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神話の世界
１、姓を辿る
古帝の系図は歴史と伝説が入り組んで、頭が混乱する。
人は自らの出生の根源を辿る。古帝の系図は編纂されるのは春秋時代、周が衰え、列国が覇を争った時代である。それらの列国は自らの祭るべき祖先を、出来うる限り過去に遡って、見い出そうとする。
百姓の根源を辿る旅でもある。呂氏春秋、用民によれば、「禹の時にあたり、天下は万国なり、湯に至りて三千余国」。周の時、服従する国６５２、怨恨をもつ国９９ともいう。
勝ち残った国をもつ姓、亡国の姓、歴史を逆から辿ると栄枯盛衰にひん曲がっている。また、時代の常識が偏見となって理解が歪む。
ren任（河北省）、su宿、xu須、gou句、zhuanyu顓臾（山東省費県）はfeng風姓でpaoxi庖羲（fuxi伏羲）を始祖とする。
zhou州、fu甫、gan甘、xu許（河南省許昌）、xi戯、lu露、qi斉（山東省）、ji紀、yi怡、xiang向、shen申、lu呂はjiang姜姓でyandi炎帝shennong神農を始祖とする。
chu楚、kui虁（四川省奉節県）、quan権はmi羋姓、yu鄅（山東省臨沂県）、bi偪、yang陽はyung女云姓、zhu邾（山東省鄒県）、ni兒邑（山東省膝県）はcao曹姓（山東省西部）、xiong?yi鬷夷はdong董姓でzhurong祝融を始祖とする。
zhou周、lu魯、wei衛他四十国はji姫姓でhuangdi黄帝を始祖とする。
qin秦、zhao趙、liang梁、xu徐、jiang江、huang黄など九国はying嬴姓でshaohao少昊が始祖である。
chen陳はgui嬀姓、xia夏、qi杞、zheng鄭、yue越はsi姒姓でzhuanxu顓頊が始祖である。
qi祁（du杜）姓はyao堯が始祖である。
姫姓である周が中心となっている。周の始祖は弃（后稷）。系図上では弃が嫡男であるが、時系列からは周に滅ぼされたyin殷が姫姓となるべきである。殷の始祖はxie契で、舜からshang商に封ぜられzu子氏の姓を得たことになっている。qi弃も契も父を同じくする。周でいえばdiku帝嚳、山海経でいえばdijun帝俊となる。
弃は帝嚳の正妃、youtai有邰氏の女、jiangyuan姜原との子であるが、巨人の足跡を踏んで妊娠している。huaxu華胥氏の女が雷澤で大人の跡を踏んで生まれたのが庖羲である。雷神と人間の女の間にできた神人で人面蛇身とされる。弃はこの説話を想起させるものである。
契は帝嚳の次妃、yousong有娀氏の女、jiandi簡狄との子であるが、玄鳥の卵を呑んで妊娠している。zhi摯という名から自身が鷹のような鳥とされる少昊を想起させる。
人間の女と神の間に生まれた半神半人とみなしている。祖先が神であるといいたい。
邰は陜西省武功県の古地名、娀は山西省運城一帯の古地名でもある。父が嚳か俊かというよりも、母の姓、またその国の所在地の方が具体性をもっている。堯の時、弃は邰に封じられ姫姓となっている。舜の時、契は商に封じられ子姓となっている。ここでも弃は優位にたっている。元来農耕をもたらしたのは、炎帝神農である。しかし、后稷としての弃がクローズアップされる。ために弃は、堯、舜、禹の三帝に仕えるという寿命を無視した存在となる。
すでにみたように、舜の役割は控え目で堯に焦点が置かれる。
周本紀によれば、公劉の時、戎狄の影響下を脱するため、邰を出、渭水を渡り用材を扱って興隆する。古公亶父の時戎狄に追われ、岐山の周原に移っている。周原が周の由来である。その子季歴の子に昌が生まれ、後の西伯、文王となる。この西伯を頼って伯夷、叔斉が身を寄せている。西伯の子、武王が殷を滅ぼし、国号を周となし、神農の子孫をjiao焦、黄帝の子孫をzhu祝、堯の子孫をji薊、舜の子孫をchen陳、禹の子孫をqi杞に封じ、師尚父（太公望）をqi斉、周公旦をlu魯、召公奭をyan燕、叔鮮をquan管、叔度をcai蔡に封じている。
殷の後は武庚が叔鮮や叔度と周公に背き誅され、微子開が武庚に代わってsong宋を開いた。微子開が殷の余民を集め、武王の少弟封を封じて衛の康叔としている。成王のとき、召公が保となり周公が師となり、淮夷を平定している。
すでにみたように、伯夷、叔斉は羌人で、詩の大雅の崧高に、「これ嶽、神を降ろし甫と申を生めり」とあるごとく嶽神を始祖とする。甫、許、申、呂は姜姓の国である。羌人は殷人の祭祀の犠牲として供されているごとく、殷人とは敵対している。周は羌人とは通婚関係を結び、殷人の脅威に対抗していた。舜の時代の伯夷、皋陶、堯の時代の許由、四岳などがその先祖で、羌人は倫理や刑法に優れていた。
夏を滅ぼした湯は契より１４世にあたり、bo亳に居す。湯にいたるまで、その間都を８回遷し、亳は帝嚳が宮を構えた所、河南省商邱県にある。都は河北に５ヵ所に遷されるが、盤庚のとき再び河を渡り亳に戻り、殷と称した。契に子姓がはじまり、後分封され、殷氏、来氏、宋氏、空桐氏、稚氏、北殷氏、目夷氏がある。紂の時殷は討たれるのであるが、この時紂は東夷への大遠征を試み、西の周への警戒を怠ったといわれる。殷は夏を滅ぼし、羌人と敵対し、東夷を抑え、周を通じて西方に備えていたことになる。
夏の始祖は禹、洪水を治めた帝である。九州を開き、九道を通じ、九澤を陂し（堤防を築き）、九山を度した（高さを測る）。全土を巡るに、冀州、沇州、青州、徐州、揚州、荊州、予州、梁州、雍州の順である。これは殷や周の統治範囲を上回るもので巡行可能ではない。冀州、沇州、徐州、予州北部、雍州東部以内であろう。冀州は堯が都を置いたところ、舜の生まれた所とされる。
禹が舜の後に帝となり、姒姓、国を夏と号した。禹の子、qi啓の母はtushan塗山氏の女、安徽省鳳陽府懐遠県というから、後の楚の北にあたる。啓は有扈氏（陜西省西安府）を伐っている。Yi羿によって占拠され洛水の北に追いやられたとあるので、夏は洛水の南にあったことになる、桀が湯に討たれたのが鳴条（山西省海州府安邑県）である。
啓以降は問題ないが、禹から混乱が始まる。禹の生誕は鯀の腹からであり、場所は羽山、北の果、北極である。冀州で任官し、洪水を治めるため群神を集めたのが南方の会稽山。
時系列を逆から辿れば、このへんで不可解になる。
２、世界の中心
さて、晋書天文志によれば、天の秩序は星座に表われている。北極星座で紫宮をみる。
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北極星は五星からなり、主星は極星、自らは動かず、すべてはそれを枢軸として移動する。第一星は太子で月を管轄、第二星は帝で日を管轄、第三星は庶子で五惑星を管轄、第四星は後宮。極星を囲む四星が、極星を補佐する四補。地上の四方神となろう。
鉤陳は後宮で、大帝の正妃、大帝の住居。鉤陳の口にある一つの星が天皇大帝で、もろもろの霊を支配し、万の神の図を保持する。大帝を覆う華蓋とその柄である杠の下に五帝内座がある。中央、東、南、西、北の帝となろう。六甲とは陰陽をそれぞれの季節に分配し、政治を行い、人民を教化し、農時を教える。
天一星は天帝の神、戦闘を管轄し、吉凶を支配する。太一星は天帝の神であり、十六神を使役し、大風や大雨、大水や日照り、戦争や革命、飢饉や疫病や災害のある国を支配する。
柱下史は罪過を記録する官。天柱は政治と教化、法律を管轄する。尚書は帝と臣をとりつぐ（納言）官である。陰徳、陽徳は危急を救い、恵を施す。大理は刑罰を明らかにし、裁判を管轄する。こういった世界が、天地の通路により、地上に移行される。
夏はxiaで下でもある。上下はshangxia、shanは山である。天上界は山に降りる。日本でいえば高天原よりの天孫降臨。中国における地上の世界が夏である。
淮南子墜形訓に曰、「（崑崙山の）中に増城が有り、九重、高さ一万千里百十四歩二尺六寸。・・・崑崙の丘、之を倍上れば、涼風の山。之を上れば不死。之を倍上れば、xianpu縣圃。之を上れば霊、風雨を使うことができる。之を倍上れば、上天。之を上れば神、太帝の居という。」
山海経によれば、崑崙丘は帝の下界の都である。西山経によれば、神陸吾が司り、その状は虎身九尾、人面虎爪、天の九部と天の囿時（四季）を司る。東南四百里に帝の平圃（園）があり、黄金、銀、玉、丹栗、青雄黄が多く神英招が司る。その状、馬身人面、虎の文あり、鳥の翼をもち四海を巡る。その西に大沢があり后稷のしずまりますところ（稷沢）がある。
海内経によれば都広の野、「ここにはみごとな菽（まめ）・稲・黍・稷があり、百穀自生し、冬も夏も種がまける。鸞鳥はわれと歌い、鳳皇はわれと舞う。霊寿の木には実をつけ花咲く。草木の聚まるところ。ここには百獣が相群れて住む。この地の草は冬も夏も枯れることがない。」
淮南子墜形訓に曰、「建木は都広に在り、衆帝のよりて上下する所、日中に景無く、呼べども響無し。蓋し天地の中なり。」
天地の間で天地の交通を担っていたのが、山と木でその代表が崑崙と建木。天地の中が都広の野。これが夏であれば、事は簡単である。
徐朝龍氏は「三星堆・中国古代文明の謎」において、三星堆遺跡のある四川盆地川西平原こそ都広の野と推定しておられる。
天地の中心が四川盆地というは、中原の王朝の意識とは合致しない。中国とは世界の中心の国の義である。夏、殷、周の三代は黄河と洛水の間にあり、嵩山が中岳とされた。考古学では、黄河が華北平原にはいる河南省中部、北部、河北省南部にある新石器時代、およそ紀元前６千年前と推定される裴李崗（はいりこう）・磁山（じざん）文化が古い。夏を担ったと考えられる仰韶文化より千年は古い。また、この地は、西域への交通路でもあった。すでにみたごとく、詩の大雅に曰、崧高（すうこう）なるはこれ嶽、駿（たか）くして天に極（いた）る。これ嶽、神を降し、甫（呂）と申を生めり。この嶽とは河南の嵩山。嵩山は羌人の岳神であった。羌人は共工が王のとき、九州の覇者であったが、夏に追われ、殷にはその祭祀権を奪われてしまった。
冀州にあっては、泰山が岱宗とされた。岱とは始まり、宗とは長の義で、王者は命を受ければ泰山で封禅を行った。泰山山上に土を築き、壇を為って天を祭り、天の功に報いることが封、泰山山下の小山上に地を除（なら）し、地の功に報いることが禅。庖羲は「陳に都す。東の方、太山（泰山）に封ず。」黄帝は「岱宗に及び、・・・涿鹿の阿（直隷省宣化保安州の南）に邑す。」古伝説では、黄帝は寿丘で出生し、涿鹿に邑を築いた後故郷に帰り、曲阜に住んだともいう。孔子を想起させる。
冀州は堯が都を置いたところ、舜の生まれた所であった。そして、冀州は中国全土を指すこともある。冀州ともなれば、黄河による沖積平野であり、沢が多く、洪水に対応出来ねば定住は困難。泰山はこの黄河をある時は北、ある時は南に流す壁となっていた。この地は斉、魯の地で斉州ともされる。「殷、斉は中なり」と爾雅・釈言にあるごとく、斉州は冀州に通じる。
何新氏は「神々の起源」において、泰山を古の崑崙と見ておられる。
１９９９年長江に紀元前６千年前と推定される城頭山遺跡（湖南省澧県）に祭壇を有する稲作文化の都市が発見された。三星堆遺跡、龍馬古城遺跡の発見とともに、世界の中心が中原でない文化の存在が浮上してきた。徐朝龍氏の崑崙説に理があると思うが、発掘物の今後の研究に期待すべきであろう。
山海経の記述の再評価をもたらしている。
３、古帝の役割
庖羲paoxi
天意は日月星辰、風雨雲雷虹など様々な自然現象に現われる。いわゆる天文である。この天文解釈を人間にもたらしたことで賛えられるのが庖羲paoxi（伏羲fuxi）である。庖羲は人首龍身の雷神と華胥氏、神と人間の女、の間にできた神人で人面蛇身である。人面蛇身とは人間以上の能力を有していることを表わす。龍馬が図を背負うて黄河からでた（これを河図といい後々洪水を治めるうえで重要な役割を果たす）という龍瑞があり、庖羲は龍を用い、龍師を長官とした。龍をもって官を紀すとある。
仰ぎては象を天に観、俯しては法を地に観、あまねく鳥獣の文と地の宜とを観、近くこれを身に取り、遠くこれを物に取り、始めて八卦＜ 乾（天） 坤（地） 坎（水） 離（火）
艮（山） 震（雷） 巽（風） 兌（沢）＞ を画し、神明の徳に通じ、万物の情を類す。とあるごとく庖羲は八卦をこの世にもたらし、書契をつくり、嫁娶の制を定め、網を結んで漁することを教え、犠牲を養い、太山で（天を）祀った。
庖羲は燧人suiren氏に代わり天を継いで王となった。燧人氏は木をこすって火をおこし、火を用いることを人間にもたらした。庖羲は、犠牲を養い庖厨（料理）して天を祀ったのであるから、火を料理と祭祀に用いたことになる。風姓の始祖となった。
任（河北省）、宿、須、句、顓臾（山東省費県）あたりの伝説となる。
山海経海内経に曰、木がある、青い葉、紫の茎、黒い花、黄色い実、名は建木。（高さ）百仞、枝なく上のほうで九つに曲がりくねり、下の方では九つにわだかまり、その実は麻のごとく、その葉は芒のよう。太白皋（庖羲）がここを通ったので、黄帝が記念したもの。・・・太皞は咸鳥を生み、咸鳥は乗釐を生み、乗釐は後照を生んだ。後照は巴の人の先祖である。この記述からすれば、庖羲は河北、山東と決めてかかる訳にもゆかない。
女媧nuwa
女媧nuwaも人面蛇身。風姓であり、庖羲の妹で夫婦となり人間を産み出したともされ、また、泥から人をつくり、藤蔓で泥をはねて、次々と男女をつくったともされる。女媧は、男女を結び付ける高媒（媒酌）役をつとめ、死すべき人間が子孫をもうけて生き延びることを可能にした。この女媧がどこから来たのか、古来より疑問（楚辞天問）とされ久しい。
女媧のとき、天が崩れるという大変動があった。女媧は、五色の石を錬り天を補い、鼇（大亀）の足を絶ち、四極を立て、蘆の灰を集め、滔水を止め、冀州（中国全土）を濟（すくう）。
共工が怒って不周山にぶつかって崩れたとする説がある。顓頊と戦ったとする説、祝融と戦ったとする説（三皇本紀）がある。祝融の父は老童、老童の父は顓頊とする説、共工の父の祝融、その祖先は炎帝とする説がある。いづれにせよ、人間を産み出した女媧とは時代的に合わない。別の理由で天が崩れたとする説に従う。
淮南子覧冥訓によれば、往古、四極崩れ、九州裂け、天は地を覆い尽くさず、地は万物を載せ尽くさず、火は燃えさかり消えず、洪水は果てしなく広がり止まず、猛獣は人を食い、鷲鳥は老弱に掴みかかった。とある。天地がひっくりかえるような地殻変動を想定すべきであろう。
五色とは黄（中央：釣天：黄龍：土）、青（東：蒼天：蒼龍：木）、赤（南：炎天：朱鳥：火）、白（西：昊天：白虎：金）、黒（北：玄天：玄武：水）で五行説を連想させる。石を錬りとあるから、ペースト状にして天井を塗込めるように天を補修し、青く、赤く、黄色く、白く、黒くいづれの色にも見えるようにした。背中に三つの仙山を載せる大海亀の足を柱として天を支えた。黒龍（水の精）を殺して洪水の元を絶ち、蘆灰で水を固めた。
かほどの大事業を成し遂げるも、功をおごらず、真人の道を内に秘め、天地のあるがままに従った。民も功知を求めることなく、皆その和を得、あるがままに暮らし、猛禽は牙を収め、虫蛇も毒をかくした。道徳は上（帝）に通じ、智は消滅すればなり。と女媧の徳を賛えている。
楚辞天問にあるごとく、女女咼の姿は定かでない。白川氏は伏羲とともに苗族の伝説と考えておられる。湘西、川南、貴州、広西、雲南の苗族、人搖族、ロロ族等南方民族の伝説、太古の大洪水のときに、兄弟あるいは姉弟の二人が助かり夫婦となり、人類の始祖となることが、その根拠である。
少昊shaohao
少昊shaohao（少典）は天上の仙女皇娥huangeと白帝の子と名乗る明けの明星、金星の間に西海で生まれ、成人して東方に国をたてた。少昊の国といい、鳥をもって官を紀すとあり、その臣僚百官は鳥で、鳥の王国であった。摯という名から、少昊自身が鷹のような鳥とされる。顓頊が幼少の頃、少昊の国で養育され、帝業を学んでいる。
少昊が西方の故郷に帰るとき、重という人面鳥身の子を残し、東方の天帝となった庖羲の属神包芒baomangとしている。該という子を連れて帰り、西方の天帝となり、該を蓐収rushouとして自らの属神とした。秦、趙、梁、徐、江、黄など九国の嬴姓の始祖である。
子孫には皋陶、伯益という堯時代の功臣、不肖の窮奇がある。
少昊は女登との間に神農を生んだとも、黄帝の父ともされる。少典は単に諸侯で少昊と区別する説もある。神農と黄帝は母を同じくする兄弟とする伝説もあり、神農後八代五百三十年にして黄帝興るともされる。頭が混乱する。少昊が西の天帝とされた理由は、自身の功業より、子孫の素晴しさにあると思われる。そう考えると少昊と少典が同一であったほうが納得できる。
神農shennong
神農は、少典の妃となったyoujiao有嬌氏の女、nudeng女登が神龍に感じて生まれた子で、人身牛首。姜水（陜西省岐山県）で育ち、姜姓の始祖となり、火をもって官を紀した。牛は農耕の象徴である。木で鋤や柄をつくり土を耕し、天から降ってきた五穀の種を蒔き、収穫を感謝する祭を行った。また、百草を嘗め、毒にあたって苦しみつつ、医薬を見つけだした。この徳をもって神農と称される。
太陽に光と熱を充分に出させ、五穀を成長させる功を称えて炎帝とも称され、南方の天帝となる。また、日が南中するときに市を開き交易することを始め、各々の人々に生業が生まれた。
八卦を六十四爻と為し、初め陳に都す。後曲阜に居す。元lieshan烈山（厂萬山）氏（湖北省）より起こり、benshui奔水氏の女、tingyao聽訞を娶り、魁、承、明、直、釐、哀、克、楡罔、八代530年で軒轅氏起こる。その後、zhou州、fu甫、gan甘、xu許（河南省許昌）、xi戯、lu露、qi斉（山東省）、ji紀、yi怡、xiang向、shen申、lu呂有り。子孫は四岳を掌るとされ、帝や王の補佐として人物を輩出している。
山海経海内経に曰、炎帝の孫は伯陵、伯陵は呉権の妻で美女の縁婦に通じ、縁婦は孕むこと三年にして、鼓、延、殳を生み、初めて諸候となった。これは、帝の血を引き継ぐ者による国造りを意味する。
同じく、海内経では、神農の子孫の四代目に獣身人面で南方の属神祝融zhurongがあり、祝融が江水（四川省）に住んで共工gonggongを生む。楚、虁、権はmi羋姓、鄅、偪、陽は女云姓、邾、兒邑は曹姓、鬷夷は董姓で祝融を始祖とする。江水に住むということは、地上に降りることであるから、共工あたりから人間面が強くなる。智刑に秀でており強大となり、水を用いて覇者となった。
共工は術器shuqiを生み、術器は土地を回復して江水に住んだとある。共工は后土houtuを生み、后土は噎鳴taimingを生み、噎鳴は歳を十二個生んだとされる。后土は土地神であり、冥界の支配者でもある。
黄帝huangti
少典の子。姓は公孫、名は軒轅。少典は諸侯の国の号と注される。公孫という姓の義が不明。炎帝と阪泉の野に戦い、三度戦って志を得る。蚩尤が乱をなし、これを涿鹿の野に戦い禽殺したことにより天子となった。
天下に順はざる者あれば、之を征し、平らげば之を去る。山を披らき道を通じ、未だかつて寧居せず。東は海に至り、丸山に登り、岱宗に及び、西は空桐（甘粛省）に至り、雞頭に登り、南は江に至り、熊湘（湖南省）に登り、北は葷粥（匈奴）を逐う。符を釜山（直隷省保安県西南）に合わせて（諸侯を集めて）、涿鹿の阿（くま）に邑す。遷徒往来して常処無く、師兵を以て営衛と為す。
黄帝は軍事的天才であったといいたい。
官の名は雲を以てし、雲師と為した。左右大監を置き、万国を監せしめ、最大級の封禅を行い、宝鼎（三足青銅器）を獲、日を迎え筴竹をもって暦をつくる。風后、力牧、常先、大鴻に民を治めしめ、天地の紀（理）、幽明（陰陽）の占、死生の説（悲喜の礼）、存亡の難（変）に順う。時に百穀草木を播き、鳥獣蟲蛾を淳化（徳化）し、日月星辰水波土石金玉を旁（あまねく）羅（配）し、心力耳目を労勤し、水火材物を節用す。
良き臣を用い、天地の理に従うことに励み、天地万物の運行を正常化することに心を砕いたとなす。
２５子あり、姓を得たる者１４人。軒轅の丘にいてxiling西陵氏の女、正妃となったleizu女累祖、を娶る。２子を生み、これがその後の天下を有した。一人がxuanxiao玄囂、qingyan青陽で降りて江水に居す。青陽を少昊とする説もある。もう一人がchangyi昌意、降りて若水に居す。昌意、shushan蜀山氏の女、changpu昌僕、を娶り、gaoyan高陽を生む。高陽は顓頊である。
多子であり、これを諸侯に配した。ji姫、you酉、qi祁、ji己、teng籐、zhen葴、ren任、gou苟、xi僖、ji姞、huan嬛、yi依とされる。地上の諸国を血縁関係で固めた。軒轅の丘とは崑崙にある。女累祖は養蚕をもたらした女である。蜀は蚕のことであり、養蚕の地である。天から降りた先、江水も若水も蜀（四川盆地）に流れる。江水とは岷江である。ここに降りた二子が中国の先祖の本流を形成する。
顓頊zhuanxu
材を養いて地に任じ、時を載し天に象り、鬼神に依りて義を制し、気を治めて教化し、潔誠して祭祀す。北の方幽陵に至り、南の方交趾に至り、西の方流沙に至り、東の方蟠木に至る。動静の物、大小の神、日月の照らす所、砥属せざるは莫し。と司馬遷の記述はそっけない。
司馬遷が書かなかったことは、顓頊が孫の重と黎に天地の通路を遮断させたという伝説である。天地の通路を遮断するという歴史は司馬遷にはありえなかったのであろう。顓頊は少昊譲りの音楽の才があり、八方風の歌をつくっている。北風の吹くとき死んで蘇り魚婦となった鯀の父でもある。
蚩尤と黄帝の戦いは、風伯、雨師、銅頭鉄額の蚩尤の兄弟、苗民、魑魅魍魎、夸父族（巨人族）対四方の鬼神、応竜、魃、諸侯、熊豹虎類の獣であった。神から人まで入り乱れての総力戦であり、天界と地上界がしっちゃかめっちゃかになった。その混乱を収拾する気代の策が天地の通路の遮断であった。
蚩尤の兄弟、苗民、巨人族は黄帝族が江水や若水に降りる前にいた神や人であったと考える。わが国における出雲族の如き立場であろう。文化の程度が高くとも、軍事的天才たる黄帝に屈するはめに追い込まれた。顓頊はこれらの先住民の天界への通路を絶つ、また、神の降誕を絶つことにより、黄帝族のゆるぎのない基盤を築く礎となった。
山海経海内経に曰、昌意は降って若水に住み、韓流を生む。韓流は首が長くて謹耳、人面で豕の喙（くちさき）、麟の身で大きな股、豚の趾であったが、婥の子の阿女を娶って、帝顓頊を生んだ。顓頊自体の風貌にも父の影響があったろう。大荒北経に曰、黒水の北に人あり、翼をもつ。名は苗民。顓頊は驩頭を生み、驩頭は苗民を生む。また、魍魎をも生んでおり、これと敵対する。檮杌、窮奇という不才子をも生んでいる。
また、老童を生み、老童が祝融、祝融が長琴を生んだともされ、祝融に関して頭が混乱する。
黄帝の負の部分を背負わされ、結局は舜、禹の祖として蘇る。
嚳Ku
これを決定的にしたのが帝嚳高辛である。玄囂、蝸極、嚳で黄帝のもう一つの強力な子孫である。
天の義に順い、民の急を知り、仁にして威あり。恵にして信あり。身を修めて天下服す。地の財を取りて之を節用し、萬民を撫教して之を利誨し、日月を暦にして之を迎送し、鬼神を明らかにして之に敬事す。其の色は郁郁たり。其の徳は嶷嶷たり。其の動くや時あり、その服や士なり。
帝嚳、既に中を執りて天下にあまねく、日月の照らすところ、風雨の至る所、従服せざる莫し。
黄帝、顓頊と続いた平定と天地通路遮断の混乱を治め、民の急を治め、中を執った。司馬遷はこれまたたんたんと記述するが、後の舜と同じく、理想的な帝の姿を見ている。
ここでも司馬遷が書かなかったことは。帝嚳と帝俊の関係、帝俊の説話である。司馬遷は嚳は生まれて神霊なり、自らその名を言う。と記述している。その名とはjun夋、俊である。山海経では俊は鳥をよく使い、義和との間に１０個の太陽、常義との間に１２個の月を生んでいる。娥皇との間に三身国を生み、義均（人垂）を輩出し、后稷と台爾の父でもある。殷の始祖として黄帝に匹敵する伝説の持ち主と推測されているが、殷の滅亡とともに失われ、宋に引き継がれることもなかった。
かくて黄帝系であっても、堯と夏、周が正統となった。
1999.7.30 了
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