論語読書会　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

子罕第九

以下は、読書会に備え調べたこと、また、議論したことを、岩倉紙芝居館館主が独断で記載したものである。

子罕　第九

1）子罕言利與命與仁
zǐ hǎn yán lì yǔ mìng yǔ rén
子、罕に利と命と仁を言ふ。

網をのせた狩猟用の車を罕車（かんしゃ）、天子の儀仗に用いる網飾りのある旗を罕畢（かんひつ）といひ、罕は鳥さしあみの形、罕（まれ）にと稀の意に用いるのは声の仮借。詩、鄭風、大叔于田（だいしゅくうでん）に、「叔（若者）發（はっ）すること罕（まれ）なり」とある（字統）。詩経からとったおごそかな、古典的言い回し。論語中、利と命について語るのは6回、仁については60回とされ、利と命については稀であるが、仁はそうとはいえない。そこで、罕（まれ）に利を言ふ、命とともに、仁とともに、と利を言うときは、命や仁と関連づけて言ふと解釈される。罕という字を選択しているのは、利と命と仁をおっしゃるときには、何か、あらたまった気持ちになられたということではあるまいか。
読書会：短くて分かりにくいものは、一般的に理解しておくのでいい。あまり口にだして言わない。それより、それは学んで尽くすことが大事。弟子は聞きたくてもあまり聞けなかったことだけに、記録に残した。弟子の残した記録のなかでは、利と命より仁が多いが、普段の話の中では、仁について語られることが多いわけではなかった、とする説もある。

2）達巷黨人曰大哉孔子博學而無所成名子聞之謂門弟子曰吾何執執御乎執射乎吾執御矣
dá xiàng dǎng rén yuē dà zāi kǒng zǐ bó xué ér wú suǒ chéng míng zǐ wén zhī wèi mén dì zǐ yuē wú hé zhí zhí yù hū zhí shè hū wú zhí yù yǐ
達巷黨の人曰く、大なる哉、孔子。博く學びて名を成す所無し。子、これを聞きて門弟子に謂ひて曰はく、吾、何を執らむ、御を執らむか、射を執らむか、吾、御を執らむ。

達巷（たっこう）の黨人は不詳とされる。黨は五百家で郷黨といふ。巷（こう）は、邑門の外で儀礼を行うところが原義、達はよく通じることであり、儀礼に通じた郷黨の人、同業の黨人となろうか。大いに皮肉った、大仰なものだな、孔子は。博く學んで（これといって）名を成す所は無い。褒め殺し風には、偉大だな孔先生は、何でもよくお出来になり、どれで名を成すというものはおありでない。六藝（礼、楽、射、御、書、数）のいづれの専門家からも、その藝においては第一人者とはみなされていなかった。その噂が広がり、先生は門弟子にそれをこう評された。（言ふても分かるまい。）じゃ何にしよう？御（馬術）か？射（弓術）か？御にしよう。周公の馬車の御者、君子の政の御者かな、と洒落込まれた。まこと、その筋の専門家からすれば、孔先生は専門家とはいえなかった、しかし、時と共にそれらの専門家の志は忘れられたが、孔先生の志は生き続けている。
読書会：大哉はものすごく褒めている言葉。それに対して「俺は何をしようか？」と弟子に向かって言っている。まともに褒めてくれておれば、こんな応えをするだろうか？自分のことを分かって褒めてくれているかとなると、そうではない。後の、大宰の言う時のことばと一緒に読めば、違いがわかる。

3）子曰麻冕禮也今也純儉吾從衆拜下禮也今拜乎上泰也雖違衆吾從下
zǐ yuē má miǎn lǐ yě jīn yě chún jiǎn wú cóng zhòng bài xià lǐ yě jīn bài hū shàng tài yě suī wéi zhòng wú cóng xià
子の曰はく、麻冕は禮なり。今、純なるは儉なり。吾、衆に從はん。下に拜するは禮なり。今、上に拜するは泰なり。衆に違ふと雖も、吾は下に從はん。

冕は説文に、「大夫以上の冠なり、邃（ふか）き延（おほひ）、垂れたる流玉（りう：旒、たれ飾り）、紞�\（たんくわう：耳あて）あり」とし、黄帝がはじめて作ったとされる（字統）。麻で作った冕は、「三十升の布を以て之を爲る。升は八十縷なれば、則ち其の經は二千四百縷なり」と大変手の込んだもので、麻冕（まべん）が禮とされる。純（いと）は絲（いと）、絹のこと、と注される。純は糸と屯からなり、屯は糸の末端を結びとめた形でへりかざりをいい、純は総（ふさ）飾り。礼記、祭統に、「君、純冕して阼（階）に立つ」の疏（そ）に、「純もまた緇（黒絹）なり」とみえる。緇は染色に関するもので黒絹、後、僧衣に用いられた（字統）。儉なりとあり、倹約の義、黒絹で簡素に作った冕となろうか。禮とは異なるが、これは衆に従ふ、倹約できるからということであろう。堂の下で拜し、堂に上がるのが禮であるが。今では、堂に上がってから拜す。泰は“おごる”と注される。しかし、堯曰篇には、「君子は泰にして驕らず」とあり、老子、二十九章に、「聖人は甚を去り、奢を去り、泰を去る」とあり、泰を驕ると解するのは老子風となる。泰は人が水中に陥り、これを両手で助けるが原義、太、大は通用し、“はなはだし”とも用いられる（字統）。泰は君子の禮の概念であり、拜乎上は君子が祖霊に対する禮であり、これを行うのは逸脱しているという認識ではあるまいか。冕のことでは、衆に従ふといったが、吾は下で拜することに從ふ。
読書会：政治の事について何をすべきかというときに、「名を正す」というのがある。禮に則って行う。当時はほとんどが無視していた・・・大夫が無視して乱れてしまっていることを厳しく言っている。

4）子絶四毋意毋必毋固毋我
zǐ jué sì wú yì wú bì wú gù wú wǒ
子、四つを絶つ。意なく必なく固なく我なし。

絶つというのは厳しい。絶は糸を断截（だんせつ）した形であるが、色糸の義で、絶妙・脆美（ぜいび）のの意がある。絶妙よりして、絶無・絶高など比類を絶する意となったものであろう（字統）。毋は無と同じ、禁止に用いる。意の反はありのまま、述べて作らずに通じる。必の反は不定、運命と見限らず努力すること。固の反はとらわれることなく、一隅を擧ぐれば以て三隅を反す、學びて厭かぬこと。我の反は恕、己れ達すを欲して人を達つこと。ありのままの姿を見つめ、運命とあきらめず、とらわれず、ともに生きる。
読書会：朱熹は私意、期必、執滞、私己。事を行う前には、私意、期必の心構え。事を行うには、執滞、私己でなくてはならないが、実際にはこれの悪循環となる。

5）子畏於匡曰文王既沒文不在茲乎天之將喪斯文也後死者不得與於斯文也天之未喪斯文也匡人其如予何
zǐ wèi yú kuāng yuē wén wáng jì mò wén bú zài zī hū tiān zhī jiāng sàng sī wén yě hòu sǐ zhě bù dé yǔ yú sī wén yě tiān zhī wèi　sàng sī wén yě kuāng rén qí rú yǔ hé
子、匡に畏る。曰はく、文王、既に沒し、文茲に在らずや。天の將に斯の文を喪ふや、後死の者、斯の文に與るを得ざるなり。天の未だ斯の文喪はざるに、匡人、其は予を何如せむ。

孔子一行が匡（地図）で陽虎と間違はれ捕われたことは公冶長第五21）、述而第七22）ですでにみた。畏は、おそれ、おののき、かしこまるが原義であるが、おそわれると訓じられる。そのあとの言葉からすれば、孔子が恐れかしこまるは不適切、といふことであろう。孔子一人ならともかく、弟子とその縁者も含めて危険にあり、事はそう簡単ではない。いかな人でも、武器を持つ他国の者、それも人違いとはいへ、恨みを持つ者に捕へられて恐れを抱かぬ者はあるまい。文王や天にかしこみて、言葉を発せられた。喪は失う、亡ぼすと訓じる。與は参与の与、あづかると訓じる。「周の文王、はるか昔に、沒されたとはいへ、その文は、今、茲（ここ：私、孔子）に在（あ）るではないか。天がその文を喪ふとするなら、後世の人（私達）がどうしてその文にあづかりえよう。天が、いまだにこの文を喪ふことなく、（こうしてここにあるということは、これから先もあるということだ。それを自覚している）私を、匡人がどうすることもできるものか。」自らに言い聞かせるように、開き直って申された。
読書会：朱熹は文を禮樂制度とする。天生�ｺ於予桓魋其如予何という簡潔なものと比べると、まるで科白みたいで劇画タッチ、コロッと人が変ったような文体の違いがある。以前はテーマ別だが、ここではテーマがバラバラ。次の郷黨篇は禮のみまとめている。残ったものが子罕篇に入っている。文体からすると先進篇からは、40〜50年違う感じがする。孟子に五百年説というのがある。道は五百年に一度聖人が出てつなぐ、自分が継ぐ者という意識、自分でないと誰が継ぐのかという気持ち、孔子も順調に行っておれば、そういう気持ちを持たなかった。

6）大宰問於子貢曰夫子聖者與何其多能也子貢曰固天縱之將聖又多能也子聞之曰大宰知我乎吾少也賤故多能鄙事君子多乎哉不多也牢曰子云吾不試故藝
tài zǎi wèn yú zǐ gòng yuē fū zǐ shèng zhě yú hé qí duō néng yě zǐ gòng yuē gù tiān zòng zhī jiàng shèng yòu duō néng yě zǐ wén zhī yuē tài zǎi zhī wǒ hū wú shào yě jiàn gù duō néng bǐ shì jūn zǐ duō hū zāi bù duō yě láo yuē zǐ yuē wú bú shì gù yì
大宰、子貢に問ひて曰く、夫子は聖者か。何ぞ其れ多能なりや。子貢、曰く、固より天縱之將聖、又多能なり。子これを聞きて曰はく、大宰、我を知れるか。吾少くして賤しかりき、故に、鄙事に多能なり。君子多ならむや、多ならざるなり。牢が曰く、子云ふ、吾、試られず故に藝あり。

大宰と子貢の対話となれば、呉の大宰（総理職）嚭（ひ）とされる。左伝によれば、子貢が嚭と会見するのは、哀公七年(BC488年) 百牢を征（とりたて）に関して、��（そう：魯の町）での呉の大宰嚭との会談に際して、季康子が出席を断るために子貢往かしめた時、哀公十二年（BC483年：孔子が魯に帰った翌年70歳）魯が呉と盟約を断った時、呉が衛公の宿舎を囲んだのを、子貢が使者にたち大宰嚭と交渉して解放せしめた時の二回。二度目は子貢が嚭を納得させて解放に導いており、この時に孔子のことが話題となったとみられている。聖人は多能ではないという考え方が一般的であったとみえる。天縱（しょう）之將（しょう）聖、あるいは天、之を縱(ゆるす：ほしいままにす)將（ほとんど）聖などと訓じられる。聖でなく將聖、將は〜となるであろう。縱は縦糸が原義、舍（はな）つなりとあって放縦（字統）とある。天からはなたれ、いづれ聖となられる方の義。天から遣はされたのであるが、舜のごとく帝位を継ぐ聖人ではないが、色々と苦労をしていづれ聖人となられる方であるから、又多能也、と子貢が絶妙の応へをした。先生はその報告をうけたとき、大宰は私のことをよくわかっている、と申された。呉の人間が自分の幼少時のことを心得ていることが分かり、先生は内心まんざらでもない気持ちである。少(わかく)して賤(いや)しく、何でもしなくてはならず、鄙事(ひじ：田舎仕事：鄙は農耕地と倉庫と邑からなる)に能力を発揮しなくてはならなかった。君子というものは農耕や牧畜等現業に精をだすものではなく、政治や教育に精をだすべきものではあるが。だが嚭は私の事情を分かっている。珍しく子貢を間接的に褒められた。
これを編纂しているとき、弟子の牢が、そういえば先生がこう話しておられた、と述べた言葉が記された。姓は琴、字は子開、又子張ともある。先生は、「吾は試（もちひ）られず、故に藝（げい）あり。」とおっしゃられた。藝は六藝であり、不試の時期は幼少ではなく、中都の宰になる以前、陽虎からの誘いを断った頃、史記では「孔子仕へず。退きて詩書禮樂を修む。弟子彌（いよいよ）衆く、遠方より至り、業を受けざる莫からむ。」とある。40歳代後半のことであった。
読書会：大宰の聞き方は、ちょっと失礼。大宰が孔子をよく知っているという解釈が多いが、我を知るか？は我を知らないである。孔子が何でもできる、大宰がそういうことを肯定的にみていることに、またそれに乗った子貢に、孔子は違うと言っている。君子は多能を求めているのでなく、仁徳を持って自分の場所に居ればよい。

7）子曰吾有知乎哉無知也有鄙夫問於我空空如也我叩其兩端而竭焉
zǐ yuē wú yǒu zhī hū zāi wú zhī yě yǒu bǐ fū wèn yú wǒ kōng kōng rú yě wǒ kòu qí liǎng duān ér jié yān
子の曰はく、吾、知有りたるか。知無きなり。鄙夫有りて我に問ふ。空空如たり。我、其の兩端を叩て竭せり。

哉は反問の助詞。吾は有知であろうか、いや、無知なり。鄙夫とは田舎仕事をしている人、道を志す「士」ではない。空空如（こうこうじょ）とは何もない、全く空である（中日大辞典）。空kōngは悾kōng（能のないこと）と同じで、くそまじめなこと、ともされる。鄙夫は無知な人、問うといえども、まるで知なんぞはからっきしない。叩（たた）くは、古語で、「問う、尋ねる」こと。竭（つき）る、は尽きること。鄙夫が☆☆は◇◇ですか？と問う。両端は☆☆と◇◇。先生は鄙夫に何故☆☆かね。どうして◇◇かね。☆☆とは△△だから、と応えれば、どうして△△かね、と問う。叩きつづけると、叩くものが尽きてしまった。つまり、知とは「問ふこと」がすっかりなくなることだよ。知というものをやりとりするものではなく、自分ですっきりと物事を理解すること、それを辛抱強く、手助けいたしまして飽きることも倦むことも無い。
読書会：宮崎先生のものでは、私は知恵者じゃない。私の知恵袋は空っぽ。下手な聞きじゃ一層困る。私の袋から何も出ない、二つの隅を叩いて振って見せるばかり、とあるが、述而篇28）では、互郷の童子を受け入れており、学のない人にこたえるのは空しいというのではない。一生懸命教えるとみるべき。孔子の弟子は、士の身分で基本的なことは出来ている。そうじゃない人でも、誠実に聞くのであれば、私はというところ。空空如は全く知らないこと。

8）子曰鳳鳥不至河不出圖吾已矣乎
zǐ yuē fèng niǎo bú zhì hé bù chū tú wú yǐ yǐ fú
子の曰はく、鳳鳥、至らず、河、圖を出さざる。吾は已矣乎

白川静氏によれば、「風は鳳形の鳥であらわされ、それは神の使者であり、上帝の命をあまねく伝えるために、地方にある神々も、みな鳥を使者とした。」左伝昭公17年には、「鳳鳥氏は歴正（暦の官）なり。玄鳥氏は分（春分秋分）を司るものなり。伯趙氏は至（夏至冬至）を司るものなり。青鳥氏は啓（立春立夏）を司るものなり。丹鳥氏は閉（立秋立冬）を司るものなり。」とある。易経「繋辞伝」に「河、圖を出し、洛、書を出して、聖人之に則る」とある（河圖）。鳳鳥が至る、河（黄河）圖を出す、とは、天の瑞祥として聖人の出現を祝うものとされた。その鳳鳥も至らず、河も圖を出さず、となれば、聖人は居ない、孔子も聖人でない、となる。已矣乎は“やんぬるか”と訓じられ、已（や）むこと、もうおしまいだな。
読書会：絶望的イメージがある。そうは言うものの、私がなんとかしてやろうという意志があってほしい。だから、これは高尚な言葉の遊び。良い世の中なら何もすることはない。鳳鳥や圖もでない、何もない、どうしますか。一つのテキストに相対するもの、音楽でのコントラプンクト、絶望の対角線上の何か？絶望しない方法？と弟子への問いかけ。これは後に、時代に合わなく、恵まれなかったときに引く言葉となった。周あるいは堯舜などの理想を後世に残さねばならないという強い気持ちを抱いておられ、絶望のみではなかった。
後日：司馬遷は史記世家において、「魯の哀公十四年春、大野に狩す。叔孫氏の車子鉏商獣を獲たり。以って不祥となす。仲尼之を視て曰く、“麟なり。”之を取りて曰く、“河は圖を出さず、雒は書を出さず、吾已んぬるかな。”（子罕篇）顔淵死す。孔子曰く、“天、予を喪ぼせり。”（先進篇）西の狩に麟を見、曰く“吾道に窮せり。”喟然として歎じて曰く、“我を知る莫しかな。”子貢曰く、“何ぞ子を知る莫しとなす。”子曰く、“天を怨まず、人を尤めず。下学し上達す。我を知る者は其れ天か（憲問篇）。其の志を降さず、其の身を辱めざるは、伯夷・叔齋か。柳下惠･少連を志を降ろし身を辱めると謂う。虞仲・夷逸を隠居して放言し、行いは清に中（あた）り、廃は権に中ると謂う。我は則ち是に異なり、可も無く、不可も無し（微子篇）。”子曰く、“弗（ふ）か、弗か。君子は世に没し名を称せられざるを病む（衛霊公篇）。吾道行われず。吾何を以って自ら後世に見ゆるか（公冶長篇）。”すなわち史記に因りて春秋を作る」（明治書院）。続いて、「明歳（哀公十四年）、子路、衛に死す。孔子病む。子貢、見るを請う。孔子まさに杖を負い門に逍遥し曰く、“賜、汝来る何ぞ其れ晩し。”孔子因りて歎じ、歌いて曰く、“太山壊れんか。梁柱摧（くだ）けんか。哲人萎えんか。”因って以って涕下る。子貢に謂いて曰く、“天下道無きこと久し。能く予を宗となすなし。夏人は東階に殯り、周人は西階に殯り、殷人は両柱の��（あいだ）。昨暮、予、夢に坐して両柱の�閧ﾉ奠（まつられ）る。予は殆（おそらく）殷人なり。”後七日、卒す」（明治書院）。と解釈している。

9）子見齊衰者冕衣裳者與瞽者見之雖少必作過之必趨
zǐ jiàn zī cuī zhě miǎn yī cháng zhě yǔ gǔ zhě jiàn zhī suī shào bì zuò guò zhī bì qū
子、齊衰者、冕衣裳者と瞽者を見、これを見て少しと雖も、必ず作ち、これ過ぐれば必ず趨る。

齊衰（しさい）zī cuīは麻で作り裳を縫い合わせた喪服で五服の第二等の喪の形式、齊zīは、古代、衣服の“すそ”をいった（中日大辞典）。齊zhāiは物忌みすることであった。冕衣裳（べんいしょう）は大夫以上の礼服衣冠。瞽者（こしゃ）は盲目の人であるが、世襲の楽師は瞽者となるともされる。孔子は詩を奏する場合瞽者に師事することになり敬意を表した。少（わか）いこと。你別作客は客に遠慮しないでください。変色而作は、色をなして立ち上がる（中日大辞典）。必作は必ず遠慮がちに立ち上がること。過之必趨とは通り過ぎるときに趨（はし）る、足早に過ぎ去ること。後ろから様子を伺うようについてゆかれることはなく、さっさと通り過ぎ、警戒心や気遣いを抱かせるような真似はなさらなかった。
読書会：何故この句がここに入っているのか？郷党篇にも同じものがある。他の篇とちがって、バラバラなものが説明調子で入っている。一番目は喪の形、次は冠を付け、礼服を着て朝祭に向かう身分の高い人の形、目が見えないのは哀れみの対象。それぞれに合わせて礼を行う。

10）顏淵喟然歎曰仰之彌高鑽之彌堅瞻之在前忽焉在後夫子循循然善誘人博我以文約我以禮欲罷不能既竭吾才如有所立卓爾雖欲從之末由也已
yán yuān kuì rán tàn yuē yǎng zhī mí gāo zuān zhī mí jiān zhān zhī zài qián hū yān zài hòu fū zǐ xún xún rán shàn yòu rén bó wǒ yǐ wén yuē wǒ yǐ lǐ yù bà bù néng jì jié wú cái rú yǒu suǒ lì zhuó ěr suī yù cóng zhī mò yóu yě yǐ
顏淵、喟然として歎じて曰く、（先生を）仰げば彌いよ高く、鑽れば彌いよ堅し。瞻るに前に在れば忽焉として後に在り。夫子、循循然として善く人を誘ひ、我を博むるに文を以てし、我を約すに禮を以てす。罷まむと欲ふも能はず、既に吾が才を竭す。立つ所有りて卓爾たる如し。從はむと欲ふと雖も、由る末きのみ。

喟kuì は、ため息をつくことであるが同音には、愧（はじる）、憒（心が乱れる）がある。仰之の之は孔子、一つの自然現象のごとく形容している。彌は“いよいよ”の義。高い山を仰ぐようである。鑽（き）ると訓じるが、硬い物に穴をあける道具でうがつこと。深く物事をきわめることでもある。割って中をみようとしても、堅くて割れない。忽焉（こつえん）は忽然に同じ、にわかに、たちどころに。目前で話し掛けておられたが、いつのまにか、後ろで聞きに回っておられる。夫子は先生のこと。循循然とは整然として、順序正しいさま。左伝、僖二十八年、「天、その衷（ちゅう）を誘（いざな）ふ」とは天がその善心を導く意（字統）とある。善誘人は善く人を導くこと。文（詩経や書経）を学ぶことによって我を博め、禮を行ふことにより我を約す。どう行へばそれらが自らの血肉となるか、禮を行ひつつ習得させること。罷（や）めたくなるが罷めることはできない。罷とは、獣に網する形、罷(つか)れるのを待って、これを捕えること、疲れて休止すること（字統）。既に吾が才を竭（つく）す。欲罷不能既竭吾才は人により解釈が分かれる。通例、顔回が罷（や）めるとされるが、どうか?先生が疲れて休止されるときに、追いつこうとねばってみたが、私のほうの力が尽きる、とみるべきではないか。述而第七に「學而不厭誨人不倦」「發憤忘食樂以忘憂不知老之將至」とあった。卓は最も大きな匙の象形、日の形がスプーンの部分。すべて卓出の義に用い、人の超絶するものを卓爾、議論を卓見という（字統）。末由也已は由(よ)る末（な）きのみ、と訓じられる。末由mò yóuは古語で、就是了（残念ながら〜できない）ともある(中日大辞典)。先生がお立ちになるところは（泰山のごとく）超絶としておられ、先生に從はむとしても、残念ながらついてゆけない。これは、顔回の先生への理解の深さを示すものとされる。
読書会：鑽zuànは名詞で“たがね”、鑽zuānは動詞。顏淵の人柄が分かる文。先生の事を賞賛しているが、美事麗句はなく、簡単で深い言葉で言う。距離感、質量感がある。弟子との距離感がうまく描かれている。前は、先生の指導の仕方で、手取り足取りの状況。それが終わると後ろから見守っている。罷は、当時はすでに“やめる”という意味で固定化されており、疲れたものを捕えるということにはならない。文により博める過程があり、禮により約する過程がある。文と禮、宋の時代に、このふたつに順番をつけたのは、「大学」で自己修養と天下を治める、その過程で順番が必要とされたことによる。罷（や）めようと思っても、やめられない。学問の魅力にとりつかれてしまい、やめることができない。

11）子疾病子路使門人爲臣病�陞H久矣哉由之行詐也無臣而爲有臣吾誰欺欺天乎且予與其死於臣之手也無寧死於二三子之手乎且予縱不得大葬予死於道路乎
zǐ jí bìng zǐ lù shǐ mén rén wéi chén bìng jiàn yuē jiǔ yǐ zāi yóu zhī xíng zhà yě wú chén ér wéi yǒu chén wú shuí qī qī tiān hū qiě yǔ yǔ qí sǐ yú chén zhī shǒu yě wú nìng sǐ yú èr sān zǐ zhī shǒu hū qiě yǔ zòng bù dé dà zàng yǔ sǐ yú dào lù hū
子の疾、病たり。子路、門人をして臣と爲さしめん。病、�閧ｽるに曰はく、久しいかな、由の詐を行ふや。臣無きに臣有りと爲す。吾、誰を欺かむ、天を欺かむか。且つ予、（與其）臣の手に死すよりは（無寧）二三子の手に死さむか。且つ予、縱へ大葬を得ずとも、予、道路に死さむか。

疾（やまひ）は名詞、病（へい）はその状態の語（字統）。述而第七34）にもあったが、先生の病状は危うかったようだ。孔子は、かつて、大臣を務めたことがあり、大夫の身分であったが当時は位がなく家臣がなかった、とされる。子路は万一の場合に備え、大夫としての葬儀をするために、自分の門人を家臣と爲すてはずを整えた。��（かん）は門中に肉をおいて祀り、安静を祈願する意（字統）で病�閧ﾍ、病状が小康状態になったこと。先生は子路が何をしていたかに気付いて曰はく。久しぶりだな由が詐（いつはり）を行ふのは。家臣が無いのに家臣が有るかのごとくす。吾は誰を欺（あざむく）ことになるのか、天を欺ことになりはしないか。與其yǔ qí++無寧wú nìng〜は、++するよりはむしろ〜する（中日大辞典）、且つ、予は臣の手に死すよりはむしろ二三子（お前達）の手に死せむ。縱zòngは、たとえ〜でなくとも（中日大辞典）。且つ、予はたとへ大葬を得ずとも（よい）。予は道路に死せむか。晩年、孔子と子路の間に行き違いが大きくなってゆく。孔子は慎重に避けたが、子路は衛の出公輒に加担する。孔子はそのことに危うさをみていた。子路の気持ちは嬉しかったが、それは自分が望む方向とは逆であると指摘した。
読書会：顔回とは対照的な子路の行動。二人の間の師弟関係を越えたやり方。本心から最後を飾ってあげたい気持ち。子路がこういう時には表に立って指揮をとる。顔回の葬儀のとき、顔回の父が棺おけのいいものを作りたくて、孔子に車を売ってくれと頼むのであるが、孔子は、大夫の身分であり出仕するのに車が必要であり、断っている。華やかなことを拒否しているが、孔子は身分を越えた禮を行ってはならないとする。孔子が子路を責める理由は、子路が天をだますこと。ここで天は宗教的なものでなく哲学の概念。

12）子貢曰有美玉於斯韞匵而藏諸求善賈而沽諸子曰沽之哉沽之哉我待賈者也
zǐ gòng yuē yǒu měi yù yú sī yùn dú ér cáng zhū qiú shàn gǔ ér gū zhū zǐ yuē gū zhī zāi gū zhī zāi wǒ dài gǔ zhě yě
子貢、曰く、美玉斯に有り、匵に韞めてこれを藏さむか、善賈を求めてこれを沽らむか。子の曰はく、これを沽らむかな、これを沽らむかな。我は賈者を待つなり。

匵(ひつ)はものをしまいこむ箱。韞はおさめる、つつむ、藏(かく)すこと、韞匵は才能や知識があっても人にしられないことをいう。善賈shàn gǔは商売上手をいう。善き賈と値の高いことともされる。沽gǔは元は、川の名、音が賈gǔに同じため、売り、買いに用いられる。沽酒はできあいの酒を売買すること。賈も売る、買うの両義がある。店で売買するのを賈、歩いて売買するのを商といふ（角川漢和中辞典）。我待賈者也は買手を待つ事、我は賈を待つ者なりと訓じられるが、中国音的には賈者を待つであろう。
美玉とは位についていない孔子、子貢は先生に仕官の意志があるかどうかを尋ねた。投機の才のある子貢らしい例え話である。先生は仕官の意志十分であられた。自分からはもう売り歩くことはしないが、よき買い手が店に求めてくるなら売ってもよい。相手が子貢であったから、こういう風にしゃれこめた。しかし、安売りもしないつもりであられた。
読書会：顔回、子路、子貢の特徴がよく出ている。子貢は投機に長けた人で、金儲けも上手い。子貢以外には、このような問いかけはできない。孔子も思わず、売ろうと本音をだす。孔子が、あきらめているかどうかを上手く聞き出した。伯夷、叔齊が怨むかと聞いて、先生は衛君を助けない（述而篇14）と答えを出したり、言葉がたくみで、孔子の気持ちがよく分かった。

13）子欲居九夷或曰陋如之何子曰君子居之何陋之有
zǐ yù jū jiǔ yí huò yuē lòu rú zhī hé zǐ yuē jūn zǐ jū zhī hé lòu zhī yǒu
子、九夷に居らむと欲ふ。或ひと曰く、陋しきこれを如何。子の曰はく、君子、これに居りて何ぞ陋しきこと有らむ。

後漢書東夷伝に曰く「王制（禮記（らいき）・王制偏）に云う、東方を夷（い）と曰う。夷とは柢（てい／「根」のこと）なり。仁にして好生、萬物は地に柢して（根をしっかりと張って）出ずと言う。故に天性柔順、道をもって御（ぎょ）し易し。君子・不死の國有るに至る。夷に九種有り。畎夷（けんい）・于夷（うい）・方夷（ほうい）・黄夷（こうい）・白夷（はくい）・赤夷（せきい）・玄夷（げんい）・風夷（ふうい）・陽夷（ようい）と曰う。故に孔子は九夷に居らんと欲せしなり。昔、堯（ぎょう）は羲仲（ぎちゅう）に命じ嵎夷（ぐうい）に宅せしむ。暘谷（ようこく）と曰う。蓋（けだ）し日の出ずる所なり。夏后氏の太康は�ｺを失ない、夷人始めて畔（そむ）く。少康（夏后少康）已後（いご／以後）より世に王化に服し遂に王門に賓（ひん）し、その樂舞を獻ず。桀（けつ／夏の桀王）は暴虐を爲し、諸夷は内に侵す。殷の湯（とう／殷の湯王）は命を革（あらた）め、伐ちてこれを定む。仲丁（ちゅうてい）に至り、藍夷（らんい）は寇を作（な）す。これより或いは服し或いは畔（そむ）き、三百餘年。武乙は衰敝し、東夷は寖（ようや）く盛んなり。遂に分かちて淮（わい）・岱（たい）に遷（うつ）り、漸（ようや）く中土に居す。」（古代史獺祭）
九夷は朝鮮半島から満州（地図）あたり、玄菟（げんと）、楽浪（らくろう）、高麗（こうらい）、満飾（まんしょく）、鳧諛（ふゆ）、索家（さくか）、東屠（とうと）、倭人（わじん）、天鄙（てんぴ）。或る人はこれを陋（いや）しいと称した。先生の云ふ東夷は、その地理的概念ではない。日の出る処、元来は、「言仁而好生　萬物柢地而出　故天性柔順　易以道御　至有君子不死之國」このような國がどうして陋しかろう。その君子の國に君子が失われ夷が叛くに至った。そこに自分が君子となって住むなら、彼等もよくなる。魯のみならず中原の諸国の状況如何？下克上で夷より悪しかろう。三桓氏の力を削ぎ魯公による政治を求めた孔子、或る人は、三桓氏の誰か、あるいは、三桓氏より権力を奪取して自らが立った陽貨を想定している。
読書会：東夷、西戎、北狄、南蛮。東夷を朝鮮という説があるが、孔子の時代は福建省、山東半島、北京あたり、文明のない地へ行く、田舎町の印象にとどまっていた。陋とは君子が居るか、居ないかのこと。或る人に対する批判。文物じゃなくて君子の存在。

17）子曰吾未見好�ｺ如好色者也
zǐ yuē wú wèi jiàn hào dé rú hào sè zhě yě
子の曰はく、吾、未だ�ｺを好むこと色を好むが如き者を見ざるなり。

色とは、人と卩（せつ）とに従う。人の後ろに人がおり、抱く形で合い交わることを示す。飲食男女は人の大欲の存するところ。左伝、昭十九年、「市に色す」は気色ばんで怒る意。驚くさまを色然（しきぜん）、色斯（しきし）という。それより顔色の意となり、また容色の意となる（字統）。「酒不酔人人自酔、色不迷人人自迷：酒人を酔はざず、人自から酔ふ、色人を迷はざず、人自ら迷ふ」中国の諺、色は性欲のこと。姿色は、婦人の美しい容姿（中日大辞典）。色を好むとは、男女の交わりを好むこと。そのように、あたりまえのごとく、徳を好む者をみたことがない。徳は人と人の善き交わりから生まれる。男女、交わりて子を設けねば子孫が絶える。教えられなくとも、あたりまえのごとくこれを好む。人の世とて、子孫を絶やさぬような交わりを維持しなければ滅びる。自分さえうまくゆけばと生きるなら、お互いの関係は対立し、乱れ、相手を倒さねば生きてはおれぬとまでゆけば、報復が報復を呼び無政府状態のごとき、悲惨な世となり、子孫が絶えることともなる。さような世にならぬためには、父は父たり子は子たり、君は君たり臣は臣たり、男は男たり女は女たり、その互いのありようをありようのままに生きてゆかねばならない。それがあたりまえのことなのだが・・・だけど、そうならぬのが現実。
読書会：美人に目が向くのは自然。徳を好むは学ばないとそういう方向に行かない。色は表面、外面的、徳は内面的なもの。色は備わっているもの、徳はおそらく普通にしていれば身につかない、修養、修練することが必要。為政者とか権力者、上に立つ者が女性を好むことについて、その時代のエリートに対して、あるいは、士あるいは大夫に向けて批判をしていること。徳のある人を使うより個人的なことに走っていることを戒めたもの。色は顔色でもあり、政治家の前で侍る者、機嫌をとるものも含まれる。

18）子曰譬如爲山未成一簣止吾止也譬如平地雖覆一簣進吾往也
zǐ yuē pì rú wéi shān wèi chéng yī kuì zhǐ wú zhǐ yě pì rú píng dì suī fù yī kuì jìn wú wǎng yě
子の曰はく、譬へれば山を爲るが如し。未だ一簣を成さず、止まば、吾止むなり。譬へれば地を平らぐが如し。一簣を覆すと雖も、進まば、吾往くなり。

山を爲（つく）る。山とは、うず高く盛り土をしたものをいふ。この場合は、書経、旅獒、「山を為ること九仞、功一簣に虧く」太保、召公が王の心得として、最後の一簣（ひともっこ）を欠くなら功はならない、と戒めた言葉の一部。仞とは一尋（両手を伸ばした長さ：八尺）九仞は72尺（1尺22cmとすれば15.84m）、九仞の山とは陵のようなものであろう。最後の一簣を成さず、最後の詰めをしないような君主であれば、とも、計画だけはするが最初の一歩を踏み出さないとも解釈できるが、私は仕えるのを止める。譬（たと）へば、地を平（たい）らぐ、山を取り除くこと。そこから一簣を削り取りその土を覆すというなら、千里の道であろうと、それを成し遂げんと一歩を踏み出す気概があるならば、吾も往(ゆ)きましょう。周の政治を復興せんと一歩踏み出すなら、何ぞ、吾共に往かざらむの意気込みか。
読書会：始まりも終わりもすべて自分の責任。一山積めば完成のところをしない。自分が悪い。それをしなければ、達成しない。平地を作るときに、でこぼこに土を埋める。自分で進み出て、最初か最後かいづれにしても自分の意志でさるべきもの。そうしない者は必要ないというくらいの強い気持ちがある。

19）子曰語之而不惰者其囘也與
zǐ yuē yù zhī ér bú duò zhě qí huí yě yú
子の曰はく、これに語げて惰たらざるは、其れ囘なるか

語yǔ は話すことであるが、yùは告げる、諭、喩と同音であり、さとすこと。惰、おこたる、は説文に、「敬(つつし)まざるなり」とあり隋声。「隋は裂肉なり」とあり、周礼、大祝（だいしゅく）、隋爨（ださん）の注に「血祭なり」というのは、裂肉をもって聖所に埋め、さらに酒を灌いで祓うことをいう。多くの肉を用いて重ね、その肉のくずれるさまを委隋（いだ）という。謹みのない崩れた姿勢をいう（字統）。諭す話をすれば、何のことか分からず弟子も注意散漫、姿勢が崩れる。しかし、姿勢を崩さずじっと話に聞き入っているのは、顔囘だけかな。子罕篇23の状況であろう。
読書会：次に続く。顔回ならそうしたであろうに。

20）子謂顏淵曰惜乎吾見其進也吾未見其止也
zǐ wèi yán yuān yuē xī hū wú jiàn qí jìn yě wèi jiàn qí zhǐ yě
子、顏淵を謂ひて曰はく、惜しいかな。吾、其の進を見るなり、吾、未だ其の止るを見ざるなり。

これは亡くなった顏淵を惜しむ先生の言葉。惜xī（お）しい、の同音は希（まれ）、晰（明晰）、がある。進jìnの同音は盡（つくす）でもある。止zhǐは指（あてにする、頼る）と同音。顏淵は前段でもそうであったように、全力を尽くして、先生の言葉の意味を捉え、実践しようとする。人をあてにせず、わかるまでやり続ける。もう、このような弟子には会えまい。
読書会：方向性を持つ動詞が使われている、づっと進む、進まない、最後までやめないこと、そういう顔回を惜しんでいる。孟子がどこまでも流れて絶えない行く川の流れの解釈をしたのも、止まる事がないことからきている。

21）子曰苗而不秀者有矣夫秀而不實者有矣夫
zǐ yuē miáo ér bú xiù zhě yǒu yǐ fú xiù ér bù shí zhě yǒu yǐ fú
子の曰はく、苗にして秀でざる者有らむかな。秀でて實らざる者有らむかな。

苗は艸と田からなり、すべて田穀の初生のもの（字統）。秀は禾穀の穂が垂れ花が咲いている形（字統）。實は鼎中にものを実たして供薦する意より、充実・誠実の意となる。誠実とは祝詞や神饌に偽りのないこと（字統）。苗であっても折られたり、枯れたり、しおれたりして、穂となりて花をつけぬ者がいるのだなあ。花をつけても、實（みの）らぬ、誠実でなく、己を偽り充実しない者がいるのだなあ。一般論のみでなく、若い人々が、戦国下克上（禮の乱れ）のなかで先進の弟子と比較して、スポイルされてゆく感慨があるのかもしれない。
読書会：出発は一緒であっても最後まで成し遂げるかどうかをいう。先の23）と関連する。

22）子曰後生可畏焉知來者之不如今也四十五十而無聞焉斯亦不足畏也已
zǐ yuē hòu shēng kě wèi yān zhī lái zhě zhī bù rú jīn yě sì shí wǔ shí ér wú wén yān sī yì bù zú wèi yě yǐ
子の曰はく、後生畏る可し。焉ぞ來者の今に如かざるを知らむ。四十、五十にして聞こゆること無からむ。斯れ亦た畏るに足らざるのみ。

後生に対するものは先進。先進は孔子と同時代の年齢の弟子、後生は孔子より40〜50歳少（わか）い弟子。畏(おそ)る可（べ）しと先生はおしゃる。焉は文頭で、どうして〜であろうか。これから来る世代がどうして今の世代に如(し)かざると知りようか。先進の弟子に対して、自身を含めて、自分たちにまさる後生があらわれて不思議は無いと諭された。ただ、それほどの年齢差があっても、そろそろ四十、五十歳に達してくる。その時に、その名がとどろいて来ないようでは斯れ亦た、畏れるに足らずと後生の奮起を促された。三十にして立つ。四十にして惑わず。五十にして天命を知る。
読書会：重いのは後ろの方、40〜50になっても何でもなければどうしようもないに力点がある。その前の苗の話しと一緒、40〜50は実るべき時代、苗が良くても穂がつかなかったり、穂がついても実らなければという流れの中で読むべき。

23）子曰法語之言能無從乎改之爲貴巽與之言能無説乎繹之爲貴説而不繹從而不改吾末如之何也已矣
zǐ yuē fǎ yù zhī yán néng wú cóng hū gǎi zhī wèi guì xùn yǔ zhī yán néng wú yuè hū yì zhī wèi guì yuè ér bú yì cóng ér bù gǎi wú mò rú zhī hé yě yǐ yǐ
子の曰はく、法語の言、能く從ふこと無からむか。之を改むるを貴しと爲す。巽與の言、能く説ぶこと無からむか。之を繹すを貴しと爲す。説びて繹さず、從ひて改めざる。吾は之を如何ともするべき末きのみ。

書、呂刑（りょけい）に、「これ五虐の刑を作りて法といふ。」管子、任法に、「それ法なるものは、上の民を一つにし、下を使う所以なり。」字形は、灋が正字、廌と去と水からなり、廌は神判に用いる神羊。去は大と凵（きょ）からなり、大は神判に敗れた者、凵はその詛誓に虚偽があるとして蓋をとり去った詛誓の器。灋は敗訴者とその提供した神羊と破棄された詛誓を水に投棄することを示す字（字統）。法語之言とは、孝経の先王の法言ともされる。〜してはならず、〜すべきであるという古来の訓辞であろう。誰でもそうすべきとされているものであり、従うのが当然であるが、改めないのはどうしようもない。巽は巳巳と兀からなり、兀は神殿前の舞台、巳巳は二人が並んで舞台で樂舞し、神に献じる形、それが隋う、譲るの訓は孫心の仮借（字統）。巽與（そんよ）之言とは優しく穏やかで人に逆らわないことば（角川中辞典）。繹(えき、ほぐれる)は、糸がもつれずに抽（ぬ）きとられること、絶えずに相連なることを絡繹（らくえき）といい、それから思いたずねる尋繹、思繹の意となる(字統)。心地よい言い方に喜んで、何故そういうのかを考えてみないなら、どうしようもない。末如之何は、之を如何ともするべき末（な）し、のこと。改之爲貴であるが、通常、理由もわからず従う、面従背腹となってはならず、自分の心を改めることが貴いとされ、繹之爲貴は、相手の心の意図を思い尋ねることとされる。漢文的には、前者の之は法語の言、後の之は巽與之言となる。改の正字は攺、蛇形の蠱（こ）を殴つことによって、自己が被ろうとしている禍殃を他に移し、変更することを求めるもの、先に、叩其兩端而竭焉ともあった。改法語の言とはその法言の両端を叩いて、その意味するところを自分に移す、改めるとは、そのような語感に思はれる。
読書会：法語、巽與、どちらも間違った方向でなく正しい言葉。従うべきもの、喜ぶべきもの、いい方向のものだが、実際には行い難いもの。学ぶ者、政治を行う者は、その言葉を吟味して実践してみて体得することをよく考えねばならない。

24）子曰主忠信毋友不如己者過則勿憚改
zǐ yuē zhǔ zhōng xìn wú yǒu bù rú jǐ zhě guò zé wù dàn gǎi
子の曰はく、忠信を主とし、己に如ざる者を友とすること毋れ。過てば則ち改むるに憚かること勿れ。

学而第一8）に同文がある。君子の心得を述べたものであるが、ここでは弟子への心得となっている。臣として仕えるには君への忠、友と付き合うには友への信を主とする。汝の信に応えぬような者を友としてはならない。もしそうなら、お前の心の両端を叩き、お前に改たむるべきところがあるなら、憚（はば）かることなく改めよ。
読書会：志が良くなければ友とならない。忠は君に対すとは限らず、心に尽くすこと、友であってもよい。毋れという厳しい言葉が使われている。己はプラスイメージになっている。自分自身のような人でないと友とはしない。反対の方からみれば、そういう人が友でいてほしい。

25）子曰三軍可奪帥也匹夫不可奪志也
zǐ yuē sān jūn kě duó shuài yě pǐ fū bù kě duó zhì yě
子の曰はく、三軍、帥を奪ふ可し。匹夫、志を奪ふ可らざるなり。

諸侯は二軍、方伯（大諸侯）は三軍、天子は六軍。帥は軍司令官。三軍から帥を奪ふことはできる。匹夫から志を奪ふことはできないの構文。軍司令官はそれに相応しい能力のある者に取り替えることが出来る。しかし、匹夫といえど、その心に志有らば、それを奪うことなどはできない。ましてや、お前達、士たるもの、志を高くもたねばならない。
読書会：匹夫は士ではない。孔子の時代は身分の賎しい人。孔子の弟子にはそういう人たちが結構いた。志をもてばの例えは孟子までゆくと、「自反而縮、雖千萬人吾往矣（自ら反みて、なおくんば、千万人といえども吾往かん）」、すべては自分にある、陽明学で重んじられた。匹夫でもそうだから士が持てば充分なことができる。

26）子曰衣敝縕袍與衣狐貉者立而不恥者其由也與不忮不求何用不臧子路終身誦之子曰是道也何足以臧
zǐ yuē yì bì yùn páo yǔ yì hú hé zhě lì ér bù chǐ zhě qí yóu yě yú bú zhì bù qiú hé yòng bù zāng zǐ lù zhōng shēn sòng zhī zǐ yuē shì dào yě hé zú yǐ zāng
子の曰はく、敝たる縕袍を衣て、狐貉を衣る者と立ちて恥じざる者は、其は由なるか。忮はず求らず何を用て臧からざらむ。子路、終身、これを誦す。子の曰はく、是の道や、何ぞ以て臧しとするに足らむ。

縕袍（うんぽう）は古わたや麻をつめたどてらの類、いちばん粗末な上衣、それも敝（やぶ）れたる縕袍を衣る。狐貉（こかく）は狐（きつね）貉（むじな）の皮の裘（貴族の着る上衣）を衣る者と與（とも）に立ちて恥じざる者は、其は、由（子路）なるか。「不忮不求何用不臧」は詩、衛風、雄雉の一節「彼の日月を瞻（み）て、悠悠として我思う。道の伝（ここ）に遠ければ、曷（なん）ぞ云に能く來らん、と。之を思うこと切なるなり。終わりに曰く、百（およ）そ爾君子、�ｺ行を知らざらんや。忮（そこな）はず求めずんば、何を用て臧（よ）からざらん」。忮（そこな）はず求（むさぼ）らず何を用て臧（よ）からざらむ、と訓じられる。忮求はねたみせがむこと(角川中辞典) ともある。臧は説文に、「善なり」とあり、おさめる、しもべとも訓じられる。自分を損なうことも、相手に求むることもない。何用は〜するに及ばない。臧は戕と臣からなり、戕は聖器としての兵器をもって清め祓う意、俘虜とした臣を聖器をもって祓う、臣僕であって清められたもの、臧善の意をもつ（字統）とされる。何用臧はよしとするに及ばない。何用不臧は、その否定形、どうしてなかなかよいではないか？（しもべとして自分を修めている）の義。孔子は詩の一句を引いて、子路を君子に匹敵するかのごとく扱った。子路は終身、これを誦（しょう）す、とはそらんづること。孔子はそういうも、敝縕袍を衣て狐貉を衣る貴族と共に居て恥じぬ先生の姿は、禮に反するであろうし、想像しづらい。ことこれに関しては、子路の狂には及ばぬ。しかし、紙一重の危うさがあり、先生は是の道というは、臧しとするには十分ではないと諭された。好勇疾貧亂（泰伯篇10）。
読書会：「是道也、何足以臧」は、この道を持ってすればどんなことでも成功をおさめることができると、肯定的。これはものすごい褒め言葉で、子路にはこれ以外にもたくさん褒めるところがあるのに、ただこのことだけで子路を褒めるには足らないという意味。
朱熹、集注では、「終身誦之則自喜其能而不復求進於道矣故夫子復言此以警之（身を終うるまで之を誦すは、則ち自ら其の能を喜びて、復道に進むを求めず。故に夫子復此を言い以て之を警む。）」とある。

27）子曰歳寒然後知松柏之後彫也
zǐ yuē suì hán rán hòu zhī sōng bǎi zhī hòu diāo yě
子の曰はく、歳寒くして然る後に、松柏の後れて彫るを知るなり。

歳は戉形が基本で歩は後に加えられた形、歳は祭名、その犠牲に赤い毛色の騂牛が供せられ、この犠牲を用いた祭儀。おそらくその祭儀は年一回行われるもので、その祭祀でもって一年を数えた（字統）とみられている。歳はここでは一年のこと、寒くして然る後であるから、広葉樹が葉を落とし、霜や雪の季節を迎えている。彫は、テキストによって凋、彫に分かれる。凋は、おちる、しぼむ、いたむ、と訓じられ、後も“おく”れてと訓じられる。説文に、「半ば傷（やぶ）るるなり」とあり、冰に従う字であり結氷に関する字、生気の衰えたものに皺が生ずるので凋というのであろう(字統)。最後に凋（おち）るのが松柏となる。後彫は文字通りよめば、後れて彫（ほる、かざる）。彫とは周、盾の文様の彡（美しい）こと、彫飾（ちょうしょく）の美しいこと。松柏は“まつ”と“ひのき”。花や紅葉の美しさが終わり、厳しい寒さのなかで彫するものは松柏。晩年の先生はかくのごとき松柏であろうとされた。
読書会：歳寒は、世の中の乱れを例える。事変が起こったときに君子か小人かが分かる。中国では、疾風知頚草（強い風が吹いて頚草を知る。）路遥知馬力（路遥かにして馬の力を知る。）という言い方をする。

28）子曰知者不惑仁者不憂勇者不懼
zǐ yuē zhì zhě bú huò rén zhě bù yōu yǒng zhě bú jù
子の曰はく、知者は惑はず、仁者は憂へず。勇者は懼れず。

惑は説文に、「亂るるなり」とあり、惑乱、疑惑をいう。或に限定の意があり、選択に惑う心情をいう（字統）。「多聞闕疑」、疑はしきをとり除くこと、と先生がおっしゃる。憂は、元来は、喪中にあって愁える人の形に心を加えた形、悲痛、憂苦の心情をいう（字統）。「人不知而不慍」、人に知られぬことを慍みず、己の徳を高めることに邁進された。懼の声符の瞿は鳥が左右視しておどろくさま、その心情を恐懼という（字統）。「見義不爲無勇」敵を目の前にして右往左往して浮き足立たぬことであるが、先生は義を見て爲さざるを勇なしとされた。政治判断において、義を為すは、司馬遷が天道の是非を問うたごとく、義人の政治生命を危うくしてきた。それでも勇たれといふ。どれも行い難い。人は惑い、憂い、懼れる。
読書会：知者は心を理解しているから、回りの流言に惑わされない。仁者は自分の役割を知っているので、人生のなかの起きる悩み事に対して悩まない。勇者は恐れていては何も出来ない。決断も早い、進んでやる気持ち。困難を打開する力。中国には、文法の中で互文という解釈があり、ここでいうと、知者と仁者と勇者は、惑わず、憂えず、恐れずその全てを持ち合わせているとみる。

29）子曰可與共學未可與適道可與適道未可與立可與立未可與權
zǐ yuē kě yǔ gòng xué wèi kě yǔ shì dào kě yǔ shì dào wèi kě yǔ lì kě yǔ lì wèi kě yǔ quán
子の曰はく、學を共にすに與く可し、未だ道を適くに與く可からず。道を適くに與く可し。未だ立つに與く可からず。立つに與く可し、未だ權るに與く可からず。

與共學は、通例、「與（とも）に共（とも）に學ぶ」と訓じられる。yǔは「与える、仲間に入る、親しく交わる、助ける」の義である。yùであれば「預かる、参与する」となる。適は里仁篇10）でみたごとく、かなうことが原義。説文に、「之（ゆ）くなり」とするのは引伸の義、「方言」には宋魯の語なりとあり、「子の館に適かん」という風に用いる（字統）。未可與適道は、「未だ、與（とも）に道を適（ゆ）くべからず」と訓じられる。構文的には、共に學をするに與(あず)く可し（参加すべし）。共に學ぶことに加わることができるからといって、道を適くことに加わることはできない。道を適くことに加わることはできても、立つことに加わることはできない。立つことに加わることはできても、權とはおもりのことで“はかる”と訓じる。軽重をはかることに加わることはできない。なにを重くみるか、政治的な判断を下すには至らない。弟子として同じく学びはじめても、至るところは人により随分異なる。志、異なれば也。
読書会：これは完成までの過程を言う。最初は一緒に学ぶが進路は違う。同じ進路を行っても、立つ＝三十にして立つというように、同じ何かを持って自分を表すことはできない。一緒に学んでも、ともにしっかりした学問を身に付けられるとは限らない。左伝では「立つ」ことを三つに分けている、徳、功、言。人によっては立つ場所（徳、功、言）が違ってくる、立つ＝成果を立てるか？成果を立ったか謀れるか？適切に判断できるか？トップに立つ人は適切に判断できないといけない。逆に読んでみると、ともに同じ道を目指せなくても、一緒に学ぶことはできる。同じ立場になくても、一緒に道行くことはできる。同じように考えられなくても、同じ立場に立つことはできる。思うに人は育った生活環境などから、もともと同じようになることはない。でも互いに刺激しあい、相手から学ぶことはできる。

30）唐棣之華偏其反而豈不爾思室是遠而子曰未之思也夫何遠之有
táng dì zhī huā piān qí fān ér qǐ bù ěr sī shì shì yuǎn ěr zǐ yuē wèi zhī sī yě fú hé yuǎn zhī yǒu
唐棣の華、偏として其れ反せるや。豈に爾思はざる。室是れ遠からむか。子の曰はく、未だ之思はざるなり、夫れ何の遠きこと之れ有らむ。

唐棣之華は、詩経、国風、召南、何彼襛矣(かひじょうい)の一節にある。華は桃李の如し、とあり、ゆすらうめの花、庭梅（千華図鑑）のこと、もくれんの花（千華図鑑）ともされる。嫁ぐ美しさ姫との別離を形容したものであるが、この詩には、偏（へん）として其れ反（ひるがえ）る以下の句はなく、唐棣之華をもじった当時の詩とされる。而ěrは語末の助詞。偏にはひらぺったい語感、反にはそりかえった語感があり、風にゆらゆらゆれると、人恋しくなるなあ、と釈す。あるいは偏（ひとつひとつの花弁が）反り返って離れているなあ、と釈す。どうして爾（なんじ）を思はないことがあろうか？室是shì shì遠而yuǎn ěr、室遠shìyuǎnをshì shì yuǎn ěrと詠じている、爾の室がなんと遠いことか、相手が遠くに離れていることをいふ。
先生の前の言葉をうけて、誰かがこの詩を詠じた。「唐棣之華　ひらりゆらり（お互い反り返り）　あなたとわたしは　こんなにはなれたの」心が離れてしまったことを恋愛に例えた。すると先生がこう反（かへ）された。「未之思也夫何遠之有」そんな風に思ったことなどあるものか、どうしてそんなに遠きことあろうか。志、同じうすれば也。普通の花は「先合而後開」唐棣之花は「先開而後合」始めに花弁が開くが後に一つになるとされた。
読書会：恋愛の唄であるが、孔子が恋愛について言ってるわけじゃない。孔子の詩に対する解釈。弟子たちが今の世の政治は難しいという、遠いというのは思い方の足りないこと。思うこと足らずして何が難しい、という比喩。

了　2006.10.06

岩倉紙芝居館　古典館　論語読書会 –　子罕第九　上田　啓之
.