱子は「容止に習いて、誠實少なきを謂うなり。」容姿に習い誠実さに乏しいとしている、、と稲垣君。朱子は、「辟は便辟なり。」、古注は、避けるとみている、「巧みに人の忌むところを避けて媚を求む。」、と成田君。便辟、便佞は付き合っていて、だいたい分かり対処できるが、善柔は、対応が難しい、と稲垣君。毒にも薬にもならない、と川那辺さん。従順さにたぶらかされてこっちがダメになることがある、と稲垣君。分かって付き合えば大丈夫、と川那辺さん。友とするとはどういうことか、自分のものとすること？と大西さん。それが自分に移るというものではない、それを見て、自分が進歩してゆくことができる、と成田君。友達という人のことのみか、そういう観念を自分が取り入れるではいけないのか、と大西さん。必ず人でないといけないとは思わない、と上田さん。友とするというのは人を自分の友にする、と成田君。概念を友とするというのは新しい言い方で論語にはない、と稲垣君。それを心掛けるでその方が分かりやすい、と高津君。アンパンマンみたい（愛と勇気しか友じゃない）、と成田君。ここでアンパンマン談義となりました。

5) 孔子の曰はく、益者三樂（がう）、損者三樂。禮樂を節せんことを樂（ねが）ひ、人の善を道（い）ふを樂ひ、賢友多きを樂ふは益なり。驕樂（きょうらく）を樂ひ、佚遊（いつゆう）を樂ひ、宴樂（えんらく）を樂ふは損なり。
孔子がいわれた、有益な楽しみが三種、有害な楽しみが三種。礼儀と雅楽を折り目正しく行うを楽しみ、人の美点を口にするのを楽しみ、すぐれた友達の多いのを楽しむのは有益だ。驕りたかぶるのを楽しみ、怠け遊ぶことを楽しみ、酒食にふける楽しみは害だ、と大西さん。節はむつかしい。朱子は「制度聲容の節を辨ずるを謂う。」制度と音の様子を節度をよくわきまえる、吉川先生は「行動の節度を禮樂の節度に合致させる。」、古注に従うようだが、と稲垣君。朱子は驕樂と節を対応させ、驕樂は自らの程度以上に盛大にやる、節は分相応に範囲内でおさめる、lèとyào、樂（らく）は楽しむ、樂（がう）は願う、好む。楽しむは既にやっている、行っていることを実践する。願う、好むは、実際やっておらず、志向する方向、と成田君。求む、願う、好むでは違いがあるが、同じようなもの、と稲垣君。どの解説書でも、樂は楽しむとなっている、と大西さん。注釈を書く人がそれほど差はないとみているのだろう。朱子以前には、それほど区別はしていないし、yaoと読む根拠はない、と成田君。願うという方が正しい、楽しめれば、偉い人、と大西さん。楽しむを楽しむと重ねると動詞と目的語が同じとなり不自然、と成田君。後ろの三つは楽しむの方がしっくりする、願うというのはおかしい、と大西さん。賢友多きは付き合うにはしんどい、立派な人間が周りばかっかりでは、と稲垣君。仁者に近づくと仁になるという、いい状態ではない、と高津君。人の善を言う、便佞との線引きは難しい、と稲垣君。道には導くもある、と高津君。朱子は禮樂を社会制度と音楽との関係のようなことを想定している。節は竹の割符が原義、禮と樂には符合し通じるところがあり、人の心もそれに符合し通じるところがある、と上田さん。節は竹が原義、割符は節でありうる。割印というのもある。二つを合わせて正式かどうかを見分けるもの。禮樂、禮と樂は分けてあるが禮樂を一つとする、と稲垣君。禮でも人間でも一方的になると具合がわるく、相手と合うところを見つけ出さないといけない、禮と樂もお互い律があり、どこか符号するところがある、そういう風に行うと、益、お互いにたまってあふれでるようになる、と上田さん。そういうピッタリみたいなものは、節じゃなくて符。節はそういう意味にはならない。朱子は行動、挙動が禮樂の節に適うと見ている、禮樂の基準に従って自分の行動をコントロールする、とみている。ぼく個人の考えは、節約の節であって、なんでも派手、盛大にやるではなく、最小限のところで実現すること、と成田君。節用愛人（学而篇5）で、節約の意味がある、と高津君。驕樂は一定のラインを越えたもの、その反対に節度のあるものが対するという考えがいい、と稲垣君、後ろの三つは道楽の域に入る。ふけって楽しむ。前の三つを道楽をするようにしなさいと考えると難しい。この対比の仕方はおもしろい。益のある道楽、益のない道楽。節は驕樂と別、反対、限度をはずさないものを楽しむ、ふけるものは驕樂となるが、道楽にする、と川那辺さん。道楽は一つのことを徹底して楽しむ、後ろの三つは自分でしなくても楽しめる、益者の方が道楽、道を楽しむとなる、と稲垣君。道楽の意味が変わってしまっている、「かに道楽」、何もしなくても蟹がどんどんでてくる・・・川那辺さんの話は、「好�ｺ如好色」（子罕篇17）に似ている、と成田君。節度、節する度合い、何の度合いか、と大西さん。竹には節がある、区別があること、けじめをつけること、と稲垣君。禮樂は豪勢にすれば良いと考える、祖先を祭るにも、天地の神や穀物の神を祭るにもどんどん豪勢にすればいいかといえば、最小限でも祭る気持ちを持っていればいいとなる、成田君。禮樂に節す、と禮樂を節すでは意味が違う、と稲垣君。孔子は今までにそういう風に言っているとは思わない、と大西さん。麻冕は今では純（絹）だが倹約のためにはそれでいいが、堂の下に拜するは禮であり、今上に拜するは從わない（子罕篇3）というのがあった、禮の節度はそのあたりにある。孔子以降禮にどんどんお金をかけ、批判される形、やりすぎ、墨家が批判をする。禮樂は節度あるやり方が必要、と高津君。成田君がこの篇は斉論、斉の国で編纂されたものとされた。斉は当時豊かな国、魯は豊かな方ではなく、驕樂、佚遊、宴樂となれば斉の国、と上田さん。斉の美女軍団に魯はやられてしまった、と成田君。禮樂は最高のもので、禮樂を節するは大西さんのおっしゃるように違和感がある、と稲垣君。用を節するなら分かるが、と成田君。子路篇3)に、「名正しからざれば則ち言順はず、言順はずば則ち事成らず、事成らざれば則ち禮樂興らず、禮樂興らざれば則ち刑罰中らず、刑罰中らずば則ち民手足を措く所なし。」とあった、と高津君。国家単位の話、と稲垣君。個人の言葉から、国家単位にもってきている。個人の心構えにしては話がでかすぎる。一人で出来ることではない、と成田君。一人で樂を楽しむことはできる、と大西さん。樂の精神はそうではない。人類共通の気持ちを高ぶらせるもの。禮は世の中秩序立てて全体の一体感を出すもの、と成田君。
6月27日（土）、7月4日(土)、7月9日（木）、7月18日(土)、7月23日、8月1日（土）となります。来週の塾頭は高津君。


2009年6月27日（土）　季氏篇　6〜7
6月5日(木)中村（典）さんから電話を受けたのが川那辺さん、土曜日に変わっていることが伝わっておらず、散歩中の川那辺さんとしばし会話をされて、と残念なことでした。7月4日(土)、7月9日（木）、7月18日(土)、7月23日（木）、8月1日（土）が現在の予定ですが、また変わることもあろうかと思いますので、ご注意ください。小学校の教室の使用料が1回500円となりました。社会人200円、学生100円とします。
季氏篇16、学而篇１〜八佾篇3まで全員で音読、本日の塾頭高津君登場。

6) 孔子の曰はく、君子に侍（はべ）るに三つの愆（あやまち）有り。言（こと）未だこれに及ばずして言ふ、これを躁（そう）と謂ふ。言これに及びて言はざる、これを隱（いん）と謂ふ。未だ顏色を見ずして言ふ、これを瞽（こ）と謂ふ。
孔子がいわれた。君子の側に居て三つの愆がある。何かを言うべきでないのに言うのはがさつと言う。言うべきなのに言わないのは隠すと言い、顔色もみないで言うのを瞽、盲という。朱子の注では、言うタイミングを言っている。個人的には、顔色もみないで言うのを瞽、盲というのに、これは人の顔色を見て話すということではなく、大切な政策があるのに、相手が聞く状況にないのに言うのは、話すタイミングをはずしている、しかし、その顔色を伺うようなことをしてはいけない。そんなことではないか、それと、ここで何故君子となっているのか、と高津君。君子が位についている、それに従うときの心境、と稲垣君。皇侃の注では、卑しきが尊きに侍べるに、三事が有り、過失と爲すとある。身分の低い者が身分の上に仕える場合三つの過ちがあるとする。尊卑は原文にはない。君子は小人と対比させるもの、ここでは身分の高い人ととして君子がでているのは納得がゆかない。優れた人、立派な人に侍るには三つの過ちを犯すが原文に忠実、と稲垣君。君子より三つの愆にに重点を置いている。優れた人と話すとき、先に話すのは躁、その人は気にしないかもしれないが、君子はこの人をせっかちと思う。侍るというのは上下関係。隠すは、友人同士で不快に思うかもしれないが、言われる筋合いはない、君子の場合、国政に関して隠すは大きな意味になる、と高津君。荀子勧学に、「未可與言而言謂之傲　可與言而不言謂之隠　不観気色而言謂之瞽　君子不傲不隠不瞽」とある、これは戦国末期のもの、と稲垣君。君子に仕える人ということですが、逆転すれば、君子についてくれる人に、三つの思いをさせてはならないとなる。上下関係ではなく、とてもいい関係をつくるには躁の思いをさせない、言う順番が回ってこなくていらいらさせるようなことをしない。だらだらしゃべるとせっかちな気分になるのでそうしない。言いなさいの時に言わない、言えない雰囲気をつくる君子に問題がある。顔色を見て言わねばならないようなことでは、ダメ。良い関係をつくる、君子に対する戒めでもある。両者が合致すればうまくゆく。君子に対してこれだけ気を使うは、あまりいい状態ではない、と川那辺さん。憲問篇22）に「陳恆其の君を弑せり。請う之を討せん。」と孔子は斉を討つように哀公に言うのであるが、自分の立場が分かってこういうときに言わねば、言って流れが変わらないとしてもいう、そういう見本をみせてくれている。今言わないといけないときに言う、と高津君。荻生徂徠は、隠とは、孔子が衛の霊公に、「軍旅の事は、未だ之を学ばず。」としたような対応、はぐらかすような対応とみている、と上田さん。孔子は衛の霊公には仕えていない、哀公の場合は君主、大夫であったことを考えている、と高津君。愆は過失であるが、その行為が過失というより、時期を誤まることをいう。欠（不足）、歉（不満足）という感じでもある、と上田さん。徂徠は相手のことを見た結果であれば・・・相手の顔色ではなく、状況、これを言っては為にならんと思って隠す。聞かれたまま答えれば盲の方にあたる、と稲垣君。君子に侍る時の過ちではなく、この三つのことをやりがちである。先生のそばに居るとき、相手に気を使ったり、もっとその話を聞きたいとか、あせってそうしたり、授業や実習でもよくあるが、間違っているかもしれないと思って、じっと黙っていると先生からすれば「隠」になる。同輩とか後輩に気を使っているのだが、当てられて言うと、分かってるなら何故最初から言わないのか、と怒られたり、実際の場ではこれはなかなか難しい、と稲垣君。孔子は内政を整えた上での戦を考える。霊公の顔をたてて孔子が軍事のことを言えば国を誤る。孔子はそれをみたうえでの答えを出している。現実を見据えている。それを理解できない霊公は君子ではなかった、と高津君。大西さんどうです、と稲垣君。実際やるのは難しい、顔色では失敗する。マージャンでもそうだが、自分の手ばかり見て、相手が捨てる牌をよくみていないと、と大西さん。しばし、皆様、実生活での体験談、言うべきときに言う、顔色を見ずに言う、本人はそうしているつもりでも周りからすれば、やめときゃいいのに、あーあ、やりよったな、ということはあまたある。孔子が哀公に斉を討てというが、哀公の手から軍事権は離れているし、季氏がそんなことで大国斉を攻めて大義をなすというのは無理な話で、それを放置すればいずれ魯の哀公も同じ憂き目をみる、討てといわれてもどうしようもない、孔子が言うべきときに言ったことになるのか、と上田さん。孔子が言わないと誰が言うのか。実現可能か不可能より、そこでそれを言わねば孔子の学派の値打ちがない、と大西さん。時期をみて、タイミングをわきまえる、と稲垣君。

7) 孔子の曰はく、君子に三つの戒有り。少（わか）き時血氣未だ定らず、これを戒むること色に在り。其の壯（さかんなる）に及んでは血氣方（まさ）に剛（こわ）し、これを戒むること?（たたかふ）に在り。其の老たるに及んでは血氣既に衰ふ、これを戒むること得に在り。
孔子がいわれた、君子には三つの戒めがある。若いときには血気がまだ落ち着かないから、戒めは女色にある。壮年になると血気が盛んだから、戒めは争いにある。老年になると血気は衰えるから、戒めは欲得にある。色、斗、得、これは互文と思う。古注では、少は29歳以下、壮は30歳以上、老は50歳から

　色由於痴極於淫　斗由於口真（怒）極於殺　得由於貪極於盗　（釈子：仏典）
　（由は〜から始まる。痴は一途にのめりこむ。口真は怒り）

これは年齢に関係なく起こり、互文になりませんか、と高津君。互文は置き換えて意味が変わらないことが原則。ここでは入れ替えると成り立たない。年齢によって対象が変わるが何歳でもよくないことというほうがいい。ぼくは落語が好きだが、色は大店の若旦那、闘は火消し、得はお金をためこむけちな大屋、江戸っ子みたいだけれど、と稲垣君。唐の皇帝は楊貴妃で国を傾けた、若い人ばかりではない、ここは年齢に関係はない、と高津君。ここも君子、しかし、少くして君子というのはピッタリこない、と上田さん。君子たらんとする者はのこと、と大西さん。川那辺さん、どうですか、と稲垣君。男も女も変わらないでしょう。でも闘はどうですかね？私は君子じゃないから貯めておかないと、と川那辺さん。血気は精神と体力です、と高津君。どの時期かはボルテージの問題。割合の違いでいつでもおこること、と川那辺さん。老は40歳からと古注はみているようだが、と上田さん。明治では40歳の老婆という表現があった。杜甫にも40歳で老というのがある。孟子に、内政をしっかりしなさいという話があり、凶作のところの民を豊作のところに移したりとかそういことでなく、50歩100歩の例えを交え、民にきちんと田を与え、「そのまわりに桑を植えさせると、50過ぎの老人も絹が着られます。また鶏・仔豚・犬・牝豚などを飼わせると、70過ぎの老人も肉食ができます。」とあり、50歳は老人、と稲垣君。朱子の注（血氣形之所待以生者血陰而氣陽也）はどういう意味、と大西さん。血氣は、形の待べる所以て生まれるものなり。血は陰にして氣は陽なり。陰陽説で説明している、と稲垣君。聖人人に同じき者は、血氣なり。人に異なる者は、志氣なり。血氣時として衰うること有れども、志氣は則ち時として衰うること無し。少きときは未だ定まらず、壯にして剛く、老いて衰うるは、血氣なり。色を戒め、?を戒め、得るを戒むる者は、志氣なり。君子は其の志氣を養う。故に血氣の爲に動かされず。是を以て年彌々高くして�ｺ彌々�戟iたか）し、とは、と大西さん。聖人も人も一緒、血氣は一緒。異なるのは志氣、意志の力。意志の力でコントロールする。志氣は持続でき、血氣を制御する、中国医学的な言い方、と稲垣君。ところで孔子は性善説と思っていたのですが、性善説は誰から始まりますか、と高津君。孟子から、と稲垣君。三十にして立つ、四十にして惑わず、五十にして天命を知る、その間にこれがある、と高津君。血氣というエネルギーをコントロールすればそうなれる、と大西さん。闘うは、状況を冷静に判断しないと、と高津君。血氣とは大事なもの、と大西さん。血氣をコントロールする、若いときには格闘技をやっていた、身体を鍛えれば何でもできると思っていた、と稲垣君。若いときにスポーツをするというのがいい、と大西さん。何かに打ち込むことが、若いときにはよい、と高津君。体力を鍛え集中したけれど、それだけでは上手く行かない。受験だとか、学生生活とか精神面でへこんでくると、体力だけでは克てるとは限らない、と稲垣君。子路が孔子に学問をすることは、竹の矢を削り羽根と鏃をつけるようなものでもっと深く入るという話があった、生きる知恵が必要、と高津君。
来週は7月4日（土）、塾頭は稲垣君。


2009年７月４日（土）　季氏篇　8〜9
張さん、京都大学留学生（福州より）、教育学研究科、林子博君と一緒に登場。張さんは今は台湾師範大学の歴史の先生。中村（佳）さん、久方振りです。遅れて鄭さんも登場。全員で季氏篇を音読。中村（典）さんも来られ自己紹介。成田君は中国での学会出席中。本日の塾頭は稲垣君。川合康三先生の感性の人、感情の人、論語のなかの孔子（岩波書店）の紹介。



8) 孔子の曰はく、君子に三つの畏(おそれ)有り。天命を畏（おそ）る。大人（たいじん）を畏れ、聖人の言を畏る。小人は、天命を知らずして畏れず。大人に狎（な）れ、聖人の言を侮（あなど）る。
孔子がおっしゃった。君子には三つの畏るべきもの、恐怖ではなく、畏敬の念、神仏への畏敬、畏怖の畏れる。一つめは、天命、二つめは大人、三つめは聖人の言。小人は天命を知らず、それを畏れない。大人を自分と対等に、同じようにしてわきまえない。聖人の言葉を馬鹿にする、言葉のうえではそういうことです。天命はよく知られた、五十にして天命を知る。ぼくの理解では、天から与えられた、人知ではないもの。天命は自分に出来ることをわきまえる、自分がやるべきこと、自分にしか出来ないことをする。大人はやっかい。大人には二説ある。一説は聖人と同じ。徳にすぐれた人。もう一つは身分が高い人。政治面では立派な人、聖人のようにでは、意味が重複するので身分の高い人、ステータスが高い人を大人とする。聖人は論語では何回も出てきた、堯とか舜、今はこの世にはいない人、とてつもなくすぐれた人。天命は抽象的、大人は具体的、聖人の場合は言葉、三つが別々となっているのが注意すべきところ、皆さんはどう思われますか、と稲垣君。狎はある講習会、火薬を扱う人ですが、狎れに気をつけることが大切、10年20年のベテランも事故につながるので、狎れてはダメ、狎れるはなめてかかる、大事故につながる、それを思い出した、と安澤さん。緊張感のない状態。教室でも緊張感がないといけない。同じテキストでルーチーンにやれば、学生は面白くない、と稲垣君。動物では、狢（むじな）とか狸（たぬき）、犭（獣）辺に甲、と安澤さん。大人は稲垣さんがおっしゃったように二つの解釈がある。ここでは道徳、偉い道徳の人。曾子の大人とは違う、と張さん。一つは聖人と重複する。上の君子とも意味が重なる。周易にも大人がでてくる。それは聖人に近い、左伝だと、諸侯、身分の高い人となる、と稲垣君。政治で解釈すると諸侯、道徳で解釈すれば偉い道徳の人、と張さん。君子よりは偉い人、と稲垣君。畏は宗教的な意味がある。神に対する畏れ、崇敬の敬ではない、と張さん。その畏れ、天命とは民に安寧をもたらす政治を行うことを天から授けられることが原義、大人はそれを正しく行う人、それが言葉となったものが聖人の言、それを畏れを抱いて対すること、小人はそういうことが分からない、と上田さん。小人は認識しない、君子は認識し畏れ尊ぶ、と稲垣君。私の理解では、大人と君子は二つの概念。完全に対立するものではない、大人となるには君子であらねばならない。大人は多くの君子のなかで、徳が高く、身分も高い人、二つの面が必要、と林君。諸侯とは元来その徳を備えていなければならない、と稲垣君。天命は英語でいうところのfate運命、天が下した運命、それを畏れることが大切、と林君。大人は君子より上ということですね、と安澤さん。畏れる、こわがるだけれど、三つをみると従うイメージ、それに逆らはない、と鄭さん。人として抗えない、と稲垣君。聖人の言葉を畏れる。模範たる道を記したもの。君子はよく知っていて従う。君子と小人の対比、問題はこの前の句、三友、三樂、三愆、三戒、これとは違ったものがある。弟子が編纂するときの気持ちが分かる、と鄭さん。これは成田君も言っていたことだけれど、孔子曰という言い方はどうも後世のもの。君子と小人の対比は中村（典）さんがおっしゃるように、君子＝立派、小人＝つまらないという対比ではないと思う。小人はordinary peopleというのはいい。韓愈に「小人但咨怨，君子惟憂傷」とある。小人は天災にあって、どうしよう、どうしようと嘆くのみだが、君子はなんとかしてやろうと心をいためる、これを小人はつまらない、君子は立派ではよくない、普通の人は嘆くだけだが、上に立つひとはなんとかしようとする、そういう中村（典）さんのような解釈の方がいい。また、、と稲垣君。弟子の前で語るとき、いさめたり、叱ったり、君子のようになって欲しい、小人のようではなくと対比される、どっちに重点があるのだろうか、君子になって欲しい、小人になってほしくないの差、と鄭さん。

9) 孔子の曰はく、生れながらにしてこれを知る者は上なり。學びてこれを知る者は次なり。困（くる）しんでこれを學ぶは又其の次なり。困しんで學びざる。民、斯れを下（しも）と為すなり。
生まれながらにして、先天的に物事を知る者は一番上等。学んで知るはその次のもの。困しんで、必要に迫られて学ぶことをはじめるのはその次。必要にかられても学習しないのは、民はそういう人を下等とする。上中下と分かれていて、先天的に知る、天才のような人、上の上、人間普通はこうはならない。習得して知る、世界、知るべきことを知る人は次、またその次と四つを４ランクではなく、學びてこれを知ると困しんでこれを學ぶは並列、全くダメなのは必要にかられてもしない、これはどうしようもない、これが一番下。この三段階。民斯為下矣は民にしてこれ下と為す、治められる側、民を目標の下、民はそういった人を下等とみなす、とみたり、民のような下等とみなす、と解釈が分かれる、と稲垣君。民が主体となっているのですか、と中村（典）さん。渋沢栄一は民がそうすると読んでいる。問題意識がないと学ぶことはできない。困がよく分からないが、必要性がないということではないか。三段階とみるのはいい、と安澤さん。四つとした方が自然な感じ。学んで知ると困してから学ぶの差は大きい、と林君。次、その次だから別の方が自然、上と下は別格、普通の人は学ばねばいけない、民がそれを下とするという民の判断をいれるのはピンとこない。困しても学ばない、それは民のことであり、だから民は下ということと思う、と上田さん。民を下等とみることについてそれぞれ意見が分かれるところとなりました。荻生徂徠がそうみているという人もあれば、徂徠は学べに力点があると言っているという人もある。台湾でも日本でも学生に何のために学ぶかと聞くと、あまり答えが返ってこないようでもある。さて、孔子の時代は学ぶは政治家になるために学ぶ。民が学ぶということはない、困して学ぶのは士大夫。孔子の注意はそこ、そこで学ばないと上には上がれない。中庸に、孔子が哀公に、「或は生まれながらにして之を知り、或は學んで之を知り、或は困しんで之を知る。其の之を知るに及んでは一なり。」と言っている。これは哀公に言っているが、ここでは弟子に学ばないといけないとしている、と鄭さん。孔子は自分自身は学んでこれを知る、生まれながらではないですね、と安澤さん。いや、困して学ぶでしょう、若いころ使われなかったので何でもしたとありましたから、後に、弟子が生まれながらにして知るとしたけれど、と鄭さん。同じ人の学習段階でもある。宋代の程子は学べば士大夫も賢人、聖人になれるとする。学習が大事、学習しないと愚人となる、と張さん。今の時代で言えば、天才的に知る人、家庭事情がよくて早くから学習し成果をあらわす、ぼくみたいに田舎からでてきてなんとかしないといけないから仕方なく一生懸命勉強する、困らないと勉強しない、と鄭さん。積極的と消極的がある。勉強することが楽しく、知的快楽のためが二番目。現実社会の困難で勉強せざるを得ない、が消極的、と林君。学習の為には志が必要。四つの段階は自分の学習段階を表す、と張さん。韓国で就職したかったが、台湾に行くことになったが、中国語も慣れることができ、台湾の学会事情も分かってきた、日本に居たのも同じこと、そういう環境におかれないとなかなかできるものではない、と鄭さん。普通の人が（孔子のところで）勉強する目標は何ですか。勉強して政治家となるのは、と林君。孔子は当時禮樂の一人者と思われていた。それを学んで出世する。政治家は当時知識人を雇った。政治家のブレーン、孔子は法務大臣をしたこともあり、後には弟子三千人ともいわれている。知識を学習して〜になる、それは二の次、子貢などが求めていたのは政治家となること。戦国時代になれば「禝下の学」諸子百家の学者を集めた、と鄭さん。子産のような大夫が賢宰相として国政を行ったのでなく、季氏の家来の陽貨が三桓氏をおさえ魯の政治を牛耳るような事態が起こり、士といわれる人が政治に参画できる時代となっていた。孔子も子路などを用いて三桓氏を打倒しようとして失敗している。陽貨には孔子のような弟子はいなかったが、孔子には弟子がいた、と上田さん。立派な学者でも弟子を育てない人が居る、自分の夢を弟子に託す人もある、と安澤さん。教育に関する意識が陽貨にはない。教育を孔子ほど意識していた集団はなかった、後にはあらわれるが、と稲垣君。困で学ぶ、ハングリーになるのは自然。学は人間特有のこと。生まれたときからそうなるのは、すばらしいこと。身分制度のことはおいても、この文には励まされるところがある。自分をいさめもし、自分を励ましもｓ、全体的にcheer。自分と自分以外、全体を励ます、リーダーの要件、と中村(典)さん。現実社会では苦しんでいる人が単に勉強する人より、はるかに考えている、と大西さん。中村（典）さん、音楽の世界ではこれはどういうことになりますか、と鄭さん。クラシック音楽の世界は世襲制の環境の中で行われている。ベートーベンのお父さんもモーツアルトのようにしたかったが、生活環境が悪く、ドメスティックバイオレンスみたいなところがあり、センシチブとなり、耳が聞こえないということになったが、そういう意味では苦しみてですが意に介さずやっている。メンデルスゾーンはよい音楽環境にあり、素晴らしい作曲もしているが、何よりもすばらしいのは、バッハがほったらかしにしていた楽譜を編纂して後の人が学べるようにした。メンデルスゾーンなしでは成し遂げられなかった。孔子の弟子が論語を編纂したことに対比できます。バッハは朝から晩までひたすら作曲、孔子みたいな人、朴訥として不器用、でも音楽の歴史では越えている人、至高の作曲家。お子さんも20人。メンデルスゾーンは学びて知る、インベンション、このくらいでこの程度を勉強すれば、みたいなものをまとめている。ベートーベンは演奏会というものを始めて行った人、市民社会の成立が背景にあり、入場料をとって費用を捻出する道を拓いている。それが生計をたてるほどにはならなかったが、そういう道をひらき、それが当たり前のこととなったもですが、と中村（典）さん。困は苦しむよりは迷う、之とは、自分が学ぶことを大事にすること、と張さん。之はそれ自体に意味を持たせず訳すことがなくてもいい場合がある、と稲垣君。自分が自分のために学ぶが基本にある、他人のために学ぶものではない、そこは大事なところ、と張さん。道と言い換えてもいいか、と鄭さん。



聖人、賢人、常人、愚人、酒が入ると常人が愚人に。賢人、聖人の道はるかに遠い。一揆も白木屋も満席。焼き鳥屋で乾杯。
鄭さんは台湾へ帰る。沈さんは中国へ帰るということで土曜日に修学院の鄭さんの下宿で一杯。中村（佳）さんが”おつまみ”を作ってくださり、これが美味い。高津君が早目から来訪、続いて上田さん、沈さん夫妻も合流、乾杯！林君が場所が分からないと電話。

沈さん夫妻は吉林に帰り、続いて上海に職を求めて移られる予定。韓国、台湾、中国（吉林、天津、福建）、日本と国際色豊か。 論語は東アジアの共通の教養、しかし、孔子先生におかれても、東夷の倭、山背の北の修学院で、学習論語の会が生まれるとは、思いもされなかったであろう。 写真：沈さん夫人撮影

2009年７月9日（木）　季氏篇　10〜11
林君、李芝映さん、京都大学留学生、教育学研究科、と連絡するも、西陣小学校は二つあり李さんは別の西陣小学校で迷子。旧西陣小学校で読書会をしております。高津君の同僚、高井君と立命館大学で同窓の川津康弘君も本日参加。自己紹介。全員で季氏篇を音読。テキストは後藤点、これをお持ちでない人はおそらくは古注のものでテキストが違うところがあります。

これは朱子学に基づいています。後藤点には特有の記号や読み方があります。 漢字に○がついているものがあります。平声、上声、去声、入声を指定しています。 ﾉ は、のたまわく。漢字の横の|は音読みをして下さいということです。 ┐は〜すること、と読みます。他にも約束事がありますがその時に、と稲垣君。

本日の塾頭は決まっておらず、急遽、林君にお願い。内容は分かっておられ大丈夫、訓読の勉強になりますから、と稲垣君。

10) 孔子の曰はく、君子に九つの思ひ有り。視ることは明（めい）を思ひ、聽くことは聰（そう）を思ひ、色（いろ）は温（おん）を思ひ、貌（ぼう）は恭（きょう）を思ひ、言（げん）は忠を思ひ、事（わざ）は敬（けい）を思ひ、疑（うたが）はしきは問はんと思ひ、忿（いかり）は難を思ひ、得を見ては義を思ふ。
孔子がこう言われました。君子には九つ思うことがある。視るときにははっきり見たいと思い、聽くときにはこまかく聞き取りたいと思い、顔つきは?、おだやかでありたいと思い、貌、容貌はうやうやしくありたいと思い、言葉は忠、誠実でありたいと思い、事、仕事には慎重でありたいと思い、疑わしいことは問うことを思い、忿りにはあとのめんどうを思い、利得を前にしたときは道義を思う、と金谷先生はしておられる。色の温wenは慍yun（いかる）の可能性のある言葉、意味によって読み方が変わる、ここでは怒るではない、と林君。聰をどう訳していますか、と稲垣君。こまかく聞き取る、と林君。こまかくはニュアンスが違う、はっきり見通す、こまかくじゃなくて本質をつかむ、と稲垣君。聰民は心がこまかい、君子、年上の人の言葉を注意深く聴くこと、と張さん。明は視力、聽は聞く力、と林君。思の原字は、囟、囟は頭脳の象形、心との組み合わせ、頭で考え心で判断する。聰はそれに耳が加わったもの、相手のことばを聞くのだが、何を考え、どういう心からでているのかを聞き取ること。明は分かりにくいが、神明、明堂の明、神意の明かにされるところ、光の差し来るところ、相手の行動のよって来るところを見分けること、と上田さん。それは相手というかもしれないが、自分のことを言っていると思う、と稲垣君。今の公務員の態度、君子は階級からすれば支配する側、君子には必要、と張さん。自分のこと、君子となる人は自分に厳しさが求められる。論語では思は、學而不思則罔　思而不學則殆の思。学問は繰り返し考えること、思も繰り返し考えること。視、聽、言など前のものは無意識的にも出来ること、人でも猫でも出来る、明、聰、温、恭など後ろのことは実践がむつかしい。明は本質、よく考えないと見えないこと見える、お釈迦様の知恵、人知が及ばぬもの、そこまで見透かす見方。聰は一を聞いて十を知る。言いたいことの本質を掴む。温は表情、相手に対するぬくもり、後者は意識してもなかなかできないこと、と稲垣君。思は三思而後行、学問しながら考える、学問の思、行為の為の思、他人に対して自分がどうするか、と張さん。自分をコントロールする考え方、think twice before you do、と林君。川津君どうですか、と稲垣君。これは自分のことか、人のことか断定しかねる、まとめきれない、と川津君。李さんどうですか、と稲垣君。前者は自然に反応する、他者に反応する。自分自身も他者になる。自分があって何かに反応する、意識的にどうすればいいのか、明らかに、聰に、おだやかに・・・と李さん。観察すれば理解が出来る、観察すれば自分の頭がはっきりする、と張さん。明は誰が明になるのか、と稲垣君。明ははっきりとする、他人を観察して、それで自分が反省する。他人を観察してから、自分が出来ているかをみる、と張さん。相手を良く見て、相手の言うことをよく聞き、相手がつっかかってきてもおだやかに対応し、相手をたてる。言う時には心をこめる。何かをするには相手のことを考えて行う。疑いを抱いたまま信じるふりなどはせず、かっとするにまかせると後でろくなことにならないと思いとどまる。なにかを得れば、得るべきことをしたのかよく考える、これは言うは易いが、実際となればそうはならない、と上田さん。公務員と言ったのは、身分のある人は、身分があるから控え目にして、相手に対して怒るようなことはしてはいけないという意味、と張さん。これは、人を相手にする場合の順番、目から耳という風に、相手がつっかかってきた時、平常心を保っている人は、ある程度は可能、人と話し合う時は、必ずしも自分と合うわけではなく、人を見抜き、自分のポリシーをしっかりもっていないといけない、相手に対して平常心を欠いた時でさえも、このようにしなければならない。平常心を欠く場合その戒め、目標、後ろへゆくほど重い。特に怒るはむつかしい。冷静に対応すればいいものでもない、きちんとそこまで出来るかは難しい。平常心でいることはどれだけ大変か、と川那辺さん。怒るは必ずしも悪いことではない、怒ってはダメ、得てはダメというものではない、と稲垣君。疑いあるとき問うも平常心のないときには難しい、と川那辺さん。

11) 孔子の曰はく、善を見ては及ばざるが如く、不善を見ては湯を探るが如し。吾其の人を見る。吾其の語を聞く。隱居し以て其の志を求め、義を行ひて以て其の道を達す。吾其の語を聞く。未だ其の人を見ず。
孔子がこう言われました。善いことを見ればとても追いつけないように努力し、善くないことを見れば、湯に手をいれたように引く、私はそういう人を見た、そういう言葉も聞いた。隱居してその志を求め、義を行ってその道に達する。私はそのことばを聞くが、いまだそういう人はみたことがない、ということですが、どうですかと林君。善を見ると取り逃がさないように追求する。不善を見ると、熱湯からさっと手を引くように急いで去るという風に解釈されるが、及ばざるが如くとは及ばぬと謙（へりくだ）る、湯を探るは湯に手を入れて慎重に見極める、探湯は古代には"くがたち"といい、嘘をつく者が熱湯に手を入れるとやけどするが、嘘をつかぬものはただれないとして真偽の判定に使われた。善の人でも一歩下がって、不善の人でも慎重に見定める、あるいは自らが熱湯のごとくその判定をするみたいなことではないのか、と上田さん。不及はある一定の水準に達していない、reachしていない、と稲垣君。悪いことが湯、だから逃げたい、悪いことは出来ない。善い事は他人が先にする前にしたい。間に合わないといけないので速ければ速いほどいい。善い事は早く、悪いことは逃げる、そういう人は見たこともあるし、その言葉も聞いたこともある。ところが隱居してその志を求め、義を行ってその道に達するの方は難しい、言葉を聞いたことはあるが、そういう人はみたことがないと言っている、と張さん。不及は謙ることではない、早くできるように追いかける、と林君。来不及は早くしないと間に合わないので急ぐこと、人が溺れているとき、早くしないと間に合わない。早く助けた方がいい、と張さん。不及ってそういう意味ですか！いや〜びっくりしました、それに、隠居しての方に重点があるんですか、探湯と不善で前の方ばかりにとらわれて・・・と上田さん。隱居してとは具体的には何をいいますか？一線を退いて静かな暮らしをする、人との交流が無い。これでは孔子の世界と関係が無い。社会の下積みをする目立たない人と吉川先生は言っておられるが、孔子はそういう人に会ったことはないのでは、よく分からない、と川津君。孔子は隠居者に会っている。戦国時代になると才能を持ちそれが発揮できず山に隠居した、隠居は後に諸葛孔明のごとくひとつの生き方となった、と張さん。隱居して、志を求め、義を行い道を達すなどというのは伯夷・叔斉のことではないか。武王に向かって、暴力で殷を倒す、文王の志とは異なる、その文王の葬儀もしないうちに戦争をするのは不義で、親不孝であると諫め、武王の怒りを買い山に隠居した。孔子も哀公に下克上をした斉の陳成子を討つよう進言したり、冉有を叱りつけて季氏のやり方を批判している、全然聞き入れられなく、年寄りの冷や水のごとく扱われているが、孔子は言い続けているが受け容れられなかった、と上田さん。孔子も隠居したいと思っていた、筏で東の海を渡りたいと言っている、と張さん。吉川先生の社会の下積みをする目立たない人とはよく分からない、と林君。楽隠居としないという意味、衛霊公篇11）に「蘧伯玉邦有道則仕邦無道則可卷而懷之」とあった。邦に道が無いときの処世、と稲垣君。隠居した人をどう推奨しているのですか、と林君。長沮（ちょうそ）、桀溺（けつでき）などに孔子は会おうとしており隠者を除外している訳ではない、道が行われなくて隠者となる、道が行われれば仕える、と稲垣君。選択肢として隠居はあるが、志を変えてはいけない、と林君。隠者については諸葛孔明や陶淵明などに話しが及ぶが、それは後の世界のことであり、話を戻す意味でも、孔子の時代では、隠居は批判の対象じゃなかったんですか、と川津君。隠居し以てとあり、それは条件付けで、現実ではない。志を求め、道に通じている、と李さん。戦国時代には、隠居して志がないので、悪い君主を助けて悪いことをする者がいた。志が大切、これを保つことが大切、偉い人とは志のある人、顔回は何もしなかったが志が高かった、と張さん。ここでは、志を求め、かつ義を行うとあり、志のみでない、と上田さん。行うことにより道を達しないといけない、並列の関係とも考えられる、と稲垣君。同一人物の段階、志を持ち、義を行い、道を達成する、いづれにせよ志がないことには始まらない、志を抱き続けるからその後に続く、そうなるまで志を求め続ける、と張さん。このごろの学生は何のために勉強するのかと聞いても答えが無い、志がないということでしたね、張さん、と稲垣君。


2009年７月16日（木）　季氏篇　12〜13
中村（典）さん同志社大学で日本語を勉強中の逄統さん、彭鵬君を同道、逄統páng tŏngさん四川学院でピアノ、彭鵬péng　péng君は作曲をしておられる。二人は青島の出身、この3月23日来日してからの日本語勉強、それにしては上達がすごく早いのにビックリ。稲富君も久方振りの登場。国際会館の杉浦さんも久方振りに大西さんと現れる。成田君も上海から帰国、童嶺君からのお土産のお菓子持参。酥sūというそうです。総勢14人、盆と正月が一緒に来たようなものです。自己紹介を何回も繰りかえすことになりました。
全員で季氏篇を音読。本日の塾頭は決まっていなかったので、稲垣君、中村（典）さんに、まず最初をお願い。

12) 齊の景公、馬千駟（し）有り。死するの日、民、�ｺとして稱すること無し。伯夷、叔齊、首陽の下（もと）に餓へたり。民、今に到りてこれを稱す。其れ斯れを謂ふか。
齊の景公は四頭だての馬車千台を持っていた。死んだとき、民は誰も�ｺを稱することはなかった。伯夷、叔齊は、首陽山の下（もと）で餓えて死んだ。民は今に到るまでこれを稱す、誉める。それはこれのことを謂うのか、ということですが、西安へ行ったときに兵馬俑で駟をみた。あれなんだなと思い、あれが千台もあれば大変、どうしてあんなに一杯作らないといけないのか、と中村（典）さん。馬四千頭は富の象徴、千台は本当に千じゃなくて、一定の量、千乗国とか非常に多いことの例え。死するの日は命日ではなく、死んだ時にはくらいの意味、と稲垣君。スケールが大きい話。伯夷、叔齊はとてもいい人、きっといい人といわねばならない。千台の馬車を見れば、文明というものはきびしいなと思う、こうして発展してきたのだなと分かる、と中村（典）さん。当時の人からすれば、馬が沢山あるのは文明、伯夷、叔齊は文明でない、それがどう対応すｒかが問題、と成田君。一緒に死んでくれる人の方がいい。千台馬車があり、餓えれば最悪、と読まないほうがいいのでしょうか、と中村（典）さん。程子は、顔淵篇10の最後の「誠不以富亦祇以異」が錯簡（さっかん）したとみている。昔は竹簡を紐でつないで冊としていた。策も同じで、戦国策とあるが戦国時代に冊にされたものの意味。紐が切れるとバラバラになり、脱簡、文の途中で入れ換わると錯簡、間違って綴じられてしまう、季氏篇には多いとされる、と稲垣君。「誠不以富亦祇以異」はそこでは意味がつながらない、その後にも景公が出てくるので、そこに綴じられたが、この条の前に置いた方が意味がつながるとしている。　「誠に、富をもってせず、また、ただ異なるをもってす」、で齊の景公はと続けると意味が通るといわれている、と成田君。齊は魯と比べると大国でリッチ。本来なら大国の君主として惜しまれるべきもの。景公は崔抒が荘公を弑して擁立した君主。景公も実は陳氏に弑されている。伯夷、叔齊は周の武王を諌めて禄なく餓死した、その死に方を頭にいれておくといい、と上田さん。景公の歴史的なことは分からないが、景公には徳がない、生きているうちに金持ちであっても、その徳を称せられることはない、と林君。今の政治家も一緒。人民の立場から考えないと、そういう皮肉なことになる。この文章をよく読んでもらいたい。伯夷、叔齊は、孔子が強調している。司馬遷は孔子に大きく影響され、列伝の第一にした。人間は道徳がないと人間らしくない、と張さん。司馬遷の史記、誰が書いたか分かっているものでは、中国歴史書の元祖、諸侯でもない孔子を世家に入れた。列伝の第一が伯夷、叔齊で「天道は非か」と論じた、と稲垣君。景公と比較するのは分かるが、伯夷、叔齊の評価を論語がどうしているのかが分からない。最後に「其れ斯れを謂ふか。」意外につながっていると思うが、理解ができなくて・・・民が出ているでしょう。民に徳を行う、民との政治のからみでどうみるべきなんですか。伯夷、叔齊を民が認める理由は？君子としては評価されていないのでしょう？と李さん。論語で誉められる人は少ない、伯夷、叔齊は仁の人、仁は他人のためにする心、景公は自分のためにしているが、伯夷、叔齊は人のためにしている、と張さん。伯夷、叔齊は武王の革命をやめさせようとした。それは人民のため、仁の人。李さんの民についての指摘は重要。同篇9）に、「困しみて學ばざる。民、斯れ下と為すなり。」とあった。民は知識能力の劣る集団と思われているが、民ですらそれが分かるとしている。景公はリッチ、伯夷、叔齊は餓死、民ですらそれが分かる。民という集団は、あるときには極端になる。ここで孔子と民の考えが一致しているかは分からない。孔子が景公はダメで伯夷、叔齊がいい、と思っているかは分からない、と成田君。「其れ斯れを謂ふか」はこういう事実がある、民は景公は誉めなかった、伯夷、叔齊は称賛している、まあ、こういうこっちゃみたいな、念押し、と稲垣君。「〜か」は疑問形だが、ここでは最後に判断をぼやかし、あいまいにする。孔子は断定していない、と張さん、成田君。そうかなという語感、どっちかといえばそうだろう、の感じと林君。孔子は君子の地位の人にははっきり言わない、と張さん。衛の霊公には厳しいことをいう、よほどのことがあった、と成田君。
じゃ次にゆきましょう、今度は川那辺お願いします、と稲垣君。

13) 陳亢伯魚に問ひて曰く、子も亦異聞有りや。對へて曰く、未だし。嘗て獨り立てり。鯉趨（はし）りて庭を過ぐ。曰はく、詩を學びたりや。對へて曰く、未だし。詩を學ばずんば以て言ふこと無し。鯉退ひて詩を學ぶ。他日又獨り立てり。鯉趨りて庭を過ぐ。曰はく、禮を學びたりや。對へて曰く、未だし。禮を學ばずんば以て立つこと無し。鯉退ひて禮を學ぶ。斯の二つの者を聞けり。陳亢退ひて喜びて曰く、一を問ひて三を得たり。詩を聞き禮を聞き又君子の其の子を遠るを聞く。
すらすら訓読できるとは中文の学生もそうはいきません、たいしたもんです、ただの主婦ではない、と稲垣君。お二人のお蔭で、と川那辺さん。中国語の発音も味があります、と張さん。
陳亢が伯魚に聞きました。子は孔子ですか？伯魚ですか？孔子でしょ、と上田さん。違います伯魚です、と成田君。伯魚、あなたも異聞がありますか。いいえまだです。一人立っているのは孔子？孔子が立っておられ、鯉（伯魚）が走りすぎたとき、孔子がおっしゃいました。詩を学んでいるか？鯉が答えて、いいえまだですと言うと、詩を学ばないと何も言うことはできないとおっしゃり、鯉は退いて詩を学んだ。他の日、又、一人で立っておられ、鯉が走りすぎたとき、孔子がおっしゃいました。禮を学んでいるか？鯉が答えて、いいえまだですと言うと、禮を学ばないと立つことはできないとおっしゃり、鯉は退いて禮を学んだ。この二つを聞いた。詩と禮を学ぶこと。陳亢が退いて、喜んで言った。一つを問って三つ答えを得ることができた。詩を聞き禮を聞き、息子を遠ざける、特別な扱いをしないことを聞いた、と川那辺さん。中文の学生よりいい、大学の意味は何だろう、と稲垣君。陳亢が伯魚に聞くときに、伯魚の答え方は端的、無駄がない、そこが好き。ピンポイントで納まっている。素直に励行している姿もいい。伯魚の答えに二つでなく三つと言ったのは、彼に理解力があり、親のことをもよく分かっていた。遠ざくという言葉、ものを教える場合には、あまり近すぎてはいけない。遠すぎてもいけない。一定の距離を置くことは、子弟関係では重要。親子の間でこれは素晴らしい、と川那辺さん。異聞とは何と思いますか、と稲垣君。陳亢が聞くとなれば、孔子との間で、特別なことを聞いているかを聞いた、と川那辺さん。やっぱりみたいな、息子ですから、やっぱり何かを、と成田君。何故、自分の子を遠くするのか？自分の子は特別に教えるが、孔子は、弟子と子供を区別しなかった。古代の人は、自分の子供を教えることは無い方がよしとした。お父さんが厳しくすれば、厳しすぎれば親子の感情に影響する。優しすぎると学問にならない。他のいい先生に教えてもらう、と張さん。自分の子供にはピアノは教えないものですか、中村（典）先生、と稲垣君。バッハとかモーツアルト、ベートーベンなど古典の世界では親が子に教えている。以降はそうでない、名人芸みたいに技術が進んだ時代とか、社会が調和でない方向に行くときには、親でないほうがよい、と中村（典）さん。父が秘伝などをまとめる、父が亡くなると子が意志を継ぐことはある。親からしか学べないこともある、と稲垣君。連携のなかにあるのは、能楽もそう、観阿弥から世阿弥、同じ職にある場合には、更に厳しいパターンが望まれる。現代はそれを受けとめる人がいないので、遠ざけない方がいいかもしれない、と中村（典）さん。陳亢は、孔子にも子供に甘いところがあるのではないかと思ったかもしれない。顔回が死んだとき、自分の子のごとくに扱えなかったとしていた、と稲垣君。独り立つとは、と声がする。父の立場として、時がすぎるのを、ぼーとしていた、と稲垣君。父は子の勉学状況は気になる、自分が教えているのでないとすれば、確かめたくて、息子が通るのを待っていたのだろう、と上田さん。顔回の年は、死んだとき幾つだった、と声。孔子と顔回の年齢差は30歳。孔子71歳の時死んでおり41歳。孔子69歳の時、鯉（伯魚）が50歳で亡くなっており、孔子19歳のときの子となる、と上田さん。伯魚は陳亢に聞かれ、どこまで考えて返答しているのか、息子だから特別と思って聞いている。聞いてきたなと感じ取り、変化球で婉曲にかわす。本当の答えをしていないが、陳亢は大喜びしている。果たして、陳亢は満足する結果を予想したのか、自然とそうなったのか、と成田君。立つとは何か、と張さん。立つはこの時代では政治的なもの、と成田君。何故、政治に限定されるのですか、と李さん。勉強して、能力を国に生かすとなれば当時としては、政治をするしかない、と稲垣君。鯉が「未だ学ばず」と答えるが、これは実は勉強しているが謙った禮に適った対応とされる、川那辺さんの云われるように、なかなかの対応ができている息子、孔子が息子の心配をしているのだが、息子はもし死ななければ教団の後継者となるのであり、難しい立場にあったと思う、と上田さん。子として弟子としてつらいところはあった、と稲垣君。陳亢は陳子禽と同一視されるが、そうなら子貢の弟子、子貢でも聞きにくいところを聞いたということになる、と上田さん。子禽はそれに若かったので、いっちょ聞いてみるかとしたかもしれない。伯魚は天然なのか、天然を装っているのか。自分から父に教えてほしいとはしておらず、父も寡黙、子も寡黙、それで通じていた、と成田君。立つとは志をたてること、禮を学ぶ、志をたてて禮を学ぶ、人間形成をする意味、と張さん。詩を学ぶは自己表現、社会的教養人として立つ、孔子がわが子を育てるのは、政治家とは限らない、政治家に限定することはない、と林君。両方で解釈すればいい、と張さん。徳ある君子として、自立するには禮、すべて政治家とは限らない、徳のある君子となることを唱える、と林君。詩を学び、禮を学び、徳のある君子が、政治においていい立場に立つのがいい社会、悪いと隠者になる。この時代の教養人の仕事は政治しかない、その意味での政治、と稲垣君。詩を学ばないと言はできないは、子路篇5)に「詩三百を誦して、これを授くるに政を以てして達せず、四方に使ひして專り對ふること能はず。多しと雖も亦奚を以て為さむ」あるように、政治を学ぶことかもしれないが、他の解釈の仕方はある、と林君。詩に興る、人としての情緒を涵養する部分もある、と成田君。徳川時代で読み取ろうとすると、政治をあたりまえとするのは違和感がある。人間性豊かな教養人で徳のたかい人、人間性の方が中心、経世論での詩と禮の解釈とは違う、と李さん。孔子の時代の解釈であるべいとか、徳川時代とか、そういうこともあるが、ここでは自分の人生に役立つように、自分の解釈をしていただければいい、これが正解という風に読んでいるのではない、と稲垣君。江戸の幕府においては、社会のために学ぶ、それが江戸をつうじてのベースにあり、その上で、伊藤仁斎や荻生徂徠が、朱子学のオーソドックス+個人の資質を高める、公のみならず、私の正義、人格の面もある、と成田君。学問の伝統としては、政治がある。李白や杜甫でもその面はあり、宴席で一首、座の文学、政治的な社交の場での学問となっている、と稲垣君。朝鮮通信使において、詩文は政治的なことではなく、教養をもっているなら、相手もそれに気づく、それが出来ないようだと教養がないとみなされる。日本側にも素晴らしい詩文で応じる人もおり、心を通じさせており、政治というより、人間性、教養に関する。通信使の場合、普通に会っても、生活においても必要とされる所と思いますが、と李さん。ここでは、詩経、禮経があるが音楽がない。何故音楽がないのか？錯簡？と張さんの言葉でお開き。
宵山見物の時間となりました。張さん、中村（典）さん、彭鵬君、逄統さん、川津君、杉浦さん、大西さん、上田さん。四条烏丸までは成田君も一緒。鉾と山、長刀鉾、函谷鉾、月鉾、船鉾、岩戸山と進み、彭鵬君、逄統さんとはそこでお別れ、岩戸山では300円で山に上がりました。その後、川津君とゆきはぐれ、中村さんとは地下鉄でさようなら。最後は、張、大西、上田トリオで一揆で一杯、今日で張さんとは最後の飲み会。21日帰国とのこと、See you next year!


2009年７月23日（木）　季氏篇　14、陽貨篇1
本日は祭りの後そのもの、稲垣、川津、大西、上田のカルテット。全員で季氏篇を音読。
本日も塾頭は決まっておらず、稲垣君、季氏篇の最後は僕がやってしまいましょう。

14) 邦君の妻、君これを稱して夫人と曰ふ。夫人自ら稱して小童と曰ふ。邦人（くにたみ）これを稱して君夫人と曰ふ。諸を異邦に稱して寡小君と曰ふ。異邦の人これを稱して亦君夫人と曰ふ。
称謂録、誰をどう呼ぶか、禮記の中にもある。自分の邦（くに）の王様の后（きさき）を王様は夫人という。夫人、后は自らを小童という。日本では童は"わらべ"とルビがふられる。女性の方が地位が一段低くみられている。その邦の人（たみ）、士大夫を含めて、君夫人と呼ばなきゃならない。他の邦の人には、使者に来た時には、寡小君という。寡人、三国志などで曹操が自分のことをいい、徳の足りない人、謙った言い方になっている。他の邦に対して言う時は、一段低くしている。よその邦の人は、相手邦の夫人は、尊敬して君夫人という。朱子の注では、論語のここに何故これがあるのか分からない。これは考証のしようもない。吉川先生は、一篇の終わりのことでもあり、他の書物の竹の簡の破れたものが、まちがって綴じあわされたのかもしれないと見ておられる。これは、また、辞書的な書き方で、論語には出てこないタイプ、爾雅（周代辞書）に似ている。論語には関係のない気がする。こじつければ何かあるが、どうですか上田さん、と稲垣君。この時代には諸侯じゃなくて、賢大夫などが宰相となって政治を担当したり、次にでる陽貨のごとく季氏の家来が政権を奪取したりで、それらの妻を君夫人のごとく呼ばせるような事態が生じ、孔子が、正しくはこうである、と示したとでも考えることはできる、と上田さん。名を正す、ということはありえる。ここは、これくらいにして次に行きましょう。陽貨のことが出ますから、上田さん、お願いします、と稲垣君。

陽貨篇
1) 陽貨孔子を見んと欲す。孔子見ず。孔子に豚を歸（おく）れり。孔子其の亡きを時として、往きて之を拜す。諸塗に遇（あ）へり。孔子に謂ひて曰く、來れ、予、爾と言はん、曰く、其の寶を懷きて其の邦を迷はす、仁と謂ふ可しや。曰はく、不可。事に從ふことを好みて亟（しばしば）時を失ふ、知と謂ふ可しや。曰はく、不可。日月逝く、歳我と與とすることなし。孔子の曰く、諾、吾、將に仕へんとす。
陽貨は、孔子に会おうとするが、孔子会わなかった。公山弗擾や佛肸には会おうとしたが、陽貨とは相性が合わなかったとみえ、避けた。陽貨は、孔子に豚を歸（おく）った。豚一頭を贈ったとみられ、この時陽貨はかなり身分が高かったことになる。この場合返礼をするのが儀礼であり、孔子は会いたくなかったので、陽貨の留守を時として、答礼に出た。ところが途中で陽貨に出遇（あ）う。陽貨は孔子、「來（きた）れ、予（よ）、爾（なんじ）と言はん。」と呼びかけた。「其の寶（たから）を懷（いだ）きて」これは孔子の能力を評価したものだが、孔子の弟子を含めてのこと、「其の邦を迷はす」は、魯をどう孔子が迷わしているのか分からないが、仁と謂えようか｣と切り出した。孔子は「不可（仁じゃない）」と答えた。「好みて事に從はむ」とは仕官しようとしているというのに、亟（しばしば）その時を失ってきた、知と謂ふべきか」と突かれ、また「不可」と答える。「日月逝（ゆ）きて、歳（さい）、我と與（とも）にせず。」、ずぐずしていると時を失う、歳もお前を置いてゆく、とたたみかれられ、孔子は、「諾（だく：分かった）、仕（つか）へましょう」と答えた。だけど実際は仕えなかったのですが、どうですか、と上田さん。何時のことか分からないが陽貨が亡命する前、孔子の歳が49歳、その三年前孔子46歳、働き盛り、若いころといっていいのだろうか、と稲垣君。左伝によれば、昭公25年（BC517）、孔子35歳の時、季氏の季平子と郈（こう）氏が闘鶏で、争いを起こし季平子は、郈氏の邸の敷地を取り上げた。郈氏はこれを昭公に訴え、三桓氏の足並みに乱れがあり、昭公は季孫氏を討伐し、これを捕らえた。郈氏は季平氏を殺すべしと進言したが、昭公はそうしなかった。叔孫氏は事態を静観していたのであるが、季孫氏が滅ぼされることは、ゆくゆく叔孫氏に及ぶと考え、季孫氏救出の兵を出した。事態は一変し、昭公の軍は敗れ、斉に亡命。昭公は32年（孔子42歳）に亡命先で亡くなり、孔子はその前に魯に戻るが、仕官に及ばず詩書禮樂を修め、弟子が増えたと司馬遷はしている。定公5年（BC505：孔子47歳）に陽貨が季桓子（季平子の子）を監禁する事件が起こる。昭公27年に孟懿子と陽貨が鄆（うん）に居た昭公を攻めており、陽貨は季氏内でこの頃から力を持ち始めていた。定公6年には鄭に侵入し匡（きょ）を攻め、後に孔子が匡で陽貨と間違われて難に会うことになる。この年陽貨は周社で定公と三桓を誓わせ、国人には亳（はく）社で誓わせ、五父之衢（ちまた）で（反対者への）詛（のろ）いを行った、政権を季氏の家臣であったものが奪取し従うことを誓わせたことになり、まさに、衝撃的な下克上が出現したことになる。論語では八佾21）で、哀公が社を問うて宰我が「周人は栗を以てす。曰く、民をして戰栗せしむ。」とこのことに言及して、孔子に叱られていた。左伝では孔子47〜48歳の頃となる、と上田さん。孔子は当時は官吏の吏、若い頃には、家畜を管理する吏でよく増やした（委吏：積荷と米倉を掌る役人の時、升目を正しくして評判が上がり、これに由って司空（土木担当）ともなった）。吏であり、重要な役割には就いておらず、陽貨の誘いにも、「諾」と答えたが仕えなかった。孔子は陽貨を偉い人物とは思っていない。諾は、弟子が返事をする時の「唯」と比べると、同僚間で「分かった」というくらいの言い方。子貢が、分かったそれじゃ先生に聞いてくる、というときに言った、諾と同じ。割りにぞんざいな口の聞き方。道でバッタリ出会うのはドラマチック。「其の寶を懷きて其の邦を迷はす、仁と謂ふ可しや」、寶に弟子が含まれるということは言えるかもしれない、と稲垣君。「邦を迷はす」はどういうことか、陽貨と一緒にやらないことが邦を迷わすと言っている。孔子も一応、諾、仕えると言っており、実際は仕えなかったが、季氏をはじめ三桓氏を抑える意味では方向は同じ、陽貨のように自ら政権を取ることはない、と上田さん。孔子はここで引いたことを後悔したかな？やっておけばよかった？孔子もまだまだ未成熟な段階であったのか？叛乱と出仕のあり方でもあり、リアルタイムに政治情勢が大きく変化しており、必ずしもハッピーといえない方向に動く。寶とは「志」ではないか。事とは政治、政治に従う。政治をしようとするのに、時がない、時を逃がして、知と言えるか。知があれば自力で引いてくるべきもの。その能力がなく、邦を惑わすのは仁者じゃない。陽貨と違うやり方で孔子がしているが、なのに、孔子が邦を惑わす、現実では違う方向に行っている。「來れ、予、爾と言はん」は太っ腹で、お前と話そうじゃないか、来たれ、で迫力がある。圧倒される。孔子も負けじと、「諾」で応じている、と稲垣君。不可は陽貨の言葉とする説がある、その場合は圧倒されるという意味にはならない、と川津君。それはこじつけだろう、孔子の言葉とすべき。二回の不可の強さが違う。陽貨は仁で攻め、不可（仁とはいえない）、知で攻め、不可（知とはいえない）と重くなり、時は待たないとたたみかけ、もう不可とは答えられず、諾と言わざるを得ない展開、と稲垣君。陽貨もただものではない、ただ、孔子のごとく弟子を育成するということはなく、優秀なブレーンもなく、政権奪取ということでは孔子より現実的決断力が鋭かった。孔子も以降、定公に抜擢され、中都の宰となり、司法大臣のとき、斉との交渉で陽貨が斉に持ち出した地を回復する成果をあげ、三桓氏の武装解除を行うが、陽貨のごとき決断を欠き、失敗して魯を去り諸国を放浪することなる。斉が女楽を送り込み季氏などが政治をおろそかにしたので国を出たというが、この失敗による、と上田さん。三十にして立つ、四十にして惑わず、五十にして天命を知る。天命を知る直前の事件であり、これを経て天命を悟ったとなるのか。それにしても十五で学を志すというのもすごい。御者をして取り立てられることがあり、どんなことでも器用にこなした丘（孔子）であり、御者もいいかと思ったが自分には合わないと思い、学問を目指した。果たしてそんな道が開けていたのか？有る無いの意見が出たが、「夏に校と曰い、殷に序と曰い、周に庠と曰い（孟子「滕文公章句」）」、古くから学校があり、「人が生まれて八歳になると、天子や三公の子弟から庶民の子弟に及ぶまで、みな小学校に入れ、そこで水をうって掃除をしたり、人とのうけこたえをしたり、立居ふるまいをしたりすることの折りめや、礼儀作法と音楽、弓射や馬車の扱い、読み書きと算数などの六芸の学科を教えた（朱子大学章句序）。」とある、これは姓のある氏族（百姓）が対象で、姓を持たない黎民（下農民）は含まれまい。この事件と孔子の年齢については、おぼろげながら「知天命」の50歳前２〜３年の頃と想像される。この下克上は、農業や商業により富を築き士の階級へと上がってくる時代背景があり、一代前には賢大夫の中で制度改革や殖産政策を行い、邦を合理的、経済的に運営する政治を経ている。下克上は、諸侯と有力氏族の力関係が膠着状態に陥ったところを、有能な家臣が氏族の不満分子を味方にして全体を抑えるような構造となっており、孔子とて、周公の政治を復興するといっても、500年強前の周初とは社会の条件が変わっており、そのまま適用すればいいとは思ってはおられなかったであろう（以上横道）。
70年の学園紛争のとき、西洋史研究会に所属し、資本主義から共産主義への移行は歴史の必然、歴史を学ぶとはそれを実践することと教え込まれた時代。ギリシア古代史をやっていると、近代、現代史をする反日共系と日共系の双方から、まずは奴隷制を勉強せよ、君のやっていることは甘いと攻められたものだ。紛争が激化し、自己批判、団交の嵐が大学を吹き抜け、西洋史研究会の委員長でもあり、勉強もそうだが紛争、闘いに係わるべしが建前、それに踏み切れないのは、歴史認識に欠ける、自己批判が不徹底、と、しんどい日々だった。最後にまとめた議案書は普段出席しない先輩が大挙出席して否決、次期執行部を反日共系で押さえる活動方針を鮮明にするためである。打ち上げの後三条から鹿ケ谷まで涙ポロポロ歩いて帰った、あのしんどさは以降の人生ではない。孔子にすれば、現実に下克上が起こったとき、天の意思か、気まぐれかか、それが自分に加われと言ってくる。後の陽貨の行動から叛乱と決め付けているが、その瞬間、孔子はえらく迷ったのではないかな、と上田さん。東周のニュアンスはどうですか、と稲垣君。私もそこが、と大西さん。周の政治を東である魯において為す、と上田さん。魯は周、周の中でも周公を祖とするもので、魯の政治を行えば、周の政治を行うことになり、東周などまぎらわしい言葉を使う必要はない、と大西さん。周公の政と言ってもいいけれど・・・と上田さん。陽貨と孔子は歴然として異なる。陽貨が魯の国を正すつもりはない。自分のためだけにやっている。孔子がそんなものに仕えるわけがない。分かりきったことで、孔子は上の者には慎重に言葉を選んでいるにすぎない、そんなことに迷いはない、と大西さん。それほどはっきり立場が違っているのなら、公山弗擾、佛肸の招きに応じようとしたのをどう説明するかが今後の問題、と上田さん。周公の理想が固まるのは、この後ということかもしれない。孔子にも成長の過程がある。三国志の時代、中国では言葉尻をとられて失敗するケースがよくある。捕らわれ殺されてしまう。阮籍（げんせき）は、母の喪中に肉を食らい酒を飲み続け、言いがかりをつけられると、日頃やせ衰えており、肉を食うのは滋養を取るためだといって言いのがれた。保身のためにわざとそうした。魏の司馬氏が台頭し、仲達の子孫、武帝が晋を開くのだが、いつ政争に巻き込まれて命を落さないとも限らない。だから、阮籍は佯狂を装うことによって、「戦戦兢兢，如臨深淵，如履薄氷」、危険を避けた。大西さんの、孔子が慎重に対応したという考え方もうなづける、と稲垣君。
残りは一揆で、来週8月2日（日）15:00〜です。17:30で終わり、宝が池に移動して、ビールとおつまみを買って花火見物ですので、お間違いなく。

2009年8月2日（日）　陽貨篇2〜4
陽貨篇を全員で音読。途中から、中村（典）さん、芸大大学院二年でフルートを学んでおられる田呈媛tián chéng yuán さんと一緒。デンと発音しないで、tiánと言ってほしいとのこと。
本日も塾頭は決まっておらず、稲垣君、まずは李さんにお願い。

2) 子の曰はく、性相ひ近し。習らへば相ひ遠し。
孔子が言いました。性はもともと近いものなのですが、習えば遠くなる。学ぶべき、学べば悪い性格も善くなる。これは有名なところ、有名なフレーズで結構よくでてくる。習わないと禽獣とおなじになる、と李さん。三字経に出てくる、と林君。では、人間の本性は禽獣と同じということですか、と稲垣君。貝原益軒は、天地から生命をもらっており、学び、自分を修めないと禽獣と同じになると言っている、と李さん。人と禽獣は一緒ですか、と稲垣君。制度ということでは人間は異なる。尚書を引用して、万物の長、そんな人間でも学ばなくてはいけない、と李さん。性は天より授かったもので、どの人間の性も生まれつきはそう差はない。しかし、習うことによってすごく差がつく、と上田さん。性はうまれつきでいいが、善いか悪いか、孔子のときにはそういう分け方はないが、孟子は性善説、荀子は性悪説を唱えた。善いというなら、もともと善いのに、学習、また習慣でもあるが、悪いことを繰り返すと悪くなる。性悪なら、学習により善いものを取り入れ、性を善くする。孔子はこの両方を言っている、と成田君。孔子は性を善とも悪とも言っていない、と林君。習うは学習より習慣の方、と稲垣君。繰り返し行うこと、と成田君。単に個人ではなく、ある集団の中で、繰り返し同じことをすると、感化されてゆく、と稲垣君。金谷先生は習を「しつけ」と解釈されている、と林君。習いが性となる、と安澤さん。成長をしている間に善くなる、と林君。チンパンジーの愛ちゃん、だんだん人間に近ずいている、と稲垣君。普通のチンパンジーから遠くなる、と成田君。性悪、性善で儒家は分かれるが、孔子はそこまで言っていない。孟子は性善説、朱子も性善説だが性悪にも配慮している。習うことが如何に大切であるか、術、職人は槍や刀をよくするために努力する、盾をつくる人は守ることに術を傾ける。同じ職人でも、攻める道具と守る道具では、何になるかということで遠くなる、が孔子。孟子はそれを性善説で貫く、もとがよいのでやりなさい。貫くことが学ぶこと、と鄭さん。荀子そのものは、そう性悪説ではない。禽獣、原始の状態というものから作られてゆく道程とみている、と稲垣君。君子は習うことには慎重に行う、善いことも悪いことも含んでいる、と、高津君。次は、高津さん、お願いします、と稲垣君。

3）子の曰はく、唯だ上知と下愚は移らず。
先生がおっしゃった。ただ、とびっきりの賢いものと、どんじりの愚か者とは替わらない、と高津君。何が替わらない、と稲垣君。まんなか、途中の人。上知、一番賢い所を目指すも、かわってあちこちゆく。極めたものは変わらない、と高津君。一番トップですか、と稲垣君。トップより、最高の知識とか、自分自身を極めた者。全く習わない人との対比、と高津君。上智大学はここから？と稲垣君。ソフィアという、と安澤さん。下愚は箸にも棒にもかからない、と稲垣君。ここは前の条と関連させる。性がもともと善いが、悪いでなく中間のもの、上に向上する要素、もっと悪くなる要素もある。習って上にゆくとそのまま、習わず下にゆくとそのまま、と成田君。上知より下愚に力点がある。愚は先天的なものでなく、後天的に身につく。季氏篇9)に「生れながらにして知る者は上なり。學びて知る者は次なり。困（くる）しみて學ぶは又其の次なり。困しみて學ばざる。民、斯れ下と為すなり。」鄭さんは聖人、賢人、とか言っておられたが、と稲垣君。前につけて読むと、つけないと意味が変わる、つけると性に限定して読むことができる。生まれつきの上と下は移ることはない。習うことによって変わるが、唯、こういうことは起こらない、上知と下愚は、これは士に限定されるが、生まれつきの質があり、移ることはない、と鄭さん。短い句は、断片の意味を分かっている人が、何らかの必然性をもって並べている、と稲垣君。唯、が最初に入っている。断定して強調している。何かの言葉があって、唯、と展開している、と鄭さん。先天的、後天的なこと、例外はあるが、どうしても変化ができないところがある、ダメ生徒に言う言葉に、「唯朽木不可雕也（公冶長篇10）」というのがある、と林君。元はよい木も、時をかけて朽木になる。そうなれば施しようがない。学習に孔子の力点があるが、どうしようもないことがある、と成田君。人の力では変えることができないものがある、上知と下愚は先天的か、それとも後天的ですか、と林君。両方とも考えられる、と成田君。孔子がこの言葉を発した状況。弟子に入ってきたものを孔子は見ている。しかし、そうしても成りえないところがある。生まれつきというのではなくて、見ている間に分かる、と鄭さん。中村（典）さん、モーツアルトは上知ですか下愚ですか、と上田さん。上知でしょうね、と中村さん。生活素行はめちゃくちゃで、それは下愚じゃないですか、と上田さん。杜甫や中原中也も酒や借金やで生活面では、と稲垣君。啄木もそうでしょう、と中村（典）さん、野口英世もひどくて、と稲垣君。これは弟子の器をはかるもの、なんとなく分かる、孔子と弟子に限定するなら、顔回は上知だろう、と鄭さん。静かで動いていない状態。動くと伝わる。静、寂、動いてよいのは上知、悪いのは下愚、と高津君。吉川先生は上知は堯や舜のような聖人としておられる、普通ではありえない、顔回も上知じゃない、と大西さん。弟子との関係、政治の中でみてゆくなら、吉川先生のように聖人を堯や舜に限定することはない、と鄭さん。下愚については孟子は性善説にたっており、下愚はないとしている、と成田君。性善説をとるしかないと思います。仏教には自分を愚かしいととらえ、世界を変えるようなマジカルフレーズがある。この句には何かすごいパワーがある。上知も下愚も、世界を変えるぐらいであればいい、と中村(典)さん。聖人は知、愚のみではない。仁であり、上知必ずしも聖人ならず。別のカテゴリーがいい、と成田君。下愚はむつかしい。昔の人は自暴自棄、自ら放棄するようなことでもないと、必ずしも愚の人のみならず知の人でもそうなれば下愚とみている。上知はイチローみたいに、やるべきことを一つ一つ手順を踏んで積み重ねており、底が固く容易に崩れるものではない、それでもWBCでは不調で胃を痛める思いをしたというからむつかしい。今からではもう遅すぎますと言われ、器じゃないとがっくりするんだなあ、と上田さん。知性でなく知恵のこと、と安澤さん。大賢は愚にみえるとも言う、中村(典)さんの愚です、仏教でいいますか、と上田さん。老子か荘子でしょう。愚と賢じゃなく賢と不肖、と成田君。ここで田呈媛さんと自己紹介タイム。次は、林君お願いします、と稲垣君。

4）子武城に之（ゆ）きて弦歌の聲を聞く。夫子、莞爾（かんじ）として笑ひて曰はく、鶏を割くに焉ぞ牛の刀（かたな）を用ひん。子游對へて曰く、昔し偃や諸を夫子に聞けり。曰はく君子道を學べば、すなわち人を愛す。小人、道を學べば、すなわち使ひ易し。子の曰はく、二三子、偃の言（こと）、是（ぜ）なり。前（さき）の言（こと）これに戲（たわむ）るるのみ。
先生が武城という町に行かれたとき、音楽を奏して歌う声を聞き、にこりとして笑って言われた。鶏を割くのに何故牛の刀を使うのか。武城の長官をしていた子游はこう答えた。昔先生がこんな話をされた。君子は礼楽を学ぶことによって人を愛することができ、小人が礼楽を学ぶことによって使い易くなる。それに対して孔子は、その通りです。皆さん、偃の言った言葉は正しい。前に私の言ったことは冗談にすぎない、というですがと林君。憲問43)に「上禮を好まば則ち民は使ひ易し。」とある、と稲垣君。道を礼楽とされたが、最初に弦歌とあり礼楽でいいと思うが、道はもう少し広い概念、と成田君。ここでは弦歌であり、礼楽に限定される可能性がある、と林君。この時は他の門人も一緒に来ている。孔子と子游のみでなく、二三子も一緒に笑った。この二三子も入っている、と稲垣君。子游のいないところで笑い、二三子が言い、子游が先生に言った。孔子はいつも国家を強める大きな話をする。田舎においても孔子のアドバイスに従ってきちんとしている。ここでもそういう道を実践すべき、と林君。孔子自身は頭の中で国家ばかりを考えていた。もう一度政権をとれば、と考える。小さな町のことを考えなかった。そこを子游に改めて気付かされた。弟子がこれから仕事をしてゆくにはこういうことが大事、と鄭さん。武城は、雍也篇12）にあるが、呉、越に通じる要所、子游が宰相であった。軍事的要所であるに弦歌の聲というのが場違い。古注では、子游の才の大きさからして武城は小さいという例えとする。武城では、子游が澹臺滅明を用いたが先生は善しとされず、後に、先生がこの失敗を認めるという話があった。孔子より少（わか）きこと45歳、子張より4歳上、若いが文武に秀でていた、と上田さん。二三子がいる。常に、天下国家のために考え、弟子に教えている。教えていることは分かるが、サンプルがない。小さな町であるが、それが行われている。先生にも弟子にも発見があった、と稲垣君。お話を聞いていると、教育の成果があった明治に師範学校を作り、全国に散らばってゆく、そういう感じ、それをまのあたりにする、感じとしていいところ、子游は年が若くて、孔子に言われてもむきになって言い返すのに「かわいさ」がある、と中村(典)さん。「かわいい」ですかと感心する若手一同。小人が使いやすくなるとはどういうことなのか、と上田さん。近代国家で国民教育をした。教育をすると上からの意向が伝わりやすい。庶民までも学ばせると統治がしやすくなる、と鄭さん。革命劇みたいなもので、歌にして覚えさせる、と稲垣君。ここは私の好きな君子と小人の対比。君子が人を愛すようになるのは是非そうして欲しい。小人が使いやすいというのはそうであって欲しくない。今日は滋賀県に行ったのですが、ブラスバンドがありまして、音楽の軍隊、軍楽の音楽、それが全員女子生徒、見事なまで女子のみ、話には聞いていたのですが、実際にみてビックリしました。その後、これも恒例行事ですが戦争の展示、遺骨の収集などですがそれを見てきたのですが、そんなものとからみあったものが浮かんできました、と中村（典）さん。丁度時間となりましたが、外は雨。

花火はできるのでしょうか、と怪しい雰囲気。しかし、通り雨でなんとか止み、宝ケ池に向いました。途中でライフでビールとおつまみを調達。夕暮れのなか船着場へとそれぞれが参集。雨のあとで人出は少なく思えたが、だんだん増加。まずはビールで乾杯。田さん、朝から食べていないのでおなかペコペコ。川面に霧がたち、ギエーと鳥の声、しばらくすると月が顔をだす。林君詩を吟じる。そうするうちにドーン、ジリジリジリと花火。頭の上に広がる。半信半疑だった李さんも素晴らしい。音が山に反射し、空には光の軌跡が飛び交い、鳥も飛び入る。フィナーレの光のカーテンが消えると、人々がすーと消えた。読書会のメンバーのみ残り貸切宴席。田さんのフルート、やさしく、丁寧な音色、活発な言動とは一味違います。歌を歌ってすっかり出来上がりました。夏のいい思い出となりました。


2009年8月8日（土）　陽貨篇5、7
大西さん、国際会議場でインターンシップとして半年勤務のCharles H. Roussin君と一緒。ローザンヌでホテル経営を学んでおられる。日本語も中国語も少しわかるとのこと。仏、独、英、中、日の順か。陽貨篇を全員で音読。珍しく津布良出席。都合があえば、8月22日に本篇の9と10、詩に関するところを解説いただく。同日は成田君の送別会の日でもある、来週は盆休み、本日は成田君に塾頭をお願いする。陽貨篇6はすでに終えている（5月14日）。

5) 公山弗擾、費を以て畔（そむ）く。召（よ）ぶ。子往（ゆか）んと欲す。子路?（よろこ）ばずして曰く、之(ゆく)こと末（な）きのみ。何ぞ必しも公山氏に之かむ。子の曰はく、夫れ我を召ぶ者にして、豈に徒（ただ）ならんや。如し我を用ひる者有らば、吾、其れ東周を為（せん）。
公山弗擾という人、公山が苗字で弗擾が名前、史記では公山不狃、当時の発音は弗擾も不狃も同じ。費b?は町の名前、ここを根拠地として反乱を起こした。陽貨と似たようなもので季氏の下に居る人。軍事力を背景にして、反乱をした。召（よ）ぶは、孔子をブレーンとして使う、孔子は行こうとした。誘いに乗って行おうとすると、子路がおもしろなさそうで言った。行かんでもいいじゃないですか。何ぞ必しも〜せん、そうである必要はない。何でまた公山弗擾のところへ行く必要があるのか。私をよぶくらいの人なら、無意味であろうか、必ず何かあるはずだ、徒労にはならない。私を使う人があれば、東の周をつくる、当時は王様は周におり、孔子が居るのは魯、周は国の中心、文化的にも政治的にも中心、そういう周のような国を、周の東にあたる費でつくってやろうということだけれど、皆さんいかがでしょうか、と成田君。陽貨の時には孔子は会いたくなくて避けていた、左伝では今回はそれから三年後、定公8年（BC502）孔子50歳のことだが孔子は行こうとしている、と上田さん。陽貨のところは行きたかったが行かなかった、陽貨の誘いに"うん"と応えているが、行かなかった。今回ははっきりと"行きたい"と言っている。ここには積極性がある。前回の消極的とは違う。後の孔子象からすれば理解できないことになる。自分で新しい国を興すという考えととれなくもない、と稲垣君。陽貨は季氏や孟孫氏や叔孫氏の不満分子から誘われたが逆にこれを利用して三桓氏を牛耳り、更に定公や民を従えるという事態が起こった、革命的な出来事であった。ところが陽貨を支える勢力はなく、魯を追われ亡命する。公山弗擾の場合は孔子50歳、これに孔子は結局加わらず、中都の宰となり、司空、司寇となり、斉との交渉で功績をあげて、定公をたてて三桓氏の勢力をそぐことを行い、失敗して放浪をすることになる。魯が非常に流動的な時の出来事、と上田さん。孔子は子路に相談したのではないですか？行こうと思ったが不安をもちつつ、子路に聞いたのでは？吾、其れ東周をなさんか。年が50にさしかかり、ここでしないと、と追い詰められた気持ち、その反面反対してくれる人がいるのではないかとも思う。子路がそこまで読んでいたか知らないが、こんなことをすべきでないとした。子路が自ら言うことはなく、相談されて答えた。追い詰められている感じ、と川那辺さん。子路は自分から言った、先生やっちまいそうで、ひょっとしてと思って言った。この年、50歳は「天命を知る」、放浪の前で、これからバリバリ行くぞ、下積みからランクが上がり、魯の国のことが出来るレベル。孔子は、自分の裁量でできる役職に魅力を感じている。公山弗擾が全部まかせてくれるなら、魅力的ポスト、と成田君。公山弗擾は季氏の家来。誰に背いているのか。もし、定公に背くというなら公子が行くはずがない、何故行くのか、と大西さん。魯の殿様には力がなく、家臣の季氏が力をもち、その下の陽貨が更に下剋上。次は俺だ、で公山弗擾がきた、と成田君。孔子の考えからすれば、魯の君主なくして、取って代わるはありえない、と大西さん。通例の考え方ではそうだが、それが大問題、革命の精神があるとすると、議論の対象になる。孔子には迷いがあった。子路と話した。行く気があったのは、孔子がでかけて婉曲に止める、公山氏にゆかなくてよいは、小さい勢力に仕えるのはいいが、魯にたてつこうとしている人間につくことはない、実力を発揮するには、小さい所でよいが、わざわざ公山弗擾はない、と稲垣君。成田君のおっしゃるように、50歳、天命を知る、やってみたい気持ちが強かったと思う。陽貨のやり方ではダメ。しかし、東周をなすとは、文王、武王のやったことで、諸候を越えた次元で、定公をたてるどころではない。実際には定公をないがしろにすることはない、そのあたりが揺れておられたのではないか、と上田さん。陽貨は孔子に来い、上からの命令。孔子は会いたいとは思わず、結果まあ、従わないではない。この場合、周りが誤解していたかもしれない。"召"は権力の高い人が低い人に言うことば。ほぼ命令調で拒否することはできない、と高津君。陽貨は同国人、公山弗擾は離れた小さい費の町、招聘するしかないので、"召"、と稲垣君。公山弗擾はどういう人か、魯の国を再興しようとしていたのか、と大西さん。孔子に尊敬されるようなところがあるのかということだが、と稲垣君。哀公の七・八年(BC487年)頃に亡命していた叔孫輒（ちょう）と話し、他国から亡命して国を逃れたことを公山弗擾に話しかけると、恨みを返すことはないといったようなことを言っていたのではないか（故国を離れた人間は、悪（にく）いからとて郷土を損なうことはせぬもの：哀公八年）。公山弗擾は自分の国に反乱を企てているような人とは思えない。魯に対して背くは変で、季氏に対して背いている。それに対して孔子が招聘され応じようとする。魯に対する反乱でなく、他のことに対する反乱、と津布良さん。当時は魯の君主には実権がなく、季氏を筆頭とした三桓氏が握っており、一時陽貨が実権を握ったが亡命することになり、三桓氏が再び実権を持った。左伝をみると、民も結構その方向を支持しており、孔子が定公をたててやったが失敗している。孔子は季氏が八佾の舞や太山での祭りをするのを批判するが民はそういう流れを支持していたようで世論はそういう感じ、と上田さん。"せろん"と"よろん"は違う。"せろん"はいいかげんなところがあるが、"よろん"はきちんとした考えのあるものです、と稲垣君。東周をするは、定公をたてないとダメじゃないか、と大西さん。公山弗擾をたてることが定公をたてることであればいいが・・・孔子の理想のスケールの馬鹿でかさ、常軌を逸している、と稲垣君。公山弗擾は費の町をよく治めていた。子貢、閔子騫を費の宰にしようとすると閔子騫はいやがった。子路や子貢をすすめるがやめておけとなる。そういう人が費に派遣されればやりにくい所、費の人々は、公山弗擾を慕っていた、と津布良さん。

6) 佛肸（ひっきつ）召（よ）ぶ。子往んと欲す。子路が曰く、昔し由、諸を夫子に聞く。曰はく、親（みずから）其の身に於て不善を為（す）る者、君子は入らざる。佛肸中牟（ちゅうぼう）を以（い）て畔（そむ）く。子のこれに往くこと、これを如何。子の曰はく、然り是の言有り。堅きを曰はずや、磨（と）げども磷(うすろ)からず。白きを曰はずや。涅（くり）にすれども緇（くろ）まず。吾れ豈に匏瓜（ほうか）ならんや。焉ぞ能く繋(かが)って食（く）らはん。
佛肸は人名。佛肸が孔子を呼んだ。孔子は行こうとした。子路が言いました。昔私は先生からこういう風に聞いています。自ら、自分自身においてよからんことを行うは、君子は立ち入らない。以（い）ては井（い）て、率いてのこと。佛肸は中牟の町を率いて、根拠にして反乱をしていた。先生がそういう所へ行こうとするのはどうなんですか。そのとおり、こういう諺がある。歌の文句。不曰〜乎、なんと〜のことではないか、なんと堅いことではないか、砥石で研いでも薄くならない、堅いとはそういうこと。何と白いことか、涅（くり）にすれども緇（くろ）まず、池の底の黒い泥を染料にして染める、それにしても黒くならない、私はそれだ。佛肸と交わっても、朱に交わっても赤くならない。匏瓜はひょうたんとかへちま。私は、ひょうたんやへちまではない。ひょうたんへちまはぶら下がっているだけで、食べられない。ぶら下がっているだけでは耐えられない。どこでもいいから仕事をしたい、と成田君。まるで私はひょうたんみたいなものなのか？ですか、と川那辺さん。一体私はひょうたんなのか、いやそうでない、と成田君。苦瓜みたいによむが普通の瓜でも通じる。親、自分自身に対して、自らあえてそれが悪いことと知っていて、悪いことをする、と稲垣君。晋では趙簡子と范氏ならびに中行氏が対立しており、衛や斉は范氏、中行氏を援助していた。佛肸は范氏の臣、中牟の宰相、中牟を以て畔く、とは、中牟は元来は晋の地であるが、佛肸がこれを手中におさめ、衛に帰したこと。哀公5年（BC490年）のこと。孔子はその時、衛の霊公より俸禄を得て仕へる予定で一団の弟子を連れて衛に居たが、近臣の反対で結局用いらないでいた。弟子を抱えてのこと、金策も必要であった。そこに佛肸から声がかかった。佛肸が晋の地を衛に渡すことを不善を為すとみている、と上田さん。親は身近、自分のコントロールできる範囲の中で悪いことをする。思わずではなく、やってはいけないことをやる、と成田君。自覚的か、と稲垣君。自覚かどうかは別問題、と成田君。史記によると范氏、中行氏は一人の人。ライバルの趙氏が中牟の町を攻め、佛肸が寝返った。そうしなければ仕方なかった、と成田君。趙簡子は陽貨を受け入れており、陽貨は衛の霊公亡き後の相続問題でも役割を果たす。孔子の反対側で逆のことを行う、孔子の影みたいなところがある、と上田さん。公山弗擾と佛肸には、それぞれ畔（そむ）くとあり、子路が反対するという基本的構図がある。孔子が行きたがって、子路が止める。陽貨の話は、陽貨は徐々に権力を奪う、相対的な平和な時のやりとり、ここでは子路はいらない、出番がない、と成田君。陽貨、公山弗擾と佛肸の三つは意図的に置かれている。孔子の決断が一本の線でつながっている。公山弗擾と佛肸の起こしたことが悪いことでなければ、反乱という文字は出てこない、と稲垣君。公山弗擾と佛肸において、子路は正論、孔子はやたらとえらそうに言うが、ただの負け惜しみと聞こえる、みたいに読める、と成田君。40代後半における陽貨との対応、50歳における公山弗擾との対応、60歳を超えた放浪中における佛肸との対応、それぞれの体験からこれはダメだがこれならみたいなものが出来上がった、と上田さん。孔子の意志が固まってゆく。孔子像というものがある。40代、50代、60代のエピソードというものにも必然性がある。しかし、50で知天命　60代で耳順に結び付けて考える必要はない。人間は成長するものである、年をとり冷静に見つめている、そこを意識している、と稲垣君。孔子のイメージは白髪でよぼよぼ、やたら元気という晩年のものが大部分を占めており、青年時代のイメージはしにくい。陽貨篇には若い、完成されたイメージでない、完成されていない孔子も出ていてそこがおもしろい。孔子の生育には謎があるが、ここもそういう部類、と成田君。事実関係はブレているものも並べつつ、孔子がこのような言動をしたのは、それなりの筋があった。歴史的事実は曲げられないが陽貨、公山弗擾と佛肸、関係ないような条をつなげているが、判らないが、そこに意図がある。子路に六言六蔽を教える、子路が短絡だから状況に合わせて考える必要がある、表面と内側をよく観察する必要がある。孔子がそういう主張をしている。孔子が加担しようとした人材（陽貨、公山弗擾、佛肸）にもみどころがあった、と津布良さん。子游が武城という小さな町で、大きな国でなすべきことをやっていた。費では東周というスケールのでかいものがでる。小さい町、そういう状況であっても変わらないものとの対比がある、と稲垣君。中国では、勝者は王、敗者は賊、歴史は勝者の書いたもの。孔子は柔軟で臨機応変、陽貨にも対応。子路の真直ぐの考えとは対立、時代を読んでいたのは子路、孔子が加担していたら、そして負けていたら、孔子は残っていない。歴史事実はあいまい、それしか資料がない。後から見れば孔子が加担しなかったことがよかった、と高津君。武王が負けていれば、王にもならなかった、と成田君。みなさんが今日ここに居るのは事実であるが、どう位置づけるか、どうなるかは別のこと、と稲垣君。孔子は人間の好き嫌いがある。子游なら、そうだとなるが、子路ならやりこめる、と津布良さん。子路が得意でないところをつく、と稲垣君。顔回にはちがう、と高津君。宰我は徹底してやらうれる、と津布良さん。陽貨が実権を握った時期は短く、これを支える勢力がなく、下剋上として片付けられているが、それが起こった当時は革命的な出来事だったと思う。大学紛争のころ、毛沢東の文化大革命の自己批判で政治家が粛清され、大学では団交で学長が自己批判が足りないと吊し上げられる時代で、歴史を勉強する者は、歴史の必然、革命に加わるべきであると、そうはしなかったけれど、実にしんどい日々であった。下剋上の世にあって東周をなすということは、革命的側面があり、孔子の心も迷いがあったのではないか。孔子も三桓氏の勢力を削ごうとして陽貨のごとき徹底性がなく失敗をした。定公を立てるということは支持を得ることができなかった。放浪中も諸侯をたてて補佐して周公の政治を復活せんとしたが、これも諸侯の支持を得られなかった。時代の流れとは乖離していた。葉公を通じて楚の昭王が最後の機会であったが実現せず、孔子はこの方向では実現不可と悟り、春秋（歴史）や易に注釈をつけ、弟子の教育に残る人生を費やそうとされた。どれもトコトン失敗しておられる、それでもおやりになる、と上田さん。
少し時間がありますので津布良さんに「詩三百、一言以てこれを蔽ひて曰く、思無邪。」についてどうですか、と稲垣君。為政篇で政治について話している所で、いきなり出てくる。徳を以て政をするというのもよく判らない。１条と３条が並ぶべきなのに、その間に詩三百があり、そうである以上それを補足的に説明するものと考える。古、各地の詩を集めて回った。そのことからすると、詩は率直な形で表現されるもので、為政者に対する不満を述べた詩、そういうものは苛酷な政治の中でつくられれば、後の時代では引っ張られてしまい、メタフォーが用いられる。そのような時代の政治はよい政治ではない。思うことを率直にのべるが思い邪なし。のびのびとした政治がおこなわれていたことをいうのではないか、と津布良さん。
季氏篇に孔子が息子に詩と禮を学んだかと聞くところがありますが、詩と禮があるが樂は出てこないのですが、これはどうですか、と稲垣君。詩と禮は若いうちに治めるべきこと、十有五で学に志す、三十にして立つとありますが、立つは禮にからむ。30歳で禮について治めた、自分の考えがしっかりしてきた。詩に興り、禮に立ち、樂に成る。禮は若いうちに始めるが、樂はどれくらいで修めるか。詩を学ばないと話にならない。陽貨篇で壁に向かっているとあるのは、何も見えていないこと。若者のありさまのようなもの、独断と偏見、そこまで言っていいか、そこから脱するのが詩と考えていた、と津布良さん。
では、22日をお楽しみに。
本日一揆はシャルル君、津布良さん、大西さん、上田さんというユニークな取り合わせとなりました。


2009年8月22日（土）　陽貨篇9、10
成田君、水墨画の塩見君を同道。造形美術大学で講師。全員で陽貨篇を音読。本日の塾頭は津布良さん。

9) 子の曰はく、小子、何ぞ夫（か）の詩を學ぶこと莫（な）きや。詩以て興（きょう）す可く、以て觀（み）る可く、以て群（ぐん）す可く、以て怨む可し。邇（ちか）くは之父に事（つこうまつ）り、遠くは之君に事る。多く鳥獸草木の名を識る。
孔子がおっしゃいました。小子、つまりこれは若者たち、弟子たちに向って、どうして詩を学ばないのか。詩は以て興、興については古注では比喩の一種、譬えと書いている。それとして興をとらえている。新注では、感情、気持ちが興ってくること、興（おこ）すと読む。以て觀る、觀は古注では、風俗を観る。詩の中には諸国の風俗が歌われるので、どう栄え、すたれるかを観る。新注では、よく分らないが、詩のなかで自分が知っていること、まだ知らないことを見つけて、考察する。群すは、古注では、おそらく、詩を学ぶ者同志が集まり、相切磋琢磨し、学問を勉強する、詩を通じての学問の仕方。新注では、和して流れず、調和するが流れることはない、主体性をもって社会の中では調和のとれた人付き合いが出来ること。怨、古注では政治への不義を誹る、共鳴する。新注では、怨みて怒らず、詩を通して怨むというような、密やかな婉曲な表現、怒るという直接的な表現を避けるという風に解釈している。邇（ちか）くは之父に事（つこうまつ）り、遠くは之君に事るは、解釈のちがいがあるが、詩の中には親孝行を述べ、あるいは君主との間の言うべきことがらがある、親父、君主につかえる、その仕方が分かる。新注では、詩全体として、あらゆる道徳について述べる、その代表的事例を二つあげている。多く鳥獸草木の名を識るは、そのまま、詩の中には動植物の名前が沢山出てくるので知ることが出来る、詩の効用を述べている、と津布良さん。觀は鄭玄が風俗の盛衰を観る、古き良き時代から頽廃的なものまで観ることができる。朱熹は、考見得失、政治の得失、国が失敗する、風俗がすたれるものを観ることができる、と稲垣君。個人の得失としても、政治がらみ、文王、武王の場合などがそれにあたる、と成田君。津布良さんの興とは、六義の興、詩経には六義があり二つに分かれる。賦・比・興と風・雅・頌、国風は諸国の民謡、大雅と小雅があるが政治にかかわるもの、頌は祖廟の祝詞みたいなものだが楽曲。詩はレトリック、修辞。賦は直叙、山が青いみたいに直接述べること、比は直喩、鏡のような湖面、〜は〜のようと述べる、興は暗喩、睦まじい鳥で睦まじい夫婦を表す、津布良さんに説明いただくべきところであるが、六義の興と関係がある、と稲垣君。小子何莫は弟子がさぼっているからどうして詩を学ばないのか怒っているものではない、何莫は原因を問うのではなく、〜してはどうか、と弟子に勧めること、と成田君。何不、盍、為什麼不　〜した方がいいのニュアンス、と稲垣君。やーみんな、詩はいいよ、の感じ、と成田君。だけど、当時みんながあまり詩を学ばなくなったという状況にあったということではないのか、と上田さん。六義の興なのだろうと思う、最初は朱子のように読んだが、どうもそうではなく、興を核にして觀、群、怨がその関連性のなかにある、と津布良さん。そこに序列はありますか、と稲垣君。確信はありませんが、と津布良さん。興がトップ、と稲垣君。六義ではとりたくなかった、そんな理屈っぽいものではないであろうが、そこへ行く、と津布良さん。六義の興と興（おこ）すは、一つにはできない。古注と新注を一緒にできないが、弟子に言っているから詩の読者側の問題。古注の技法でなく読む側の心情にしっくりくる。六義の興も詩の情景から人間の感情を引き興こす。それが興。六義の興を無視しても、それは成り立つ。人間的な感情が引き起こされる。それが、觀、群、怨に引き継がれる、と成田君。詩は自分で作るものではなく、先人のものとして存在しており、孔子が解釈をする。学ぶに足るとするものがあった。これを暗喩とすると、問題は詩を文学 として読むなら、共感、感動がある。そこには、おもしろい感動については、何もない。読んでいる間に手足が踊る。どちらかといえば、そちらの方に、詩の魅力がある、と稲垣君。怨むがひっかかる。詩の中にある怨む内容。民衆がどんなことに怨むかを理解する、ならいいがそういう風に読んではぎこちない。怨むは読み手が怨むとせざるをえない。怨むことができるとはどういうことか？相当否定的感覚であり、それが出来るとする意図は何か？一週間考えた、と津布良さん。伯夷、叔斉は「怨まず」とある、と成田君。父に事る、君に事るは民衆目線か、小子、10代の少年に言ったと考えれば、将来的にはとなる、と津布良さん。小子は一定の年齢とは限らない。色々な立場の人が勉強していた。川那辺さん、どうですか、と稲垣君。詩の興は、感情を駆り立てるもの、興すものがないとどうしようもない。興すと観る、詩を理解することで周りを観る目をやしなう。そうしているうちに共感できる人たちと味わいたいという思いになる。怨むは、人を怨むような感情でなく、詩を読み、理解することで世の中の理解できない理不尽なことに対して、不満を覚えたり疑問を持つのは当然のこと。生きとし生けるもの、自然の中に存在する生命あるものをすべてをきちんと知る必要がある。人が共存してゆくために、詩を学ぶことで原点にあるものをきちんととらえておく。単に鳥や草木の名前を知ることだけでなく、あの鳥にはどういう意味があるのか、梅が咲く、その意味、その香が何を表すか、想像力を養うものだと、と川那辺さん。百科辞典的なところもある、世界をパノラマ的にみる、と稲垣君。津布良流に解釈するとどうなりますか、と上田さん。前回の読書会の中でこの条にふれて、若者は見識が狭いので詩によって深めるべき、とそういう感じで私は読んでいると言ったが、どうも違う。次にある周南召南は詩経の中でも一番いい感じのもの、誹ったり怨んだりはない。その前の章の関連としておかれているとはおかしい。興という意味を解釈するしかない。陽貨篇は論語諸篇の中でも、なんとなく雰囲気が違う。武内義雄は崔東壁の研究に則って、陽貨篇を論語のなかでも新しい、戦国時代の成立と考えた。陽貨と孔子の会話など孟子の中に出てくる章がいくつかある。詩を学ぶことで近くでは親父、遠いところで主君に仕えるというのは大分飛躍があるのではないか。親父のことは孝、主君のことは忠、つまりこれは曾子、孟子学派の主張。やはり戦国時代くらいに成立したものかもしれない。そんなわけで、ここに言う興の意味も新しく、いわゆる賦比興の比喩の技法とみてもいいのではないかと思った。興の考え方、比喩・隠喩について詩を通して学ぶというのは、孔子の塾の中では相当大事な勉強。論語でも孔子や弟子が詩を引いて何かを述べようとする。八佾篇8)に「繪の事は素を後にす。曰く、禮は後か。子の曰はく、予を起すは商なり、始めて與に詩を言ふべきのみ。」とあり、禮というもので完成するという子夏の言葉で、與に詩を言ふべきとなる。詩を断章主義し、新しい意味・解釈・発見を引き出す。孔門では詩を通してそのような学問の仕方をしたのではないか。したがって、本章の興スはキョウスであり、比喩する、比喩を通して学問を発展させるの意味が出てくる。觀は見でなく、「其の以す所を視、其の由る所を觀（爲政篇10）」の觀、直接肉眼で見て理解するではなく、心を働かせて觀ること、詩の中の事柄について心を働かす比喩的な表現、歌い手が何を表現しようとして、我々はどうそれを使うことができるか、と考察すること。観無量寿経では、心の眼で見る、心の眼で極楽を観る。段階的に見える、往生要集では、４０段階くらいで観えたりする。詩は口誦であり、觀という字が用いられたのは文献でなかったことと関係があるかも知れない。群は学ぶ者同志が集まって互いに学問に磨きをかける、詩を通しての学問の仕方。怨は、新注式に考える。君子が怨むというのはあってはならないが、人間に当然有り得る感情を否定するのではなくやむを得ぬことと認めた上で、それを怒りのように露骨でなく比喩により表現することが可能だという意味。どうも比喩について一貫して述べている、と津布良さん。詩を通じて兄弟子と弟子が比喩を検討してゆく。詩を詩たらしめる比喩の検討。物事を一歩引いて観る、と稲垣君。孔子と陽貨とのやりとりには、「其の寶を懷きて其の邦を迷はす、仁と謂ふ可しや。」「日月逝く、歳我と與とすることなし。」という比喩的表現がある。「詩に興り禮に立ち樂に成る（泰伯篇8）」、文化的なことの順番、文の三要素、興、立、成のことを言っているのかもしれない、と津布良さん。

10) 子、伯魚に謂ひて曰はく、女（なんじ）周南、召南を為（まなび）たりや。人として周南召南を為びずんば、其れ猶ほ正（ただ）しく牆（しょう）に面して立つがごときか
先生が息子の伯魚に向って言われた。お前は、周南、召南を学んだのか。人であって、周南、召南を学ばないのは、譬えば、正しく牆に、完全に壁に向かって立っている。牆に面しては、古注では、視見する所無し、何も見えないと説明している。朱子は近いところに立っているので、何も見えないし、一歩も進むこともできない、としている。周南、召南は詩経の一番最初にでてくる国風のはじめ。特異の風、他の国風は、衛とか鄭とか国名がつけられているが周南、召南は特殊。周南は周公の治めていた地域の歌、召南は召公の治めていた地域の歌。召公は周公と同じくらい創業の時に功績のあった立派な人。それらがまとめて置いてある、と津布良さん。正しくは、「まさしく」でなく「ただしく」と読むべし、皇侃（おうがん）は「如人面正向牆而倚立」人の面の正しく壁に向かいて倚立するがごとし、真正面の意味。「詩を學びたりや。對へて曰く、未だし（季氏篇13）。」の後日談、伯魚は詩を学んでいなかった、と稲垣君。為（まなび）たりや、学と為には違いがある。学は読めば、為はかなりの段階のもの、習得しないと、自分のものとする感じがある、と成田君。周南、召南は婚姻の歌で、周南の最初の關雎（かんしょ）は周の文王とその妃とされ、君子は淑女を求めて覚めても寝てももだえ、淑女を楽しませるために琴をひくみたいなことで、王や諸侯と妃のような身分の者にはいいかもしれないが、士の位の者、ここではこれから結婚しようかという息子の伯魚になるが、これを学ばないと何もできないというのはどういうことか分からない、と上田さん。男性から女性を誘うもの、花を投げるとか、桃に例えるとか、何も婚姻の歌、男女の付き合いばかりではない。むしろ、全くゆがみのないもの、詩三百、思い邪無し（爲政篇2）、古（いにしえ）の風俗を学ぶ、と稲垣君。伯魚には興觀群怨ができていない。周南、召南を学び、自分に関係のないことから引き起こされるものがある。それをまとめること、自分の感性を道徳的なものに高める契機となる、と成田君。周南、召南は正風、それ以外は変風（世が乱れている時代の歌）。変風をまなぶばかりでなく、まず周南、召南を押さえておかなくてはいけない、と稲垣君。菜や花を摘むというのが出てくるがこれは女性が男性を想うこと。川那辺さんが言われたように、興は詩を読むことで、感性を盛り上げる。そうなるかどうかを考えるが、雅楽、古典的で、若いものがすごいと思って感性が盛り上がるかといえば、これで感性を盛り上げるのは、むつかしいものがある、と津布良さん。菜を摘むは書紀でも妃が天皇のために摘ませてもてなすこと。日本でいえば万葉集、古今集、雅楽にあたり、今の若い人がこれで盛り上がるかといえば、むつかしい。孔子が当時の若者に詩を学べといっても無理があったのではないか。無理と分かっていてそうするのは、周公の政治を復興するという意味で、そういう風俗を取り戻さねば、その方向には向かないから詩を学べとする。しかし、時代に逆行しておりむつかしい、と上田さん。文王やその妃などされるのは後の解釈で限定する必要はなく、詩は過去のものではなく、現実の外交でも用いられており、当時通用していた、と稲垣君。年代や作者を考えなくとも読める。感性を引き起こすもの、文王や武王の理想を求めるものでもない。いつの時代にも通用する。自分の中の感性を揺り動かせて、道徳的なものに仕上げてゆく、と成田君。詩経は漢代になって詩三百が大序と小序の形に編纂され、色々理屈が加えられた、朱子は大序と小序を取っ払って編纂しなおし、すっきりとした、と稲垣君。詩に歌われていることは、そこから学べるかというと、学べる所はない。何故、これを学べ学べということになるのか。詩を学ばないということから考えると、論語を通して浮かび上がるのは、詩は色々な場面で、応酬の中に適切に入れるのが君子の会話で一般的であった。詩の言葉に新しい意味を見出す。周南、召南を学ぶ。周南、召南は原始的な詩、雅や国風を組み合わせた感じ。都会風のものはアバンギャルド風だが、周南、召南は素朴、民謡的なもの、詩の興ったはじめの方にある。周のよき時代を伝えると考えて差し支えない。古きよき時代を発掘研究する。そこを読まないと次へ行けないという意味、と津布良さん。禮記の檀弓によれば、孔家では、「出母に喪せざるは、子思（伯魚の子、孔子の孫）よりはじまる。」とあり、孔子は出母（妻）の喪は行ったが、孔子は妻と離縁している。孔子以降もそれが受け継がれたが、周南の「関雎」は后妃の内助により夫婦の道を正し天下を教化するものとされ、伯魚に言ったとき、孔子が妻を離縁していたかどうかはわからないが、周南、召南を為（まな）為びずんば、其れ猶ほ正（ただ）しく牆（しょう）に面して立つがごときと云うのはやっていることと云うことが合わない、と上田さん。ここからは脱線。伯魚が結婚に際してとか、孔子の妻との離縁、関雎が文王の后妃の内助の功とかそれは論語には何も言及されてはいないこと。婚姻とか離縁とかは禮の話。論語のなかの対象からはずれており、それは、それぞれの家庭でやってもらいたいもの。詩には男女関係の情愛について述べるものが多い、親は子に対して円満な家庭を築いてもらいたいと願うもの、孔子とてその気持ちは同じであろう。妻とも円満な関係を築きたかったであろう。舜の話に、堯が二人の娘を嫁がせて、舜が家庭を円満に営めるかを試すというのがあった。舜は二人の妻に尽くし尽され合格し、天下を治める。論語ではこの篇にもあるが「唯だ女子と小人は養い難しと為す。」日本じゃ紫式部とか清少納言とか文学に秀でた女性が出たが中国ではそういうことはなかった。日本では女性の官というものがあったが中国にはそういうものはない。万葉集じゃ女性の歌人がでてくるが、詩経はどうか？女性の歌であることは分かるが歌人としてはでてこない。絶世の美女や女傑はでてくるけれど・・・と時間になりました。

	さて、本日は成田君の送別会。 富美屋には 稲垣君、高井君、川那辺さん、津布良さん、 川津君、安澤さん、塩見君、上田さん、 そこに高津君、大西さん、中村(典)さん が合流し、それぞれが それぞれの会話に杯を重ね 夜が更けてゆきました。

2009年8月29日（土）　陽貨篇8
鄭さん来京、いよいよ東北師範大学赴任へ。本日は、修学院の鄭さん宅で、川那辺さん、中村（佳）さん、上田さんで引っ越しの荷造り、どうやらメドがたちました。全員で陽貨篇音読。本日は稲垣君が塾頭となり、鄭さんとは最後の読書会。

8) 子の曰はく、由や、女（なんじ）は六言（りくげん）の六蔽（りくへい）を聞くや。對へて曰く、未だし。居れ、吾れ女に語（つ）げん。仁を好みて學を好まざれば、其の蔽は愚（ぐ）。知を好みて學に好まざる、其の蔽は蕩（とう）。信を好みて學を好まざれば、其の蔽は賊（ぞく）。直を好みて學を好まざれば、其の蔽は絞（こう）。勇を好みて學を好まざれば、其の蔽は亂（らん）。剛を好みて學を好まざれば、其の蔽は狂（きょう）。
孔子がおっしゃいまいした。由は子路、お前は六言六蔽を聞いたことがあるか？答えて、いえございません。そこに直りなさい、立っていたので、座らせる。云うて聞かせよう。吾汝につげん、曾子問でもこの問答体が使われる、礼記の中では仮言の問答を使って権威づけ、儒家の道徳観を展開する。プラトンの記述を想像してみてほしい、ソフィストらとの問答を通して、持論を展開してゆく。これは孔子が生きていたころの問答の可能性がある。六言はいい方、仁を好んで、繰り返し習う、学ぶことをしないでおれば、その弊害は愚である。愚は朱熹の注では「陷れらるる可く罔いらるる可きの類の若し」人に騙され陥れられる。知を好んで学を好まなければ、その弊害は蕩、朱熹の注では、「高きを窮め廣きを極めて止まる所無きを謂う」とりとめもなく広がる、やみくもに広がる。信を好んで学を好まなければ、その弊害は賊、「賊は、物を傷害するを謂う」、外から攻撃を受ける、望まないような妨害をうけて困る、やみくもに信じると馬鹿を見る。直を好んで学を好まなければ、その弊害は絞、絞については注がないが、せせこましい、窮屈である、曲ったことは嫌いでやみくもの直を通そうとすると、頑固者になる。勇を好んで学を好まなければ、その弊害は亂、これも注がないが、やたら勇気を好むと、めったやたらになる。剛を好んで学を好まなければ、その弊害は狂、朱熹は、「勇は、剛の發するなり。剛は、勇の體なり」剛は見た目、内に秘めているのが勇、外見が剛、強さをやたら好んで狂、狂は噪率、軽率、そそっかしいこと、表面的にはそういう意味、色々徳目が並んでいるが、学ぶことをしなければ、それはよい徳目ではなく、変質して、悪いものとなる、皆さんは如何ですか、と稲垣君。六言六蔽は昔からの言い伝えみたいだが、そんな言い伝えがあったのですか、と上田さん。物茂卿（荻生徂徠）曰く、「六言六蔽は蓋し古語なり」とある、成語としてあったのかも、と稲垣君。六というのは珍しい、八、五、四、三はよくあるが、と上田さん。中国の易では六は偶数の代表、九が奇数の代表、と稲垣君。仁と愚は昔からの取り合わせですか、と上田さん。六言の六蔽を聞くかとあり、六言は昔からあったのかもしれない。「剛毅木訥は仁に近い（子路篇27）」とある、これは愚直に近い。仁、剛毅木訥、愚直が重なる、と稲垣君。孔子が、子路に何故このことを言ったのか、そこが気になると鄭さん。立っていた子路を座らせた、子路が何かを問うていた、子路のことだから勇について、孔子にここは勇をふるって決めるべきでは、みたいなことを言っていたのを、座らせてというのでは、と上田さん。何かがあってその弊害がときている、勇と剛は子路にピッタリのテーマ。前の条からすれば、子路が孔子を引きとめている、それに対してそうじゃない、教えた言葉は、結局はしっかり勉強せよ。子路に対するものか、子路を通じて弟子に言ったものか。子路が単に昔からの言い伝えについて聞く、それを孔子が繰り返して言うというのでは、あまり意味をなさない。孔子がしようとしたことを子路が止めた、それに孔子が反応しているのではないか、と鄭さん。仁と愚の対比であるが、実際の人間の行動においてはそれが仁であるか愚であるかを見分けることはむつかしい。自分が仁であると思って行動していることが、実は愚かな行動になっている、人から見れば愚かな行動であっても仁をなしているということもある。孔子が三桓氏の勢力を削ぐ行動を起こしたことは、結局失敗に終わった、これは仁の行動であったのか、愚かな政策であったのか、魯に居れなくなり諸国の放浪に出、結局仕官できる諸侯を射止めることができなかった、これは仁であったのか、愚であったのか、当時においてはどう思われていたか？孔子は愚かでないためには学ばねばならないとする、学ぶとは何か、本を読めば答えがでるのか、人間はたいがい試みて失敗することから学ぶ、仁と愚を見分けること、学ぶことは実際は極めて難しい。今回の衆議院選挙、麻生さんに仁があるのか？鳩山さんに仁があるのか？その政策は仁か？愚か？渦中にあるときには判断は難しい、と上田さん。「勇にして禮無くば則ち亂す。直にして禮無くば則ち絞す。（泰伯篇2）」学ぶとはそういうこと、文字で学ぶだけではなく、則（のり）を学び体得することが必要、と鄭さん。「學びて思はざれば則ち（くら）し。思ひて學ばざれば則ち殆（あやう）し（爲政篇15）」頭で考えるだけでなく、裏を取る、実際の経験、反芻することがないといけない。子路は学ばず、理想が先行する、だから子路を眼目とした、と稲垣君。知と蕩の組み合わせは、知を探求することに没頭、知のための知と馴染みがあるが、信と賊の取り合わせは馴染みがないが、賊とはどういうことですか、と上田さん。相手と約束する、それを信じて相手が約束を破っており馬鹿を見る、傷つけられる、と稲垣君。朱子は羊を攘（ぬす）んだ父を正直に告げる子、これが父子関係を傷つけるとみている、と鄭さん。仁と愚はどうですか、と稲垣君。仁の人、人はものすごくよい、人としてはいいが、融通がきかない、と鄭さん。仁、知、信、直、勇、剛という徳目は、相手があってのこと。特に、信は、自分の中だけでは成り立ちえず、相手の言葉があってのことで、と稲垣君。自分に対する信ということもある。ここでの徳目は、すべて積極性があり、子路に合う。それには、ある程度ふさわしい学び方をしないとこうなる。好むばかりでは正しい方向にはゆかない、そういうこと、と鄭さん。信と賊、相手のことという性質に違いがある、と稲垣君。賊というのは、盟約を破棄すること、相手を信じるのはいいが、相手が密かに約を破っていることがある、それに注意をはらわずに信じきっていると裏切られ、窮地に陥るというような取り合わせで、それを賊というイメージは馴染みがない、勇と亂、剛と狂はどうですか、と上田さん。亂にはマイナスイメージがあるが、狂はそうでもない。人に害を与えるというより、世間と自分との対立。世間とあわなくなる、と鄭さん。孔門では狂簡は好まれた言葉、狂は憑かれたかのごとく行うこと、と上田さん。顔回や仲弓は言葉が足らないので愚とみなされた、仁には愚の要素がある、と鄭さん。仁を好みて學を好まざれば、其の蔽は愚。一段落おいて、知を好みて學に好まざる、其の蔽は蕩。と展開する、最後のところで、子路を意識したかもしれない。仁ができていないと愚、これが核となって、他があるのでは、と川那辺さん。六言六蔽とあり、これは並列、と鄭さん。川那辺さんの言葉で気づいたが、仁知がペア、信直、勇剛となっているのじゃないか、と稲垣君。子路に聞かせる目的、後に、陽貨篇のここにこれが置かれたことの意味は何か。弟子たちに何かのイメージがあった。好むは子路にふさわしい、勇剛も子路にピッタリ、と鄭さん。そこまで言うなら、前半は孔子が、諸君は諸国を放浪し仕官もならぬ私を愚とおもうかもしれないが、そうじゃない。仁だ。博識な私を蕩とおもうかもしれないがそうじゃない。知だ。諸侯に騙されているように思うかもしれないがそうじゃない、信だ。と自省しているみたいなもので、後半は子路のこと、と上田さん。この後に、子路の言葉がないのが残念、上田さんならどう答える、と鄭さん。う〜ん、「先生、私のように亂、狂して決めればいい」、と上田さん。「どういうことですか？それで？」かな、子路は多分、他の弟子のように「はい」とは言わない、と鄭さん。何か言ったが、ここに入れなかった。入れないほうがいい、いや、何も言わなかった、と川那辺さん。佛肸のところへ行こうとした孔子を子路が止めた。それに対して孔子が、だけどこういう言葉があると子路に聞かせたと続けて読むと面白い、と鄭さん。結局孔子は行っていない。子路の方が正しかった。自分に対して反省しているのに、座れというのはおかしい、と大西さん。何も子路が言わなかったのは、お互い、持ちつ持たれつの所があるから、と川那辺さん。何故行こうとしたのかを説明しているのかもしれない、と鄭さん。説明になっていない、教団を率いてゆくなら教団に説明しなくては、と大西さん。逆切れ説教、と稲垣君と高津君。孔子の人間らしさ。子路だからできた。一般論では、好むだけではいけない、学ばなければいけない、と読むべきだが、孔子と子路の掛け合い、と鄭さん。子路だから甘えられた、と大西さん。
時間が少し余りましたが、早い目に一揆で鄭さんの送別会。安澤さんと中村（典）さんも合流。午前様となりました。

2009年9月5日（土）　陽貨篇11
定時には大西さん、上田さんの二人。二人で陽貨篇を音読。稲垣君が登場、二人の音読を聞いて、上田さん為は介詞の場合、為wèi人民服務、４声、為のほか、向、給、與、なども介詞、動詞の場合、為wéi東周で２声。これを分けてください。大西さん、正zhèng と聲 shēngの区別、またzhèngがzhènにならないように。仕事を終えた高津君、川那辺さんも参加となり、では、高津さん、本日の塾頭をと稲垣君。

11) 子の曰はく、禮と云ひ禮と云ふ。玉帛（ぎょくはく）を云はんや。樂（がく）と云ひ樂と云ふ。鍾鼓（しょうこ）を云はんや。
先生がおっしゃいました。禮だ禮だと云っても、玉や帛、絹の布のことであろうか、樂だ樂だと言っても、鍾（かね）や太鼓のことであろうか。儀礼や雅楽は形式よりもその精神こそが大切だ、と金谷先生は書いておられるが、どうですか、と高津君。禮云禮云を「禮だ禮だ」としているが、後藤点では「禮と云ひ禮と云ふ」と訓じているが、意味が違いますか、と上田さん。水滸伝や三国志などでは義太夫のテキストでは文語と語りでは異なり、語りでは口語に近くなる。論語でも口語の部分があり、禮と云ひ禮と云ふとした方が通りがいいとしたのであろうが、禮だ禮だと意味は変わらない、と稲垣君。どういう状況で、禮云禮云と孔子が言っているのか？弟子達が禮とはこう、禮とはこうと議論をしているのを、聞いて孔子がこう言ったのか？精神が大切なことは分かるが、形式も大切にするのが孔子ではないのか。形式よりも精神が大事だと言ったとは思えない、と上田さん。孔子は形式が大事でないとは言っていない。玉帛は禮の元ではない。鍾鼓は楽器、器であり、それが音楽の主ではない。道具としてあるが、歌っている本当のものがある。玉帛にしても、こういう形式を使う、あくまでも形式の問題。麻のかぶり物が禮だけれど、絹を使うのはいいとしたが、堂の上にあがって拝するのはよくないので従わないというのがあった、形式より本心のこと、そこに心がついていないことに孔子が怒った、と高津君。その禮が適切かどうかを問題にしている。曾子が俎豆の事、まな板と高杯、禮では俎豆が大切でなく、本質をわきまえているかが問題としていたと思う。礼儀作法、お歳暮中元、形だけでは意味がない、と稲垣君。中国では、「千里送鵝毛礼軽情意重」という。遠くからガチョウの羽を送る、礼はここでは礼儀ではなく、礼物のこと、物は粗末でも心がこもっている、要は中味。古注では、「玉帛は禮の用、禮の本に非らず。鐘鼓は樂の器、樂の主に非らず。玉帛假（か）りて以て禮に達す、禮達せば則ち玉帛忘れて可」としている。玉帛のことは忘れてしまってもいいとしている、と高津君。鍾鼓は楽器、いい楽器、高い楽器はいい音がする。テクニックが出来るといい音がでる。しかし、それだけを追及しても音楽にはならない。津軽三味線の高橋竹山は若い頃から門付けをして生計をたてていたが、テクニックのある者に、音を並べているだけだね、と言ったそうだ、鐘を叩くだけでは音楽にはならない、と稲垣君。禮云禮云は弟子を叱っているのか、形式よりは精神だと叱っているのか、と上田さん。孔子は結構怒っていると思う。二度云うのは強い言い方、玉帛云乎哉、玉帛のことだけが禮なのか、と言っている、と高津君。孔子は実習を重んじる。弟子が何かこまかい議論をしていた。弟子の議論があまりにも形式にこだわる、形にはめ込むことに酔っている、目先のことに溺れているとみた、と稲垣君。子罕篇3)に、「麻冕禮也　今也純儉吾從衆　拜下禮也　今拜乎上泰也　雖違衆吾從下」堂の上で拝するのは泰、驕りがあるとしている。孔子はその心を言っている。需学は後に形式を非常に大袈裟にするようになり、諸家、墨家などから批判をされた。孔子の意思が伝わっていない。民の負担、国家の無駄遣いと批判されるのだが、この条は孔子の真意を伝えるもの、と高津君。形式は目に見える、真似が出来る。茶や仏教の修行や形は真似ができても、考えとなると分かりにくい、信心やお布施なんかも、と稲垣君。形から教えないと分からない、精神はあとからついてくる、両方同時はむつかしい。例えば楽器の演奏なら理論でなくひたすら音を鳴らすことから入る。最初は形式、それを体得するには相当時間がかかる。精神は、段階を考えながら教え、学ぶ。孔子はここで憂いているというよりは、そうあってほしいという希望的観測、形式と精神がどうついてゆくか、と川那辺さん。そういうことでしょう。形式を極める、孔子は形式を重要視する、その形式のなかにその精神をみるところまで極めて欲しいということ。精神があれば玉帛はどうでもいいではない、玉は圭であり、諸侯は周王朝からそれを授けられ、外交の折にはそれを持参してゆくもので、無くても代わりがあればいいとはならない。玉帛の禮のことは我々には分からないが、玉帛なくしては成り立たない、と上田さん。皇侃（おうがん）は、「唯だ、玉帛を崇尚するを知りて上を安んじ民を治むること能はざる、故に孔子これを歎じて云ふなり」としている、と高津君。唯、玉帛を並べるのみにしてあらず、漢代にはそういことが行われており皇侃はその政治的な意味について述べることになったが、それ以降の時代では事情が異なってくる、と稲垣君。朱子はどう言っていますか、と大西さん。「敬して之を將（おこな）うに玉帛を以てするを、則ち禮と爲す。和して之を發するに鐘鼓を以てするを、則ち樂と爲す。其の本を遺（わす）れて專ら其の末を事とするは、則ち豈禮樂の謂ならんや。」敬して、和して、和すは元来は神人の和合だが、ここでは人の心を云うのだろうが、それなくして、精神を忘れて、其の末、つまり形式ばかりということで、形式より精神がという解釈になっているのではないか、と上田さん。朱子は、敬してと玉帛で禮、和してと鍾鼓で樂、精神と形式両方を云っている、と大西さん。八佾篇17)に、「子貢、告朔（こくさく）の?羊（きよう）を去（なく）さむと欲す。子の曰はく、賜や爾、其の羊を愛す、我は其の禮を愛す。」とあり、朔（ついたち）を告げるため羊を犠牲にして祭るのが形式化して、毎月羊を犠牲にするのはもったいないので子貢が止めようとしたのを反対した、孔子は確かに形式を重んじる、と高津君。形式も必要、鐘鼓も練習しないとできない、と大西さん。博學於文、約之以禮（雍也篇25）、まず学ぶ、心があり、それを禮でくくる、と高津君。鐘をたたくと云っても初心者や未熟な者に孔子はこういう言い方はしない、結構できているがまだ足らない、と稲垣君。精神と形式なんてことは孔子は云っていない、かえってややこしくなる、元のままでいい。禮でも樂でも形式は必要、心を議論するのはむつかしい。音楽の心とは、と大西さん。音楽のことは中村（典）さんがおられるといいのだが、と稲垣君。指揮者というのはスコアを見ると頭の中で全体の音が鳴るという、色々の記号で作曲者が指定しているので、そこから作曲者の意図を解釈するのですかね、中村（典）さんは上の方で希望が歌われいると同時に下の方で不安が響いているとかいう言い方をしておられたが、と上田さん。スコア通りなら機械で演奏すればいいがそれでは音楽にはならない。音符の並びとか繰り返し、カノン、そういうものを読み取り、その人なりの演奏をする、と稲垣君。私の場合は呼吸。機械演奏は聞くと頭が痛くなる、呼吸がないから。生きているものは呼吸をする。私はピアニストの加古隆さんの演奏が好きです。呼吸が合うからです。若い頃の演奏は難解で荒々しくて疲れましたが、今はもう還暦を過ぎた方で、どんどんシンプルな演奏となっておられる。シンプルなほど、複雑な表現ができる。体の無駄な力が抜ける。加古さんの演奏を聴いた後では、血が浄化されたような気持ちになり、すべてが新鮮に感じられる。舞台裏から見させていただくことがあったのですが、まるでスポーツ選手のようにフッフッと手足を動かせて呼吸を始められ、演奏前までに呼吸を整え舞台に出られます。演奏が終わって帰ってこられると過呼吸状態です。実は今から７年ほど前、バン・クライバーン国際ピアノコンクールで優勝された盲目の辻井伸行さんが13歳の時佐渡裕さんの指揮でラプソディー・イン・ブルーを演奏されたのを聴いたときビックリしました。あの曲は「あうんの呼吸」が必要なのですが、目の見えない辻井さんがオーケストラと素晴らしく呼吸を合わせておられました。佐渡さんのタクトは見えないし、佐渡さんが傍で何かをされるということもない、それでも呼吸が合っていたのを覚えています、呼吸というのは、演奏者と作曲家、スコアの理解というだけでなく、聴衆と演奏者の間でも呼吸を合わせてこそ素晴しいものになると思うと川那辺さん。僕は、古琴で西洋音楽とは全く違うと思っていました。西洋音楽はリズムが基本にありそれで進行してゆくものとばかり思っていましたから。古琴では呼吸が大切です。中国では意境という言葉があり、独特の審美の考え方で説明ができないのですが、古琴においては、意識と呼吸が続くかが問題となります。呼吸のなかにその意識が入りきらないことがあります、それができるようにならないといけない。短い曲でも汗が垂れることになります。西洋音楽が呼吸で分かるというのはいい、勉強になりました。昔は抽象画のことは全く分からなかったのですが、この頃は見ていると分かるようになってきて、と稲垣君。西洋音楽への突破口になったやもしれません。「三人で行かば、必ず我が師有り（述而篇21）」と高津君。今日はこれ一条になってしまったが、この条だけでこれだけ盛り上がるとは、まさにこの読書会だなあ、と稲垣君。
来週9月10日（木）の塾頭は川那辺さんです。本日の一揆は大西・上田コンビ、終電でグッドナイト。


2009年9月10日（木）　陽貨篇12〜14
定時には稲垣君、上田さんの二人。二人で陽貨篇を音読。大西さんが登場、しばらくして川那辺さん、仕事を終えた高津君も参加、本日の塾頭は川那辺さん。六言六蔽のことですが、「仁を好みて學を好まざれば」というのは、自分勝手にやる、人の言うことを聞かないという風なことで、状況を把握せず思い込みでやることの危険性を云うのではないかと思う。剛にしても外に対して剛毅にみせようとする、兄貴風を吹かす、後輩には金を出させてはいけないなどといきがっているが、自分がそう思い込んでいるだけで、周りから見れば狂、ただ金を撒いているだけみたいなもので・・・読書会が終わってから考えることが多くて、いい勉強になります、と稲垣君。

11) 子の曰はく、色�氏iれい）にして内荏（じん）なる。諸を小人に譬うれば、其れ猶（な）を穿窬（せんゆ）の盜のごとき。
先生がおっしゃいました。色が�獅ﾍ、はげしい。厳格であっても中が荏は、軟弱な様子であり、それを小人に例えれば、穿?、盗人、こそ泥のようなものだよ、と書いてある、何かわかりにくい、と川那辺さん。穿は"うがつ"、穴をあけること、窬は垣根を飛び越えること、と稲垣君。色は外、荏は内、こそ泥といえば、大きなことはできない、小さなこと。何故、穿窬がここにでてくるのか。其の實無く名を盜んで、常に人の知らんことを畏るるなりと穿窬がどうつながるのか分からない、と川那辺さん。それは朱子の注、実なくして、たいしたことはできない。名声を自分のものにして、人に知られないことを恐れる、何か矛盾しているなあ…名声を欲するが、隠れて行動する・・・。これを小人に例える、何故小人に例えるのか？小人の反は君子、そういう人でありながら、色は厳しく内が軟弱では小人、と稲垣君。知識の深さを表す比喩じゃないですか？壁に一つ穴をあけても全体は見えない。壁をひょいと乗り越えるものではない、と川那辺さん。穿窬は一つの言葉、こそ泥、夜に人目を避けながら押し込む、集団で乗り込む夜盗じゃない、人眼を忍びながら盗むこと、と稲垣君。実なくとは、実際はそうでないが厳めしくする、そういう人と称されるように振舞う。しかし、小心であると人にばれないように恐れている。厳めしい顔をしていながら、人が見ていないと、こっそり隙間から入ったり、垣を乗り越える、と上田さん。泥棒じゃなくて、人の目を盗み、こそこそとする、と稲垣君。次とその次も関連するが、孔子の晩年のことではないか。孔子は諸国を渡り歩き、人が自分を受け入れてくれそうで、いざとなると身を引くという体験を幾度となくされ、外面はいいが当てにならないという嫌な思いを相当味わわれたのではないか。自分を偽り、土壇場で身を翻す、そういう人間を嫌われた、自分の人生を生きるべきとされた、と上田さん。「吾れ大夫の後へに從ふを以て、敢て告げざることなからむ（憲問篇22) 」哀公に崔予を討つべきと進言した、それが孔子の生き方、と稲垣君。自分を偽るな、につながる、と上田さん。内に確固たるものがない、柱となるものがない、志がないといけない。芯のない綿菓子みたいになる。孔子が、どの局面でも剛直であったかというとそうではない。孔子もふらついていた時もある。その二面性がある。状況に応じた柔軟性がある、と稲垣君。古注、義疎では、「常に退走の路を懷（おも）ふ。是れ形進みて心退く」とある、いつも逃げ道を用意して、前向いているようでも後ろ向き、と上田さん。古注は集解、何晏（かあん）のもの、義疎は皇侃（おうがん）です、と稲垣君。

13）子の曰はく、郷原は�ｺの賊なり。
14)子の曰はく、道に聽きて塗(みち)に説くは�ｺを之棄つるなり。
先生がおっしゃった、郷原は�ｺの賊である。
先生がおっしゃった、道に聽いて塗に説くことは�ｺを之棄てるものである。
郷原は、善良を装って郷党で高い評価を得ようとする人とあるが、よく分からない。道に聽いて、人から教えを請うて、そのまま受け売りすることは、�ｺを棄てること。徳の賊なり、と徳を棄てる。何が違うのですか？同時に、徳とは何かとなる、と川那辺さん。郷原は孟子にも出てくるが、そのままの解釈でいいかとなると、そうではない。歴史的背景が違う。郷原を色々の方面から考える必要があるが分からない。朱子は、「郷者は鄙俗。原は愿。」愿は慎み深く善良、鄙俗は田舎者、田舎者の善良さ、みせかけみたいな、吉川先生は"えせ君子"とみておられる。郷にはマイナスのイメージがある。原そのものではなく、郷のついた原はあまり良くないもので、賊がでてくる。賊はそこなうこと、徳に仇を為す、徳に仇する大罪人、芳川先生は道徳の泥棒とされる、と稲垣君。原そのものは稲垣君のいわれるとおり悪い意味ではなく、郷原となると、表面上は謹厳実直にみえるが、物わかりがよいことで称される人。義疏では、郷を向と見て、相手に合す、相手に媚びる、見かけは厳めしいが内はぐにゃぐにゃと前条と関連する。そういうことが徳を賊（そこな）うとみている、と上田さん。義疏では前の条とつながる、そういう人を孔子は嫌った、すごく嫌った。大西さんどうですか、と稲垣君。分かりにくい。原はゆるす、まこと、善とか色々出ている、郷原でない原は徳か？と大西さん。受け売りの方は棄てる、これは全否定。非常に状況に合わせてやる人は必ずしもダメではないが、ここでは、それなりに合わせることは、一般的には必要であっても政治的にはそれでは成り立ちゆかない、しかし、道に聽いて塗に説く、よりはまし、と川那辺さん。みせかけの善良さ、謹厳さ、つつしみ深いのであるが、内はそうではない。それは徳をダメにする。完全なものをショベルで崩すみたいなこと、吉川先生は徳を冒涜する行為とみておられる。道徳に対する冒涜ではなく、相手が周囲に及ぼすことが人間関係を壊す行為となりかねないことをいう、と稲垣君。郷原のイメージとは、と大西さん。五家が比、五比が閭、四閭が族、五族が党、郷党は五百家、と高津君。中国の邑（むら）はまとまったもので、日本のようにバラバラ点在するものではない。その集団の中で立派な人と崇められている人、邦レベルからみると異なる、と稲垣君。孔子がそういう人を否定することはない。邑で立派な人は、邦から比べれば違い、徳をそこなうでは意味が通じない、と大西さん。邑だから悪いということではない、邑の長と邦の長では志に開きがある、だけどその対比で徳の賊とはならないので、よく分からない。六言六蔽で先に言ったが自分の思い込みで判断し、学んでそれを確認するということができない、と稲垣君。邑の人は慣習的、上から言われれば盲目的に信じてしまうようなことがあるかもしれない、と大西さん。孟子は似て非なるものをにくむ、と稲垣君。邑では、変なことをして居られなくなることがある、と大西さん。郷党では、その人をいじめることになる。迎合して世に媚びる、人の流れに合わせるから、その中では愿として評価される、それが反って徳を乱す、だから徳の賊、徳に仇するを嫌った、孟子にでてくる、と稲垣君。巧言令色鮮いかな仁、と孔子は繰り返す、「人の生まるや直（なお）し、これを罔(な)くして生くるや幸にして免る（雍也篇17）」。己の人生を素直に生きようではないか、己を欺き、人を欺いて生きたとしても、死を免れたにすぎない。自分自身を生きようではないか、というのが孔子、と上田さん。徳を損なう、自分自身を生きるよりは、徳が本物ではなく、徳を乱すという表現となる、と高津君。孔子が自分の志を生きると、下克上の世では浮いてしまう、どうにもならない、隠者たちもやめておけと忠告するがふんばる。やっぱりダメで、漢になってようやく再評価される、と上田さん。再評価でなく利用された、と高津君と稲垣君。孔子は上を敬う。最終は民をどう治めるか、民の安寧を図ることだが、そこを無視した、と高津君。漢は統治のために儒教を利用した、と稲垣君。儒家が好まれなくなったのは漢から、と大西さん。孔子は陳と蔡の間の荒野で窮して、子路がどうするつもりかと食ってかかり、子貢は、先生はもう少し程度を落として相手と合わすことをされた方がいいとし、顔回が、理解しない相手に問題があり先生はそのままを生きられるべきなどという会話が交わされたとする。孔子は諸侯に仕官することをあきらめ、弟子の教育の方向へ傾く。理解されることが非常にむつかしい中、それを通そうとされた、と上田さん。それは下克上の世に限ったことでなく、何時の世でも難しい、と稲垣君。その後、楚で仕えようとしており、そこで仕官をあきらめたのではない、その後、と大西さん。微子篇で殷の末で暴政を止めようとして諫言するが受け入れられず国を出たり、狂人を装ったり、殺されたりする人間を孔子は仁者とし、武王を諫めて餓死した伯夷や叔斉を仁者とした。そういう伝統に殉じる気持ちがあった、と上田さん。孔子は思想家で、そういう考えの弟子を育てようとしたことがよかった。孔子一人で社会を変えることはできない、と大西さん。政治に向かない自分に気づいた、限界を感じたのであろう、と稲垣君。そうではない、自分を受け入れてくれれば政治をした。受け入れられなかったので、思いを教育に行った、と大西さん。徳を棄てるはかなりきつい表現、と稲垣君。�ｺ之棄、徳は主語ですか、目的語ですか、と大西さん。棄�ｺが普通、目的語が前に来ており、棄てるが強調され、きつい言い方、と稲垣君。義疏では、道に聽きて塗に説く、は、「必ず謬妄（びゅうもう）多し。」、自分が間違うばかりかそのことで師を貶めることになる、とみている、と上田さん。徳を棄てるというより、徳と自分が無関係となる感じ、と稲垣君。しかし、ぼくらは聞くと言いたくなる、と大西さん。日常生活ならまだしも、国家レベルとなれば問題、道聽塗説、桜井よし子みたいな人に言われたくない。戦争に行ったことがない人にそこまで言われては、戦争で亡くなった人たちを冒涜することにならないか。いささかであっても、受け売りは自分からずれる。それが積み重なると、自分の守るものを棄てることになり、思うことが損なわれて棄てることになる、と稲垣君。体得したものを行わねばならないのだが、と大西さん。反復して得心のゆくものが徳である。自分で思い込む徳でなく、借りものを消化せずにやるのではなく・・・と稲垣君。自分がそのときはそう思うこともある。確かによく考える必要はあるが、自分が正しいとおもわないとできない。しょっちゅうやっていること、と大西さん。独善的認識ではそうなる。ヒットラーなんかは無茶をしている。新聞の受け売りくらいならいいが、何もかも変ってしまうレベルのことを言っているのではないですか。孔子は晩年、自分の道をどうすればいいのか？人に発すると同時に、自分に反復している。どうにもならず、自分を奮い立たせている、そうでないと自分のテンションが上がらない。厳しいなあ、反面、悲しいなあに聞こえる、と川那辺さん。語るは自分を奮い立たせる行為、と稲垣君。孔子もすべて正しいと思っているわけではない。ここまでくると、切に相手に確認している、これでいいよな、という風に見えてくる。それでもやり尽くしたということは、いい理解者が、すばらしい弟子たちがいたということではないですか、と川那辺さん。晩年弟子が居てよかった。弟子がいなければ、弟子がいてこそ、ゆるがずにおれた。我を知る者は天か（憲問篇37）、このことばを聞いてくれる弟子が居るのがいい。棄�ｺは、徳をもっていることが前提で棄てる。徳之棄、徳と別、最初から離れている。最初から徳が身に付かない。荀子は、君子は疑いあることを言わず、未だ問わざれば立たずとしている、これを君子という。下克上で徳を考えることは普遍的ではない。国をうまく運営することが目標となる、と稲垣君。それは中国の歴史のテーマでないか、と大西さん。
来週は高津君に塾頭をお願い。仕事が終わってからなので少し遅れるかもしれません。本日の一揆は稲垣、大西、上田のトリオ、終電に間に合いました。


2009年9月1７日（木）　陽貨篇15）
林君、李さんそれぞれ帰国、久しぶりの登場。六言六蔽、二人に聞いてみる。仁と愚、知と蕩、信と賊、直と絞、勇と亂、剛と狂、最後の二つは分かり易いが信と賊、直と絞は馴染みがなく、仁と愚、知と蕩も分かりにくい、となれば日本人と変わりない。稲垣君が解説をしていると、本日の塾頭、高津君が登場。

15) 子の曰はく、鄙夫（ぴふ）、與（とも）に君に事（つかふま）つる可けんや。其の未だ之を得ざれば、之を得んことを患（うれ）ふ。既に之を得れば之を失はんことを患ふ。苟（いやしく）も之を失ふを患ふれば、至らざる所無し。
金谷先生は、先生がいわれた、「つまらない男には君にお仕えすることなどできないだろうね。彼が（目指す禄位を）手に入れないうちは手に入れようにと気にかけるし、手に入れてしまうと失うことを心配する。もし失うことを心配するとなれば、（その保全のためには）どんなことでもやりかねないよ。」としておられる。之を得んことを患うを、患不得之、「得られないことを患う」という風に訳しておられる。そうしなくてもいいと思うが、と高津君。患得之、患不得之、得ようと患うも得られないことを患うも結局は同じことを心配している、と稲垣君。どっちでも分かるが不をいれることはない、と高津君。それが鄙夫につながる。何故、小人じゃなくて鄙夫なのか、と稲垣君。誰かのことを言っている。第三者として存在している人で二人の会話で誰か分かっている、と高津君。鄙夫は自分を謙遜して云うこともあり、鄙夫は他人、必ずしも周りに居るわけではない、と林君。鄙夫、匹夫、小人がある、と稲垣君。鄙夫は平凡な人、匹夫はマイナス・イメージで低い評価、小人は君子に対するもの、と林君。鄙夫はひなびた、田舎の人、匹夫は子罕篇25)に「三軍、帥を奪ふ可し。匹夫、志を奪ふ可らざるなり」とある匹夫、匹夫であっても志は奪ってはいけない、身分あるいは教養がない人。ここの鄙夫はニュアンスが違い、孔子は相手を非難している、と稲垣君。人物を使い分けている、と高津君。「吾少かりしとき賤しかりき。故に鄙事に多能なり（子罕篇6）。」の鄙事、いやしいこと、鄙夫は卑しい人、ここでは身分や階層ではなく、心根が卑しい者、孔子と同じ立場にありながら志の低い人。朱熹は庸悪陋劣、ろくでなし、ダメ人間ととっている、と稲垣君。衛霊公篇14)、「臧文仲、其は位を竊（ぬす）む者か。柳下惠の賢を知りて與（とも）に立たざるなり。」孔子は、臧文仲が地位を守るために柳下惠を用いなかったことを批判している。自分の地位を守ることを第一としている、知識があってもそういう行動をする人を批判している、と高津君。鄙夫は道徳的にも、精神的にも達していない人。患得患失は四字熟語、鄙夫の行動様式、得失両方に対していう、と林君。義疏、皇侃（おうがん）なども患不得之とみているが、あえて不を付ける必要があるのか、と高津君。既得之、患失之と続いており、順番からすれば、未得之也、得ていない状態であり、患得之のままでいい、と稲垣君。手に入れないうちに手に入らないことを患えるが金谷先生、と林君。新注は得られないのじゃないかと心配する、次に得たものを失うのではないか悩む。自分がふさわしいか憂える。得られるかどうかと違い、失うことは単にポストに居るかいないか、単純なこと、と稲垣君。権力にかかわる場合、自分のポストを考えると、次のことが不安になる。そこまでいくと、得ると新しい悩みがでる。どんな状況にあっても悩みは止まらない。しかし、その悩み自体はつまらないもの・・・それが鄙夫の悩み、と李さん。得られる前と得られた後、二つに分けている。欲望が叶えられると、安定させようの一点に悩みがある、それは情けない、と稲垣君。欲望に翻弄されている、それを鄙夫と低い評価をしている、と林君。鄙夫は自分のことしか見ていない、外に目を向けなさいと言っている。「人知らざるも慍（うら）みず、また君子ならずや（学而篇１）。」人を知らないことを憂う、自分と他人の接点、主体をどこに置くかをみる、と高津君。「至らざる所無し」とはどういうことですか、と上田さん。自分の得たものを失わないためには手段を選ばずに何でもする、と高津君。手段を選ばずは「殺す」までゆくのが前提。六親不認、と高津君。自分の利益を守るためには六親、六親等の親戚であろうと、何でもすること、と林君。九族皆殺し、と一緒と稲垣君。ええっ！そんなにすざまじい言い方ですか？失わぬために、上役から関係者だれとでも贈り物をして顔つなぎをするということではないのですか？と上田さん。失う恐れがあれば、先手をうって殺すことすらする、と高津君。へつらってでも守るという程度ではない？と上田さん。そんなものではない、中国ではなんでもやる！です。お中元なんかじゃない、と高津君。唐の韋后（いこう：中宗の后、武三思（ぶさんし）と通じ中宗にかわって実権を握り、ともに帝位に野心をもつ娘安楽公主と謀って中宗を毒殺）などがいます、と林君。朱子は「小しきなるときは則ち廱（よう）を吮（す）い痔を舐（ねぶ）るも、大いなるときは則ち父と君とを弑す。皆失わんことを患（うれ）うるより生ずるのみ。」としている。苟患失之無所不至矣とあり、苟は「かりにも〜とするなら」、矣は完了形「〜になってしまう」強調をしている、かりにも失うことを患（うれ）うるなら、なんでもするというより、何でもするようになってしまう、と稲垣君。鄙夫は往々にして地位を得たとき、もし失ったら、一番ひどい時には何をしてでも守る、ですが、「與（とも）に君に事（つかふま）つる可けんや」と與に、つまり、一緒にやる時に自分にとって弊害があるとしている。それに流される・・・すごく危険であり、「與に」に力点がある。〜する弊害のあること、一番きたない欲望が真横にある恐ろしさ、と川那辺さん。おっしゃる通りです、一緒に仕えることなどできない、流石です、と稲垣君。恐ろしいといえば、宦官の趙高、丞相李斯まで言いくるめて、始皇帝の遺書を書き換え後継者を殺した、と高津君。平家物語で有名、「遠く異朝を訪（とぶら）へば、秦の趙高（ちょうこう）、漢の王莽（おうもう）」とある。志のない人間一緒だと、自分の志も低くなる。友は選ばなければならない。そういう人とは付き合わないようにする、と稲垣君。しかし、君に仕えるとなれば、必ずそういう人は居る。嫌といっても辞められない、と大西さん。見極めが大切、と高津君。切れということか、と大西さん。首を切ってくれと進言するのが中国のやり方、と稲垣君。そういう人は実は手強い。排除はむつかしい、と大西さん。こちらが排除される。だから危険、と稲垣君。中国ではそういう人が勝ち残ることが多い、と高津君。今の世の中でこういうことはどうですか？読書会では今の世に置き換えて考えることもしなくては、と稲垣君。民主党政権の誕生、日本で選挙民の投票で政権交代が起こった経験は初めてのこと。民主党はマニフェストで掲げた公約を実施しなければ、支持を失うと何が何でも実施に移さざるをえない。無理をして行えば破綻する。そうすれば支持を失う。既に之を得て之を失うことを憂える。失うと憂えば何でもするとなれば、これは困ったことになる。韓国から見ると、日本では韓国で盧武鉉政権が誕生した時のような感激、熱狂はなく、意外に日本人は冷めている。これで政治が良くなると大いに期待しているようではなさそう。韓国ではそう期待して熱くなったが、いざ始まってみるとそうはならなくて、失望した。韓国の民主、保守ってものの中身は何だろうと考えることになった。そうすると植民地時代のことにたどり着く、保守が守ろうとするものが何なのだろうか？日本ではどうなっているの？官僚政治を打破すると言っているが、官僚なくして政策が本当につくれるの？実際のデータを握っており、その用い方、制度に精通している官僚をどうするつもりなのか？これまで日本の政治などはあまり関心がなかったが、今度ばかりは新閣僚の記者会見を聞いてみた。官僚主導政治でない政治と口にしておられるが、これから聞いてみないとまだ分からないでは、官僚政治打破は無理じゃない？官僚というのはどの省でも皆同じなのですか？外務省と財務省では違うでしょう、省庁によって違うでしょう。官僚は今回の事態も折込済みで、対応は考えているでしょう。戦後の日本の経済成長のなかで出来上がった官僚と政治家の利権構造を断ち切らないと財政運営が成り立ちえなくなっている。国家予算も八十兆円の一般会計のみならず、特別会計を含めた200兆円規模で見直す。母屋では目刺を食っているのに、裏ではすき焼きを食っているという構造を改めようとしてきたが、もたれ合いが続き大ナタを振るうことができなかった。自民党と民主党の政権交代の次は世代間の交代、官僚においても同様、これから必要とされる事業に人と金が投入されるように道筋のつくことを求めており、官僚も刷新されることが求められている。グローバル化の名で勝ち組が生まれ、年金基金やドル建て米国債の大量発行等でダブついたマネーが投機先を求め、各国通貨が翻弄され、石油や穀物相場を吊り上げ、サブプライムローンに至り、バブルがはじけると異常な利潤と大量失業者。元来宗教改革の中で、適正利潤を求めることは悪いことではない、それが拡大再生産をもたらし、再投資に回され、国民に還元され国富が増すと、一方独占を禁止したり、搾取を戒めてシステムの維持を図ってきた。しかし、今じゃ片や暴利、片や利潤割れを起こす買いたたき、拡大再生産といえば貧困の拡大再生産。これは資本主義の危機であり、経団連の会長なら、正当な資本主義者として、その非を正すのが筋。昔の殿様は飢饉には倉を開いて民を救済した。自転車操業時代の松下でも不況での首切りを避けた、それを内部保留を充分に有する大会社がグローバル化の名の下に、倉を閉じ社員を切り、政府の財政出動を求めた。つまりは税金投入であり、国民の貧困の拡大再生産に舵を切った。これに怒って民主党に票を入れたんじゃないか。ウオール街はまたこの道を突っ走りだしている。膨大なマネーがあり、投資先を求めている、これが暴走しない枠組みを見出さない限り、どうにもならない。足もとに就職さえままならぬ若年層を再生産して何が資本主義か！そこを正してくれということじゃないか。そうは動かない、バラ撒きに終わるのじゃないか。社会主義がいいのですか？そうじゃない、と放談が続きました。民の安寧を図る者が天命を受けるというのが、孔子に受け継がれた中国の伝統、その中国も1〜2割の勝ち組と膨大な負け組を生んでいる。来週の塾頭は大西さんです。
一揆はシャルル君が参加、稲垣君、大西さん、上田さんで終電を逃しました。


2009年9月24日（木）　陽貨篇16）
本日は小学校の黒板に論語読書会の掲示なく、日を間違えたと思った人が何人か。川那辺さん、土曜日と勘違いで、押さえていなかったので学校へ連絡されたが、連絡がうまくつかなかったとのこと。全員で、陽貨篇の音読。本日の塾頭は大西さん。

15) 子の曰はく、古者（いにしえ）の民三つの疾（やま）い有り。今は或ひは是れ之亡（な）し。古の狂は肆（し）、今の狂は蕩（とう）。古の矜（きょう）は廉（れん）、今の矜は忿戻り（ふんれい）。古の愚は直、今の愚は詐（いつは）るのみ。
分からないなあ・・・古者民有三疾の古者は古ノ者となっているようですが、どう読みます、と大西さん。古者で"いにしえは"でしょうが、古ノ者としてますね。どうふりがなを付けてますか？と稲垣君。古者（いにしえ）の民としています、と大西さん。では、それでゆきましょう。矣、已、而已、而已矣とありますが、〜である。〜だ。〜です。と断定的な言い方になる。矣は訳さないことがある。已は〜だけだ。而已は〜でしかない。而已矣は相当重い感じの断定、と稲垣君。では、表面的に訳をつけると、孔子が言われた。昔の時代の民、人の性質が変質したのだが、三つの欠点があったが、それぞれの長所もあった。しかるに、今は堕落してしまった。昔の狂は肆、志願うことが高く小節にこだわらないが今の狂は蕩、気ままでとりとめがない。昔の矜は廉、自ら持する所があり、角があったが、今の矜は忿戻、人と争うところとなり、他人に怒る。昔の愚は直、やりとげようとし、作為がなく正直さがあったが、今の愚は詐、私意があり偽りを含むずるさのみ。だいた朱子の解釈ではこうではないですか、と大西さん。朱子は、「氣其の平かを失わば則ち疾を爲す。故に氣稟の偏あるも、亦之を疾と謂う。」と言っている。気が平衡を失えば病となる、正しくない状態になる。気に偏ある、一方に片寄るのも病。気と結びつけるのが宋代の考え方、よく流行った、と稲垣君。人間を説明するとき理を同じくする。違う理由で気に差が出、気の差によって人間と動物の差がでる。人間の理が気をコントロールする。それが乱れると駄目になるみたいなのが朱子学。病は気として偏っているというのはいい、と李さん。論語には気がでますか？孔子が気を重んじましたか？孔子は理も気も言っていない、それは朱熹の教え、と稲垣君。理気論とは何ですか、と大西さん。韓国の国旗にある太極図説、理と気に分かれバランスが崩れるとおかしな方向へ行く、と稲垣君。朱子学は、宇宙、人間、自然を一つの理をもって説明する。理はすべてを主宰する。世の動きも気をもって説明する。正しい方法は道とされる。その時には理をもって何かをする。そこに性がかかわる、と李さん。天体運行原理とか、正しい道筋、今では科学者が見出すような法則。理は世界に属す、気は人間の中にあり、このバランスをいう、と稲垣君。静かなれば純は理。純粋な状態。何かに接触する。気が動く。情は乱れるもの、それは気による、その気を理でもって正しい方向に導く、と李さん。それが朱熹の哲学ですか、と大西さん。程��（ていこう）と程頤（ていい）の二程、朱子学の師匠筋にあたる。哲学体系として読んだ。朱熹は易の繋辞伝、卦を体系化したものであるが、宋代になり、総合的に研究しなおし、それが広く受け容れられた。天地の運行を司る理とは何か、理も気も抽象的な概念でそれで哲学を組み立てた。今となっては内容が分からないが。朱子学は後の陽明学、王陽名は最初は朱子学で理を考えた・・・万物に理が存在する、竹の中にも理があるということで、王陽明は友人と竹の理を究めんとして朝から晩まで竹を観た。友人は気が狂ったそうで、王陽明は馬鹿馬鹿しくて止め、自分の体系を考えたという話がある。孔子はこんなことなんぞは言っていない。疾は現代中国語では毛病、くせ、車の故障した箇所、患部、よろしくないところ、患った部分。三疾、三つのあまり褒められたものでないもの。今也或是はmaybe、ひょっとすると、ことによると、今はそれすらなくなってしまったのニュアンス。何が無くなったのですか、と稲垣君。三疾でしょ、と李さん。今やこれもなくなった。疾のなくなったことが悪いということでしょう、と大西さん。狂、矜、愚の三つ。Maybeだから、なくなったのかもしれない、昔と今では様子が変わって、なくなって見える。今はもっとひどくなっている、と李さん。三疾がなくなったというより、本来の姿がなくなった、と稲垣君。それは肯定的でいい、と大西さん。狂、矜、愚、言葉は同じでも内実の違い。昔ながらのものはなくなった。なくなったのかもしれない、婉曲に言っているのかもしれない。最後には、今はなくなってしまっていると断定している、と稲垣君。なくなったを強調する、今になってひどくなった、と李さん。今と昔では違ってしまっているという見方、大西さん、矜と愚のところはどうですか、と稲垣君。矜は志はいいが現実がついていっていない、自分の信じるところで、がちがちで人と衝突する。愚は素直で馬鹿正直、人をだます悪いところがある、と大西さん。狂は正常ではない、はたからみて度を越えている。普通の人の常識からはずれた行動をする。楚狂、接輿（せつよ）。普通じゃないが、頭がおかしい人ではない。矜持という言葉があり、自尊心、プライドと考える。吉川先生は傲慢としておられるが、それよりニュートラル、はなもちならない、と稲垣君。狂簡というのがあった。狷もある、と大西さん。「吾が黨の小子、狂簡にして斐然として章を成す（公冶長篇22）」「狂者は進みて取り、狷者は為さざる所有り（子路篇21）」。狷は愚鈍、鈍い、物の道理が分からない。大西さん、肆と蕩、廉と忿戾、直と詐、その違いはどうですか、と稲垣君。肆は、「小節に拘わらざるを謂う。蕩は、則ち大閑を踰ゆ」と朱子はするが「大閑を踰ゆ」とはどういうことですか、と大西さん。直感的には、狂として肆と蕩は共通するところがあるが、肆はほしいまま、やりたいことは何でもやる、蕩もやるのだがとりとめがない。肆にはやりたいことがあるが、蕩は何がやりたいのか分からない、志の有無をいう。矜の廉は清廉、自分の気持ちに嘘がつけない。自尊心を守るために心を押さえる必要がある。武士は食わねど高楊枝、?せ我慢が廉、忿戻は怒りにまかせて行動する。今切れる若者、バンカラ学生はぐっと抑えて自分を汚さないようコントロールする、と稲垣君。孔子は東周を為そうとした。それには民も三疾があるような一途な愚直な民でなくてはならず、いざとなれば逃げ出したり、相手をせめて怒るだけ、土壇場で身を翻すような人間では無理だと言っている、と上田さん。東周を為すには時代からみれば、誇大妄想。孔子が理想とする昔、主体性があったが、この時にはやりたいが民も一つの方向に向いていない、と稲垣君。日本でいえば、戦後の人間に明治の人間たれというようなもの、と上田さん。昔に帰れと言ってもできない。中国には下降史観があった。堯・舜の聖王の世、夏の禹、殷の湯、周の文王、武王の世がだんだん悪くなる、ギリシアでも黄金の時代から鉄の時代へと考えた。近代になると進化論で上方史観。孔子には昔を今に復活する意志が働いている。自虐史観というのがあるが、自分の国の歴史を反省しないと貧しい歴史となる。自分のやったことを反省するのは自虐ではない。孔子の頃は春秋から戦国時代に向かっている、それをなんとかしようとする意識が働いている。最後のところをやりましょう、大西さん、直と詐はどう訳されてました、と稲垣君。直は正直、詐は偽る、ごまかす、と大西さん。直は、一本気、素直、馬鹿正直、朱熹は直情怪行とする。愚は魯鈍、その最は愚直、てらわない正直さ、素直さ、今では詐のみ、偽りのできる人は魯鈍ではない、小手先でごまかす技術がある。物の道理は分かっていないが、小賢しい知恵を弄する。馬鹿の中の馬鹿。逆の発想、論理でいう、断定的に言う。孔子が一番やりたかったのは、今の愚の在り方。そこが言いたくて仕方ない。上の二つは内実が違うこと、三つ目は、詐が愚と言いたい。次の巧言令色につながり、表面ばかりをつくろうことを嫌った、と稲垣君。仕事を終えて遅れて参加した高津君。状況は分かっていないが、清代に「私人修史志？」というのがあり、孔子が個人ではじめて書を編纂した、そのことがこれにつながるが、それまでは史官がいた。当時はそれが管理できなくなっていた時代、今までは王朝の限られた人が、限られた知識人だけだったが、そういうことができる人が増えてきていた。昔は限られた人しか書物を扱えず、愚で直であった。今では、冉有のようにやってはいけないことを、自分の仕える人のために知恵をだしている。それは愚かである、と高津君。民に対する不満ではなく、政治に対する不満。論語の中では民は治められる人、切り離された民でなく、下層民というより、民には昔は三疾、よくないが向って進むところがあったが、今では自分のやりたいことをとりとめなくやっている、矜持する所があったが、今じゃ怒るだけで通そうとする。今の愚は偽るだけ。為政者、政治、仕事の上で付き合う人に対する不満、と稲垣君。民をいうことで上のことを言っている、と高津君。ところで古（いにしえ）はいつ頃の古ですか、と大西さん。ここから恒例の放談となりました。
現代人は進化論以降、世の中は進化し、長期的にみれば良くなってゆくと思うようになっている。孔子の頃は、だんだん悪くなってゆくという世界観のなかにあったのか？ここにもその考えが反映されているのか？いないのか？古いというのは堯・舜の時代のことか？孔子が生きている時代で実際生きていた昔の人間のことを言っているように思えるが。というより、いつの時代でもこういうことはあるものではないか？堯や舜という人間が本当にいたのか？もし、堯や舜がそれほど重要な位置を占めるなら堯曰第二十と最後の章にならず、学而に代わって第一とすべきじゃないか？と疑問が呈された。孔子の頃はBC500年あたり、周が殷を討ったのがBC1121年、620年程経っている、殷が30世640年、夏は17世440年とされ、その前が堯・舜、孔子より1700年以前（BC2200年以前）のこと。夏でも良いとき没落の時、殷でも夏を討ってよいときもあれば崩壊して、周に討たれるときがあり、良い時から悪いときにだんだん向かうというものではない。栄枯盛衰の長い歴史のなかで古と振り返られるのは、そのよかった時のことだろう。孔子も下克上の世がいつまでも続くとは思っておられず、いづれ新たな王朝が興る時があると思い、時代外れといわれようと伯夷や叔斉のごとく、あるべき姿を追及された。堯・舜の時代が特筆されるのは、高津君のおっしゃるように、政治が世襲や打倒ではなく、真にふさわしい人物に禅譲されたことにある。孔子が尚書を編纂したともされるが、今の形のものではない。戦国時代にまとめられ、漢時代に伝えられたものと晋時代に偽作されたものが合され現在に伝わっている。しかし、論語堯曰篇に孔子の言葉として伝えられたものはあり、孔子は夏・殷・周の禮を比較検討しており、述べて作らずの孔子であるから、堯・舜をでっちあげることはない。実在の人間とみていたことは確かであろう。堯・舜の前にも、三皇五帝といって、人間のようだが人頭、蛇身とか、神だか霊だか獣だか、天上界と地上界がつながっており、神・人・霊獣が入り乱れた神話の世界。日本書紀のような一貫した物語構成ではなく、ソースの異なる伝承がまとまらない形で散在してたようで、孔子はこれらについては怪力乱神、不確かで語らず、堯・舜において初めて語るに足るとされたのであろう。虁は舜の樂官だが一角獣、一本足の獣と絵をかく稲垣君。詩経も孔子が編纂したとされ、周南では文王の后が想定されており、古伝に精通しておられたことは間違いない。だけど、この条はそのような知識はなくとも、これとして読むことができるし、そんな遠い昔を想定しなくとも、昔にそういう人を見たような感覚がある。朱子が理や気を持ち込んで話がややこしくなるのと同じく、堯・舜などを持ち込めばそれもややこしくなるのではないか？この時代においても、三疾ある人もおれば、或いはひょっとして亡くなっているのかもしれない。古の起点がどこにあるのかはわからないし、難しいことを考えるよりも、世の中が乱れていく、生き残るだけで精一杯の時代で、人が何を失っていくかは、昔であれ現代であれ同じような繰り返しだとこの条を読んで感じましたと川那辺さんの発言でお時間となりました。来週の塾頭は李さんお願いします。
一揆はシャルル君が参加、大西さん、上田さんで英日チャンポン、酔英語の方が通じるのですかね、つもりで呉越同舟か？終電には間に合いました。シャルル君は10月末にインターンシップが終わり、ローザンヌのホテル学校へ戻る予定、それまでは、アフター9：読書会メンバーというべきか。


2009年10月3日（木）　陽貨篇17〜18
定刻には李さんと上田さんの二人。今日は他の人は来ませんか？いや昔、川那辺さんと二人だけということがありました、と上田さん。川那辺さん、大西さん、稲垣君が現れ、全員で陽貨篇の音読。高津君も登場となりました。本日の塾頭は李さん。

17) 子の曰はく、功言令色鮮（すくな）し仁
孔子の曰く、人が聞いて喜ぶこと、素晴らしく聞こえることを言い、顔色を飾っているのは仁が少ない。前の古者（いにしえ）の民三つの疾（やま）い有り。・・・今の愚は詐（いつは）るのみ。とかかわって説明、どうみるかというと、次の句とかかわって読むべき。似ているようで違っているということではないですか、と李さん。では次の条を、と稲垣君。

18) 子の曰はく、紫の朱（あけ）を奪ふを惡（にく）む。鄭聲の雅樂を亂るを惡む。利口の邦家を覆（くつがえ）す者を惡む。
孔子曰く、紫色の中にある朱い色を奪うのを惡む、鄭聲の中にある雅樂が乱れることを惡む。利口は、注釈によると実でないものを実のように話す、正しくないことを正しいように話す、それで邦が傾くのを惡む。意味することは朱と雅樂がもともとは正しい、紫が朱に似ているようにみえ、鄭聲が雅樂のように聞こえる、それは正しくないが、世の中の人はそれに心を奪われる。臣下のなかで、邦、政治があって・・・君があり臣があり、利口な臣がいて、正しいことでないのに心を奪われて邦が滅びるようになる。功言令色に照らすと、本当のことを人に言わず、飾ることは、紫、鄭聲が仁、正しくないことなのかもと李さん。紫色の中にある朱い色を奪うとはどういうことですか、と稲垣君。紫と朱が二つあるのに、紫が朱のように見えてきてしまう、と李さん。利口の邦家を覆（くつがえ）す者の者は、人のことではなく、利口によって邦家を覆すを惡むの意味。古注も新注も同じく、紫は間色、朱は正色、基本色と中間色。五色といって東は青、西は白、南は赤、北は黒、中央が黄、その間は間色。鄭聲は鄭衛之聲、淫らな音楽の意味ですが、樂・聲・音は日本語とは異なる。音は五音といって、宮、商、角、徴、羽と言いドレミのような音階、樂はある規模の楽章をもつもの、あるいは楽隊規模のもの、聲は旋律で日本でいう声とは違う。雅樂は宗廟の音楽。魯は周公の邦で、周の樂を継いでいる。ところで利口とは何ですか、と稲垣君。吉川先生によれば、口先が達者。仁斎によれば、多言少実、朱子の解釈では是を非、非を是とし、自分の利益のために、自分の都合に合わせて正しいことを正しくない、正しくないことを正しいとする、と李さん。それは范氏の注、朱熹は、捷給、捷ははしこい、相手に対して俊敏に、ツーといえばカーと応える回転のよさ、給はぺらぺらとしゃべる、言葉数が多いこと。朱熹は捷給、仁斎は多言少実とした。利口の利は聡い、鋭い、口は弁舌、口がたつ、集註では、正しいことを以て非とし、非を以て正しいこととし、賢い人を以て馬鹿とし、馬鹿を以て賢いとする。口で人をまるめこむ人を君主がそれを悦んで信ずると、國は滅びる、転覆することがあり得る。奪うは、朱の正しさ、その位置を奪う。原色はきれいな色、強い色でこれでは疲れる。中間色がないと安らかさがない。日本ではえび茶、薄黄など沢山の中間色があり好まれる。ここではそれが正しい位置を奪うとしている。鄭聲は今の世ではポップミュージック、今の人にとっては雅楽よりポップミュージックの方が楽しい、鄭聲と雅樂は別物、と稲垣君。乱すについての私の感覚は、利口にポイントを置いたので、そういう解釈になった、と李さん。邦が覆る、と言ってもいきなり邦が覆ることはない。色、音楽と前にきているのは、目に入るものは心理的効果があり、鄭聲が淫らと思って聞いているわけでもない。巧言令色もそんなに簡単に分かるものではない。以前にこれをやったとき、上田さんがおっしゃっておられたように、すぐにわかるおべんちゃらみたいなものではなく、実際にそれを見分けることは難しいもの。正しくない色も音楽もだんだんと分からないうちに人の心に浸潤していくもの。利口の口先も非常に分かりにくい。どうしてここへきて再度巧言令色が出てくるのかを考えてみると、いかにもという見分けがつかないもの、実はこれほど難しいものはないということではないか。孔子ですら苦悩をしている状態をあらわしているのかもしれない、と川那辺さん。目、耳の順、聞いていてピンと来たのだが、乱すと覆すも似ている。安定している状態をひっくり返す、正しくないものがただしいものを犯す、と稲垣君。巧言令色の言葉自体、言葉と顔色。言葉、耳、感性、言葉づかい、手振り、表情、人が反応するのは感覚、正しいことがあっても、惑わされる。朝鮮では正樂と俗樂が分かれているが、音階などの範囲は一緒で、俗樂は表現が豊かなだけ、と李さん。正俗の分け方は儒教の伝統を引いている、と稲垣君。昔祭礼がきちんと行われていた時には、正色が尊ばれて季節合わせて定められた色を着用したのだが、当時は紫が流行って（�ｸ黨篇6）いたとされる。雅楽もそうで祭祀がしっかりしておればそれが尊重されが、鄭聲の方が流行っていた。その現象に対して、そういうことを続けると本末転倒が起こるので、奪、乱、覆という強い言葉を使って孔子が戒めたのではないか、と上田さん。以前に高津さんがその時に、小室さんの音楽を聴くと胸が悪くなったと言っておられましたね、と川那辺さん。パッと聞きでの衝動買いで、聞きなおして買った自分がくやしくて、すぐに人にあげました、と高津君。その時に水の結晶の話で、モーツアルトの音楽ではきれいな結晶になり、小室さんのものではぐちゃぐちゃになるってあったでしょう。体液にも当てはまり、小室さんのものでは結晶がつぶれます。当時は笑っていたが、その後の小室さんをみるとやっぱりそうかと思ってしまって。目にはみえないけれど、間違った音楽は人の心の中をおかしくする。例えば軍歌は闘争心をあおり、人間の心理に影響を与える。色は正色と間色、色の心理の本を読むと、赤と紫は反対色。赤は前へ行く力のある色、紫は現実逃避の方向。孔子は分かっておられたのでは、うまいなあと思う。二つの対比がすばらしい。だんだんと人の心に入り込んで、口先のことに知らないうちに左右される、と川那辺さん。雪の結晶のことを言う人がいたが、一緒かもしれない。科学者に批判をされていたが、色と音にはそういう効果があるのかもしれない。当時を空想すると、雅樂は社会の変化や戦争などにより、マイナーチェンジをしてゆく、楽器編成なども含めて、鄭聲により変質し、魯の雅樂が変質していたかもしれない。僕やっている古琴でもそうで、古いものはすごくシンプル、今のものは西欧のテクニックが入っており技術的には進歩するが、奪われてゆくものがある。西欧のリズムにより東洋の呼吸、間というものが失われる。前の二つは例、三つ目からは政治的なこと。これはよくよく考えないと、と稲垣君。小室さんのはすぐに人にあげた。思うに、孔子は紫と鄭聲と利口を全否定したのではなく、奪う、乱す、覆すことを惡（にく）む、で全否定ではない。魯の桓公が紫を着ていた、それは周の衰えを示すとある。それに対する・・・代弁する気持ちで言っている。利口の人がいつの間にか邦を滅ぼしてゆくことになるなど、時間がかかるが、そうなる、と高津君。制度の崩れから国家システムが変わり、転覆する、その流れ。巧言令色は主君に受け入れられやすく、国家をむしばむ。アリが象を倒す、と稲垣君。中国王朝はそうなっている。以史為鏨（鑑）、歴史を鑑とするとならない、と高津君。
最近の論調をみていると、自虐史観はいけないということで見直しをする方向だが、過去を反省するということは大事なことで、日本は憲法第9条を堅持し、将来世代が徴兵され、兵士となって他国へ派遣されることがないようにありたいものということから放談へ。9条を守れば戦争が起きないということにはならないでしょう？ガンジーでゆくと腹をくくらないといけない、そうでなくては無理なこと。第一次世界大戦にこりた欧州は国際連盟を作ったり、不戦条約を結んだり、二度と大戦を繰り返してはならないとしたが、第二次世界大戦は勃発した。ナチスのヒトラーであり、ファシストのムッソリーニと日本が加わり、全体主義が戦争を引き起こしたと考えられ、戦後、連合国はドイツと日本に戦争放棄させることで、第三次世界大戦が防止できると考え、国際軍事法廷で平和に対する罪、人道に対する罪を裁き、軍隊放棄の憲法を導入することを迫った。ドイツは、自ら徹底してナチスを断罪し、軍隊を放棄することを回避し、日本は、天皇制を護持することを優先させ、軍隊を放棄した。しかし、世界ではすでに冷戦が始まっており、朝鮮動乱を期に日本に自衛隊を組織させ、テロとの戦いでは自衛隊の海外派遣を求めるという動きとなった。ドイツと日本から軍隊をとりあげれば平和が保てるなんて子供じみてますね！ところで日本人にとってそれほど天皇は大切なものですか？正月に皇居で天皇万歳なんて気はありませんが、天皇家は伝統文化の宝庫であり、これは大変なものです。生けるミュージアムですか？韓国などは政権が代わると前大統領が裁判にかけられ断罪されるということが起こる、中国でもそういうところがあります、そうしないと自分たちの正統性が示せないというジレンマです。ところが日本では、ある時期から天皇を別格として、貴族や武士が政権を奪取することはあっても、天皇は護持するというスタイルができ、世が乱れると天皇をシンボルとして国を統一するというパターンが出来上がった。権威と権力が分離している。第二次大戦に関して、海外からみれば国家元首である天皇に戦争責任があるとみるのは当然であるが、マッカーサーはヒトラーと天皇は役割が異なることに気付いたのであろう。天皇の意志と命令でこの戦争が始まったものではない。天皇の意志で戦争が終結している。もし、連合国側が天皇を逮捕し、法廷にかけるという行動にでれば、日本軍の武装解除はやっかいなことになっていただろう。天皇自らの終戦と復興への言葉を聞いて武器を置いた。いやそうでなく、マッカーサーはソ連との冷戦があまりに早く始まったことに配慮したのではないですか？戦犯となった人が天皇制を守るために、罪が天皇に及ばないようにするマインドがあった。いや、そうばかりではない、海軍は死刑を免れるために工作をした・・・なかなか、こういうことを聞ける場がない、光州事件のことなど聞かれると答えに窮する。中国の軍備増強も脅威じゃないですか？これまでの中国は人海戦術でしたが、核とミサイル、サイバー戦などでは力をつけており、南シナ海で中国艦船が米海軍の音響測定船の活動を妨害したりしてます。中国は経済発展に伴うエネルギーや食料確保のためシーレーン防衛、海軍増強をせざるを得ません。武器援助をテコになりふり構わず資源獲得に走る中国。そういうなかで、どうするのかが問題・・・・次回の塾頭を決めるのを忘れて時間がオーバー。


2009年10月10日（土）　陽貨篇19
林君、台湾学会から帰国。休んだ人の分まで通訳で大変、ツアーも早朝からで睡眠不足、学会と交流会で観光の時間がなかったようです。おいしいお菓子ご馳走様です。本日の塾頭は決まっておらず、川那辺さんにお願い。

19) 子の曰はく、予（わ）れ言ふこと無からんと欲す。子貢が曰く、子如し言はずんば則ち小子何をか述べん。子の曰はく、天何をか言ふや。四時行はれ百物生ず。天何をか言ふや。
孔子がおっしゃるには、言うことがない、これは何もいいたくないですね。子貢が曰く、孔子がおっしゃらないならば、私は何をいうことが出来るでしょうか。孔子がおっしゃった。天が何を言うのか。四時、四季、春夏秋冬はいわれなくても行われ、生きとし生けるものは生きている。天が何を言うというんだ、と川那辺さん。語に則してわかる範囲で解釈するのは古文を読む基本。音読の声調も良かった。大学の二回生でもこうはゆかない、相当の進歩ですね。この条は難しいですが、どう思いますか、と稲垣君。前条とのつながりがあるでしょう。何故こんなことを言うのか？前回には再度巧言令色が出ており、続いて、世の中が狂い始めていることを言っていた。これは若い時ではなくて、あまりいい状態でもなく、年をとった時のこと。私が何を言っても意味がない。しかし、よく見てごらん。天が何も言わなくても、四季も万物もちゃんとまわっている。一見開き直り風に言っているが、実はそれでも何かを言いたい。「・・・」が付いている感じ。四季はサイクル、巡るもの。悲しいかな世の中、人の心がどれほど乱れても春夏秋冬は訪れる。すべてがなくなる、死ぬ・・・というわけでもない。乱れた世でも自然のサイクルはそれなりに回ってゆく。あきらめではなく、悲しみというか、何も言えないもどかしさ、でも、何かをいいたい。子貢は何かを言ってほしいと促している感じ、子貢は何も言わない。何かを言えば、それは違うとなる。子貢はかしこい言い方をしていると川那辺さん。本日階上ではブラスバンドの練習中。うるさいですね。西洋の音楽と中国の音楽はやっぱり違うなあ。曾候乙墓から鐘が出てきた。ずらっと鐘が吊り下げられ、音律は正確で音色もよい。先秦から清朝までの音楽を収録した6枚のCDを聴くのですが、階上みたいに、こうバンバン音を出すものではない。前の条では昔ながらのものが崩れてゆく。ここでは、四季の運行のサイクル、不変のもの、それが対比されている。子貢が出てくるのは、ここは言語にかかわるから。言語は子貢、宰我。子貢は弁がたつ人。孔子が黙る。しゃべる、述べる、言葉で説明する。「述而不作：述べて作らず」が孔子のスタイル。説明するが書き残すことはしない。これは、晩年のことと思う。先生が言わないと、作ることならず、伝えること、それは政治のスタイルに関するものであるが、学統が継いでゆけなくなる。あきらめたのではなく、言わずにはっぱをかけた。最初、孔子の言葉は絶望かと思ったが、絶望というのは乱暴な言い方、確かに、もどかしさ、どうにもならない、抗えないことがあるということか。「言は意を尽くさず」、どれだけ説明してみても意味することを理解してもらえない。伝わらないので言いたくない。予欲無言の欲という処にその意思があらわれている。憲問篇37)に、「我を知る莫きなりか。子貢が曰く、何為れぞ其れ子を知る莫きなり。子の曰はく、天を怨みず人を尤めず。下學して上達す。我を知るは其れ天か。」突っぱねた言い方で、ここにも天がでてくる。人との付き合いを自分から断つ。何か似ている、と稲垣君。金谷先生は、何も言わなくても、教えることはある。言葉だけを頼りにしてはいけない、とされるが、僕が考えるに、弟子に言葉だけを頼りにしてはいけない、となれば、何を頼りにするのか、となる。コミュニケーションを拒否して何を伝えようとしたのか？そこが大事。理解してくれる人がない。そこが突出しているようだが、心情を伝えることをしない、というのはあまりにも単純、理解してくれる人がいない寂しさを言うのではなく、他のメッセージが含まれている、と林君。何か具体的な孔子学園の勉学のシチュエーション。あなたがしゃべらない。天の運行、自然現象を言い、自分で考えろ、となる。次条の無言の教えとつながるが、それだけでいいのか？天というのはもっと重い、と稲垣君。コミュニケーションの拒否ではなく、弟子が孔子のいうことを記録してゆくばかりでなく、自分なりに勉強してゆこうということ、と林君。これは川那辺さんの言われたように晩年、おそらく、顔回も子路も亡くなって以降。稲垣君が「言は意を尽くさず」と言われたように、これは易の言葉で孔子が易を注しておられたことにも関係しており、「四時行はれ百物生ず。天何をか言ふや。」は易風。孔子は自分の死期を感じておられ、自分が居なくなってもという思いが込められているのではないか、と上田さん。生きている間には自分の理想が実現される見込みはない。何をやっても無駄なようである。自分があかんではなく、出来ることと出来ないことの境の折り合いがついた。何をか述べんは、孔子の学団で語る先生の教えを述べねば、先にゆかない。正統を継ぐ、学派のアイデンティティーにかかわる、結構根本にかかわることを言っている、と稲垣君。孔子が言いたくないといえば、普通ならどうしてですか？何かあったのですか？みたいな問いをするが、子貢は違った。顔回や子路ならどう言うか？子貢は孔子の学を継ぐというより、生きている孔子を支えてゆく、器の役割を果たした人。子貢にとって物言わぬ孔子は死んだも同然。何も述べるものがなくなる、この世に生きてこその孔子じゃないですかと孔子に答えを迫った、と上田さん。林君につなげるならば、死期も近いから自分で考えてゆけ、となるかな、と稲垣君。孔子は物言わぬ天と話をしてきた、物言わぬ先人から学んできた、そういう風にして学んできた孔子であり、自分が死んだとしても自分から学ぶことは可能とした、と上田さん。何故ここで天を持ち出したのか。いくら偉い人の言葉にも無力感はある。人力には届かない処がある。天という超越的な存在があり、世の中も動いてゆく。現代本に、無言は孔子の教育の方法。身をもって行動してゆくことを学ぶ、とあるが、現代人の教育思想であって少し浅い。悲愴感のようなものはない、と林君。次条も無言の教育とされるが、それにも納得がいかないところがある、と稲垣君。孔子の教育家としての側面には、もっと深いものがある、と林君。しかし自然から学ぶことは大きい、と大西さん。
教育ということでは、今の教育現場では驚くべき事態が進行している。かつて大学院の増員が図られ、社会人もそこに導入したが、文系では大学院を出た人間の就職先がない、また、先生より高齢の社会人を導入したことで、遠慮が生じ、学問レベルの低下を招いた。こういうことには反対だったが、こういうことになり、今度は一転して減員、あるいは早期に修士、博士課程が取得できるようにし、先に輩出した院生を蹴落とすことに向かっている。文系では理工系のように短期間で論文を書けるようなものではない。もはや支援はないので、ギリギリの生活費かせぎのアルバイトで時間をとられて、研究の時間もとれなくなる、人と話をすることもなく、自炊などしておれば、"うつ"になりかねない。大学で講師となっても、授業評価で学生にうけなければいつでも切れるようになっている。学生は先生をからかうが、先生がそうすればハラスメント。寝転がって授業を聞くのを注意してこじれれば、授業評価でX点となる。授業で発表することになっていても無断でやすむ。よく平気でいられるものだ。メールで事情を聴くも返事無し。学生番号だけ記してあり誰だか名前を記さない。これではいかん、なんとかせにゃとがんばるんですがね・・・嘆息。NHKでは朝食もとらず、顔も洗わず、熱がでたまま登校する小学生が増え、授業料が払えない高校生にアルバイトの斡旋をし、その給料まで回収する先生など、親の失業による悲惨な現状が放映され、子供はどうなるんでしょうね。少年時代から道を閉ざされる子供が増加している。正社員になれない若者は潜在的にその子が教育の場で落ちこぼれてゆく予備軍。将来そういう人間を救済するコストと教育費を無料にしてそれを防ぐコストとどっちがいいのか・・・嘆息。
暫し脱線、本題に戻り・・・欲無言・・・四時行・・百物生・・・は現実世界から距離を置く隠者風、老荘風なところがあり、現実で人と共に行動する孔子の姿とは異なる。しかし、ここでは違っており、顔回が生きておれば、孔子のこの側面が受け継がれたと思うが、これを継いだのは荘子で、こういう観点からの孔子を描きだしており面白いのですが、晩年に、孔子はそういうことを考えておられた、と上田さん。それは「川の上に在して曰はく、逝くは斯くの如きか。夫れ、晝夜舍かず。」川上の嘆（子罕篇16)と同じく孔子の根本原理で隠者の考えとは全く違う、と大西さん。それなら、欲無言とあるのは何故ですか、と稲垣君。四時行はれ百物生ずは自然の根本原理、川がああいう風に流れるその中に天命がある。禅なんかもそういう考え方、と大西さん。曾�ﾙが「莫春には春服既に成る冠者五六人童子六七人、沂に浴し、舞?に風じて詠じて歸らん（先進篇25）」みたいな、と稲垣君。そうじゃない、何もしなくても自然の中できちっとおこなわれており、人間社会もその流れの中にあり、倫理的なこともそのなかにある、と大西さん。無為自然、老子、荘子ですか、と稲垣君。老荘は人間社会を捨てているが、そういうことではない。自然が物を言っている、禅の「渓声山川草木長口舌」のごとく、自然が語る、と大西さん。朱熹の注は中立的。自然の不思議さに重きを置いた解釈。しかし、自然に重きを置くと前後のつながりが悪くなる、と稲垣君。前段は紫のこと。本来は自然のもの。人工的、人為的なものが・・今流行っているもの、そういうものではない。ともかく自然の偉大さが根本、と大西さん。それなら、孔子の何も言いたくないという言葉は意味をなさない。はじめから子貢に、天何をか言ふや。四時行はれ百物生ず、と言えばいいことになる。何故孔子は何も言いたくないと言ったのですか、と川那辺さん。人間の力の根本は自然にあるもの、と大西さん。四時はサイクルがあって戻ってくるもの、川の流れは戻ってこない、その対比があり、両者は違いがある、と稲垣君。川の流れも、四季も一緒、どれも自然。川も雨も天地の運行も、と大西さん。中国では、川の流れと四季は違う。例えば海、海は川が最後に行き着くところ、世界の果てにある概念。自然に対する認識はそれぞれ違いがある。山、六朝から宋代になり自分で山歩きを行う、そうして都の中にない美を発見する、山水の発見があった。楚辞では招隠士、山に籠った隠者を引き戻す、山は恐ろしいものとして描かれ、虎など獣が居るところ。仁者は山を愛すなどもあり、それぞれ意味が異なる、と稲垣君。そういう難しいことではなく、山川は自然そのものと単純にみて話している、と大西さん。自然を定義することは難しい、と林君。ここで時間となりました。この条、それぞれの解釈があり、なかなかひとつの道を見出しにくい難しい箇所。脱線、嘆息、どうすればいいのか何も言えない、何も言いたくも無い状況でも時間は過ぎ、季節は巡り巡り、矛盾を抱きながらも自然のサイクルは音を立てずに行われています。とはいうものの、頻繁に起こる巨大地震、豪雨、竜巻・・・・これ単なる自然サイクルの許容範囲といえるのか？何かを感じる必要があるのではないかと思いつつ・・・・。ぐっと冷え込んだ空気を吸いながら・・・・溜息。
来週の塾頭は林君にお願いします。


2009年10月15日（木）　陽貨篇20〜21
久方振りに発音練習。a e I o u ü　中国語の口の形、音の出し所に留意して李さん、川那辺さん、上田さん、稲垣君について発声。続いて陽貨篇を音読。秋はあちこちで学会ですね、林君は学会で忙しいようですと李さん。では、本日のところを始めましょう、李さん、音読は私がしますので、訓読をしてください、と稲垣君。

20) 孺悲（じゅひ）、孔子を見んと欲す。孔子辭（じ）するに疾を以てす。命を將（おこな）ふ者戸を出づ。瑟（しつ）を取りて歌ひて、之をして之を聞かしむ。
孺悲が孔子を見ようとしましたが、孔子はこれを具合が悪いとして断った。命をもらった人が外に出た。瑟という楽器を以て歌って、その歌を聴かせた。というくらいの意味ですか？何故これを書いたのか全然分からない。吉川先生の解釈では、ある場面を説明しているだけ。前の句とかかわること、吉川先生の解釈によると、孺悲が孔子に会いたいのを断った訳を、具合が悪いのではなく、他の理由で会わないことを表すですが、何故わざとそうじゃないと伝える必要があるのか、よく分からない、と李さん。孺悲というのは哀公の家臣で、哀公の命をうけて孔子に士喪礼を学んで書にした、マニュアルのようなものを作った人とされている。將命者は吉川先生は孔子の弟子で客人との取次役をしている人とみておられるが、義疏は孺悲の使者とする。具合が悪い、病気だと会うのを断った、そのままだと、使者が病気だと伝え孺悲が見舞いと称して来る可能性があるので、歌声を聴かせて元気なところをみせて、その必要のないことを悟らせたことになる。ところで何故孔子が会いたくないのか、その理由は分からない。朱子は、「是の時に當り、必ず以て罪を得る者有らん。」としている。当時の人は分かっていたが、書けないような理由があったのかもしれない、稲垣君分かりますか？私は、士喪礼のみを書きとめてマニュアルにされたことに不快感を示されたのではないかと思ってみたのですが、と上田さん。いや、分からない。孔子に出頭命令？政治的事件に連座？陽貨から逃げたみたいなことかな？士喪礼もそうかもしれない。本当のところは分からない。論語には子貢には言語といったキャラクターがある。孺悲も士喪礼の人というキャラクターで登場しているのかもしれない。ここにしか登場しないので、そのキャラクターが固定していた。辭以疾は以疾辭の順でもいい、意味は同じ。孔子が歌った詩は、何か病気でないことをにおわすような詩であったのだろう。論語の時代は男性が瑟（しつ）を弾いた。漢代では琴（こと）、近代では瑟は滅びた。後漢の鼓琴の名手に蔡?（さいよう）がいる。蔡?の蔵書といわれる博学博識の人で、王粲（おう さん）の学才を見抜き、その蔵書を託した。蔡?はある時、木がパチパチと良い音を出して燃えるのを聴き、行ってみると桐の木であった。それを火から取り出し、それで琴を作ると良い音がした。端の方が焦げたままで、その琴を「焦尾」とした。琴は枯れた木材、それをあぶって水分を飛ばして作るといい音がでる。出戸も礼があり、出たのを確認している。使之聞之はわざと聴かせることを強調している。情景は分かる。前の条との関連は、林君が言っていたように、言葉に頼らず、言外の教えを汲み取ることでもある、と稲垣君。金谷先生は、孺悲が紹介者もなしにいきなり訪ねてきたからだという説もあるが要するに何かの落ち度があったのだろうが分からないとされているが、紹介者なしにという例があるのですか、と大西さん。古注にも新注にもないですね。そういう説を唱えている人がいるのかも。哀公の命で士喪礼のことは、礼記の雑記にあるのですが、君命にたのんで、人をたてずにいきなり孔子に命じようとした失礼な奴なので、疾で断ったというわけですか、と稲垣君。君命を盾にとるのは礼に反す？と大西さん。雑記を引いた人が、その時のこととしたのであろうが、それがこの時のことなのかは、確かめようがない、と稲垣君。孔子も大胆なことをしてますね・・・哀公にとっては、気の悪いことでしょう、と高津君。この時でなくて、前に何かあったのだろう、と大西さん。礼の分からない人なら、孔子がやったことも通じておらず、意味がない、と稲垣君。分かっているでしょう、それくらいの機転はきくでしょう、と李さん。孺悲の立場で考えれば、これは直接自分で行かなくてはいけなかったと思ったのではないか、と高津君。会いたかったが会えない。門を出たところで疾でないと分かった、と稲垣君。もし、孺悲が短気だったら、それで終わる。俺は哀公の命令で来ているのにどうなるかを試された、となれば違う、と高津君。前回休んだが、19）の解釈をみれば、言葉ですべてを伝えられない、それからすると、孔子は孺悲や哀公に言葉でなく行為でみせた、言葉以上の強い意思、感情を示している、と李さん。孔子が哀公に何かを知らせたかった。孺悲が、孔子がこんなことをやってましたよ、親分。みたい報告したということですか。考えようによっては、これでお互いわだかまりがとれて、かえってうまくゆくということもある。次を高津君どうですか、と稲垣君。長いですね。予習していないので、音読だけは、と高津君。

21) 宰我、問ふ。三年の喪期已（きすで）に久し。君子三年禮を為せずんば禮必ず壞（やぶ）れん。三年樂を為せずんば樂必ず崩（くず）れん。舊穀既に沒（つ）きて新穀既に升（な）る。燧（すい）を鑽（き）りて火を改む。期にして已（や）む可し。子の曰はく、夫の稻を食らひ、夫の錦を衣（き）る。女（なんじ）において安（やす）きか。曰ふ、安し。女安くば、則ち之を為（せ）よ。夫れ君子の喪（も）に居る、旨（うま）きを食ひて甘からず。樂を聞きて樂しからず。居處（きょしょ）安らからず、故に為（せ）ず。今女安くば、則ち之を為（せ）よ。宰我出づ。子の曰はく、予が不仁なるや、子生まれて三年、然して後に、父母の懷を免（はな）る。夫れ三年の喪は、天下の通喪なり。予や三年の愛（めぐみ）其の父母に有るか。
三年の喪礼、父母の喪礼。三年の期間は長すぎる。君子が三年喪に服して何もしないとなれば、礼はボロボロになる。三年樂を行ったりしなければ、必ず崩壊する。新しい穀物のこと、古い蓄えがなくなり、新しい蓄えが実る。燧はたいまつ、火を改める。季節によって火のつけかたを改める。季節の木で季節の火にかえる。これも一年で十分、と宰我が言った。これで十分じゃないですか、と言うと、孔子は、稲は錦が着物でもいいもの、それと同じく、穀物でも旨いもの、それを食べて、きれいなべべを着て、お前は快適か、それでいいのか？と聞くと、いいですと答える。お前がええんやったら、そうせい。しかし、君子が喪に服するは、旨いものを食ってもうまくなく、楽しい音楽を聴いてもたのしくないもの。暮らしていても不安となる、だからしない。いいというならやればいい、と孔子がいうと。宰我が出て行った。孔子は宰我が出て行ってから言うのが味噌。予と名前を呼び捨てにできるのは師である孔子だから。宰我は大変不仁、情けのない人である。子として生まれて三年、三年たってはじめて子は父母の懐から出てゆく、一人で立って、飯も食えるようになる。三年の喪は天下の通例、習慣。なのにそれを考えない。あいつは父母の三年の愛を受けていないのか、と言った。おきまりの宰我と孔子の一件。言語には宰我、と稲垣君。上手く言うことがあり、しゃれっ気もある、と高津君。宰我はこれで四度目。一度目は八佾篇21)で、「夏后氏は松を以てし、殷人は柏を以てし、周人は栗を以てす。曰く、民をして戰栗せしむ。子これを聞きて曰はく、成事は説かず、遂事は諫めず、既往は咎めず。」と叱られ、二度目は、公冶長篇10)で、「宰予、晝（ひる）に寢る。子の曰はく、朽木（くちき）、雕（ほ）るべからざる。糞土の牆（しょう）、木二勹（ぬ）るべからざる。」とさんざんこきおろされ、三度目は、雍也篇24)で、「仁者これに告げ井に仁有りと曰ふと雖ども、其れこれに從はんや。子の曰はく、何すれぞ其れ然らむ。君子、逝（ゆ）くべくも、陷（おちい）るべからず。欺（あざむ）くべくも、罔（し）すべからず。」、そして、四度目がこれ、と稲垣君。時代の流れがある。宰我はそれによって言っている。宋の時代、三年間喪に服している間に国が弱くなってしまったという話がある、と高津君。宋襄之仁のことだろう、と稲垣君。孔子と宰我は年が離れていて意が伝わっていない。三年の喪は後に批判される。孔子と弟子にずれがある。孔子は形にこだわり、形を残そうとするが、それは心があってのこと、心が無ければ意味がないとする。それが何故かうまく伝わらない、と高津君。これは孔子の生前から意見が分かれている。宰我に賛成する弟子も結構いた。宰我は合理的な考え方をする、倫理的かどうかは別として、礼樂が壊れるから、改めるべきは改めようとするが、孔子の理想はそうではない、と稲垣君。今の教育は合理的で変える。それでいいのかと反論したのですが・・・と李さん。孔子が三年の喪は譲れないとするのは、「孝」からくる。親子の孝、根本を崩すことができない、と稲垣君。根本は礼義だけでなく、これがあるからこそ社会が維持され、善くなるとし、人民を守る道としてみている。それが変位にあり、一見合理的なものであるが仁でない、と李さん。宰我は一番素朴なことを聞く。理解しやすい答えを引き出す問いをする。子貢とは全く異なり、宰我しかこういう聞き方はできない。孔子にすれば人間的には宰我はかわいかったのでは？答え方をみても一般人にわかりやすい。これまでと違って目がさめるほど分かり易い。これはもう宰我の才能、と川那辺さん。宰我昼寝とか、朽木不可雕や糞土之牆不可?などの諺は宰我によって伝わっている。この人がいないと残らなかった、と高津君。難しいことばかりでは伝わらない。簡単に言う人が必要。孔子も教え甲斐がある。宰我が一番分かり易い、と川那辺さん。かわいいはない、孔子とはそりが合っていない。最大限のお叱りだが、水掛け論になるから、孔子は黙ってしまい、居なくなって後であいつはダメだ、居なくなってからいう、と稲垣君。一緒に苦笑の高津君。こういうタイプには、こういう対応しかない、と川那辺さん。「告朔（こくさく）の?羊（きよう）を去さむと欲す。子の曰はく、賜や爾、其の羊を愛す、我は其の禮を愛す。(八佾篇17)」もそうではないか。三年の喪は君子のみか？一般人もみなそうですか、と大西さん。天下の通喪という意味では世間の誰でもですが、農民は生きてゆくには無理でしょう、と稲垣君。魯の君主のことを言っているのか、と大西さん。宰我が対象としているのは君子、君子のことを言っている、と高津君。季氏の当主でも同じことか、どこまでを対象とするのか、と大西さん。普通の庶民は生活上そんなことはできない。喪に服すで、喪には服装が決まっており、五服といい、斬衰（ざんさい）　斉衰（しさい）　大功（たいこう）　小功（しょうこう）　緦麻（しま）があり、斬衰は斬るで麻のごつごつの布で裾や袖が切れて粗末なもので着ていて重い、悲しみが重いことで飲食にも制限があり、太っていてはいけなく、やつれた姿でなくてはいけない。それを三年着ていることになる、斉衰になるとそれがゆるくなる。しかし、そういうことが事細かく決められるのは漢代以降で、士大夫レベル以上でなくては出来ない、と稲垣君。孔子は落ち着かないが自分の感情、宰我はそうでない。孔子には形も気持ちもある。そこが孔子と宰我の違い、と高津君。左伝を読んでいても哀公や季氏が三年喪に服して、その間物事が行われないというような印象は全くない、下剋上の時代にそんなことはやってられなかったのではないか、と上田さん。宰我は政治的に考えていた。当時は宰我の方が時流に合った考え方をしていた、と高津君。時流からすれば、三年ではもたない、一年で区切りがつく、と孔子より宰我の方が的確な答えを出していた、と稲垣君。士大夫階級でもそういうことをする人が少なくなっており、孔子がそう言ったのではないか、と大西さん。古いものと新しいものとをどう折り合いをつけるかが問題、と稲垣君。回り回って時代が時代、孔子が堯や舜の時代に生まれておれば大聖人、出来れば孔子に国を治めてほしかった、と高津君。だけど、孔子にお前はそれで心地がいいのかと聞かれて、即、心地がいい、と答える宰我も宰我。孔子にそういわれて、普通はそうはいえない。流れの中でビシッと、おもしろい、と稲垣君。宰我には手がつけられない状態、直接言っても無理、と高津君。だから居ないところで言う、と稲垣君と高津君。孔子だって時代の変化を感じてないはずはない。当然宰我がこう出ると分かっていたでしょう。孔子が心苦しいと思っても、宰我は平気だと答える。最後のところ、この人は親に愛されたことがないのかというところ、宰我の生い立ちが分からないので言いようがないが・・・これひょっとして彼の生い立ちをよく知っていてこう言ったのではないか。厳しい言い方をしているように見えても、宰我に対する愛情も感じると川那辺さん。そういう意味では、ここに人間性があらわれており、もう何も言わない、というものではなく、孔子にはショックだったのかもしれない。君はそうだった、君はそう考えられなかった人だな、となるということですね、と稲垣君。通喪やはりここでは誰でもしたということですかね、と大西さん。
前条も情景は分かるが、孺悲との間に何があったかよく分からない、天下の通喪もどこまで行われていたのか分からない。疑問の残ったまま時間となりました。来週は24日（土）、塾頭は林君お願いしますよ。


2009年10月24日（土）　陽貨篇22〜23
発音練習。a e I o u ü　今回はｂ ｐ ｍ ｆ 有氣音、無氣音。李さんはこのへんはバッチリです。音読はピンインに頼らず、孺悲欲見孔子の孺にruではなく入、如と同じ音の字を付けて覚えるのが上達のこつ。声調も欲゜と記し四声とするような方法がいい、と稲垣君。本日の塾頭は林君。

22) 子の曰はく、飽（あ）くまで食ひて日を終へ、心を用ひる所無し。難いかな。博弈（はくえき）なる者有らずや。之を為（する）は猶を已（やむ）に賢（まさ）れり。
食事以外何もせず一日なにもせず過ごすのはむつかしいでしょう。博弈は囲碁、世の中にはゲームがあり、それは、何もしないよりは、囲碁のようなものをやることはましなことになる、暇つぶしの方がまし、と林君。博は双六、弈が囲碁。ゲームは博打につながる。正倉院展で昔の双六盤が見られる、古くからあることはこの論語、楚辞にもあり、間違いがない、と稲垣君。孔子によると、人間は生きている以上、動物のように食べてばかりしていると、禽獣と一緒、人間として生きる価値が無い。それを批判して、ゲームでもしている方がまし。充実して過ごしましょうということ、と林君。飲食のところですが、素直に取れば飲み食いですが、孔子の弟子が飲み食いばかりしているというのはないでしょう。食事のことを言っているのですが、学問を食べる、知識ばかり埋め込んで何も考えないならば意味がない。そんなことをするくらいなら、博打で金儲けをする方がいい、と川那辺さん。博弈は必ずお金につながるわけではない、と李さん。博打はただやるというものではなく、それを熟知してこなすことができなければできないものです、と川那辺さん。孔子がそこまで考えていたのでしょうか、と李さん。衛霊公篇31)に、「子の曰はく、吾嘗て終日、食さざる。終夜、寢ねず以て思へらく、益無し。學ぶに如ざるなり。」これは逆バージョン。こっちは飯を食いぼーっとしている。腹一杯で心を用いない、問題に心を向けることが無い、こういう人間は使いものにならない。奥歯にものがはさまった言い方。博打はそれにくらべれば、目的に向かっている、指向性がある。為之猶賢乎已は賢を皮肉っている。学をしない人に対するもの、学び考えよ。衛霊公篇は考えるだけではダメ。進展がないときは考えるばかりでなく、学び、知識を吸収しなさいとなり、ここでは食べるばかりのことを言っている。飲む（酒）、買う（女）、打つ(博打)、博打というよりゲームかな、と稲垣君。少しも頭を動かさない人間、人間は人として生きなさい、禽獣とは異なる、その比較をしている、と林君。食べることに頭は使うか？使わない。これには思い当たることがある、疲れると眠る、無駄に眠る、旨いものが食いたくなる、と稲垣君。「難いかな」はどういう意味ですか？と李さん。私の参考書には、人間は仕事をしなくてはならない。何もしなくて食べておれば、学徳に進まない、徳という風に解釈される。これでは徳を高めることはできない、と林君。「群居して終日言ひ義に及ばず、好んで小慧を行ふ、難いかな（衛霊公篇17）。」とある。人間としてものにならないということ、と上田さん。大学に、「小人閑居して不善を為す、至らざる所なし」とあり、孟子に、「飽食暖衣、逸居して教え無くば、則ち禽獣に近し」とあり、これは論語のこの句を説明するものとされている、と林君。それは貝原益軒の好きなフレーズ、益軒は好きな所だけを取って、篤信ひそかに考えるに・・・と結構読んで覚えている。学ぶべきことが、あまりに読むべき本が多く、「約を守る」と大事なフレーズを先に覚えることが学問をするには必要と、いいフレーズを集めて覚えている、と李さん。孟子までゆくと説教臭くなる、極論になっている。孔子の場合は、そういうことがあり、それではものにならない、と稲垣君。ものにならないに何故、博?をいうのか？博?をすれば君子になれない、とそこまで読めますか？と李さん。君子のたしなみとしての博?でもある、と稲垣君。学問せずに食べて寝るくらいなら、博弈でもしなさいとなりますか？と李さん。博弈を推奨しているわけではない、人間だからこそ頭を使いなさい、最低限、博弈くらいちゃんとしなさい、閑居するよりまし、と林君。心を用いるは必ず学問につながる、そのように解釈すればいいのですか？と李さん。博弈は博打というよりは、貴族のやるゲーム、目くじらをたてることではない、孔子も小さい頃にやっていたかもしれない、と稲垣君。博物誌に、「堯、囲碁を造り、丹朱之を善くす。」とあり、丹朱は堯の子であまり賢明でなく、やらせたようだ。囲碁や将棋は、博打で川那辺さんが言われたように、相当やらなければものにはならない、子貢は投機で大いに儲けている、勝負勘があった、政治を行うには学問ばかりでは十分ではない。そういう要素も必要で、暇つぶしというものではない、と上田さん。博打は勝負事、博弈は宋代では文人のたしなみ、と稲垣君。孔子の弟子で一日中食べてばかりというのは考えられない、そういう人は来ないでしょう。人間の賭けごとのエネルギーはすごいものがあり、食べて何もしないはエネルギーがない。博弈のエネルギー・・・モチベーションの問題ですねと川那辺さん。無気力ですね、友人で先生をしているのですが、授業中にうるさいこともなにもしないが無気力な子がいます。逆にお酒と女の子が好きで、宵山に友人と出かけ朝まで飲み、学校で寝ている子、中学生ですが、まだ無気力よりはましと言ってました。無気力はどうしようもないですね、と李さん。中学生、飲酒、朝帰りでしばし脱線。大人でもゲームをやる、と大西さん。認知症の治療にゲームが使われる、博打とゲームとどう違うか？最近のコンピュータゲームと昔からのゲームがどう違うかと脱線。これは誰に対して孔子は言ったのか、弟子とは思えない、と大西さん。宰我じゃない、と稲垣君。食べてばかりの怠け者集団なら、博弈などと言わずに学べというのではないか、と大西さん。弟子以外、そういう怠け者集団でないとすれば、官僚や同僚の類となりますかね、ぼーっと公務だけをしている人、と稲垣君。そういう感じ、と大西さん。この前の条と考えあわせて、宰我だったらピッタリくる、と稲垣君。

23) 子路が曰く、君子勇を尚（たつと）ぶか。子の曰はく、君子義以て上（たつとぶ）ことを為（す）。君子勇有りて義無ければ亂を為す。小人勇有りて義無ければ盜を為す。
君子は勇が大事、とうとうぶかということに、孔子はそれに対して、君子は勇というより義がもっと大事、君子に勇があっても義がなければ乱を起こす。小人は勇があって義がなければ、盗む、泥棒になる。君子はどのような品格をもてば君子となるのか？子路のキャラクターもあり、勇は大事だが、孔子からすれば、それだけではダメで、道徳を持つ必要がある。義という徳目が大事。気になるのは君子と小人を分けて議論、君子と小人に対して議論する時、勇を取り上げたが、君子は乱、小人は泥棒、何故そういう違いがでてくるのか、と林君。勇は仁、義に次いで論じられる。六言六蔽に、「勇を好んで學を好まないと、その弊害は亂となる。」とあった。「義をみてせざるは勇なきなり（為政篇24）」。乱とは何か、と稲垣君。乱、戦争か？乱は規模は大きくないが戦（たたかい）のようなもの、と林君。戦ですか？必ずしも戦ではない、と稲垣君。乱は政権に反対する、民衆が政治が悪いとして乱がおこる。君子が義なければその被害は大きい、と李さん。小人ではたいしたことがなく、泥棒程度ですむ。君子の場合は権力があり違う、と林君。君子の場合は、政治的、社会的混乱が起こる。政治的規模であることをおさえる必要がある。六言六蔽では、乱は定めにくかった。そこでは反乱ではないが、今のところは反乱になる。季氏、陽貨、公山弗擾とかそういう例が意識されている。盗も何回かでてきている、穿?之盜。小人と盗、どういう関係があるのか、と稲垣君。君子が乱、小人が盗。君子に義がないと規模が大きくなり、小人は小さな範囲、小人に勇と義があれば、これは小人というのか。君子と小人は、お互い刺激し合うもの。小人は悪いというのは後の概念。君子と小人については中村先生の説に賛成しているのですが、男性は森を観る、女性は木を観る、君子は遠慮、遠い先、全体を観る、小人は目先を観る。しかし、1本の木の危険性を観るのも重要。それも必要。全体の役割と個人の役割の違い。小人に勇と義があれば、いい役割を果たす、と高津君。勇と義があれば、小人となるのか？それは君子となるのか？と林君。小人は目先の利益、君子は限られたものでなく・・・衛の霊公は軍の陣立てを求めたが、孔子は兵と食と信の三つのなかでは、兵から捨て、次が食とした。霊公と孔子の見方の違いがそこにある。国の基礎をつくる、国を豊かにする、そして軍事的に強くなる、今の勝ち負けでなく、今後のことを考えていう、先の先まで考える。地位でなくその人の持つビジョン、それで君子か小人かになる、と高津君。君子の場合反乱、小人は盗、逆の方向からみるとどうなるか？悪い状況を打倒して新しい政権を立てたい。勇と義で魯を立て直したい。陽貨にも理はあったが、やったことは乱となった。孔子のやったことも、乱になる可能性があった、魯を去ることになった、と稲垣君。義とは何かですが・・・義さえあれば乱のようなものが、そうでなくなってしまうというのは・・・と李さん。孔子は「名を正す（子路篇3）」とした。義は主観的、六言六蔽では学ぶことを言っている。学んで義を得ることですか。韓国で問題が起きても世界的にはたいしたことではないかもしれないが、米国が起こしたリーマンショックの危機は大きなことになった、と李さん。そうですね、大国の乱と小国の盗、というところから脱線。義とは何か？大国となる中国の義とは何か？義をもって政治を行うことが出来るのか？義であるかどうかは、乱が起こるか起こらないかで判断ができる。盗が行われるなら義は行われていないことになる。李さんの言われるごとく、義というのは現実政治にあてはめれば分かりにくいものです。民主党への政権交代もどうでしょう。都市民もそうでしょうが、自民党の支持層とされていた地方の農家の乱でもあり、義がおこなわれていないという気持ちが根底にあるのでしょう。


2009年10月29日（木）　陽貨篇24
発音練習。a e I o u ü　bo po mo fo、今回はde te ne le。久方振りに岸本さん登場。がんばりすぎて自爆とのこと。

昔の版木、中心線を板心、真ん中の二つが魚尾。二つ折りにして重ねて冊子となる。その冊子をコピーしたものが私達の使うテキスト。魚尾の下に頁番号があり、その頁の裏、表でお互い場所を確認して読むことができる、と稲垣君。 本日は塾頭が決まっておらず、音読は川那辺さん、スピードはOK、意味を理解しておられるが、長いので、声調が乱れました。訓読は岸本さん、さすが院生、ぶっつけでも大丈夫。

24) 子貢が曰く、君子も亦惡（にく）むこと有りや。子の曰はく惡むこと有り。人の惡を稱する者を惡む。下流に居りて上を訕（そし）る者を惡む。勇にして禮無き者を惡む。果敢にして窒（ふさ）がる者を惡む。曰はく、賜も、亦惡むこと有りや。徼（うかがっ）て以て智と為る者を惡む。不孫にして以て勇と為る者を惡む。訐（あば）いて以て直と為る者を惡む。
解釈は李さん、お願いします。ええっ！私ですか・・・はい、わかりました。
子貢が孔子に聞いた。君子もまた惡（にく）むことがあるかと言うと、惡むことがある、何かというと、人の悪いところを言う者を惡む。身分の低い人が自分より上の人のことをそしる人を惡（にく）む。また、勇気があるが、礼儀のない人を惡む。果敢、思い切りがいい人、ぐんぐん進んで何をするか、その後に、「ふさぐ」は、道が通るが、物事を思い切ってするが、道に合わない人を惡む。子貢が自分も惡（にく）むことがあると言って、伺って、徼はどう解釈するか難しい・・・伺ってことを以て知っているふりをする人を惡む。不遜を以て勇気だとする人を惡む。暴くことを正直なこととする人を惡む、という内容かとおもいますが・・・全般的に、何故このようなことを言うのか、惡（にく）むことに対して吉川先生は、「仁者のみ能く人を好み、能く人を惡む」とされ、君子はもともと仁、人を愛しているもの、その君子が惡む、とはどういうことですか？何故このように定義したのか理解が出来ない。孔子が惡むと言ったのに対して、子貢が太鼓をたたくように答えた。孔子と比べてどう解釈すべきか、理解がつかなかった、と李さん。何故、子貢はこれを問うたのか？どの文脈でこうなったのか？子貢が言い返しているが、普通ならここで孔子がたしなめるのだが、何もなく終わっているのが変な気がする。紫の朱（あけ）を奪ふを惡（にく）む。鄭聲の雅樂を亂すを惡む、と同篇18)にあったが、惡（にく）むは珍しいと吉川先生もおっしゃっている。キリスト教では、隣人を愛す、左の頬を打たれれば右の頬を出せということだが、論語では惡（にく）む対象がきちんとある。単なる博愛とは異なる。以為は以て〜を為す、徼以為智は以徼為智の順番をかえたものだが、以為は〜と思うのニュアンスがある、徼を智と思い込むみたい、勘違いしている、とりちがえている、ともなる。何故、子貢がこう問うたのだろう。楊氏曰く、仁者愛さざるはなく、すべてを愛するはず、則ち君子疑うらくは惡むこと無いのかを聞いた。子貢にはこういった心が有る。先生は本当に惡むことがないのかを聞いたことになる。楊氏の言葉を押し広げると、自分とは惡む対象がちがう、君子は惡むものがないのかを聞いた、と稲垣君。「仁者のみ能く人を好み、能く人を惡む（里仁篇3）。」「不仁を惡む者は其れ仁を爲さむ（里仁篇6）。」孔子にとって、惡むはその人が憎たらしいということではなく、その不仁を惡み、そこから抜け出させること、仁を為すことにつながる。子貢の場合は、智者まがい、勇者まがい、直者まがいを惡む、自らを律する方向、と上田さん。孔子の言葉は人の悪口を言うを惡む、と具体的。定義をせず、具体例で言う。〜することが仁につながるという具合、逆に、子貢の方が定義している、と稲垣君。李さんの解釈では、子貢が自分から言ったということだが、そういう注もあるが意味が変わってくる。一般的には、弟子は先生からどうかと聞かれてから答えないと、礼にはずれたことになる。子路にはあっても子貢にはそういうところはない。そうなると孔子に聞かれたので、子貢が答えたとなる、と上田さん。何故、子貢がこういう問いをしたか？こういうのはどうですか？孔子が誰かを好かんと言ったことがあった。孔子と相容れない政治家がいた。それが顔に出ることがあって、その人、人物論を聞いた。共通に分かっている人物で、子貢の答えは、私もあいつを嫌っている、二人の間では通じ合っている、と稲垣君。孔子の言うのはすべて具体的。人の悪口を言う人は誰でもいや、とは次元が違う、と李さん。次元と言うのは難しい。どういうことですか、と稲垣君。伊藤仁斎は孔子と子貢について、孔子は、もともと不善だと知らないままそのようにする、子貢は、もともとは善であるがその意図が不善とみている。夫子・・・人不知而自不善者其意平也、一方、子貢・・・自以為善而其意甚不善（論語古義）。仁斎は、仁は愛の心、惡むをどう解釈しているかとみると、知らずに不善をするを惡む、というように解釈している、と李さん。子貢の言い方からすれば、その前に孔子が何かのことを言うなりして、子貢に問わしめるものがあった、と稲垣君。そんなことは、何も書いてない、子貢が聞きたかったから聞いた、と大西さん。まず、子貢に誰かを惡む気持ちがあった。自らこの三つのことは言うつもりはなかった。孔子の惡むべき内容を聞いて、君はどうかと聞かれたら、普段思っていることをついつい言ってしまった。何故子貢が惡むものを聞くのかは孔子は分かっていた。子貢が言わんとしたことがその内容であり、孔子には子貢の答えは分かっていた。子貢に気付かせるために言っている。孔子の惡むものこそ、子貢の言っていること川那辺さん。こいつは誰かということは二人とも分かっている。心の中で思っていることがあり、子貢が聞いた。言っていることとは異なり、その人の悪口を言っていることになる、と稲垣君。孔子は大原則を言った。子貢は聞かれたので、言わざるを得なかったが、言わない方が良かった、と大西さん。でも孔子は子貢を惡んではいない。それを言わせてしまったけれど、孔子は、この人はわかっているなと思った、と川那辺さん。答えを言いっつ、たしなめる、と稲垣君。子貢の言った後何も言わなかったのは、無言の教えみたいなところがある、と川那辺さん。論語では孔子は弟子に応じて答えをする。子貢だからこそ、こういう返し方をした。子貢がこのようにはっきりというのは珍しい。子貢は、伯夷・叔斉を引き合いにして先生に意向はこうだとか、孔子から答えを引き出すのが巧みである。顔回なら、「仰げば彌（いよ）いよ高く、鑽（き）れば彌いよ堅し。瞻（み）るに前に在れば忽焉として後に在り。夫子、循循然として善く人を誘ふ（子罕篇10)。」という具合。子貢はここでは、ストレートに言っている、と稲垣君。里仁篇6）は解釈にとまどった、そこに「不仁を惡む者は其れ仁を爲さむ。」とある。そのような人は見たことがないとも孔子は言っている。不仁を惡むは、弟子にその行為を不仁として止めることを迫り、そこから引き戻すことが含まれ、並大抵のことじゃない、と上田さん。将来的なこと、孔子は先王の文物から導いている。仁者は愛の人、と李さん。そういえば「仁斎は愛の人」から放談へ。仁斎は若い女性と再婚、多くの子をなしておられ、実生活でも愛の人。貝原益軒の奥さんも出来た人で、二十二歳年下の才女、相愛の二人で、二人で各地を回り旅行記のようなものを記し、大ヒット、奥さんがその手助けをした。実践的な愛の人仁斎にとって惡むとは何か？確信犯はどうしようもないが、知らずに不善を為す者には手を差し伸べることができるということか？善をしようとするがそのやり方を間違っているのなら直すことができるのか？子貢は孔子から聞かれたので、言わずもがなのことを言わざるを得なかったのか、自分から言い出したとなれば、先生もそうですか、あの人の悪口をいい、上を批判し、勇ましいだけで礼がなく、ごり押しで人の口をふさぐ輩、私にとっては、うけうりで知ったかぶりをし、傍若無人を勇となし、秘をバラして実直面するあ奴のこと、と二人で誰かさんをこきおろしていたのか？誰かさんは宰我であったのか？仁斎をこきおろす徂徠が珍しく仁斎は結果的に正しいといわしめた、人不知而自不善者其意平也・・・自以為善而其意甚不善という江戸時代の解釈がいいのか？来週はいよいよ最大の難関、女子と小人です。吉川先生はギブアップ。
一揆では、国際会議場でインターンシップ中の Charles Roussin 君、大西さん、上田さん、久方振りに安澤さん、一杯機嫌で登場。眠たいといいながら、フランス人とこれだけ話したことはない、と夜が更けました。仏は母国語、独がその次、それから英、日、中の順番、ホスピタリティーの研究、いづれは英語で entrepreneur （起業家） の論文を書き、ホスピタリティー業社長を目指す21歳、まだまだこれから、日本文化大好き人間です。11月末にローザンヌの学校に復帰、もう１回は一揆で話しましょう、都合をつけます、とのことでAu Voir ! Au re-voir !


2009年11月7日（土）　陽貨篇25　PART-1
川那辺さん、台湾高雄出身の姚嘉音（yáo jiā yīn）さんと一緒。現在京都大学大学院人間環境研究科で中国文学専攻をされている留学生です。東大で儒教、道教、仏教を専門に勉強された後、３月に来京。姚という姓は堯舜の舜に発する名門。舜は名を重華といい、虞氏を號し、虞舜と称された。姚重華（舜）のご子孫ということになるそうです。大好きな論語を読みながら、感動して一人涙を流しておられるというのも納得。
本日は大変なる難所、高津君が音読、訓読。
25) 子の曰はく、唯女子と小人養ひ難しと為す。之を近づくれば則ち不孫、之を遠ざくれば則ち怨む。
さて、今回はメール参加があり、これを配布。

まず、この条は孔子が弟子たちに向けて言った言葉と考えましょう。ちなみに、孔子は男です。弟子も全員男です。そして孔子が言います。

「おなごと小人ばっかりはほとほと手が焼けるわい。」

師の突然の意味深発言に唖然とし、あるいは顔を見合わせる弟子たち。そこで孔子はにやりと続けるのです。

「なぜって、おなごも小人も、ずっと近くにいると図に乗ってベタベタするし、かといって遠ざけておくとうらみがましくなるじゃないか。」

男なら誰しも、女性に振り回され「手が焼けるわい」と思った経験がおありなのではないでしょうか。孔子だって、その弟子だってきっとあるはずです。だからこそ、小人の扱いにくさを卑近な例によって喩えたわけです。つまり、女子と小人は同等のものとして論じられているのではなく、謎かけのお題のような関係なのではないでしょうか。ついでにいえば、孔子の批判の対象はもちろん小人、なかでも政治の世界にいる小人でしょう。かれらはある時には孔子にすり寄り、またある時には敵対し、孔子の正論は通じません。この条は、小人とのつきあいにほとほと疲れた孔子のつぶやきだったのではないでしょうか。恋愛に正論が通じないのは男と女のあやですが、政治の世界に正論が通じないのは孔子の一生の悩みの種でした。

さて、女性の皆さんは「男だってじゅうぶん手が焼ける！」とおっしゃるでしょう。しかし、孔子は男ですので男に手を焼くことはありません。『論語』が男の書いた男の読み物であった以上これはいたし方ありません。当時孔子やその弟子の近くにいた女性は「男子と小人は養い難し」と言っていたかもしれませんね。

それでは、読書会が平穏無事に行われるよう祈念申し上げます。

成田健太郎

女子、小人について調べると、妾、奴隷なのだそうですね。

彼らは社会規範の中で思考の根を押さえられている社会的な位置にいると思います。
当時、妾と奴隷でない女性や男性はいても、それでも多数派でないと考えます。

私が思うのに、この発言は、
君子の公言でない発言が公言として書き留められたものと思います。
書き留められてはならない軽言が書き留められたものと考えます。
そういう意味で論語中、実に示唆的な出来事のひとつだと思います。

妾が悪いのか、奴隷が悪いのか。
（中国語原典では、一貫して悪いと捉えると感じます）

さて、ここで考えるのは中国語の言語形態ですが、
日本語では、私という人称代名詞は、わたくし、あたし、おれ、わたい、
ぼく、それがし、など、さまざまに表現されます。
一方中国語では、王も奴隷も一貫し自分を「我」と表現します。
この差は大きく、両国で思考のよって立つところは大きく食い違うと感じます。

中国語は、ずっと日本語より自由で、私とあなたが水平な感じを受けます。
日本語ではそうではない感じがします。
専門家でないのでなんとも感覚のみですが、

そういう意味でこれは、なんという君子のいまいち発言！というべきもので
How unblievable gentleman's joke!
でも、中国語的にはそれでちょうどバランスがとれるのかもしれません。

この文に関しては、
妾や奴隷の再生産を許す社会規範が糾弾される、のみで
私はこの文章は擁護しません。しませんが、

すべてをよい知らせと考え、この文の意義確認をするならば、
この時より、昨日より、人類は絶対によくなってきている、ということです。

基本的に妾、奴隷の暮らしをしている人が隣にいれば脱出を助ける社会、
そこに暮らしていて、
この文について女性と子どもをだまらせず発言させるこの社会とは、
まことにすぐれた社会だと思います。

中村典子

上文を代読。成田さんのは面白い、と高津君。若者とは思えない書きっぷり、と川那辺さん。では本日の所、字句解釈から、養とはどういうことですか、と上田さん。付き合う、扱うこと、と高津君。かかわりにくいことを言っており、世話をすること、と姚さん。中村（典）さんに、女子は妾、小人は奴隷とありますが、これは一般的な解釈ですか、と上田さん。現代中国の銭穆氏の解釈ではそうです、でも、私はそれより、成田さんの方がいいと思います。史記の孔子世家で、孔子が衛で南子に会って嫌な思いをした後に、これを言ったというのはどうですか、孔子は奥さんと離婚していますから、と姚さん。妾と奴隷というのは、朱子から来ているのではないですか。小人を僕隸下人、女子を臣妾、当時、諸侯は夫人を娶ると同時に妹も一緒に入るようで、それに付いてくるのが僕隸下人で、自分の意思で者を言うことができないような人間に限定しているのは何故ですか、と上田さん。臣妾というのは意味が違います。朱子は、「此の小人は、亦僕隸下人を謂うなり。君子の臣妾に於る、莊以て之に�@（のぞ）み、慈以て之を畜うときは、則ち二つ者の患い無し。」臣と妾に対応するやり方、君子が正しいことをしていれば、二つの患いがなくなる、ということが言いたい。孔子はそうは言っていないが、それを先取りした解釈。妾と奴隷とすると、面白くない。朱子は自分がしっかりとしておれば大丈夫、最後のところに重点がある、と高津君。朱子はそれで大丈夫と言っていますが、荘重と慈愛で本当に大丈夫ですかね？養は女子と小人は扱いにくい、扱うとなりますが、養は修養、弟子を育てるような意味にはなりませんか、と上田さん。それは賛成できます、と姚さん。史記で、諫言をやめない伍子胥のことを伯喜否（はくひ）が悪く言って、呉王夫差は伯喜否の讒言を容れて伍子胥を殺すという話があるが、小人はベタベタとごまをすり、自分だけかわいがられて上へゆこうとする。身分が低く出世するためには、国全体でなく自分のことしか考えない。そういう人が増えてゆくことを孔子が憂えていた、と高津君。女子と小人を、妾と奴隷とすると話にならない、孔子はそんなことを思ってはいないじゃないかしら・・・と川那辺さん。身分の高い女性も史記には出てくる。南子も出ているが、自分だけを見てほしいという女性、それで王が政治を放置して国が乱れる、西施という美女、呉にゆかせ、呉王夫差は西施を溺愛し国が乱れた、"傾国の美女"とされる。全体を見るようにするには手を焼いていた、と高津君。男が女に手を焼くと言い、その次に政治の世界に居る男、その中でも小人は忠誠、忠義の関係であってもままならない、小人を女の人と対比するのが面白い。男と女の間で、忠誠、忠義は成り立たない。国が傾くほど平常心を失うのは、男と女の情で結ばれれば当然そうなる。昔も今も男は女に手を焼く。これは女を馬鹿にするというものではない。女ってそんなものです。当たり前。孔子が小人との関係をまるで男と女の情みたいでやりにくいとするのは、自然なことを言っている。孔子だって立派と雖も普通の男。男が女に手を焼くというのは平和な社会。女性蔑視などと目くじらをたてるのではなくて、男女の役割が絶対的に違うこと。政治の世界の小人は笑って許されることではないが、これは女性蔑視の発言ではない。姚さんがいわれた南子の場合、プライドを傷つけられたのは、南子でしょ。いつもの調子で行けば擦り寄ってくるはずの男が来ない、孔子はそういうことできないから。と川那辺さん。孔子は誰に対して何の問題に対してこれを言ったのか？例えば、失恋した弟子を慰めた。自分も離婚した経験があり扱いにくいものだと助言した。ニュースでも記者は話の一部だけを切り取り、そこだけが強調され、全体の意味が変わってしまうことがある。南子と会って話したときの一部の可能性もある、と姚さん。唯とあり、前文があり唯と来ており、前に何かあっておかしくない、と高津君。そこへ一時間間違えて稲富君が登場。自己紹介をして、成田さんのでいいのではないかと思う。が、むむむ・・・女みたいな男、女々しい男は扱いづらい、オカマちゃんじゃないが、ちょろとしたことをする男・・・と稲富君。それでは、女が女々しいが前提となり、女々しいでは・・・と川那辺さん。孔子は女子も小人もみきわめて言っている、と高津君。女子と小人を並べて、強調しているのは小人。政治の中でそういう奴、小人をけなしている。小人を嘆く、女子は何だろう・・・ううん・・・むつかしいなあ。易の中、陽の中の陰。女の人の方が底の方で男っぽいとこがある・・・女々しい男は使いにくい・・・男が陽で女が陰、男の中にも陰、歌舞伎の女役で、男が色っぽい部分は女より色っぽくなる、男が女より女々しくなる・・・と稲富君。女子と小人はそれぞれに役割がある。孔子は宋において、地位を脅かされるので孔子を容れないように立ちまわった臣によりうまくゆかなかった、小人のやったこと。当時の社会では、女子は自分の生んだ子を王にしたいと思い、史記には、その闘争が多くでてくる。秦の趙高も自分がやるべきこと以上のことを行い国が乱れ、滅びることになった、そういうことがよく起こっている、歴史上そういうことは多い、と高津君。近づけたり遠ざけたりするのは、近くに居る人、弟子の中にそういう者が居たのではないか。近づけるとこれを喜び、遠ざけられるとこれを怨む。弟子の中にもそういうのが居た、と稲富君。女子、小人に対比する女子、社会的にみた場合、女子の中にも小人的女子もいる、常識的な解釈で面白くはないが、と大西さん。弟子がすべて男とする社会の中でのことと成田君がしておられるのが論語の世界だが、現代なら男女同席となり、利や力と義というばかりでなく、愛憎、好き嫌いという情が入ってくる。現代では、セクハラ問題となっているが、男女同席の禮みたいなものを孔子がこの時代に居られればどうされるか、興味のあるところ、男は女に女は男に左右されるという問題が加わってくる、と上田さん。男女が入ろうがやるべきことは一緒、男が自分の好きな女の言うとおりにするというのはダメ、同じこと、女性も正しいことをする人は居る、と大西さん。仏教には修養のために女色を絶つ、道教でも女色に溺れてはいけない、そうなれば修業は終わりだとなる、と姚さん。養うは扱う解釈だが、育成する、教育するという意味がある。弟子の中で、近づけるとつけあがる、遠ざけると怨む奴がいた、次に40歳にして憎まれれば終わりともある。孔子が40歳くらいの時、弟子の中でも師匠を悪く言う奴がいて、孔子教団にもごたごたがあった。前条と関係させれば、人の惡を稱する奴、下に居て上を訕（そし）る奴、孔子の身内の中で悪口をいう人間が居た、と稲富君。
女子をひとくくりにせず、小人に対応するような女子ということではないか、と大西さん。普通、女はそういうもの、手の焼ける者。孔子が願うようなそんなにすごい女の人はいない。女の人の持つ本質はそういうもの。そう言われたからといってどうということはない。男女機会均等法が施行された時は、仕事をしていた最中で、何とやりにくい法律かと思った、と川那辺さん。男と女はその人が持っているものが問題で、法律で決めるものではない。しかし、目的は一緒でやり方が違うということではないのか、と大西さん。男と女は役割が違う。それは女性蔑視ではなく当然のこと。男と一緒のことはできない。補佐としてならやれるが、女の人が長となったり、表舞台に出てゆくことはあまり好きでないし、本質的に無理なことだと川那辺さん。女性の補佐は大事だが、それしか出来ないと決めつけることは出来ない。陰と陽、陽と陰があってうまくゆく、男の出世は女次第、女の幸せは男次第という細木数子の話が印象に残っている。男にしか出来ないことと女にしか出来ないことがある。女性で大臣、組織の長となる人はどういうことですか、と高津君。たまにはすごい人が居るが、所詮、女はそこまでどまりだと思う、と川那辺さん。中国には則天武后というすごい女性が居るが、彼女一人しかいない。男で出来る者が居なかったので彼女がやった。必ずという訳ではないが、何も出来ない男も居るし、出来る女も居る、と姚さん。女の本質というのは、ほとんど感情が支配しているもの。ここが男と徹底的に違う部分で、悪いといっている訳でない。感情で生きているものをどうにもしようがないでしょう？社会的に上に立ったとしても、感情的なもので判断する女がどうして、物事を収めきれますか？男が上に立つべき。ここが、男女の差で、役割の差だと思うのですと川那辺さん。それなら女性のリーダーは無理、不幸なことになるが、そういわれてしまうとどうしようもない、と大西さん。現代は男が弱くなったから、仕方がないから女が立った、と姚さん。論語を学んで君子に近づく、それは女性も同じ、と大西さん。孔子は全員に君子になれとは言っていない。広く文を学ぶことは大切、しかし、学べば君子になれるではなく、禮で約す、禮に則りやることが必要。禮に則らないと乱れる。君子一人が居れば、共に居る人が影響を受ける、と高津君。全体が君子に近づくでいいのでは、と大西さん。唐の太宗は人の意見をよく聞き、吸収して正しく判断が出来た。太宗が居たことで小人も影響されて悪いことを働くことがなかった、彼が死んでから小人がごそごそ動き始め乱れた。上がしっかりしないとダメ、補佐をする人も君子の心構えが必要、と高津君。漢代に儒教が国教となると、君主は一人。国教になった儒教の考え方も同じ。君主をたてて皆は臣。賢人となって、一人素晴らしい君主を補佐する。皆が君主になることはない、と姚さん。君主じゃなく君子です、と大西さん。40歳で憎まれれば終わりが次、弟子で40歳くらいで、憎まれている奴が居た。人の惡を稱する奴、下に居て上を訕（そし）る奴、こういう奴が孔子教団の生活の中にいそう。勇しいが禮の無い奴、果敢だが人を邪魔する奴。子貢的には、借用して智者とする奴、不孫を勇とする奴、暴いて直とする者、そういうことをする奴がいて、女子と小人、それを小人として言っている。女性蔑視より、女性の悪いところを持つ男をして、あれじゃいかんと言っているかな、と稲富君。孔子の文章、心の訓練。人には君子になれる可能性がある、人の心の中には良心があるとおっしゃった。良心を育てることが大事。男にできて女に出来ない部分があるかもしれないが、いい女になる道を学ぶこと、それを見つけなければいけない、と姚さん。さて時間となりました。まだまだ話は尽きませんし、本日残念ながら所用で参加出来なかった人も結構多いものですから、来週も続行することと致します。

お馴染 　一揆 　マスター 　　ｼｬﾙﾙ君

さて、一揆では大西さん、高津君、上田さん、そしてシャルル君。本日のお題目、女子と小人についても延長戦。蛸（たこ）、烏賊（いか）大好き、たこ焼きが何故レストランにないのですかと不思議がるほどたこ焼き好き、お土産に木刀を買って、フェンシングより、剣道の方がいい、とのフランス男子。男と女の役割の違いは、人間が動物の頃、産み育てると食を確保し守ると分かれていたが、社会を形成し、民主主義の社会となった今では、異なる。対等にみてゆかねばならないとのこと。感情（emotion）と理性（rational nature）に関するシャルル流は、感情でコミュニケーションを計るのは滅茶苦茶になり収拾がつかなくなる、さりとて理性でとなるとぶつかれば破壊的になる。相手を説得するには理性だけでは無理、感情的に相手が受け入れる状況、ボディーランゲージだったり、目を見つめるとか、感情的な地ならしがないとうまくゆきませんとのこと。ここでの話は静かです、フランスなら口ぐちに好き勝手を言いうるさいこと！読書会に参加してくれればよかったのに、と夜が更けました。ローザンヌに月末に帰り、2011年の6月以降に東京でインターンシップが実現すれば、京都に来たいなあ。中国の伝統的な民主、デモクラシーじゃない民主？よく分かりませんが、高津さんメール下さいね！では、無事の帰国を。

2009年11月14日（土）　陽貨篇25、PART-2〜26
稲垣君、同教室、京大中文博士2回生の猿渡留理さんを同道。南京大学に2年留学、それじゃ童君とは？えっ、よくご存知で。この読書会に参加いただいてまして・・・世間は狭いものです。陽貨篇を音読。


25) 子の曰はく、唯女子と小人養ひ難しと為す。之を近づくれば則ち不孫、之を遠ざくれば則ち怨む。
前回のことを簡単に振り返って、本日は本日。中村(典)さんの「当時、妾と奴隷でない女性や男性はいても、それでも多数派でないと考えます。」これは前回高津君が、少数派が多数派を押さえている社会のことを言っておられるのでは、とのことであった。「日本語では、私という人称代名詞は、わたくし、あたし、おれ、わたい、ぼく、それがし、など、さまざまに表現されます。一方中国語では、王も奴隷も一貫し自分を「我」と表現します。」について、中国では、称謂で呼び方は色々ある、季氏篇14に、「邦君の妻、君これを稱して夫人と曰ふ。夫人自稱して小童と曰ふ。邦人これを稱して君夫人と曰ふ。諸を異邦に稱して寡小君と曰ふ。異邦の人これを稱して亦君夫人と曰ふ」とあるごとく、我の他、朕（皇帝自称）、吾、僕、寡人、愚按の愚・・・非常に沢山ある。中村(典)さんの言っておられることは、第二次世界大戦以降、共産党中国の男女平等政策以降のこと、と稲垣君。さて、本日の議論。
旧来から続く社会システムは、男性向きに作られている。そこにあてはめようとすると女性が力を発揮しづらくなる。フェミニズム的にいうなら、女性が独自に、女性のための学問体系を作ればいい、その中では男性はノルマを発揮しがたくなる、と稲垣君。男性が主導的立場にあれば、その中では確かに女性にはやりづらい、と林君。政治の分野が難しければ、アカデミックなところでやればいい。男性のアイドルの居るところへ行ったら、周囲は９０％が女、男はマイノリティー。これでピンときた。女性が学会で発表するのは大変。男がラフな格好をしていても、女性がスーツを着なかったり、ヒールを履かないと怒る男性教師もいる、男性の場に適合する窮屈さ。あのアイドルのなかでの男の居心地の悪さ、何ここは？という体験。家父長の家族制度も明治にきつくなったが、古い時代に遡ると、民俗学者の宮本常一によれば、父系と母系の差があった。大雑把にいえば、西は母系、東は父系、今ではそう単純ではないが、母系社会も存在しえた、と稲垣君。女子、おなごはジェンダーとしての女性と理解していいのか？孔子は男性という立場からジェンダーとしての女性を言っているのではなく、自分の恋愛の対象を例えとして使っている。この発言者が女性なら、男と小人は養い難いとすることになったのではないか。必ずしもジェンダーの意識は入っていない。政治の世界のことを恋愛のパートナーに例えている。女性は実体としての女性ではなく、恋愛のパートナー、ジェンダーは全体としての女性、ここでは捨象された男性の恋愛相手としての女性、と林君。社会身分の女性と恋愛対象の女性、捨象とは？と稲垣君。私のあの人、孔子の奥さん、と小人にはほとほと手を焼いている、と林君。それじゃ何故論語の中に奥さんのことを入れましたか、と李さん。捨象された女性とジェンダーの女性、そんな違いはないのでは、と稲垣君。孔子の目に映っている女性像とジェンダーの女性は違う、と林君。女子は女だけか？女と子供ということでもないか、と稲垣君。韓国ではそんな教育がされているので、ここに書かれているとおりにとるほうがいい、現代的に解釈するのは無理やりになる。女と子供は知的、道徳的には子供みたいとして、女性が参政権を得たのは西欧にしても20世紀に入ってからのこと。女は知的レベルが低く、子供みたいだから参政権がなかった。昔は皆そういう風に思っていた。ここでの女子は女と子供と考えられる、と李さん。女児という言葉は、壮子に対応するもので、女と子供、男性と女性の差はあり、今後そこを話し合うことが問題となる。ここでは文脈通り、近づければ不孫、遠ざければ怨むということでの女子と小人。これは前後の流れのなかで、どうとらえるべきか？これは孔子が政治の中心にあったころ、40代が陽貨、50代が公山弗擾、60代が佛肸、節目節目で対応を迫られた。その時、女子、そのへんの女、子供ではなく、日本で言えば大奥に居るような君主の奥方、政治の枢要にいる小人、それに手を焼いた。今の政治でもそういう人は居る。首相の奥さん、大臣の奥さんどうし、政治のドロドロとした裏を見てのことかな。それとも、孔子が酒を飲みながら、女子と小人には手が焼けると言ったことを、弟子の誰かが残したのかもしれない。斉が女樂を魯に送った、女性を外交の道具にして、季氏等をたらしこんだ、それが彼自身の経験と重なった、家庭内の個人的なことばかりではない、と稲垣君。女子は夫からみれば妻子をさす。離婚した妻子、孔子も女子とはうまくゆかなかった。自分の妻子だから、これが他の女性だと、南子の場合子路が怒るくらいだから、政治的地位のある女性となると大変なことになる。林さんの言うように、妻子と小人をかけてみた、と高津君。女子と小人は同じ重さ、しかし、小人に重きを置くなら、卑近の例から小人にゆくということですね。勝海舟も政治の上での小人に手を焼いたようで、天璋院篤姫も結構わがままな女性で、海舟が時代が変わったからと絹の下着の代わりにメリヤスを持参したりしてたようだ、と稲垣君。少々遅れて登場の安澤さん。吉川先生は、ここは現代に通用しないとされたが、通用する。女性には手を焼く、お互い思い道りにはゆかない。陰と陽で難しい。吉川先生は当時のウーマンリブで世間を気にしているが、今も通用する。ぼくも女性には苦労している、孔子さんでさえ奥さん、女性に苦労した。この言葉はぼくには救いとなる、ぼくが苦労するのは当たり前、と安澤さん。それは健康的なとらえ方ですね、と林君。孔子が間違っているなどと軽々しく言ってはいけない。吉川先生が滑った。女性は必要なもの、だけど苦労をしてるでしょう、そんなもん、ちがう?高津君、と安澤さん。考え方は一緒にはならない。別の人とみなければ・・・それを否定するとこうなる、と高津君。社会的制度のことでなく、個人レベルの男女の付き合い、女からすれば男は養い難い、と林君。そうですね、と猿渡さん。留学生の奨学金があって妊娠した女学生が出したが落ちた。その考え方も差別的、妊娠しているので（出産で大学に来られないので）学校としてはダメとするのは分かるが、子供を産むのは女にできること。男の留学生に子供が出来るとき、その状況は起こらない。論文とか研究テーマで評価し、彼に子供ができたことは評価にならない。女の人の場合は、論文、研究テーマではなく、妊娠の状況だけが見えてしまう、この差がある。奨学金を子供のために使うのではないかとなる。男が奨学金で酒を飲むかもしれない。妊娠は流れを変えてしまう、男と女の差、男の留学生は、自分の考えが正しい、当たり前という立場、男性社会であり、その中で何かするとなると差を感じた。これとは別の話ですが、と李さん。そこは変えてゆくべき枠組み。違いのあることを認めるのは、大人になること。勉強して知識人を名乗る人間がジェンダーに直面した時、そういうことは恥ずかしい話、と稲垣君。学問すること、する人は特別と考える認識は自分にもあった、と李さん。昔、妊娠した学生の論文を諮問したのは初めてだ、と言った先生がおられた。その女学生は嫌な気持ちになったことだろう。当時はそれで許されていた、まかり通っていたが、そういう考えの人がつい最近までいた、と稲垣君。この文は、女性蔑視とは思わない。こういうもの。相当手ごわい相手である。お互い様、と安澤さん。中国男性は意外にマッチョで、男とはこういうもんだという議論をするのが好きなのではないか、と稲垣君。家庭では女性の方が実権をもっている、と林君。共産主義になってから男女平等でそうなったのでは、と李さん。中国女性は強いというが、男性は女ってこんなもんだみたいな言い方をする。男の強いのは当たり前だが、最近は「女強人」がでてきており、キャリアウーマンという、と林君。喧嘩をしたら女性は強い、口では勝っている、と高津君。日本女性はやさしいといわれるが、騙されてはいけない、日本女性も強い、と稲垣君。中国と比較したらやさしいです、と林君。理由などない、近づければそうなる、そのとおり、と安澤さん。晋の文公、重耳は斉の桓公の娘を娶るが、桓公が亡くなると乱れ、家臣は斉をでようとするが重耳は聞かなかった。重耳の妻は家臣と謀り、重耳が酔ってしまった所を車に乗せ、無理やり斉から連れ出した。この女性に救われている。女の人の考えにより男の将来が左右される。孔子は社会全体を考える、自分のことではなく、国全体、国民の安定を考える、と高津君。天下を治めるだが、魯の国を治めるが根本にある。魯を中心に大きくなったり小さくなったりする、と稲垣君。皇帝の奥さん、孔子の上に居る女性、官僚のなかの小人、ということだが、家も一緒、と安澤さん。

26) 子の曰はく、年（よわい）四十にして惡（にく）まるるは、其れ終るのみ
年が40になって惡まれるのではもう終わりだな。これは、自分の年を考えると、一番嫌な言葉。常に心の中に置いている。四十は「不惑（爲政篇4）」、「四十、五十にして聞こゆること無からむ。斯れ亦た畏るに足らざるのみ（子罕篇22)。」40で不惑、50で天命を知る、40代50代の事件、孔子にとってはそういう時期、40代になってフリーターにしていると役に立たない自分のことを言われているようで・・・出来ることと出来ないことの境目が見えるところで出来なければ将来的にダメ。会社でもそういうことがあるでしょう、と稲垣君。孔子が40にして不惑、それを基準とするが、それは後に振り返ったときのこと、と高津君。私もそう思います、と李さん。40になるとこうでなくてはならない、それに惑わされて、それで自分を責めてしまう、と高津君。孔子の心は死ぬまで揺れ続けている。不惑は生きる方向性について決めたこと。その中では迷うことがある。当時は寿命が延びており、60で耳従う、70で心に従って則を超えず、我々の先を走っていた、と稲垣君。40歳で憎まれるとはどういうことですか？と李さん。個人の人間の欠陥。不用意な発言をして災いを招く、そういう配慮ができないとそうなる、と稲垣君。人間関係の悩み、前条は男女関係。これは、実は、40歳、中間くらいで、上司と部下の間にある。上司の悪口を言っている間はいいが、部下が出来ると、部下から憎まれるようではダメ。仕事を部下にやらせて上司に報告する中間、上下関係の命令ではダメで、人間関係が必要。徳が無いと、システム的に動いても、人間関係は無視できない。40代で憎まれるは悩むこと。迷わずは自分の道を見出すこと、でも憎まれることはある。その場合憎まれるはどう評価されますか、と李さん。孔子は結構憎まれていた。言葉遣いには気を配っていた。いらぬ憎しみ、ぶつからなくてよい時は、憎まれぬようにしていたが、それが出来ずに上とぶつかるのが孔子、と稲垣君。冗談だが、女子と小人から40になっても憎まれていてはダメ、と大西さん。孔子が40代の人に、正しい道を見つけるのは大切、しかし、人との衝突を如何にさけるか、柔軟性を持つ、と林君。40歳にして女子と小人からにくまれればもうおしまいだ、と大西さん。これはいいと大爆笑。こういうことを言うと憎まれる、と大西さん。いつも言われてます、と安澤さん、お時間もよろしいようでお開きといたします。
一揆は猿渡さん、稲垣君、安澤さん、大西さん、上田さん、お酒も嗜む花一輪、蜂ブンブンでありましたが、学園祭シーズンで満席、賑やかどころか、喧騒のなか話し声はブンブン、聞き取りがたいへんでした。


2009年11月19日（木）　微子篇1〜2
岸本さん、「源氏物語」の「帚木：ははきぎ」の巻の「雨夜の品定め」のプリント持参。男供が妻にするにはどういう女性が好ましいか、気位が高いのも、嫉妬深いのも、かわいげであっても頼りないのは困ったものだ、中流の中に、草深い庵の中に思いがけずに愛しい人がいる・・・紫式部にどうして男の気持ちが分かったのか？どうしてこの時代に女性がこのような物語を残したものか？この時代歌が詠めぬと恋愛もならず、高貴な方の娘を教育する教養のある女性が宮中に招かれたそうであるが、結構閑をもてあそぶことが多く、男どもや女どもの噂話を物語にして回し読みしたらしい。明治の世に至るまで、公式には漢文が通用しており、仮名交じり文は、私的に流通するにとどまったようである。明治になり、欧米から影響を受け、日本語がこれらに対応できるように変貌し、今日のわれわれが使うような文体となってきたようです。さて、いよいよ微子篇。
三黜sàn chùで三sānでなく去声、三度。長沮cháng jūの沮は、朱子は七余qī yúの反qúとするが、成田君によれば、子魚zǐ yúの反、zú→jūか。子路從zòng、去声、陪臣する、お伴する。荷蓧の荷は去声のhèで担う。植音値、現代音ではzhíだが古音はzhì。zhíは植えること、zhìは植えたものが立っていること、子路宿sùで宿る。食sì之。見xiàn其二子。大tài師。播鼗武の播は現代音はbō、種を播くはbò、揺らすばあいはbǒ、太鼓を揺らして打つ。施其親の施は弛でshī、捨てる、おろそかにする、と稲垣君。

1) 微子は之を去り、箕子は之が奴（ど）と為り、比干は諫めて死す。孔子の曰はく、殷に三仁有り。
微子は（国を）去り、箕子は奴隷となる。比干は諫言して死んだ。孔子がおっしゃるに、殷には三人の仁者がいた。これは背景を知らないと分からない。悪い王の代表が桀と紂、桀は夏王朝、紂は殷王朝最後の皇帝、国を滅ぼした人。暗君と云われる。最後の王が放蕩して、新しい王朝が立つ。善い王は、堯と舜、伝説の聖王、夏を立てたのは禹、殷を立てたのが湯王。周王朝は、文王、武王の親子、親の時代でなく武王が紂を討ち周王朝が立つ。古の善政、聖天子の代表。暴君の代表が桀と紂、堯や舜を引けば、いい王、桀と紂を引けば悪い王、どうしようもない王となる。微子は紂の兄、箕子は伯父さん。紂王が暴君なので、身内の三人が諌めた、それぞれ違った道の取り方をした。微子は命が危ういとみて亡命した。箕子は奴隷となって生きながらえた。比干は諫言した。比干は聖人の評判が高く、紂は聖人の心臓を見たことが無い、見たいということで、心臓とはこういうものと死んで諌めた。当時名士三人がそれぞれ、逃げる、従う、諫言するという道を取った。こういう生き方をした立派な人がいた。孔子は殷に三人の仁者がいたとした。普通人は共感を持つものを仁者とするが、孔子は自分とは違っているとはいえ、それぞれ存亡の危機にあって、それぞれを仁者としているところが面白い。日本人は比干、死して君主を諌める、日本人は日中戦争の頃は、逃げれば非国民、、反抗もせずに奴隷になるとするなら、臆病者で勇者にはなれなかった。それと反して、逃げた微子も、奴隷となった箕子も仁としており、日本人の武士道とは異なる。国に道があるときにはしっかり働く、道が無ければ仕えないとした。比干は分かり易いが、箕子が奴隷となるとはどういうことか、と稲垣君。微子は後に武王から宋において殷の祭祀を継ぐ人となる。孔子は祖先が宋の出と云う系図を手にするくらいで、殷に対する思い入れがある。箕子は東北に逃れて朝鮮を開いたとされる。箕子も後に武王に請われて、洪範を伝えたとされる。殷が滅びた原因、そうならないための国の在り方を伝授したとされる。殷の最期にあって、素晴らしい人材がいたというのに殷は滅びた。その時に、三人がどういう生き方をしたのか、この後にもそういう時の出処進退に関することが述べられる、稲垣君のおっしゃるように、まずこの三人を孔子が仁者としたことの意味が問題、と上田さん。聖賢之出處。聖人、賢人の出處と進退について述べたもの、生き方のサンプル、孔子と聖賢との係わり方、孔子が評価を下した聖賢が集められている。その頭に周からみれば、滅ぼした王朝の最末期の偉人を挙げた。この章の序にしている、と稲垣君。道が行われていれば仕え、道が行われていなければ退くという考え方は孔子にもある、ここには道が行われていないということで隠者という人々が出てくる。道が行われていないときにどう対応するのか、隠者と孔子の対応の仕方の違いが非常に理解しづらいところ、と上田さん。隠者は自分の道をゆくだけ、世間に疲れたとか、自分のことで隠れる、道が行われているときは仕え、道がなければ退くが、機会があれば、世間のために自分の能力を使う意思があるかどうかの差、と高津君。その隠者は後の世のことで、ここに出てくる隠者は必ずしもそうではない、と上田さん。世捨て人ではなく、いい世なら生かす人はいるが、そうでない人がでてくる、丈人、長沮、桀溺などがそうだが、と稲垣君。今その話をすれば、ややこしくなるので、後にして、まずはこの三人から、と上田さん。仁を人の間違いとする説がある。三人の生き方に?伯玉、直なのは史魚だが、蘧伯玉は道があれば仕え、道がなければ巻いて懐にする（衛霊公7）、収めて隠れる、また道が有れば仕える。微子も生きて宋の祭祀、伝統を守った、朝鮮の人は箕子をすごく評価する、生きて智と力を発揮、微子は文化の伝承者となっており、生きて自分を生かしている、と高津君。箕子が狂人のふりをしてとよくあるが、狂人のふりは接與、狂人として難を逃れるよりは、奴隷となって従ったとみるべき。仁でなく人とする説があるが、仁者三人の方が、孔子の力強さが感じられていい、と稲垣君。

2) 柳下惠士師と為りて三たび黜（しりぞ）けらる。人曰く、子未だ以て去る可からざるか。曰く、道を直（なお）くして人に事（つか）ふ。焉（いず）くに往くとしてか三たび黜けられざる、道を枉（ま）げて人に事へば、何ぞ必ずしも父母の邦を去らん。
金谷先生は、柳下惠は士師（罪人を扱う官）になったが、三度も退けられた。ある人が「あなたそれでもなお他国へ行けないのですか。」というと、答えた、「まっ直ぐに道を通して人に仕えようとしたら、どこへ行っても三度は退けられます。（退けられまいとして）道をまげて仕えるくらいなら、何も父母の国を去る必要もないでしょう。」とされている。柳下惠は臧文仲の時に出てきた（衛霊公篇14)。孔子は臧文仲が柳下惠を用いないことを批判しており、柳下惠の能力を認めていた。柳下惠は士師、獄官という立場にある人だが、ある時、門限を過ぎてしまって街の門の外で寝たのだが、しばらくたつと、女がやってきたのだが、その晩はやたら冷え込み柳下惠は寒かろうと危惧してその女を足の間に座らせあたためてやった。淫らなことをしなかったのでそのことが評判となったのだが、獄官、司法の官としては誤解を招きかねない。恵と云われる所以。ところである激しい雨の夜、女が宿を求めて男に中に入れるよう頼むが、この男は断った。女がお前は柳下惠のことを知らないのか詰め寄ったが、男は私は柳下惠ではない、貴方に何をするか分からない、だから入れるわけにはゆかないと断った、これを聞いた孔子が物の分かった男と褒めたという。孔子の100年前の人だが、柳下惠は真っ直ぐばかりでなく、情にも厚かった、と上田さん。孟子のなかにあります、と姚さん。臧文仲は、あるとき鳳凰に似た珍しい鳥が魯の門に泊っていたのでこれを祭らせた。柳下恵は、 祭祀は国家の大切な制度、瑞鳥ということで勝手に制度を作るなどやるべきことではないと批判したとされる。臧文仲は賢人とされるが、孔子も臧文仲を厳しく批判している、と上田さん。三度士師となり三度首になっている。だのに何故まだこの国にいなさるか。命の危険にさらされている、だが強固にはねつけた。去るは国を去ること、いつまでもそうしていると命が危ない、と稲垣君。道がなくば去るでなく、道がなくても平気で仕える、左遷されてもそこで仕える、女の話と同じく、人がどう取ろうと、どんな仕事でもする、これではあまりに志が低い、身を辱めたと批判されるが柳下惠はその道を生きたようで、これは真似ができることではない、と上田さん。その時、その時の生き方がある、こういう選択もある。俺最高と思うが、最高の生き方をしているとは思わない。姚さん、どうですか？と稲垣君。すべては邦を愛している三人。邦を愛しているから。皆同じ人間ではないが、この人は邦を愛していたから決断した。邦が好きだからこの邦に暮らして、愛しているから死んでも惜しくない。この三人は邦を愛している人と感じていた、と姚さん。そこが仁とつながる、と稲垣君。孔子が比干だけを取り上げたなら、聖人の道は難しい。それでは、厳しすぎる、そうじゃなくて孔子はもっと闊達な思想を持っている。孔子は自分の思想を持っており、喪家の狗（いぬ）と云われても怒らない。色々な面で人を見る、違う面で人間を観察している、と姚さん。岸本さんどうですか？と稲垣君。色んな人のサンプルを並べて、最終的にどうこうではなく、貴方が自分のいいことをしなさいと云っているのかと思う。歴史的なことが分からないので感覚的にそう思った、と岸本さん。大西さんどうですか？と稲垣君。ええーむつかしい。現代的にとらえると・・・死ぬとどうにもならない、生きておればこそ。何遍行っても同じというのは面白い。行ってみれば一緒、どこへ行っても自分の思う通りにはならない、と大西さん。柳下惠は直をつなぎたい。臧文仲が鳥を祭ろうとするが、柳下惠からみれば、無駄と諌めるところが直。そうしなければ・・・柳下惠はどこでもやれる、と高津君。道は政治にかかわる。企業でも、国の方針でも、のっぴきならない状況に当たるとき、どう折り合いをつけるかが問題。出来ない時、引きこもるとなる、比干は選んで死んでいる、と稲垣君。諫言すれば死ぬことは分かっていたのか、と大西さん。紂は｢炮烙（ほうらく）の刑｣（銅の柱を作って油を塗り、 炭火の上に渡して、自分を誹謗するものを裸にして、その上を渡らせ、渡り切れば免罪）を行っており、諫言すれば死ぬことは予想していた。川那辺さんどうですか？と稲垣君。いい意味での執着がある。人はそれを持たないといけない。自分の身の置き処、国に対する執着、ちょっとでも国を善くしたい気持ちがある。そうしても従ってゆくのは、この人が大変な思いをしているから。執着を持って生きている男は、養い難しでなく、女には出来ないから、男はそうあって欲しい。執着することは失うものも大きい。女は失うことを嫌がるもの、と川那辺さん。道が行われず何処かへ行く、それはそれで勝手。去らずにそこで自分の力を使いたい。学ぶ人が見る先は、自分ではなく国であるべきとする、と高津君。
本日の一揆は、川那辺さん、稲垣君、上田さんのトリオ。当世学生気質、如何に授業を行うか？苦闘の稲垣先生。纒向で発掘された宮殿の新聞記事などファイルにため込んでいる稲垣君、どう思うか上田さん。卑弥呼の宮殿なら、もっと大きくなければ、まだでてくるのではないか？と熱燗で、終電よさらば！


2009年11月26日（木）　微子篇3
左京図書館に行かなくちゃ、と飛び出した稲垣君。その間に微子篇を音読。齊景公について、よもや話。父は霊公、575年に魯の宰相、叔孫僑如の娘、穆孟姫を娶り、生まれたの荘公と景公、景公が生まれたのが573あるいは572年といわれ、兄、荘公と景公はそう年齢が離れていない。孔子が齊に行ったのが517年とされるので、景公は56歳くらいとなる。この年代はあやふやなところがあり、通常景公は60歳くらいとされるよう、と話していると、稲垣君が息を切らせて戻ってきた。それでは、今日のところを、大西さん、お願いします。

3) 齊景公孔子を待（まち）て曰く、季氏が若きは則ち吾れ能（あた）はず。季孟の�閧�以て之を待たん。曰く、吾れ老たり、用ひること能はず。孔子行（さ）る。
待はまちてですか？待遇のことだから、"たい"だろうが、"て"と送り仮名をしているから、"まち"てと読むが、意味は待遇のこと、と姚さんと稲垣君。
難しい、どっちが歳をとったと言っているのか？齊の景公が孔子を待遇するについて、季氏のようには出来ない。季氏と孟氏の間くらいで待遇しようと言ったが、やがてまた、年をとったので用いることはできないと言った。孔子は齊から旅立たれた、と大西さん。どっちが歳をとったと言ってますか、と稲垣君。齊景公でしょうね、と大西さん。でしょう、と姚さん。ですね、と稲垣君。一旦は孔子を使う気でいたのにやめた、一説には、晏嬰が邪魔をしたとある、と大西さん。季孟とは、と姚さん。魯の季孫氏、叔孫氏、孟孫氏、季孫氏と孟孫氏の間となれば、魯の事実上No2の大夫の位置となる。齊では当時晏嬰が宰相であり、田氏（陳氏）、高氏、鮑氏、欒（らん）氏という有力氏族がおり、35歳の孔子はその中の高氏の高昭子を頼って齊の景公と会っており、そこでいきなり、齊のNo2の地位を得るということはあり得ない。大変なリップサービスとしかいいよういがない。史記では、「尼溪田を以て孔子を封ぜむ」としている、と上田さん。それはそうでしょう、しかし、孔子に吾れ老いたりという言い方はわざとらしい、どう思いますか、と稲垣君。もう老年で政治にかかわっていないから、雇うことはできない、と姚さん。それもあるが、もう歳をとって、君を使いこなす自信が無い、と稲垣君。言い訳でしょう、と姚さん。言い訳です、政治的に力がない、政治はやっているが感覚が鈍っており才能のある人をとれない、と稲垣君。私が孔子なら腹が立つ、孔子は何も言わず去っている、怒っている、と姚さん。これは、孔子が齊を去った理由づけに使われたもの、次の条は魯を去った理由づけ、後の人がそういう理由にしたかった、と上田さん。歳をとって自分でできないのなら、後継者にさせることもできたはずだが、それもしていない、と姚さん。次条もそうだがエピソード、第三者の立場から書かれている、孔子の言葉はなく、伝記風に書かれており、孔子を美化するためのもの、と稲垣君。次条で孔子が魯を出たのは、季氏が齊から送り込まれた女樂にうつつを抜かしており、これではダメとしたとするが、実際は、季孫氏、叔孫氏、孟孫氏の武装解除に失敗して失脚したのが原因、それをすり替えた。ここでは、景公の老齢の話にしてしまった、と上田さん。思い出したくない過去だったかも。吾老いたりを孔子の言葉とするなら、景公の待遇に不満をもって、お役に立てないのでと去ったことになる、と稲垣君。最初はそういうことかなと思った、と大西さん。史記などの影響で、そうでないとなった、と稲垣君。季孟の�閧ﾆいう言い方は、失礼な言い方ではないですか、と大西さん。どこが失礼ですか、と稲垣君。官名とか役職でこれをお願いするというのが普通じゃないですか。ところで、孔子が齊に行ったのはこの時一回きりですか、と大西さん。56歳から放浪14年で齊はない、その後は魯に帰っており、齊に行ったという話は聞かない。若くして魯に帰ってからは、魯内で役職を得て司法大臣となり、夾谷での齊景公との外交交渉で成果をあげており、齊に行くことはなかった。老年になって齊に出掛けて景公とこんな話をするということはない、と上田さん。放浪中の孔子はよく衛に行ってますね、と姚さん。全体（地図）、孔子は衛-匡（地図）-衛-曹（地図）-宋-鄭-陳-蒲-衛-陳-蔡（地図）-葉-蔡-楚-衛-魯となる。衛は四度あり、拠点になっている、と稲垣君。何故、衛なのですか、と姚さん。顔濁鄒（子路の妻の兄）だったかな？その家を主とし、子貢も衛人じゃなかったかな？蘧伯玉の家にも世話になったのでは、と上田さん。「蓋し待の輕重に繋らず、特（ただ）用いざるを以て去るのみ（程子）」を引き朱子は待遇ではなく、用いられなかったことが原因で去ったとしている、と稲垣君。35歳の無名の魯の孔子が、高氏のおかげで景公と話す機会を得て、雇われなかったとはいえ、景公から仕官の話を持ちかけられたことは、世に知られるきっかけとなったもので、もったいをつけた話となっているが、齊においても、魯に帰るについても評判となる結構なもの、孔子のデビューだった。この時、景公についても晏嬰についても知りうることが出来ており、夾谷での交渉を有利に進めることもできた、と上田さん。顔淵篇11)で、「齊の景公、孔子に政を問う。孔子、對へて曰はく、君君たり、臣臣たり、父父たり、子子たり。公、曰はく、善き哉、信に如し君君たらず、臣臣たらず、父父たらず、子子たらずば、粟有りと雖も吾、得て諸を食わんや。」季氏篇12)に、「齊の景公、馬千駟有り。死の日、民、�ｺとして稱すること無し。」と孔子は、景公をぼろくそに言っている、と大西さん。景公は分かっているように言うが、実は通じていないと孔子は思っていた、と上田さん。分かっていないと孔子が思ったとは書かれていない、景公の言葉があるのみ。朱子の解釈を踏襲しているからではないか、と稲垣君。荘公を殺した崔杼とかの政治で齊の君臣関係が滅茶苦茶であったのを踏まえて、「君君たり、臣臣たり、父父たり、子子たり」と孔子が指摘した。そう言われて、景公がよくぞ言ってくれたと評価したのではないか、と高津君。その滅茶ぶりを上田さんが解説（斉の歴史：高陽を慶克と混同してましたので訂正します。）孔子の正論にぐっときた、しかし、晏子がそれじゃいけない、と不採用となった、という訳ですね、それはいけますね、と稲垣君。景公を守本之君としている、管仲の作った国を守った、と高津君。孔子との関係で暗君にされているが、覇者となった桓公、管仲の時代に継ぐ隆盛を齊にもたらしたのであり、その面の評価はしておかないと。今後は左伝などをまとめて時代背景を押さえることも必要だな、と稲垣君。
では、次回は12月5日(土)。


2009年12月5日（土）　微子篇4〜5
微子篇を音読。李さん、微子篇4をお願いします、と稲垣君。

4) 齊人（ひと）女樂を歸（おく）れり。季桓子之を受く。三日朝せず。孔子行（さる）。
齊人が、女樂を贈りましたのですが、それを魯の季桓子が受けた。もらってから三日、朝廷に来なかった。それをみて、孔子は魯を去って他の国に行った。女樂って何ですか？女の歌舞伎と吉川先生はしておられますが、女の人が演奏しながら演技すると想像しますが、季桓子は？と李さん。前の条に季孟の間とあった、魯の季孫氏と孟孫氏の季孫氏。魯のNo1貴族。唐では六朝と異なり、周辺国が女樂を送るということがあり、唐はｱｼﾞｱ諸国の音楽を宮廷用にしており、日本からも、シルクロードからも、韓国からも入ってきている。ここでは齊の音楽をやる人、と稲垣君。司馬遷によれば、「齊の國中の女子の好き者、八十人を選び、皆、文（美しい）衣を衣（き）て康（こう）の樂を舞ふ。文馬三十駟（駟は4馬、合計120頭）、魯君に遺（おく）る」とあり、吉川先生はサーカスとしておられる、と上田さん。美女軍団、と稲垣君。魯が孔子で政治が良くなったので、それに対して魯の政治を乱そうとして齊が女樂を送った。それで、季桓子が三日政治をしないので、孔子ががっかりして、魯から他の国へ行った、と李さん。伎はアクロバット、女舞でなく、女樂、と稲垣君。樂とあるから音楽もあったのでは、と李さん。正倉院では、サーカスのようなものが描かれている、と稲垣君。高麗が中国、日本に派遣した時に、サーカスに人気があった。正倉院の中に絵が残っている。この絵が描いてあった、と李さん。サーカスと曲芸は異なる。曲芸は軽業とか東洋のもの、サーカスは西洋的、曲芸は珍しい芸、ジャグラーとか、と稲垣君。わざと美人を送ってきて、三日季桓子が来ない、女の人だから踊ったほうがいいのでは、と李さん。セクシーな踊りだったり・・・ところで何故孔子は魯を去ったのか、と稲垣君。季桓子が来ないことを何故諌めなかったのですか、と姚さん。そういう方法もありますね、と稲垣君。前条は孔子が30代半ばのこと、魯に帰ったとき。ここでは20年後、定公に女樂と馬をプレゼント、間に季桓子が立った。季桓子は三日朝廷に出ず、私服で女樂を見に行った。三日続いた、それで孔子は腹を立て、14年の諸国行脚に出る。14年後、70歳くらいで魯に帰ってきた。そのきっかけが本件、と稲垣君。季桓子が権力を持っていた、王も彼を叱ることがなかった、と姚さん。実際権力を持っていたのが季桓子。もし、王も一緒なら王も朝廷に居ないことになり、会議にならない、と稲垣君。王は朝廷に居て、季桓子が来なかった、王が居ないと朝廷の会議ができない、と李さん。季桓子が女樂をもらって、王に与えたのでは、と姚さん。

魯の政治情勢ですが、昭公が季孫氏、叔孫氏、孟孫氏（三桓氏）と対立して齊に亡命してから魯では空位時代が続く。魯では三桓氏の筆頭に季平子が政権を運営しており、その政治に対して三桓氏の中に不平を持つ勢力もあり、魯公の政治を復活させようとする勢力もあった。

季平子が亡くなり、季桓子の時代になると、三桓氏の不平分子が陽貨（陽虎）の手を借りるつもりで画策したが、逆に陽貨に利用され、季桓子を監禁して陽貨が実権を握る、下剋上の更なる下剋上、陽貨が季桓子や定公（昭公の次の魯公）を押さえこむという大変な事態となった。季桓子が孟孫氏の公斂処父（こうれんしょほ）の進言で難を逃れ、危機を共有した三桓氏が協力して陽貨を魯から追放して、孔子が魯の政治に登場をする。孔子は魯公中心の政治を目指すのであるが、三桓氏は孔子を陽貨のように下剋上を行うタイプでないこと、夾谷での齊との外交交渉で失地を取り返すという功績を挙げたことで、孔子を重用した。それに脅威を抱いた齊が孔子を政権から引き離すために、女樂と馬で魯公と季桓子がどう反応するか試したところ、魯の政治は停滞し、孔子との間が割れ、孔子が魯を去るという成果をあげることになった。それで、孔子は魯を去ったのだと論語の編集者は言いたい。ところが左伝では、そのような話はなく、孔子は定公の政治を実現するために、郈の叔孫氏の武装解除を行い、子路を季氏の宰にして、季氏の費の武装解除を行う。これには費の宰であった公山不狃が逆に曲阜に攻め込むという事態を招いたが、これを鎮圧し、次に孟孫氏の成の武装解除にかかるが、公斂処父が成は齊との要所で齊の軍事介入を招かないために武装解除には応じられないとこばみ、引き延ばしをはかり、孔子の意図に注意を促した。三桓氏は陽貨とは別の意味で自らに脅威が及ぶことを悟り、孔子をその座から下ろした。定公中心の政治を行うもくろみはとん挫し、魯に居れなくなった、というのが歴史上での展開であるが、論語の編者は、孔子が魯の政治に失望して魯を出たとしたかった。季桓子が絶大な権力を有していた訳ではない、孔子は陽貨に誘われ、参加すると返事して行かなかった。公山不狃に招かれて加担しようとして子路に止められた。そのことは陽貨篇でみた。非常に混乱した状況にあった中での出来事、と上田さん。女樂のことだが、定公も見た。齊の使者が魯の南門の城外で催し物をした。興業をした。魯の王も見に行った。季桓子も行った。王に贈られたものを受け取るように進言した。朝廷は三日開かれなかった。子路がそれで魯を出ようとしたが、孔子はまだ止めることが出来ると思い、祭事をきちっとするなら脈があるとしたが、それもしなかったので魯を出た。国が乱れた場合の三つの生き方をこの篇の冒頭でみた。以下をふくめてあらゆる生き方が書いてある。孔子は比干みたいな生き方はしない、微子のような生き方。孔子の放浪の遍歴が大きな要素、楚狂、接輿の話、楚の旅への途中、長沮や桀溺もそのひとつ、旅の中で巡り合う色々な人、孔子が旅の中で会った賢者。孔子自体が国が乱れた時どうしたか？柳下恵は退けられても国を出なかった人、国に留まった人、孔子はこの人とは違った道をとった。齊の女樂では、孔子は国を捨てて出る、これをどう解釈するか？定公を捨てて国を出ている。孔子自身国に道が有れば仕え、国に道なくば去る。出てゆくことは問題ないが、孔子の生き方を正当化するなら、何故と柳下恵のことがここにあるのか？次にゆきましょう、高津君どうですか、と稲垣君。

5) 楚狂接輿、歌ひて孔子を過ぎて曰く、鳳兮（おおとりや）鳳兮何ぞ�ｺの衰たる。往（ゆ）く者は諫む可らず。來（きた）る者は猶を追ふ可し。已んなん已んなん、今の政（まつりごと）に從ふ者は殆（あやう）し、孔子下（お）りて之と言はんと欲す。趨（はし）りて之を辟（さ）く。之と言ふことを得ず、と高津君
楚の狂、狂は常識より度のはずれた行為をする、何にもとらわれない人。接輿、せつよ、しょうよ、が歌って孔子の乗っている輿の前を通りすぎて言った。鳳（おおとり）よ鳳よ、何とも�ｺの衰へたことだ、鳳は瑞鳥、本来ならでてこない。過ぎたことを諫めることは出来ない。来るもの、未来、これからのことは取り直しがつく。おしまいだ、おしまいだ。今の政（まつりごと）に從うことは危うい。孔子は車から下りて、この狂と話そうとした。それを聞いて、接輿に言いたいことが有った。接輿はそそくさと避け、逃げた。会話を交えることはできなかった。接輿があてつけるような歌を歌った。過ぎ去ったことは取り返しがつかないが、これからのことはなんとかなる。孔子はそれを問い、はっと思った、賢者だと思った。孔子は何を言いたかったのか、あるいは教えを請いたかったのか、弁解したかったのか。孔子は車からおりて、礼をとって話そうとしたが接輿は受けなかった。長沮や桀溺、丈人。孔子とは別の生き方、尊敬して話そうとするが退けられた。孔子は何を話したかったのか？どう言いたかったのか？上田さん、時代背景はどうですか、と稲垣君。

孔子は楚の昭公に仕官しようとして楚へ行こうとしたが、陳と蔡の間で囲まれて窮地にあった（先進篇2）。食糧に事欠き畑泥棒までしているのに孔子は琴を弾いているだけ。子路が怒って君子も窮するのかと問い詰める（衛霊公篇2）始末、司馬遷が荒野での弟子と孔子の対話を描いた場面。

子貢を楚に派遣して窮地を脱するのであるが、楚の子西が子貢や子路のような人材を有する孔子を招けば、軒を貸して母屋を取られることになると反対して、結局仕官はならなかった。接輿はその昭公に仕えており、姓は陸、名は通という。ところが昭王の政治は、「政令常無く、乃ち被髮（髮を振り乱）し狂を佯（いつは）りて仕へず」と、道が行われていないので隠れた。その道が行われていない所に孔子が仕官をする。鳳兮とは孔子のこと、鳳は道が行われているところに現れる瑞鳥、それが道の行われていないところに仕官するという。接輿からすれば、徳のある人のとるべき行動とは思えないので、場違いの鳳、徳の何と衰えたことか？と直言した。孔子も諸侯と直接対峙しての仕官のアプローチがこれが最後（衛に帰って霊公の後継で出公を補佐する可能性もあったが）。荒野での対話で、子貢はレベルをゆるめて仕官を優先させることを述べるが、孔子はそれは諸侯の側の問題で先生がレベルを下げる必要はないする顔淵の意見に頷き、もはや仕官はあきらめ、別の生き方を模索することに傾きかけていた。その時に楚の隠者に出会うのであるが、いわゆる隠者ではなく、本来は政治家で楚の政治に道がないとして隠れている賢人、と上田さん。陸通、それはどこに書いてありますか、字が接輿、輿に接すからというのは、怪しい説じゃないですか、と稲垣君。義疏です、と上田さん。占い師みたいですね、未来、将来が危ういと言っている、と姚さん。政治的に不遇で追い出された。孔子を鳳に例えている。孔子のような鳳がこんな時に現れるとは何と徳の衰えたことか。仕えてしまっているならどうしようもないが、未来のことならなんとかなる、ああ、惜しいことだ。今の政治に従う者とは孔子のことか、と稲垣君。王も含めて政治をする人、楚の人を含む、子西も含む。注釈はやみなむ、やみなむ。接輿の言は、今の政治はお終いだ、孔子が来ることも含む、と高津君。もうお終い。まあまあいいや。私が薦めても聞かないないだろうから、いいけれど。一言言えば、今の政治に従うのは危うい、と姚さん。古注では、止めるは、世の中が甚だしく乱れて悪い、治めることはできないとなっている、と高津君。もういい、もういいで、それほど深い意味はない。もうおしまい、先に言った話はもういい、と姚さん。時の政治がどうでもいい、私にとってはどうでもいい、の二つがある。今の政治は今の楚の政治でいいのか？今の政に從ふ者は、王以外か、と稲垣君。国を運営することが従う、と高津君。全部、王も大夫も含む、と姚さん。王様の悪口をいうことはない。大臣を批判して間接的に王を批判する。従政者は王とはならない、内容的に王を含む。孔子は車の上からではなく車を降りて、礼を尽くしている。同格の人として話そうとした。接輿は逃げて行った。それは何故か。鳳兮は揶揄した言い方、驚いたもんだな、と稲垣君。鳳は言い世の中に出てくるもの、と高津君。本当の鳳なら、こんなところに出てくることなどない。分からんのかなこの人は。この後では、そういう止め方はしない。ほったらかしだが、同じ流れの中にある、と稲垣君。往（ゆ）く者は諫む可らず、とは孔子が昭公に仕えようとしたことを咎めるつもりはない。來（きた）る者は猶を追ふ可し、とは周公の政治を復活しようと追い求めることはできるが、已んなん已んなん、とは止めた方がいい。それは危険なことだ、と解釈したが、と上田さん。來る者は猶を追ふ可し、とは、まだまだ可能性がある。自分には出来ないが、孔子には出来るかもしれない。自分は迷って・・・孔子と同じ迷いが彼にもあったので、話さず逃げた。彼もはっきり止めよは言えない。そうしなさいとも言えない、と李さん。羅生門の下人みたいなもの。やましい気持ちがあると逃げる、と稲垣君。若い時孔子と同じ抱負を抱いたが、孔子を見ると、今の政をする者はおしまいと、孔子に伝え、孔子に言って伝えるつもりだけ、楚の国の状況だけ教えるが、その後のことは聞きたくない。そのことにかかわりたくない。貴方の言うことは聞きたくない、と姚さん。これは諺みたいなもの、軽い言い方。これは歌、それ自体はたいしたことを言っている訳ではない。民謡、小唄、表現は簡単、とりようによっては重くなる。詩の一部ではないか、誰でも口ずさみ覚えることができるものではないか。鳳が出てくるのは、何とも徳のないこと、過ぎたことは取り返しがつかない。これからのことはどうなるかわからない。今の政治は危うい。歌はどうともとれる。聞きたくない理由は皆それぞれ違う、と稲垣君。孔子ははじめて楚に来た。楚の国は良くない状態。貴方の夢を潰すつもりはない。楚国を帰る可能性があると思うが、そのような状態ではない。自らそれを体験してみてくださいと忠言した、と姚さん。聖人が政治を行うなら孔子なんていらない。うまく治まっているのだから。そうでないから孔子が行こうとするが、そんなところで孔子ができるかといえば、汚い人たちがいてそうはゆかない。孔子は自分の矛盾が分かっている。何回も失敗している。上手く出来ないこころの乱れ、複雑な心境。歌を歌っているこの相手を説得したいのは、自分を説得したいのを、彼を説得して、自分を説得したい。自分の矛盾を正当化したかった、と李さん。迷っているがそう生きねばならない。迷っていて、接輿から何かカウセリングを求めたようなことですか、と稲垣君。孔子は人にカウセリングを求めるようなことはない、と李さん。接輿から聞いて妥協をしたかったのかもしれない。孔子の迷いを感じる。道が行われていないことはすでに知れり。よく分かるが、貴方と私の道は違う。困難な状況を易える。接輿は考えが違う。孔子が10年貫いていたので注目するが、私はそうではない、と姚さん。接輿も狂で貫く道は違うが、自分を貫いていることは見ていたが、それ以上に話しても仕方がない、と高津君。孔子は政治家ではなく、全く違う生き方をして木鐸の役割を果たす。彼が動くことで、政治がおかしいことが分かる。そのきっかけとなる。聖人は現実には存在しない。現世には存在しえない。聖人は、たとえば共産主義の理想が現実となれば、いらない。そういうことはないから、常に孔子みたいな人が、警鐘を鳴らす必要がある、と稲垣君。孟子に、王が美人と音楽が好きだが、孔子の思想は、美食や贅沢と反し、儒教の思想を受け入れることで、美食や贅沢をしてはいけないとなると言うと、孟子は、そうではない。賢い王は民を愛しているからこそ、そうであっても、国をちゃんと治めることができる。孔子は完璧すぎ、欲望や争いの中で理想が強い、と姚さん。乱れた状態の中から、厳しいものが出てくる、と稲垣君。米の民主主義とソ連の共産主義、この戦いの中にさんざんの混乱があった、と李さん。他国と対立して戦争となると、変なことになる。国益とからむと思想はおかしくなる、と稲垣君。国が利用をするといい思想も独善となり真価を発揮できなくなる、と高津君。国と思想について脱線。マルキシズムと中国の文化大革命、マルキシズムをいいように使って、多くの人を政治的に葬った。法家と儒家、100年タームでみてみると、法家は当初は合理的でうまく機能したが、人情に欠け浸透しなかった。儒教はもっと長いタームでみれば、清朝の眠れる獅子を作り上げてしまった・・・と時間オーバー。中村(典)さんが終了間際に滑り込み、三ヶ月ぶりです！

一揆では中村(典)さんがブレイク。今度の演奏会では「誰渡洸河：goes in the river of light」、洸河とは「三途の川」なんですって！現実と理想がクロスしたポイントで、この漢字のイメージがガーンと来た。何のことやら、それはこの十七弦の筝曲をお聴きになれば分かるかも！12月22日京都芸術センター。最後の曲が「折れた背骨」、聴き終わったら皆様さん、ご一緒に三途の川でお会いしましょう。そのまま渡るか、引き返すか？南無阿弥陀仏。


2009年12月17日（木）　微子篇6
12日(土)は稲垣君と上田さんの二人のみ。この条は二人だけでやるのはもったいないので、よもや話。一揆では大西さん、以降、ポツポツと高津君、中村(典)さん、安澤さんが登場。年忘れできない忘年会、新年会をやらなくちゃ。微子篇を音読。李さんと川那辺さんで訓読をお願いします、と稲垣君。

6) 長沮（ちょうそ）、桀溺（けつでき）、耦（ぐう）して耕す。孔子、之を過ぐ。子路をして津を問はしむ。長沮が曰く、夫の輿（よ）に執る者を誰とか為る。子路が曰く、孔丘とす。曰く、是れは魯の孔丘か。曰く、是れなり。曰く、是れならば津を知らん。桀溺に問ふ。桀溺が曰く、子をば誰とか為る。曰く、仲由とす。曰く、是れは魯お孔丘の徒か。對へて曰く、然り。曰く、滔滔（とうとう）たる者、天下皆是れなり。而して、誰とともに之を易（か）へん。且つ而（なんじ）其の人を辟（さく）るの士に從わんよりは豈（あ）に世を辟るの士に從ふに若（し）かんやと。耒憂（ゆう）して輟（や）まず、と李さん。子路行きて以て告（ま）ふす。夫子憮然として曰はく、鳥獸は與（とも）に群を同じくす可からず、吾斯の人の徒と與にするに非ずして誰と與にかせん。天下道有らば、丘與に易へることなし、と川那辺さん。
長沮と桀溺が一緒に畑で働いていた。孔子がそこを通り過ぎ、子路に船の渡し場を聞きにやらした。長沮は、あの輿で馬の手綱を執っているのは誰かと聞いた。子路が、孔子と言うと、魯の孔子か、と言うので、そうだと答えると、それならば孔子は渡し場を知っているだろう、と言った。桀溺に問うと、桀溺は、あなたは誰かと聞く、仲由だと答えると、魯の孔子の弟子の子路かと言うので、はいそうですと答えると、こう言った。吉川先生は滔滔とながれるを混乱しているとしておられる、乱れている世の中とみていいのですか？誰がこれを変えることができるのか？人を避ける、そんな先生に従うよりは、世の中を避ける先生に従うのがいい、ましだ。そう言って種を植えて土をかぶせる作業を止めようとしなかった、と李さん。子路は孔子の所へ返り、そのことを孔子に報告した。先生は憮然として言った。鳥獸と一緒に生きてゆくことはできない。私は、この人間という徒輩と共でなく、誰と共にできよう。天下に道が有れば、一緒に変える必要はない、と川那辺さん。滔滔は流れて返らない、ゆったり、たっぷりの水が流れてゆく、太い川の流れのように一定方向に動く。人間の力でその流れを変えることはできない。黄河、長江の水は、歴史と時間を象徴する。水が逆流することはない。中国人にとって世界は中原、夏、殷の地。東夷、南蛮、西戎、北狄がその周囲。黄河も長江も西から東に流れる、流れ込んだ先の海は、人間の力の及ばないところ。ゴビ砂漠も海。熱河というが砂漠。河の水は一旦流れると世界の果てまで行く。中国人にとって河の流れをみると感傷的になる。百年前の人も同じ、自然は変わりにくいもの、黄河は2千年、3千年前から変わらない、人間の生は百年足らず、人間は死んでも自然は変わらない。河をみると永遠不変のもの、それに対する人間の無常観がある。人の営みを海に流すというもう一つの無常観もある。水の流れのように遥かに流れて、水の流れは変わらない。誰がその不変の流れを変えることができようか。與〜也豈若〜、〜するよりは〜する方がよい、比較、人を避ける士に従うよりは世を避ける士、人を避ける士は孔子、世を避ける士は長沮、桀溺、孔子に従うより、長沮、桀溺に従った方がよい。仕事の手を止めずに話した。憮然は、あ〜とため息をつく、失意の様。普通使われている意味は間違っている。失意のこと、朱熹は、はあ〜とため息をついたとしている。長沮、桀溺は自分の意図を理解してくれなかった。禽や獣とは一緒に住めない、群れを異にすれば、鳥でも、カラスとハトでは一緒に暮らせない。長沮、桀溺と孔子は群れが異なる。孔子は隠者に対しても必ずしも禽獣扱いしているものではない、会ってもらえたら話をしてという所、あいつらは禽獣だという考え方はない、と稲垣君。ここで注意すべきは、孔丘、仲由と本名で会話が進んでおり、何ら不自然さがないことである。接輿は昭王の政治に道がないから隠れた政治家とあったように、長沮、桀溺も農民のように描かれているが、農民に対して、本名で語り合うことは通常ありえない。子路が本名で対応すべきとしているなら、そうするに相応しい人物とみてのこと、農民のようにみえるが接輿とおなじく、楚の政治に道が行われていないとして、田舎に引き籠っている政治家と考えた方がよい、と上田さん。沮は一説では排泄物、溺が小便、沮は大便。変な字（あざな）。隠者は名前が残らない。名を残す隠者は隠者ではない。唐代ではこれが社会問題になった。わざと山に隠れ、隠者を語った。宋代には職業隠者がおり、皇帝がパトロンになって、鶴と一緒に湖のそばで過ごすといった、世間に顔をさらす隠者もでる。沮、桀溺は孔子に会ったことで名が残った、と稲垣君。津というのは渡し場であり、川の渡し場を問うているが、これは、孔子の人生の渡し場をひっかけている。長沮は孔子が楚の昭王への仕官に失敗したことを知っており、もっというなら、諸侯を補佐して周公の政治を復興しようとする孔子の試みがことごとく失敗したことも知っており、孔子にとっても転機であり、次はどこへ向かうのか、今、人生の渡し場にいることは、孔子本人が分かっているはずだ、と言い放ったことになる、と上田さん。名もない平民なら、子路は怒っただろう。津を問うことが人生の津をかけているというのはそうだろう、痛烈な皮肉になっている。孔子に行きたい場があって、それは貴方のすきにすればいい・・・と稲垣君。桀溺は子路に対して、孔子に従うよりは、我々に従えと勧めている。話を聞いていた孔子が憮然とした。彼等が孔子一行の置かれている状況を的確に把握しており、孔子の行動を注視していた。このことを知り、驚きを覚えたし、子路が反論もせず帰ってきたこともあり、失意を覚えもした。楚の昭王の一件で、もはや諸侯を補佐して周公の政を復興するということが非現実的ということは、孔子自身もそう思いはじめており、それは史記における荒野での子路、子貢、顔回との対話に描かれている。これからどう生きるべきか？それは孔子のみならず、弟子、そして、長沮や桀溺も注視していた。子路に対して、禽獣とは一緒に暮らせない、別に長沮、桀溺が禽獣と一緒に過ごすわけではない、長沮や桀溺に有効な反論ができずに、孔子は天下に道が有れば、共に変革することはないという言葉を漏らした。国に道が行われていなければ去るという従来のスタンスとは異なり、社会を変革するという意思を漏らしたことになる、と上田さん。二つの対立した見方というのではなく、孔子は世の中を変えるというものでもなく、世の中には道があるから、それを変える必要はない、もともとの天下にもどればいいということでは？天下に対する二人の理解が異なる。孔子がレトリックを使っており、うまく受け答えをしている。孔子にとって天下は、道のある天下として見ている、と李さん。人を避ける、孔子をあてこすっている。人から逃げる。孔子は道のない国を嫌った。役職に就かず逃げている、と稲垣君。李さんのおっしゃることは孔子の考え方としてそうでしょうが、それは次条の杖人に対するものじゃないですか。ここでは、天下有道丘不與易也、文字通り解釈すれば、天下に道が有れば、丘（私）が與（とも）に易（かえ）ざるや、いや易る。人間社会の政治を共に変えるという意味となる。これを聞いた子路は、孔子がまだ政治を変革する意思があるとし、衛での出公の補佐のチャンスを孔子が活かすように迫ることとなった。しかし、孔子は「名を正す」、出公の正当性に疑義をはさみ動かず、子路が独自に出公に仕官し、命を落とすことになった。これは、桀溺の懸念があたっていたことになる、と上田さん。人を避ける、結果として遠ざける、世から逃げるのが孔子の癖。世は何かしらの政治の場、それと係わりたくないから逃げる。人は世に棲む人。人を避けている、そこから逃がれてきたのが孔子。孔子が魯を出奔、季氏とか中心にいる人間から逃れている。人をより好みしている人よりは、政治の営みから完全にドロップアウトした方がいいとする。そこで、孔子は、私は人という中で生きないとすると誰とするのか、禽獣じゃないから、自分は人なんだからその中でいきてゆくしかない、と稲垣君。子路は長沮や桀溺の言ったことをそのまま伝えている。子路にも、うすうすわだかまりがあり、先生にこんなことを言っていますがどうですかとそのまま伝えた。子路は何とかして変えたいと思う人、だから孔子にそのままを伝えた。こんなこと言われてまだ分かりませんか。子路から聞かされたことがきびしい、と川那辺さん。顔回なら無視するだろう、と稲垣君。子路は胸の内を吐き出している。長沮や桀溺が耕す手を止めないのは、それが生きる原点であるから、と川那辺さん。ひたすら手を止めない、と稲垣君。土を耕すことで回ってゆく、理詰めより、生きている感じ、と川那辺さん。中国文明のいくつかの問題が含まれている、と稲垣君。孔子が周公の政を復興するとはどういうことか、と大西さん。武王の政治には伯夷、叔斉が懸念したように義が尽くされない、武王の音楽は美を尽くすが善を尽くさないと孔子は述べている。武王亡き後、周公は若い成王を補佐して周の天命を自覚し、民の安寧をはかり義を行うことを口をきわめて説いた、と上田さん。孔子は魯の政治をただそうとした。魯をただして、その大本となる周を復興するということではないのか、と大西さん。恒例の放談へ。周の政権を復興するということではないでしょう。公山不狃に呼ばれた時に「東周を成さん」と孔子は言っている。自分が天命を知るで、東に周を作るとなれば、周政権の復興ではない。五十にして天命を知るというが、これは晩年に振り返っての天命であり、晩年は東周を成すでなく、その道は閉ざされ教育者のような、もっと普遍的な方向に行っている。陽貨篇、微子篇は後に作られた篇とされるが、そういう葛藤など面白い問題を取り扱っている、本年最後の読書会となりました。では、皆様、よいお年を。新年は1月9日(土)からです。


謹賀新年　平成二十二年（２０１０）

2010年1月9日（土）　微子篇７
台湾大学中央研究院の林月恵さん、11〜16世紀の儒学の研究をされ、昨年10月から京都大学に来られ、今年の六月まで滞在される。鄭さんからも林さんが参加される旨メールがあり、川那辺さんが西陣小学校まで案内。鄭さん、張さんとは台湾でご一緒。高津君も稲垣君も久方ぶりに、中国語でのコミュニケーション。川那辺さんは韓国語で。全員で微子篇の音読。本日の塾頭は決まっていなかった、では、初回ですから、私がやりましょう、と稲垣君。

7) 子路從いて後（おく）れたり。丈人（じょうじん）の杖（じょう）を以て蓧（あじか）を荷（にな）うに遇（あ）へり。子路問いて曰く、子夫子を見るか。丈人の曰く、四體勤（つと）めず、五穀分たず、孰（だれ）をか夫子と為（す）るか。其の杖を植（た）てて芸（くさぎ）る。子路拱（きょう）して立つ。子路を止めて宿（しゅく）せしむ。鶏を殺し黍（しょう）を為（つく）りて之に食（くら）わしむ。其の二子を見（まみ）えしむ。明日、子路行きて以て告す。子の曰はく、隱者なり。子路をして反（かえ）りて之を見（まみえ）せしむ。至れば則ち行（さ）る。子路が曰く、仕（つか）へざれば、義無し。長幼之節、廢す可からず。君臣之義、之を如何ぞ。其れ之を廢せん、其の身を潔（いさぎよし）とせんと欲して大倫を亂る。君子の仕るは、其の義を行はんと。道の行はれざる已に之を知れり。
子路がお伴をして後から追う。そうするとある男が杖を持って竹のざるを背中にしょっていた。子路が尋ねた、「お尋ねしますが、先生に会ったでしょうか。」丈人は、「体を動かさず、農業も知らないのでは、孰を先生というのか、そんな人は見ていない」と答え、杖を畑に突っ立てて草の根を切りはじめた。子路は丁寧な態度でじっと立っていた。丈人は、子路を引きとめ一泊させて接待をした。鶏を殺し、黍を煮て食べさせた、これは当時では歓待したことになる。また、自分の子に会わせた。翌日、子路はそこを去り、あるいは孔子のところに行き、そのことを話した。先生は、隱者だと言い、もう一度子路を使者として返して会わせしめた。しかし、たどり着くと丈人はいなくなっていた。子路はこのように言った。隠者として生きることは、義はない。年配者を敬う上下関係は人倫として廃してはいけないもの、孝、悌の節義、これを拡大したものが君臣の義、それを廃していいのか。一人で正しく生きようとして、社会の人倫を乱している。君子が社会的行動を行う目的は、義を行うことにある。道が行われていないことは、分かっている、ということです。前回の長沮や桀溺と生き方の方向は同じ、「滔滔（とうとう）たる者、天下皆是れなり。」、天下の流れは自然に流れるもの、人の力では変えられない、人の力でなんとかすることを諦める立場。丈人の子路に対する態度も同じ。道が行われていないのに何をしているんだ。しかし、子路は、道が行われていないことを知っている、知った上で、現代の世に実現しようとする、ぼくはこの条が好きで、無理といわれても、理想をもってすることは美しいし、絶対必要な志である。皆さんはどうですか、と稲垣君。丈人は農民のごとき印象を与えるが、長沮や桀溺と同じく楚の昭王の政治を見限って在野にいる政治家。国事に当たっていた大夫は70歳になると杖を与えられどこでもその杖を使うことが許されたとされ、そういう位にあった人と思う。だから子路は丁寧な言葉遣いをしており、拱（きょう）して立つという態度でもあった。丈人は孔子一行が楚の昭王に仕官しようとしたことも、それが失敗したことも知っていたと思う、と上田さん。杖のことは礼記にあることかと思うが、当時の制度であったかは疑わしい。漢代では、年齢の高い人は、地方でもそういう人はあがめられた。丈人が元大夫かどうかは知らないが、孔子一行の事がよく分かっていたということはそうだと思う。結構な集団で入り込んでいたわけで、それらしい一行が通ったのは分かっていた。四禮勤めず、五穀分たずは、礼樂を学び農業をしない集団へのあてつけであり、孔子集団が何をしていたかは知っていた。子路がはじめ尋ねた段階ではそうでもなかったが、丈人の答えを聞いて、これはなかなかの人、身分も教養もあると気づくという順序がある、と稲垣君。子路が一行から遅れて、丈人に会い、泊まり、接待を受ける。身分の高かった人とみて、挨拶をしている子路。隠者に対して何かしら思うことがあり、そこで泊まることになった。これって、当時一行から遅れたといって、勝手に外泊できたのですか？翌日そこでのことを孔子に報告して、再度孔子にその杖人に会ってきなさいといわれて、子路が言った言葉は、すべて子路の本心ではないような気がする。前の条では、そういう話があると孔子に報告して、孔子が愚痴をもらしたのですが、この場合はもう一度往かせている。孔子自身も相当焦っている。弟子たちも相当困窮して付いて行っており、孔子も何故そこまでして子路に言いに往かせたのか？精神的にも追い詰められた状況。子路の志が自分とは少し違ってきている危惧があった。往かせていることに何か意味があるのかな、と川那辺さん。子路の意思で話したことか、孔子の意思か、と稲垣君。子路は孔子がどう思っているかは分かっている。子路の本心は別で、泊まったということが既に子路の本心をあらわしているような気がする。食べることにも大変だった時期だけに、志ばかり高くても、実際生活ができないというようでは厳しいこと。食べることは重要なこと。弟子達も揺れていた、と川那辺さん。当時は夜になると泊まらざるを得ない。そして明け方早く行動にうつる。夜は非常に危険であった。今から行けば非常に危ういので普通の感覚で泊めたとも考えられる。二子にまみえしむ、にも意味がある。君臣の義の前の長幼之節、忠義のための孝、孔子が理想とした親子の付き合い、父子のあり方であるが、ここでは、そのあり方が人倫を乱すような、孔子からすれば理想的ではない父子のあり方。丈人は子路を賢人として自分の子を会わせたとあるが、もっとナチュラルな形で会わせるべき。孔子は賢人とみれば、わざわざ会いに行く。孔子が老子に会いに行ったことがある。孔子はあわよくば、隠者を説得しようとした、と稲垣君。子路に説得はできないでしょう。子路に対する"おしおき的行為"、何故お前だけそこに泊まってきたのか。議論などするつもりはなかったのでは、と川那辺さん。何故もう一度往かせたのですか、と大西さん。隠者を賢人として話が聞きたかった、と稲垣君。隠者は会わない、と大西さん。何故か孔子は隠者に会いたがる。農民ではなく、教養があり、ある一定の評価のあった人、と稲垣君。会いに行き居ない。そこで一方的に孔子の言いたいことを言う。これは一体どういうことか、と大西さん。子路の思いがこもっている。孔子では言いづらいことを言っている。道が行われないのは分かってやっている。言葉に出して言わざるをえないと稲垣君。ここの一連の条では孔子が隠者と話そうとして意思疎通ができないことが記されている。丈人が長幼の節を行ったことに、孔子は話をする余地があるとみた。このことを行い君臣の義は行わないというのは、一貫していない。楚の葉公が自分の国では、子が父が羊を盗んだと訴えるほど正直であると自慢したとき、それは父子の間の「親」を壊すものであり、父は子をかばい子が親をかばうという情を損なうことなく、直を見出さねばならないとした。君臣の義を損なうことなく身を処すあり方があるはず。孔子自体が楚の昭王を補佐する道が絶たれ、周公の政を行うことは不可能となり、道が行われないなかでの生きる道の模索をしていたと思う。そこに接点があり、話を交わしたかった。しかし、孔子が昭王に仕官しようとしたことが、楚の隠者にとっては、非常に危ういことと映っており、警戒心を解くことはなかった、と上田さん。
ここからは林さんの解説を稲垣君が翻訳する形で進行。研究員ですが、学生さんを教えた経験がおありで、一同台湾の教室の学生になった気分で拝聴。台湾では微子篇の５〜７は大事なところ。中国大陸では儒家と道家を対立的に捉える傾向があるが、台湾では相補的にとらえる。５〜７では儒家と道家という対立以前の姿、隠者と儒者との生き生きとしたやりとりがあり、お互いのよさを知り合っている。ただ、隠者における自然、自然のままに生きてゆく自然観は、儒者における親子の情など人倫の自然とは異なる。これは対立する概念ではなく、その交じり合ったところが重要視される。隠者は「滔滔（とうとう）たる者」に身を委ねる、儒者は人の世にはそれを律するもの、五倫が必要とする。天文に対する人文。中国の文人はこの二つを持っていた、晋の陶淵明、宋の蘇東坡は儒者であるが、陶淵明は晴耕雨読の隠遁生活者であり、蘇東坡は荘子を好んだ。論語においては孔子と隠者の間をつなぐのは子路、荘子（人間世篇）においては孔子と隠者をつなぐものは顔淵。子路は個性が強く、突発的に動くところ、顔淵は無伐善（善を損なわない）、無施労（他人に迷惑をかけない）、無為の態度がある。台湾では儒道同互補、同源というか、非常によく似た所から派生しており、互に補うとみる。先秦では、孔子、孟子は、父子の親を天倫、君臣の義を（人倫）ととらえられていたが、漢代になると国家・政府と人民の関係から君臣関係は命也とされ、儒家は合禮安排、命の中で合理的な解決法を見出そうとする。五倫が五徳となり、定義をすればするほど、形式化し、道家にすれば命ではどうしようもなく本質からはずれてゆく。これが徳だと定義して、その徳を人に及ぼせと命じても、窮屈なことになり、そこから逃避、後には批判を行うことになった。徳の形式化を批判したものが、老子の「上徳不徳是以有徳」、高尚なる徳は不以徳為徳（徳を為さないのに徳があるというのが上徳とでもなろうか）。

隠者　　ー　　　　知　　→　　　　儒者 　　　　　　←　　　　己　　− 　　隠　　　　　　　　　　　　　　　　　仕 　道家　　　　　　　　　　　　　　　　儒家 　自然　　　　　　　　　　　　　　　　人文 　　　　　　　　　　　　　　　　　君臣・五倫	隠者　　　子路　　　孔子　　　論語 隠者　　　 顔淵　　　孔子　　　荘子 　　　　　　　無伐善 　　　　　　　無施労 　　　　　　　無為　　　　儒道同互補	先　孔子　　父子　−　天倫（親） 　秦　孟子　　君臣　−　人倫（義） 　漢　　　　　　国家　−　人民　　隠者 　代　　　　　　政府　　　　荘子　（逃） 　　　　儒家　　君臣　−　命也　　道家 　　　　合禮安排　　　　庖了解牛
上徳下徳　　上徳＝高尚 　是以有徳　　不以徳為徳 　徳＝形式化　　五倫　→　五徳	宰我　−　禮　 　　（禮） 孔子　−　心安　　（仁） （孔子）　人而不仁如禮何

高津君が父子の「親」を道家はどう考えますかと質問。父子の情は自然の情、儒家はそれを定義する。しかし、定義し何度も何度もそれを繰り返すと、非常に形式的なものになってしまいます。上徳不徳で、徳とされるものでないものが徳、それは定義される前の情、それからすれば、形式化されたものは我慢のならないもの。では、宰我が三年の喪は形式化されたものとして批判をしたのを孔子はどう思っていましたか、と高津君。宰我は三年の喪を「禮」ととらえ、孔子は心を安んじること、失ったことの哀しみを癒すこと、「仁」の方向から捉えている。宰我には三年の喪が形式化されたものと映った。孔子にとっては形式ではなく、自然の感情であった。それが仁、人而不仁如禮何（人として仁がなくば禮も如何ともしがたい）。孟子は、「大孝終身慕父母」とする。愛していますも毎日毎日愛していますを繰り返せば、言っている間に変質する。道家にすれば、長而不宰、成長するにまかせて余計なことをしない、コントロールして押さえつけるようなことをしない、と展開いたしました。翻訳の要約ですから、林さんの意図されたことからズレておりましたらご容赦ください。
さて、「君子の仕るは、其の義を行わんと。道の行はれざる已に之を知れり。」とありますが、義が行われない世であって、それが分かっていても、その義を行うとは、現代にあってどういう生き方になりますか、次の条で孔子は自分は逸民とは異なるとも言ってます。時間になりましたので、このことは来週にやりましょう。
今年初の一揆。稲垣君、大西さんと上田さん。林さんも一緒。本日一揆は満席に近くなり大将一人での奮闘。ビールで乾杯。お酒は何でも大丈夫、一揆でいつものように飲んでいるような錯覚で初対面という感じがしない人、林さん英語もＯＫということで、日本語と中国語に英語が混じってのお話。安澤さんにピッタリの展開、安澤さ〜ん来てください。


2010年1月16日（土）　微子篇8
李さんと林君が寒い、先週はすっかり忘れてましたと登場。先週どうでしたということで、上田さんが説明。姚さんが林さんを案内してくださり、無事到着。早く明るくなり、道筋が分かればいいのですが。お互い自己紹介。稲垣君も登場、微子篇の音読。高津君、大西さんと順次出席。久方ぶりですので、林君やってくれませんか、と稲垣君。

8) 逸民は、伯夷、叔齊、虞仲、夷逸、朱張、柳下惠、少連。子の曰はく、其の志（こころざし）を降（くだ）さず、其の身を辱（はずか）しめざるは、伯夷、叔齊か。柳下惠、少連を謂く、志を降し身を辱しむ。言（こと）、倫（りん）に中（あ）たり、行（おこない）、慮（おもんばか）りに中る。其れ斯れのみ。虞仲、夷逸を謂はく、隱居して言を放（ほしいままに）す。身、清（せい）に中り、廢（はい）、權（けん）に中る。我は則ち是に異り、可も無く不可も無し。
逸民、世捨て人、隠者として有名なのは、伯夷、叔齊、虞仲、夷逸、朱張、柳下惠、少連達がいる。先生がこうおっしゃいました。その志を高くもちつづけて、その身を汚さなかったのは、伯夷と叔齊だけだ。柳下惠、少連のことを批評されて、志を引き下げ、身を汚したが、言葉は道理にかない、行いに思慮にかなっていた。そんなところだな。虞仲、夷逸を、隱れ住んでいた・・・・身は清らかにかない、世の捨て方もほどよかった。私はそれとは違う。進むことも出来れば、退くことも出来る、と林君。放言のところはどうなってますか、と上田さん。考え込む、林君。朱子は明記していないが、好き勝手を言う。先王の法に合わざるもの、それがほしいまま、古注では政治的なことを言わない、集解では、放を置くとし、また世事を言わず、世の中のことについて言わない、だから好き勝手とは反対の意味。朱熹は言は先王の法に合わざるもの多し、孔子が理想とすることに合わないので「ほしいまま」とする、と稲垣君。にもかかわらず、清くして汚れず、先王に合わないがきれいなことであった・・・ですか？權とはどういう意味ですか？と李さん。朱熹は「權りて宜しきに適えり。」としており、適宜の反が權となるのかな、と稲垣君。長男と二男の泰伯（太伯）と虞仲は、周の古公が末子の季歴を後継ぎにして、その子の昌（文王）に傳えたいとする心を知って、荊蠻（けいばん）に亡（のが）れたとされる。朱子は、「?に居り、髪を斷ち身を文し、裸を以て飾と爲す。」としているように、周の風習を捨てて呉の風習に合わせている。しかし、周の志は捨てていない。言葉では言わないがその身が清いとは、国づくりのやり方ではそれを踏襲している。言葉でいちいち説明しようとはしない、言を置くとはそういうこと。廃とは周の風習を捨て現地の風習に合わすこと。權は公羊伝に「常經に反し、然るのちに善あるものなり」とあり、吉川先生は常道ではないがやむを得ざる正当な生き方としておられる、と上田さん。權は「かりそめ」とも読み、恒常的ではなく、一時的な規範、と稲垣君。權宜の謀は今でも使う言葉で、いつものルールではないが、さしあたりこうすればいい、みたいなものと林君。やむを得ざる生き方であるが、すっきりしないなあ・・・金谷先生は何と書いておられますか、と稲垣君。隠れ住んで言いたいことを言っていたが、身の持ち方は潔白にかない、世の捨て方も程良さにかなっていた、と林君。ゴーギャンみたいなものじゃないか、フランスのやり方を押しつけるでなし、タヒチではタヒチに溶け込んで絵を描いた、それが新境地を開いた、泰伯（太伯）や虞仲が荊蠻の地に呉という国を開いた、と上田さん。廃、權はそれだけでは分からない。本来の生き方を捨てたのもひとまずＯＫ、だいたいＯＫくらいかな、と稲垣君。權は「はかり」でもあり、特定の状況に従って、バランスよく対処した、と林君。朱張が出てこないのは何故か、と稲垣君。朱張とは知られている人物ですか、と李さん。逸民だから資料は少ない、と姚さん。逸民は7人居るが、この7人は世間で言われている人物で、それに孔子が解説を加えているが、朱張について何も言わないのなら、ぼくが編集者なら朱張をはずすんだが・・・・と稲垣君。さてここから林（月恵）さんの解説に、姚さん、林君が通訳をする形で逸民、遣民談義へと恒例の脱線。
隠者、逸民、遣民は孔子の時代から秦代まであらわれる。共通するのは、現実世界から距離を置く、消極的な色がついている。隠者というのは、現実世界と距離を置くことと、自分の名を隠すが共通する。人間の名は自分のアイデンティティーを表現する。そのまま名が残るとアイデンティティーに対する攻撃が起こるので名を隠した。隠者は仮名を用いる。長沮や桀溺などがそうで、微子篇５〜７が隠者、８が逸民。逸民は隠者ではない。名を隠すのではなく、いづれも有名人でその志を行うのであるが、世から距離を置かれた。7人は当時民間でも知られていた。おそらく資料考澄（証）をして、一人ひとり文献で探し当てることが可能であったとおもわれるが、秦の時代焚書坑儒で大量の経典や資料が焼かれ、漢王朝の時代に文献資料を復旧して歴史時代の人物を書き出し、それは唐代まで身上を調べたが、もう辿り着けない状況となった。宋代になると四書五経の中で経書を比較して理解をする方法がとられるようになった。論語のこの部分は、孟子、万章下篇と比較される。人格鑑賞類型、人間のキャラクターをタイプで分ける。

論語 　　�@伯夷、叔齊、　�A柳下惠、少連　　�B虞仲、夷逸、　�C孔子

孟子 　　�@聖之任者、　　�A聖之清者　　　　　�B聖之和者、　�C聖之時者
　　　　　　　（伊尹）　　　　　（伯夷、叔齊）　　　　（柳下惠）　　　　（孔子）

先ほどの問いは、もはや考証することはできず、こういう対応の構図でみるしかない。

中行（聖人）

狂者

狷者

郷愿（原）

子路篇21）に、「中行を得てこれに與せずば、必や狂狷か。狂者は進みて取り、狷者は為さざる所有り。」陽貨篇13）に、「郷原は�ｺの賊なり。」とあるごとく、中行（中庸）を行うは、郷愿とまぎらわしく見分けがむつかしいことがある。自分の考えに基づくのか、他人の考えをフォローしているのかが問題。
遺民は反清復明、明が滅んだ後も、義を守り清に仕えない、政治的アイデンティティーを一致するが批判的。政治的に距離を置くが、置き方には人格、キャラクターの違いがある。朱舜水は日本に逃れ、鄭成功は台湾に逃げた。
朱張のことは孔子が触れていないのに、何故記す必要があったのか？もともと言及があったが文献がなくなった、文献化がすすむなかで書き加えられたという可能性は分かるが、論語に書かれることによって残るということがある。ところで遺民はぼくの博論のテーマで、と稲垣君。林先生と稲垣君の話に、姚さん、林君が加わり、後でまとめて稲垣君が解説。
その王朝に節義を立てる、二君に仕えない、日本では忠臣蔵だが、徳川三百年では珍しいことで、幕末以降、第二次世界大戦の日本に高揚したもので、戦国時代には武士道みたいなものはない。浪人となれば他のところに行って仕える。中国でも同じ、六朝時代の文人、沈約（宋書編纂者）など何度も君主を変えている、有名なのは馮道で五朝八姓十一君に仕えているが、悪いこととはされていなかった。しかし、宋代以降には減り、文天祥（宋が滅びた後は元に捕らえられ何度も元に仕えるようにと勧誘されたが忠節を守るために断って刑死した）のような人が出てくるが、漢人で元に節を立てて明に仕えないという人も現れ一筋縄ではいかない。陶淵明は晋の人で、宋には仕えなかった。名前と字については諸説があり、「陶潜、字元亮」、「陶潜、字淵明。或云、字淵明、名元亮」良く分からない。朱子が陶淵明を祭り上げたが陶淵明自身はそうでもなかった。遺民には注意を要する、と稲垣君。世から姿を消したいという人が世世今に伝えられるのですから皮肉なものです。

華夏と夷狄、漢人と非漢人は政治認同（identity）、文化認同の問題。林さんの課題でもあるようです。政権を持つ人はこれを統一しようとするようです。孔子の時代には、華夏と夷狄が地理的に決定されたものではなく、高い文化が行われるところが華夏となりうるものであったようです。極端にいえば、もし日本の文化が大陸よりも高かったら、日本が華夏で大陸が夷狄と呼ばれてしかるべきものでした。しかし、漢代になると、地理的に華夏と東夷、南蛮、西戎、北狄と決まったようです。民族も多様であり、寛容、が必要とされ、一国における多元認同が求められ、和而不同、ということですが、大陸はなかなかこれが困難で、台湾では多元的に考えることができるそうです。

韓国はどうですか、となるも、李さん、台湾にもむつかしい問題があるでしょう、それをかんがえていると韓国のことはわすれてしまったそうです。台湾で大ヒットしているのが、「海角七号」、台湾人と日本人の二つのラブストーリー、日本統治下にあった台湾。日本人教師が台湾の少女と恋に陥る。しかし第二次大戦での敗戦で帰国を余儀なくされる。教師は、駆け落ちの約束もしながら置き去りにした少女に手紙に書き綴った。海角七号はその番地。戦後、その住所はもはや変わっており、少女のもとに届かなかった。それから６０年後の現代、恒春という町で、ミュージシャンの夢に破れて台北から戻った青年が、ポストマンをしていた。日本の人気歌手のコンサートが開かれることになり、前座バンドとして青年がでるが、へたくそ。それを仕切っていたのが日本人の女性歌手で彼女の方がうまい。このふたりが衝突しながら付き合ってゆくのであるが、この女性は、青年が未配達のままにしていた「海角七号」宛て郵便物見つけて、それを読む。教師の死後に差し戻された手紙を見つけた娘が送ったものであった。この女性と青年の愛が描かれるのであるが、二人がコンサートで同じドイツ民謡を青年が台湾語で女性が日本語で歌い、このときばかりは、青年の方が多くの拍手を浴びた。ドイツ文化が日本によって台湾に伝えられ、台湾で受け入れられるというところにこの映画のもつもう一つの意味があるとのこと。台湾の中にはシンガポール、マレーシア、香港・・・色々なものがあります、中国や日本ばかりではありません。多元的に考えることができます。
逸民、まだまだ本文解釈やり残しておりますので、来週はこのつづき。一揆では、林さん、大西さん、上田さんのトリオ。筆談と英語で、鄭さん曰く、論語は東アジアの共通のテキストと夜が更けました。


2010年1月23日（土）　微子篇8
本日は、逸民の続編。まずは、微子篇の音読。稲垣君による先週の簡単な復習。

8) 逸民は、伯夷、叔齊、虞仲、夷逸、朱張、柳下惠、少連。子の曰はく、其の志（こころざし）を降（くだ）さず、其の身を辱（はずか）しめざるは、伯夷、叔齊か。柳下惠、少連を謂く、志を降し身を辱しむ。言（こと）、倫（りん）に中（あ）たり、行（おこない）、慮（おもんばか）りに中る。其れ斯れのみ。虞仲、夷逸を謂はく、隱居して言を放（ほしいままに）す。身、清（せい）に中り、廢（はい）、權（けん）に中る。我は則ち是に異り、可も無く不可も無し。
では、言（こと）、倫（りん）に中（あ）たり、行（おこない）、慮（おもんばか）りに中る。其れ斯れのみ。これはどういうことですか、と上田さん。言行というごとく、ここでは言と行が一緒に出てくる。朱熹は「倫は義理の次第なり。」としている。義や理がでてくる順番のようなもの、身分に応じてそれぞれのタイプがある。親子の時、君臣の時、それぞれに合った言葉がある。行動は慮だから、直情怪行のタイプでなく考えて、熟慮して行う、と稲垣君。志を降し身を辱しむ、と前にあり、そういうことをしたのであるけれども、言葉づかいと行動ははずれていない。微妙なところじゃないですか、と李さん。マイナスもあるがプラスもある。プラス評価で打ち消されているという訳ですね。孔子の基準からすれば、生き方としては、志を降し身を辱しむ。「柳下惠士師と為りて三たび黜（しりぞ）けらる。」彼はそれでも職に留まった。客観的には志を低くして、身を辱めているが、言葉と行動は適っている。其れ斯れのみ、とは、プラス評価ではない。良いところはあるが、それだけのことである。伯夷、叔齊も一緒ではないか。柳下惠、少連との違いは、志と身の処し方は違うという感じ。三つの生き方は、いい方から下がるランク付けに見える、と稲垣君。伯夷、叔齊は志を降さず、身を辱しめずですから、その言葉と行動の説明をすることはない。柳下惠、少連は志を降し、身を辱しめたので説明を加えた、と李さん。マイナスだけでない、そうじゃない、と稲垣君。だから、それを書き加えた、と李さん。吉川先生は、けなす意味ではなく、その点が尊い、そこがいい、みたいな感じ。いい所はそれだけ、と稲垣君。これだけあると十分だ、と姚さん。隠者、逸民、遣民に分けて林先生は説明されましたが、逸民に隠者が入りますか、と李さん。隠者は社会と没交渉、逸民は社会から距離を置く、と稲垣君。首陽山に隠れた伯夷、叔齊も隠居になりませんか、と李さん。その可能性はある。放言して隠居したのは虞仲、夷逸。「逸民は、伯夷、叔齊、虞仲、夷逸、朱張、柳下惠、少連。」ですから、伯夷、叔齊は逸民の中にあるのは間違いない。虞仲の生き方は、前の四人とは違う。柳下惠は社会の中で生きている、隠居していない。伯夷、叔齊も政治にかかわっているが虞仲は隠居している、長沮や桀溺、丈人に近い生き方、と稲垣君。虞仲は季歴を後継ぎにするために周を出たのじゃないですか、と大西さん。上田さんは逸民をどう思いますか、と稲垣君。史記によれば、泰伯と虞仲は、父が末弟の季歴の子の昌、後の文王を後継ぎにしたく思っているのを知って、周を出奔し、隠居とあるが呉を開いたのであり、世と没交渉というものではない。逸民は、ある状況を避けるために出奔し、その結果、無位の民となるとか、その言動が通常を逸脱し、超越した境地にあるようなことを想定していると思う、と上田さん。文王、西伯のことですね。伯夷、叔齊は史記、列伝のはじめにあり、孤竹君の子で、伯夷が長子、叔斉が三男。殷時代の小国、孤竹君が亡くなるのであるが、父は、後継ぎに叔斉を望んでいた。叔斉は伯夷に譲るが、父の命であると伯夷は出奔する。叔斉もそうはゆかないと出奔する。結局真ん中の子を立てることになり、伯夷と叔斉は西伯に仕えようとして周に行った、泰伯と虞仲と同じようなことをしている。長沮や桀溺は隠者ですか、上田さん、と稲垣君。長沮や桀溺は丈人を含めて、楚の昭王の政治が悪いので田舎に隠れた大夫クラスの政治家と思っているので、いわゆる後の隠者とは違う。隠者を目指していたとは思えない、と上田さん。後の隠者とて政治から逃れるところは一緒じゃないか、と大西さん。というあたりから脱線をはじめ、晋時代の隠者、神仙の話に及び稲垣君、「世説新語」なる六朝時代の一流紳士の言行録、奇談珍談に言及。特にお金に関して清清廉潔白という男がおり、どこまで本当か確かめるため、寝込んだときに周囲に銭の入った袋を置き、起きたときの反応をみた。この男は目覚めると阿賭物（あとぶつ）をどけろと言ったと云う（仏教用語：武士は阿賭物を斥け、産を興し、富を貯ふるの業を賤みたり。）この時代は覚醒剤、「五石散」が流行した。成分は5種の鉱物だが、服用すると身体が熱くなったり、かゆくなったり、肌が荒れ、服も着古したよれよれでないと肌を傷つけるありさま。褌一つで冷たい石のうえで寝るほど発熱し、意識は朦朧。部屋に裸の男がひっくり返っている、部屋が私の服、と姚さん。馬王堆漢墓から出たミイラの女性は肌の弾力を保っていた、水銀とかヒ素などの成分が検出され、不老不死薬に必須のものとされていた。秦の始皇帝の墓にも大量の水銀が敷きこまれていた、と上田さん。明の十三陵では、これが開かれた時、油が燃え続けていた。空気腔があり油の供給が確保されていた、と稲垣君。万里の長城は宇宙人が造った？ある人が死んだ後、棺を開けると靴しか残っていなかった、身体はなく、仙人となった、と姚さん。羽化登山、女性のミイラは生けるがごとくつやつやしていた。隠者は大西さんがおっしゃるように現実の政治から逃げる生き方、政治が有ってはじめて隠者も出る、と稲垣君。隠者になるのが出世の早道というのもある、と姚さん。終南三境は隠居のメッカ。政治が乱れていたので、清廉な人ということで、政治家に抜擢された、と稲垣君。終南捷徑(隠居するのが政治への一番近道)と姚さん。いつのことですか、と大西さん。宋代です、と姚さん。隠居していて誰に頼むのですか、と李さん。友人に頼む、と姚さん。
ところで稲垣君が8時で出ますので、時間の前に、「可も無く不可もなし」はどういうことですか、と上田さん。どちらがよくて、どちらが良くない。ならべてみて、私は伯夷、叔齊等とは違う。誰が良くて誰が悪いというものではない。朱熹の注では孟子を引いて、「孔子は以て仕う可きときは則ち仕え、以て止む可きときは則ち止み、以て久しかる可きときは則ち久しく、以て速やかなる可きときは則ち速やかなり。」としている。孔子は自由闊達に出来る、三つのタイプのどれでもないとしており、柔軟に対処できるというものではないと思うが、上田さん、どうですか、と稲垣君。稲垣君の説に賛成。伯夷、叔齊のように節を通して餓死するというようなことはしない、柳下惠のように何が何でも職を続けるようなこともしない、虞仲のように蛮夷に同化するようなこともしない、どれが良くてどれが悪いというものではない、と思うと上田さん。それぞれにとるところがある。虞仲の生き方を否定していない。「子、九夷に居らむと欲ふ。或ひと曰く、陋しきこれを如何。子の曰はく、君子、これに居りて何ぞ陋しきこと有らむ（子罕篇13）。」君子の行くところに文化が芽生えるとしており、虞仲の生き方を否定していないことが分かる。柳下惠の生き方も否定していない。陳成子が簡公を弑したとき、孔子は斉を攻めるべきと哀公に進言し、季子に相談してくれといわれ、聞いてもらえなかったが、「吾、大夫の後へに從ふを以て、敢て告げざることなからむ（憲問篇22）」と言うべきときには言っている。柳下惠のように志を曲げない。諸国への放浪も、周りから追い出されたのではあるが、他国で政治を行おうとしていた。孔子にもすべての生き方がある、ないしは、それぞれによしとする生き方がある。この言葉は時系列にあるなら、旅の最後のこととなるが、孔子の心はどこにあったのだろう、と稲垣君。孔子が最後に自分の意見を表明した伯夷、叔齊のようにはできなかった。彼等のように生きることは可能だがそうではなかった。自分は違う生き方をと表明する。自分の人生を顧みてではなく、年をとった孔子が自分の意志を表明している。違った生き方だがどういう生き方かは分からないが、と李さん。そういうことだと思います。孔子はもはや、諸侯を補佐して周公の政治を復興するなどということは不可能と思い知っており、史記によれば、易を学び、春秋に注釈を加えるなど、そういうことで自分の名が残ると考えたようでもあるが、弟子の教育に力を注ぎ、孔子の生き方そのものが、論語としてまとめられ、人生の教師のようなあり方を開くことになるのだが、そういう迷いのなかで、自分には自分の行き方があるとしたのだろう、と上田さん。自分にはできることがある、まだ、自分には見えていない、と稲垣君。私の生き方は別にあるの表明です、と李さん。知りたければ論語を全部読んでください、と姚さん。やりたかったことの順序。とても極端なことの三つ。孔子はそうでなくて、中庸はこういうものという例。過ぎたるは及ばざる・・・孔子は、中庸を言っている、と川那辺さん。中庸というより孔子は迷いのなかにある、と李さん。中庸って迷いでしょう、常に揺れ動くのが中庸じゃない、と川那辺さん。仁斎先生などは中庸を和という風にみてますね、と李さん。ここで稲垣君がそそくさと退場。あれっ、奥さんに叱られるから、と姚さん。稲垣さんは独身よ、と川那辺さん。急ぐ姿がそんな感じ、と姚さん。と脱線気味の展開。仁斎は人と人の仲がよくなればいい、中庸を和の概念でみている。闇斎と弟子も中庸を和と解釈しています。それぞれ微妙に違うでしょうが、仁斎は明らかに調和の和、と李さん。台湾では和はありません、と姚さん。韓国では過ぎたるは及ばざるです、と李さん。孔子は中庸が一番ですが、それは非常に少ない。台湾では、子路みたいな人間が好きです。狂狷がいい。「中行（中庸）を得てこれに與（くみ）せずば、必や狂狷か（子路篇21）。」素直な人間のことです。孔子もそう言っています、と姚さん。和のイメージはどんなものですか、と大西さん。大同です。大同と中庸は違います。大同は禮記にありますが、孔子の理想的な世界。老吾老以及人之老 幼吾幼以及人之幼。自分の家の老人を大切にし、その気持ちをよその老人まで及ぼす。わが子をかわいがり、その気持ちをよその子まで及ぼす。そういう世の中。己所不欲勿施於人（衛霊公篇24）、夜不閉戸というような世の中、と姚さん。それって禮運の中の言葉ってありますよ、と川那辺さん。仁斎はそういうことが好きで、その表現が出てくるところを引用して使います、と李さん。ところで姚さんは英国と中国の演劇のなかの淑女と悪女の比較を論文にしたそうです。中国の遊女が結婚してひどい目にあっている遊女仲間を助け、娘を捨て駆け落ちした婦人が、夫の不倫を疑って駆け落ちする寸前の女性を思いとどまらせる話のようですが、いづれも女性の立場が厳しい時代のこと大変な苦労があったようです。今じゃ台湾も韓国も日本も随分と改善されたようです。台湾女性は世界で一番少子化であることが分かったそうで、小さい台湾としては、世界一ということで結構喜んでいるそうです。大中国に飲み込まれたら子供が可哀想だから生みたくないという人もいるそうです。愛は愛でも墨子の兼愛はあまり好まれないという。人間誰でも皆人間老いも若きも男も女もみな人間というのはダメ！孟子が批判をした、幼と長、親と子、君と臣、夫と妻など五倫、それぞれにそれを育むものがある。兼愛にはそれを育てる種、根源がない、とまあ姚さんの大ブレークとなりました。


2010年1月30日（土）　微子篇9
本日は、安澤さんが一番乗り。上田さん、李さん、稲垣君、姚さん、林さんと川那辺さんと中村（典）さんが一緒、高津君、大西さんと久方振りに10人と賑やかになりました。微子篇の音読。大西さん、音読、訓読、簡単な解説を、と稲垣君。
9) 大師摯（し）齊に適（ゆ）く、亞飯（あはん）干（かん）楚に適く、三飯繚（りょう）蔡に適く、四飯缺（けつ）秦に適く。鼓（こ）方叔（ほうしゅく）河（か）に入り、播鼗（はとう）武漢に入り、少師陽、撃磬（げっけい）襄（じょう）海に入る。
大師の摯は齊の地に適き、亞飯の干は楚の地に適き、三飯の繚は蔡の地に適き、四飯の缺は秦の地に適き、鼓の方叔は河内に入り、播鼗の武は漢水に入り、少師の陽と撃磬の襄は海島に入る。意味が分からない、と大西さん。ここは楽官、音楽にかかわる。大師は楽官の長、クラシックでは？楽長です（中村典さん）。朱子は少師を楽官の佐としますが、今なら？コンサートマスターですか、ならば指揮者とコンサートマスター（中村典さん）。鼓は太鼓、磬は石の打楽器、孔子が叩いていましたね。播鼗は、朱子が「鼗は小鼓。兩旁に耳有り。其の柄を持ち之を搖れば、則ち旁耳還りて自ら撃つ」としますが、でんでん太鼓。亞飯、三飯、四飯は高津さん、どういうことですか？と白板に地図を描く稲垣君。

蔡は陳の南 漢水は宛の南の川 漢中はそのあたり。 上の方の楚の地図を参照ください。

各食事毎に演奏する楽人、と高津君。一の膳、二の膳、三の膳、四の膳、その膳毎に演奏する、その度に音楽を司る人が変わる。孔子が諸国への旅に出て会った隠者や逸民の話があり、何故ここに楽官がでてくるのか？海は中国大陸から外に出ることで、海中とは限らず、文明の外、日本へ行くのも含まれる、とそれぞれの楽官の去った所を地図で確認をする稲垣君。海に入るは自殺した？と姚さん。自殺じゃありません。東海に出るとは日本も含まれる。魯の楽官が散り散りに去る。孔子曰くはないので、事実だけが書かれている、と稲垣君。何か証拠がありますか？何故、孔子の話でないとなりますか、と姚さん。朱子は、「未だ必ずしも夫子の言にあらず。」としてます、と稲垣君。この話は魯の孔子の時代のこととされているが、殷末という考え方もある。孔子の時代、季氏が魯公に許された楽を自分の屋敷で演奏したとある。これは演奏する楽人にとっては、演奏すべきでない所で演奏すべきでない楽を奏するのであるから苦痛となる。政治の乱れにより、楽人まで逃げ出した、と上田さん。孔子の時、鄭声とか音楽が乱れていた。魯は周の末裔、伝統的音楽を残していたが、中核を担う大師が亡命することは、音楽文化がなくなってゆくこと。第二次大戦中のドイツ、ソ連でも音楽家にとってそういうことがあったのではないか。やるべき所でないところでしか音楽ができない。音楽家にとっては困るでしょうね、と稲垣君。
この間至近距離で能楽を見たのですが、昔、武家が能を準備してやっているような状況で座して目の前で見て、感に堪えなかった。囃子方、シテ、そのポジションに居てしか分からないことが感じられました。4〜5人の場所、すべての気が感じ取れる所、そこで共感しているものを共に感じる、内容とか言葉でもない、すごい体験、こういうことがあるのか、と思いました。私はオーケストラのなかに居て、オーケストラの人達にもそういうことが起こっているのですが、日本（能楽）のは違う、中国の雅樂などはオーケストラに近いのですが、能の場合絶対値が破綻した所で出来た芸術です。中国と西欧は似ているが、日本のは島国の中で育ったものだが、独特の変わった形をしている。他にない形がした不思議な体験、と中村(典)さん。京劇と比べると音の数が少ない、と姚さん。少ないほど芸術的格・・・日常に近づき難く・・・実によくわかるのですが、囃子方は発音することで空間を造る。シテが動作、気をどのくらい広げるか?何もないところに場が出来る。人間が意識することにより場ができる、それを増幅して伝える。500人のホールでは絶対分からない。１〜1.5mで見て、体験するなら分かる、と中村（典）さん。以前に二階で見たときは何も感じなかった、と姚さん。素晴らしい説明、能とはそういう世界と始めて分かった、と李さん。場を造り、垣根を取り払う。4〜5人で経験していたこと、一年前同じ舞台で見たときは全然分からなかった、今回はそれが感じられた。一生に一度でもそういうことを経験すれば、と中村（典）さん。ふさわしい磁場がある、と稲垣君。人には一生に一度くらいそういうことがあるはずです。大変夢中になった、と中村(典)さん。能は少ない音でやる世界に例のないもの。韓国の宗廟（チョンミョ）、ユネスコの世界文化遺産に指定されている建物で、儒学の礼楽、儒学の世界を再現する所、形式と音楽で朝鮮王朝を再現する。建物ではなくて、儒学の宇宙を再現するとされてきたが、能の話を聞いて、その場のこととそんなに差がないのではないかと思った、と李さん。大師、厳粛の音楽。飯の時の曲。音楽をやる人が気になるのは、いまいちの評価をされるのを嫌がる。テキストがあれば意味は分かるが・・・音楽家がつらい、でなく、音楽家がメディア（媒体）となっている本体に対してつらい、能はまさにそうではないか、と中村(典)さん。能を演じた人間は面を取った後どうなりますか、と姚さん。翁、呪術、まさに気を以て場を清める、人間が・・・その場を寿ぐ、楽を奏する人も能面の人も神格化する。一人の人間で場ができる。ここまでのことが独りでできる、と中村(典)さん。奈良の「おん祭り」。正式の雅楽。蘭陵王、六朝時代の北斉の王子。いけ面で女性的な顔、それではなめられるので、面をつけて戦場に出る。背景が分からないと退屈するが・・・遣唐使が持ち帰ったのだろうが大変面白い面、と稲垣君。私は中国の演劇を勉強しているので、能の面は興味ある、と姚さん。亞飯、三飯、四飯は飲食の際に演奏されるとあるが、祭祀において尸（かたしろ）に食を侑（すす）める際に奏する、ともされる。宗廟において祖先と音楽と食を共にする、祖先の祖、神をお呼びして、神、祖霊、子孫が合一するというところに楽の源流があり、これは能とは異なるとおもうが、と上田さん。能は独特なもの。おっしゃる神、祖霊、人の合一は安定した幸せな状況ですが、能はそれが霧散した危機的状況の中というか・・・あの世との交渉、何故そうなのか、さだかでないが、淋しく不幸な魂、慰めようもない魂、自分の側のことについて直接的に「幸」にすることはできない、それに対して、鬼神となって時間がたち、あちら側に行ってしまってから考えねばならなくなって・・・絶対的な不幸・・向こう側の世界が平行してある所、そういう所として出てくる、と中村（典）さん。世阿弥の時代、戦争で亡くなった人々との距離が近くなった、と姚さん。失われた魂がより集まってくる所。何かを考えだすための儀式。マイナス100、すごくマイナスの時激しくて、０になればいいのですが、マイナス10でも、その時だけでも洗い清める、そうしないと動かないものがある。それに正しく、ピッタリ共感する。それをできる場がないとどうしようもない、と中村(典)さん。孔子が動くこと。今の世から逃れる人。礼楽にかかわる人が別の国へ行くことは、別の解釈が必要ですか？朱子は逃げた事情を説明していますか？微子篇は自分の居場所から離れる話。礼楽にかかわる人が離れるのは、文脈からですか？礼楽からの文脈ですか、と李さん。全てのメンバーがそこに居られないで散らざるを得ないのは悲しい思い。そうならざるを得ない。それは音楽が乱れるより、そうなることに悲しみがある、と中村(典)さん。政治と逃れる者の関係、一気に逃げた。魯の楽は致命的な打撃を受けた。襄は孔子の琴の先生、韓詩外伝にそう出ている、と稲垣君。孔安国はそれらは孔子が目にした事実と注をしており、古注も新注もそう見るのが多いが、殷が崩れるというので各地に逃れる、なら分かるが、魯からこれ程広範囲に逃れるというのは大事件が起こったわけでもなく不自然な感じがする。殷末説をとりたい、と上田さん。殷末に斉とか楚はまだ無いでしょう、と稲垣君。東西南北的な広がりを感じる、と中村(典)さん。林先生、中国史のなかで、ここはどう位置付けられていますか、と稲垣君。
礼と楽、礼は礼記、楽は礼記の中に楽記として残されている。礼は形、楽は人の心を育てる。荀子に楽論篇があり分量は楽記より少ない。楽記を抜き書きして楽論となったという人もおれば、楽論を増補して楽記ができたという人もいる。楽記は上中下とあり、前半は楽論とかぶる所がある。楽論は荀子の性悪説と結びついている。化性起偽、偽は人為のこと。人間は放っておくと勝手なことをして社会は滅茶苦茶になる。人間は社会的なものであり、規範（礼）により、音楽により心を育て、元来悪いものを良くする。礼楽は人間をつくるものと考える。荀子の生きた社会の現実、放っておくと滅茶苦茶という結果は、もともとが悪いという因による、因果関係と見る。楽記の後半は、中庸、易傳（傳とは易の彖傳・象傳・繋辞傳などの傳）に通じる、孔子の考え方を受け継ぐ志（思）孟学派で性善説。無条件的付出、井戸に子供が溺れておれば反射的に救う。不忠人、父母が死んだ後山に捨てるのであるが、その非を悟り後に礼を尽くして祭る、自然な心が勝った。天感通人、楽しい時に歌を歌う、哀しいときに哀しむ。自然の感情の発露。それを発展させ結実したのが楽。人間と大自然とが結びあって音楽をつくる。興於詩立於禮成於樂（泰伯篇８）とある。中庸の、詩曰衣錦尚絅（錦の衣を着てその上から薄ものをかける）に、「淡而不厭、簡而文（淡泊でありながら厭られず、簡素でありながら文がある）」淡いものは厭（あき）ない、もともとの味を味わう。文は文質彬彬（雍也篇16）の文。文（あや）があって美しいでなく、簡、シンプルで美しくなければならない、と林さん。淡と簡で表現するのは能に似ている、と中村(典)さん。以上は六朝までの儒家的音楽所感、これ以降は老荘の理論が入ってくる、と林さん。そこはもっと聞きたいところが稲垣君、後日に。「淡而不厭、簡而文」これは懐石料理に書いてあったな、と安澤さん。辯道を著した荻生徂徠、先程の偽、人為は礼楽が大事で、聖人がつくったもの（日本には聖人は出なかった）、道とは先王の道（徳の問題ではなく）、つまり礼楽とし、詩は人間の感情を豊かにするものとし、礼は行為をあらわすもので制度とみている、楽は雅楽を好んだ、と李さん。徂徠は五倫、父子の親、君臣の義、長幼の序、夫婦の別、朋友の信、臣は君に仕える、君は臣を用いるが、お互い義を行うことにより合一できる。糸には糸、竹には竹の倫があり、それで乱れずにすむ、楽記の「楽なる者は倫理を通ずる者なり。」、「倫を論じて患（うれへ）無きは楽の情なり。」、「楽行はれて倫清し。」と楽について述べている、と上田さん。川那辺さんどうですか、と稲垣君。難しい。礼楽は啓蒙的でなければならい。音楽は肌をふくめて五感すべてから入って、心へ訴えるもの。世の中が乱れ、本来あるべき姿が失われ、演奏家たちの志気をも変えざるを得ない情況になれば、逃げたくないが逃げざるを得なかった。その人たちを責めてはいない。極端なことを強いられ、中庸を失い散り散りになる。そういう人を孔子が見てその行為をどう考えたか分からないが・・・どの位置に中庸をおくべきか・・・、と川那辺さん。安澤さんどうですか？と稲垣君。今日は音楽の大切さ、音楽が人間の最終的成長をはぐくむ。では、現代の音楽となると、マリファナをやっていたり・・・作る人と聞く人は違うか、最終的に人間をつくるものか・・・味の方は分かるが・・・と安澤さん。大西さん、どうですか、と稲垣君。本当に分からない・・・能の話は面白かったですね、と大西さん。高津君は楽師が逃げた時代を周の平王（BC771−720）か�脂､（BC857?-842?）と見られませんかと林先生に質問。これは答えがでませんでした。音楽については、詩経の大序の見方がありますが、今日は時間をオーバー。
本日一揆は｢能｣でブレークの中村(典)さん、川那辺さん、久方振りの安澤さん、稲垣君、大西さん、上田さんのレギュラーで盛り上がりました。来週は3時から読書会。6時半から新年会、百万遍の宏鑫（こうしん：中華料理721-8530：ﾘﾝｸ）です。


2010年2月6日（土）　微子篇10
本日も、安澤さんが一番乗り。上田さん、林さん、大西さんで微子篇の音読。稲垣君が合流、最後の方で津布良さん登場。安澤さん、訓読と解説お願いします。

10) 周公、魯公に謂ひて曰はく、君子は其の親を施（す）てず。大臣をして以（もち）ひざるを怨みせしめざる。故舊、大故無くば則ち棄てざる。一人に備はらんことを求ること無し。
周公は魯公相手に話された。君子は其の親戚を粗略にしてはいけない。親戚を大事にする。施を弛としている。大臣のなかであまり用いられていないものも、怨まないようにしなければならない。ふるい縁故のものは大きな過ちがなければ、棄ててはならない。一人に完全を求めてはならない、とアドバイスした、と安澤さん。
朱子の注に、「其れ或は夫子嘗て門弟子と之を言えるか」とあり、この条は孔子と弟子が語り合ったものかもしれない、次もそう。子曰、でないものが続いている。これまでの条とは違ったもの、と稲垣君。貝塚先生と渋沢栄一はこれは周公がその子の伯禽にアドバイスを与えたものとしている、と安澤さん。これは周の建国の話が分からないと意味をなさない。文王（西伯）の子が武王、管叔鮮、周公旦、蔡叔度、康叔封。武王が殷を討ったが、伯夷、叔斉が諌めたごとく二つ問題があった、ひとつは武力で殷を打倒したこと、もひとつは文王の葬儀を行っていなかったこと、つまり武王に徳が欠けていた。文王の徳を慕って伯夷、叔斉はやってきた。しかし、武王は逆に箕子を訪ねて、洪範九疇（こうはんきゅうちゅう）を受けている。洪範九疇は夏を啓（ひら）いた禹が天から授かった教え、戦国時代に編纂されたといわれるが、五行、五事、八政、五紀、・・・と九つの政治の要諦を示すもので、夏殷周とそれが引き継がれてゆくもの。周は徳を修め、人心を掌握する必要に迫られていたが、武王が亡くなった。その子が誦（成王）。旦は、諸侯が背くのを恐れて、誦を摂政して政権を運営したが、鮮と度は旦が政権を私するのでないかと疑念を抱いていた。殷の後を引き継いでいた武庚（禄父）と図り、鮮と度は反乱を起こす。これは背後の東夷を巻き込む大乱となり、旦は武庚と鮮を討ち、度を追放し、旧殷を東西に分かち、西に微子を封じて宋となし、東に封を封じて衛となした。兄弟の相克に心を患らわせた周公旦の言葉として、ここを理解する必要がある。施について朱子は遺棄としている。安澤さんがおっしゃるよう施を弛としている。親戚を捨ててはいけないというのはどういうことか？貝塚先生の解釈では、粗略にしてはいけない、と安澤さんはされた。弛をゆるがせにするとして、親戚をゆるがせにしてはいけないとする解釈もある、ここの解釈が難しい、と上田さん。易、他人の親戚にかえることはできない、というのもある、と稲垣君。それは孔安国の説だが、周公にとって何を意味するのかわからない、と上田さん。字面と意味が一致するとは限らない、仮借ということもある。施読為弛、禮記に、君子、臣の過ちを弛（ゆる）めて、その善をほむ、が用例としてある。周公が息子に魯の政治を行う上での心構えとして言ったことは分かるが、何故ここに置かれているのか？林先生、これはどういうふうに捉えられていますか、と稲垣君。
分からない。ここにあるアメリカの学者の本では、論語は一条、一条意味をもたせて編纂されていると述べているが、それは偏った見方で、ところどころ、寄せ集めで変な条が入っていることもある。これについては、私の考える所がある。金谷先生の注では、君子は王、君主、君王と見ておられる。君子には二つの見方があり、ひとつは道徳上、ひとつは政治上のもの。政治的には王、上司、ここでは周公が魯公について言うから、政治上の君子。ここでは四つのことを言っている。現代で言えば、リーダーの四つの心得。これがどうかかわるかが問題。陽貨篇6に、「恭、�ｪ、信、敏、惠、恭ならば則ち侮らず。�ｪならば則ち衆を得る。信ならば則ち人任す。敏ならば則ち功有り。惠ならば則ち以て人を使ふに足る。」とある。このうちの�ｪ、信、惠と関係がある。上に立つ者は下に対して、�ｪ、信、惠を持っていなくてはいけない。必ずしも一個一個に対応するのではなく、全体としてみてみたい。対応させるとすれば、「大臣をして以（もち）ひざるを怨みせしめざる。」は信、怨まないには上下に信が必要、「故舊、大故無くば則ち棄てざる。」は�ｪ、失敗を許す気持ちが必要、「一人に備はらんことを求ること無し。」は惠。ただ、「其の親を施（す）てず。」は現代は公私を分けており、今のリーダーの心得としては問題がある、と林さん。不施はどのように解釈されますか、と稲垣君。遺棄する、です。親戚を捨ててはいけない、現代の台湾の政治では陳水扁氏のごときことになり、大変悪いことになります。日本でも小沢さんの問題があるようですが、と林さん。そうですね、と安澤さん。故舊は棄てるなで棄を用いている。同じ意味で何故施を使うのか？遺棄とは別の意味で使っているのではないか、と上田さん。施はshi（1声）　と yi（2声）があり、yi（2声）は遺でとなり、遺棄するになる、施には「ほどこす」と棄てるの二つの意味があり、半々で使われる、と林さん。弛はどうですか、と大西さん。遺と弛が通じる。血の親しい者を登用することは、この時代では良かったのだが、今の公の場においては良くない。小沢問題の日本にも当てはまる。今はマスメディアの時代でTVあるいはインターネットで下から上が直接見える。一般の人々が直接見ることが出来る。昔は人づてに順々に伝わり、どこかで変わったり、消えたり、付け加えが行われたりして、なかなか見えなかった。メディアの進歩で変革がもたらされた、と林さん。政治家もブログを持っており、ニュースより早く分かることがある。意見を直接書き込むこともできる。政策にはパブリックコメントでそこに意見を反映させることもできる。政治家本人か秘書か分からないところがあるが、と安澤さん。古典を読み、現代を考えるということを社会学の人たちはよく言いますので話がそれたかもしれませんが・・・・と林さん。遺棄のことですが、先に言いましたが周公は親戚である管叔鮮を殺し、蔡叔度を追放している、息子に親戚を捨ててはいけないと諭すとなれば、何を諭したのか、と上田さん。周公の立場は複雑です。王朝の存続、国家の運営、合理的人事、兄弟の情を汲まねばならない。国家にとって必要なこと、そのためには、管叔鮮を殺さねばならなかった。蔡叔度の追放は穏当な処理。殺さずに国家の秩序が保たれる、双方の立場を斟酌している。そういう決断をしたことと、息子にリーダーとしての心得として言うことは必ずしも一致しない、と林さん。周公は何故上に立ったのか、と大西さん。成王が幼く、自分が支えないと危ういと思った。武王に欠けていた徳を修めることに力を尽くした、と上田さん。徳のことなら、洪範九疇とかでいいので、それじゃなく、何故自分が上に立ったのか、何故旦が周公と言われるのか？と大西さん。旦は魯公であるが、魯のことは息子の伯禽に委ね、自分は成王につきっきりで周の基礎づくりをした、と上田さん。成王の時代は内憂外患で、周公は大変苦心を強いられた。制禮作樂を周公が行った。これは、文化的にも政治的にも意義がある。文（王）武（王）周公から孔子という文化の流れ（道統）を生み、聖天子、君主の使命という政治的な安定（政統）の流れを生みだしている。作之君、作之師が周公。禮崩楽壊の時代に生まれたのが孔子。孔子は仁を以て文化を立て直し、周公の政治を復興しようとした。宋以前は聖王、政治上の聖人というもので見られていたが、宋以降は政治上でない聖人として孔子を見るようになる。周公の聖は聖王、孔子の聖は聖人、素王と呼ばれた。政治的貢献はないが、道統、文化、人格の面の功労者とされた、と林さん。
津布良さんが登場。仁を以て文化、政治を立て直す、元々が制禮作樂。仁とは？禮と樂とは？痲木不仁、觀鶏雛可以知仁、活溌　溌之命　活生　生之命　　哀莫大於心死と林さんより言葉をいただきました。痲木とはしびれて感覚のない状態。感覚が鈍っておりますと、仁は無理。鶏雛は卵から飛び出した「ひよこ」。ぴょこぴょこ跳ねた元気な姿。心が死ぬより大きな哀しみはない。生まれたばかりの、あふれるばかりの溌剌とした元気あっての仁、台湾女性は明るいですね。

新年会は忘年会とうってかわって完全燃焼。稲垣君と古琴の 師を同じくする趙さんも参加。川端康成、谷崎潤一郎、やっぱり夏目漱石が群を抜いてますね・・・話盛り、マスターの差し入れ白酒56度、1本空いてしまいました。よく飲みました。 　　　　　 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　於：コウシン、百万遍

宴のたけなわに川那辺さんの携帯が鳴り、鄭さんの声。順々に回して、日本語になったり、中国語になったり、韓国語になったり、ハロー！グッドバイ！一緒に一杯やりたかったですね、鄭さん。電話ありがとうございました。


2010年2月13日（土）　微子篇11〜子張篇1
本日も、安澤さんがと王士愿さん一番乗り。王さんは竹笛の演奏家。笛は大昔しは動物の骨で作った、骨笛が源。玉笛というのもあるが、竹が一番とのこと。昔の人は言葉じゃなくて、音や書で心を通わせた。知音、見字如見人。論語を一言でいえば、中庸、物極必反、これは人の生き方です。本日は大年夜、明日は春節。陰暦の正月、一番寒い日です。岸本さん、久々の登場。おいしいチョコレート、ご馳走様！今日は、川那辺さん、大西さんは都合がつかないようです。本当に寒い夜でした。虎年快楽！全員で微子篇音読。高津君、音読、訓読お願いします、と稲垣君。

11) 周に八士有り、伯達（はくたつ）・伯适（はくかつ）、仲突（ちゅうとつ）・仲忽（ちゅうこつ）、叔夜（しゅくや）・叔夏（しゅくか）、季隨（きずい）・季騧（きか）。
周に八人の人物が居た。以下の人たちである。伯達・伯适、仲突・仲忽、叔夜・叔夏、季隨・季騧、ですか、と高津君。朱熹は、宣王の時の人で一人の母が四乳で八人の子を生んだ。というが文献上の根拠はない。この篇は孔子の三仁、微子、箕子、比干、逸民、師摯、八士に於けるもので、?に皆ほめてここに置いた。接輿･沮溺･丈人に於ては、又常に惓惓、接引するの意有り、惹きつける思いがある。皆、世の衰えたときの志である。徳が盛んでなく衰えた時代のこと。その感ずる所は深い。陳と蔡にあるときの歎きも同じようなもの。三仁、逸民、師摯、八士、すべてほめるために並べている。すべて過去の人であったことが大切。成王の執政の頃徳のあった人、そういうところに意味がある、と稲垣君。二つづつのペアにしてある、と安澤さん。伯、仲、叔、季は長子、次子、次々子、末子、それぞれが双子、と稲垣君。双子に上下をつけると、序列が合わなくなる、と高津君。上田さん、何かありますか、と稲垣君。王さん、耳鳴りがするので、今日はここで失礼、とのこと。お大事に。義疏では、昔し、周の世に身に四つの乳のあるお母さんが八人の子を生んで、皆賢人であった、それを記録した。という話があるが、皇侃は、四乳というのは間違いで、二つで四度産んだのだが、皆双子だったので八子になる、としている。周の文王には徳を慕ってくるということがあったが、武王の場合は武力で殷を打倒し、父文王の葬儀もせずにやったことで、徳に欠けるところがあり、若い成王を残して死んでしまった。周公はそのために、沐浴していても、飲食していても、人が来るといつでも中断して、士を遇して見出そうとした。人材を求めて適材適所で用いようとした。八政（食：食料、貨：財政、祀：祭祀、司空：土木、司徒：教育、司冠：司法、賓：外交、師：軍事）というのがあり、これにふさわしい八人の人材がこの八士に対応する。周の徳を成し遂げることに心を砕かれたのが周公。そのような人間が、本気で人を求め、それが遠くまで聞こへ、はじめて、士が集結してくる、というような流れ、と上田さん。四乳については漢代、董仲舒の春秋繁露（しゅんじゅうばんろ）に、「四産して八男を得、皆君子俊雄、これ天の周を興す所以なり」とあり、周の建国の時の優秀な人物のことだろうが、よく分からない。また、何故ここにおいてあるのかも分からない、と稲垣君。貝塚先生も、八人の事績はよく分からない。たぶん伯、仲、叔、季、すなわち長男・次男・三男・四男の二組みの四人兄弟の賢士がいて、周の勃興期を象徴する存在であったという伝説があったのだろうとしてますねえ、と安澤さん。武王に徳がないというのは言いす過ぎ、文武周公と聖天子で、武王も入っている、大義に欠けるくらいでしょう、と稲垣君。太公望の勧めもあったこと、もし、伯夷・叔斉が武王に従っておれば、武王の評価はもっと上がっただろうに、と高津君。では、次にゆきましょう、と稲垣君
子張篇。まずは音読から。遠恐泥nì　過也必文wèn　可謂好hào學　道dǎo之期行に注意してください、と稲垣君。成田君は其他可能　他人之賢　他tāでなくtuō　賢者識其大者不賢者識其小者の識はzhìでなく　shíとしてますが、と上田さん。これは調べておきましょう、子張篇の始めに、朱熹は、この篇は皆弟子の言を記す。子夏を多しとし、子貢がこれに次ぐ。孔門顏子より以下、穎悟なる、頭が切れる、英明なものは子貢に勝るものはない。曾子より以下、篤實なること子夏に勝るものはない。故に特に之を記すこと詳（つまびらか）らかなり、としている。孔子は出てこない。影はあるが本人は出てこない。人を陰でぼろくそに言っている感じ。先生が死ぬと学派が分かれてぼろくそに言うところが面白い。では久しぶりですので、岸本さんよろしく、と稲垣君。

1) 子張が曰く、士は危きを見て命を致す。得を見て義を思う。祭りに敬を思う。喪に哀を思う。其れ可なるのみ。
子張が言った。士っていうのは偉い人ですか？危険を見たら命をかける。利得を得ることになると、そのことが良いかを検討する。祭りにあっては敬虔に、喪には哀しむことをする。そうであってこそいい、ですか、と岸本さん。見得思義はよく出てくる、と稲垣君。「利を見て義を思ひ、危を見て命を授く（憲問篇13）」、と高津君。一番大事なことを見誤ってはいけない。危うきを見て命を致す、ここでは吉川先生は、国家の危機に生命を捧げる、としておられますが、士というのは政府の官吏ですか？そういうことばかりでなく、一般的にも言える。国が危うい時には限らない。祭りは偉い人しかしないが、その他のことは一般人もすること。普段通りで考えなければならない。祭りとは具体的には何ですか、と岸本さん。祭る対象は先祖、天神地祇とか色々ある。見るは一番大切なこととして思う、と稲垣君。心の持ち方を言っていますか、と岸本さん。そう思う、そう思いませんか？其れ可なるのみ、はどういうニュアンスかな。身を立てるのが大切。一番、根幹となること、一つでも至らないものがあるとうまくゆかない。見得思義が出来ないと他のことが出来ても、見るに足りない。この四つさえ出来れば、ＯＫ。士としての心得。士大夫の士、政治にかかわる人たち。士見危致命、孔子だったらこう言うだろうか、と稲垣君。誰かにアドバイスするときに、言うことを聞かないと、言う必要はない。命を奪われて、また、アドバイスすることは出来ない、と安澤さん。孔子が居たら、このい発言を否定する・・・本当か？みたいなことを言うだろう。孔子が居ない所で議論をしている。大将が居なくなって後のゆれる議論、と稲垣君。死後のことか、と安澤さん。子張が先生になってからのこと、と稲垣君。子罕（まれ）に利と命と仁とを言う（子罕篇１）。孔子は命についてそう簡単には言わない、と高津君。君子はあまり危ういことはしない。君子と士の区別はあるだろう。日本の武士道と合致するようなことは言わない、と稲垣君。命を捨てんといかんと言うとそうせねばならない。出来ないことは言わない、と安澤さん。先週、林先生と話したが、孔子と老子、儒教と道教は孔子の両端、玄学ではそういう話がある。学派の話で思うが、士は君主に尽くさなければならない、後々の君臣関係、士が尽くさなければならない。上下関係が出来ているときの話。孔子は菅仲、子産など、お互い理解し合っているものを求めている。子張の言い方では、尽くさねばならないのニュアンス、と高津君。孔子の中では、「志士仁人、生を求めて以て仁を害すること無し、身を殺して以て仁を成すこと有り。（衛霊公篇9）」とある。伯夷、叔斉のことで、そういうことはある。比干みたいに殺された人、殺されても仁ということはあるが、孔子は軽々しく命を失うことなどしない。礼記の「儒行」、これは哀公との問答を後の人が作った、プラトンがソクラテスの問答を描いたようなものだが、「殺さるべきも辱めらるべからず」でもっと厳しいイメージがある、と稲垣君。命とのひきかえの仁はない。正しいものに対する執着心。むやみに命を、季氏のために命を捨てるなどありえない。孔子の危ういは、魯が危ういでなく、周を復興するみたいな、一国ではなく全体を言う、と高津君。子張は孔子より40歳若く、成田君が車の運転に例えたが、集中して馬車を運転するように注意され、それを帯に記して戒めにした話があった（衛霊公篇6）。孔子にもズケズケと質問する元気な人で、才気煥発だが落ち着きが足りない。ここでの命はいのちというようりは、使命、役割で、危機にあっても役割を果たせ、逃げるな。ここの言い方は孔子の教えの子張風の言い回し、稲垣君のおっしゃるように、孔子没後のことだと思う。これを聞く側としては、稲垣君のおっしゃるように、そうですか？と疑問を抱いたはず、と上田さん。致すは、ＡをＢに送る。漢代以降は身を投げ出す方向。これは子張が何時頃言ったのか。「其れ可なるのみ」は生意気な言い方。長になった時のこと。若かった子張が年をとって偉そうに言う。子夏なら、あんな奴の言うことはほっとけ、かもしれない、と稲垣君。孔子が言わんとすることを言うが、表現力はあるが、孔子のようには伝わらない。中身がみえてこない、と高津君。いや、まさにおっしゃるように、これが最初にここにあるのが味噌。ほ・ん・と・う・・・という気持ちを抱かせるようにしている、と上田さん。一方の学派をぼろかすに言う、大学でもよくあることで、岸本さんどうですか、と稲垣君。かかわらないようにしています、と岸本さん。よその学校の講義を聴きに行ったり、テープはやめてくれるかとなる。後で批判されても困るから。裁判では自分の説が最高裁に取り入れられるのを望む、それが判例になるから。どこの大学の先生は分かってない、みたいなことだが、個人攻撃ではない、と安澤さん。正しいことを求めて議論する、あれこれと不備をみつけてゆくのが学術の在り方。孔子の弟子たちには絶対的な孔子が居たが、今の世ではそういうものはない。話し合ってゆくしかない。ここではトップを失った集団のその後、と稲垣君。子張が最低条件を挙げた。優良可の可、と岸本さん。自説をこういう形で言えるは怪しい。世代交代。自分ならこう言うだろう。だけど周りからみれば、トンチンカンということはある、と稲垣君。孔子は民と秩序ある国を考えるが、子張の重心は上、トップに仕えることにある。菅仲は、衣食足りて礼節を知ると民の生活を考える。子産は自分よりは民を思う。政治を行う人はむやみに命を投げ出すより、何のために投げ出すかが問題、と高津君。孔子は堯瞬の世の政治をいう、当時の世では一般人からすれば、滅茶苦茶、そんなこと言っても何のことかわからないレベル。偉大な人のいうことはそういうところがある。吉川先生は科挙の試験があれば自分は合格できると豪語された。そのくらいの準備がなければ、中国の文人と語ることはできないという自負をもっておられたのだろう、と稲垣君。
バレンンタインデー前夜の読書会のチョコレート、ホワイトデーがありますぞと安澤さん。一揆は安澤さん、上田さんの熟年コンビのみ

岩倉紙芝居館　古典館　論語読書会 　上田　啓之
.